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刻塚-(NO-22)

2009-11-07 01:59:21 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-22)

「わしは隠居だ、家長はお前だ。思う通りしたらええ。ええな皆の衆」老人は表情を強張らせ、七人の顔を見渡した。七人は仕方ないと言う様に頷いた。
「済みません、誰かいませんか」その声は筒井の声だった。
時計を見ると十一時、筒井と南田刑事は予定より早く戻って来た。
「先輩、中です。入って下さい」その猿渡の声と同時に麻代は迎えに出た。
「なんだ此か、部屋にも居ないし探したんだぞ・・・どうも失礼します」と、親戚一同に頭を下げた。そして、筒井と南田は猿渡の隣に腰を降ろした。

「お前の欲しかった情報が手に入った」と筒井は書類を差し出した。
「山田さん、貞雄君の母親は平野民子さん、父親は修さん、そうですね」。
「はい、その名前は後から知りました」。
「1974年昭和49年の5月1日に夫婦の間に双子が生まれています、一人は貞雄君、それもうと一人は公子さんと言う女の子です。
それから6年後の昭和55年5月にこの村へ貞雄君の母親が突然現れた。
そして一ケ月後の6月15日ですが、平野修さんから警視庁へ奥さんの民子さんを探してくれと、捜索願いが提出されていましたよ。
この資料に因ると、旦那さんの修さんは何度も警察へ訪れては、奥さんを探してくれる様に頼んでいますよ。
それから5年、昭和60年の6月15日。行方不明になって5年で戻って来ない奥さんに離婚の申し出が家庭裁判所に提出されています。書類はすぐに受理され、一ケ月後の7月28日に離婚届が提出されています。ご存知でしたか」
「はい、私たちは陰ながらお嬢さんの成長を見守ってました。その後、公子さんは福祉施設に入れられたのも知っています」。そう言って主は泣きながら肩を落としていた。親戚は顔を隠す様に俯いていた。

「ええ、山田さんはその施設に学期事に足を運んで慰問したり、里親として公子さんが夏休みや冬休みになると引き取っていたそうですね」。
「本家よ、私達にどうして話してくれなかった。初めて訊くに。じゃあ知り合いから預かったと言っていた娘は貞雄の双子の妹なんか」親戚は怒った様に睨んだ
「貴方ね、そんな怒鳴る事はないでしょう。少しでも償いの積もりでした人に対してその態度は気にいりませんな」筒井は声を荒げた。

「誰が突き落としたかなんて言う事を訊く気はありません。もし、もしその事を公子さんか父親の修さんが知ったとしたらどうです」。
すると、親戚一同の顔が蒼白した。そして、左上座の男に視線は向けられた。
その行動は、平野民子を谷底へ突き落としたのはお前だと言っている様だった。男は俯いたままだった。すると、不意に顔を上げた。

「じゃあなんか?・・この連続殺人は平野公子が起こしたって言うだか」。
「確か貴方は山田太一さんでしたね、誰もそうとは言っていません。その可能性はあると言う事を話しているんです。
公子さんはこの宿へ里子として毎年夏と冬の二度は来ていたんですからね。でも女性の出来る殺しではありません。それに公子さんは殺してはいませんよ」。
すると、コンコンッと事務所にノックがあった。

「失礼します旦那さん、望月です。東京の警視庁から刑事さんが猿渡さんにお会いしたいと見えていますが」。猿渡はニヤッと笑った。
「手島警部、こちらです。奥へ入って下さい」。
「失礼します」その声に麻代は唖然とした。そしてそこにいた皆も振り返った。
「警部って女性なの?・・・」
「猿渡警視正、お久し振りです。ご依頼のあった件を調べて参りました。筒井先輩、どうも、お久し振りです」

「なんだ、警部になったのか。私はどんどん抜かれていくな」と、苦笑いを浮かべた。そして手島加奈はバックから分厚い封筒を出して猿渡に差し出した。
「麻代さんですね、ご婚約おめでとうございます。同期の手島加奈です。と言っても猿渡さんは警視正になって辞めてしまいましたけど」。
麻代は戸惑いながらも座り直すと深々と頭を下げた。そして座布団を差し出した。
手島は紺のミニの裾を両手で押さえると正座した。カッコイイ、麻代はそう感じた。「猿渡警視正、やはり警視正の推理通りでした」。
「警視正は辞めてくれ、俺はもう退官したんだからな。それで?・・・」
「はい、去年の五月にこの民宿に来た12人の女子大生の素行から過去を調べた結果、後藤公子さんと言うOLは旧姓平野公子さんである事が判明しまた。
平野公子さんは中学に入学すると、同時に足立区の福祉施設、ひまわり園から養女に行って、後藤姓になったんです」。
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