エンターテイメント、誰でも一度は憧れる。

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小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(6)CG

2008-07-10 13:38:23 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(6)CG

その日も同じだった、まるで味の無い番組になってNHKの特色がなくなっていた。テレビを消してビデオを観ていた。
すると、何処からか除夜の鐘が聞こえて来た。時計に視線を向けると、もうこんな時間か、零時を過ぎていた。
私は思い出しように受話器を持った、そして実家に電話を入れた。
すると、母が出て怒っていた。何の相談もなく連絡もせずに転勤した事に腹を立てていたのだ。
私は黙って聞いて謝った。断れば首を切られるとはとても言えなかったからだ。
母は言うだけ言うとスッキリしたのか、ご飯はちゃんと食べているのか、寒くないのかと、後は私の体の事を心配していた。
一人っ子の私には三十を過ぎたとて子供扱いだった。そして父は「頑張れ」と一言いうと電話を切った。
そして一月五日、寝正月もあっと言うまに過ぎて六日の朝を迎えた。
歩いて十分の支社へ向かった。何度も出張で来て社員の顔は覚えていた。そしてドアを開けた。「お早ようございます、所長」。
既に全員が揃って次々に挨拶を交わし、奥のデスクに着いた。社員と言っても本社の部課の半分以下の人数だった。
「近藤所長、随分急な転勤でしたね、住まいは決まったんですか」と次長の向坂保が少し戸惑ったような顔をしていた。
「ああ、知り合いの不動産に無理言って頼んだら、敷地にあるハイツ・ライフと言うアパートの101号室を借りられたよ。
若い夫婦が入る事になっていたらしいんだけど、急にキァンセルになったらしくてね。歩いて十分だよ」。
「そうですか、そこなら自分も知ってイます。前任の長谷川さんが会社に抗議して社宅を出でくれなくて自分も困っていたんです」。
「そう、詳しい事は知らないけど、長谷川さんに何かあったの」?

「ええ、たいした額じゃないんですが、使い込みがあったらしいんです。長谷川さんは否定しているそうですがね。あんなに実直そうな人なのに、自分達も驚いているんです。それで解雇する代わりに平に格下げですからね、上の女の子は今年大学受験です、下の女の子は今年高校ですから困っているでしょう」。
「まあ額が大きい小さいはともかく、流用した事には違いない。懲戒解雇にならなかっただけでも儲けものだと思わないとね」。
こうして朝礼をして社員は事務員の二人を残して八人の営業社員は年始回りを兼ねて仕事に出て行った。
私は引き継ぎもなく、座った支社長の席で二人の事務員に話を聞きながら仕事の引き継ぎを行っていた。
そして十時を過ぎたころ、前任の長谷川支社長が髪をセットして普段着姿で顔を出した。そして私を呼んだ。そして外に出た。
「近藤さん、私は嵌められましたよ。忠告しておきます、次長の向坂には気を付けて下さい。奴は専務のスパイですからね」。

「まさか、そうなんですか?・・・」
「ええ、確かです。こうなったのは私の定期預金が十一月一杯で満期になんですが、その前に娘の受験でどうしても金が必要になりましてね、満期になったら返済すれば良いと言う事を向坂が言い出しましてね、私は彼を信用して百万程流用してしまったんです。
そうしたら、その事を満期になる一月前に専務にチクったんです。確かに会社から借りれば良かったんだが、会社に弱みを握られるのも何だと思いましてね。
今更平から出来ません。先程会社と話したら退職金はちゃんと降りると言われまして退社する事にしました」。
「そうでしたか、そんな事情があったんですか。私もいつ寝首を欠かれるか分かりませんね、用心しますよ」。
「ええ、それだけ伝えておきたかったもので。近藤さんには迷惑をかけました。明日にも引っ越しますから」。
長谷川は腹をくくったのか、以外とサバサバしていた。そして窓から心配そうに見ていた事務員に手を振って帰っていった。
私は聞きたくなかった、此れで次長の向坂を信じられなくなったと言う事だ。そう思うと途端に気が重くなった。
こうして十日、二十日と過ぎ、私は大事な取引の商談事は向坂に相談して決められなくなっていた。
そして一月二月と過ぎ、支社長としての役職にも慣れ、営業成績も横這いから上昇し初めていた。
NO-6-12

小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(5)CG

2008-07-10 13:35:22 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(5)CG

そして玉をレーンに入れて打ち始めた。するとまたフィーバーして連ちゃんして時間を忘れるほど熱中していた。
そして気が付くと十箱も出していた、時計を見ると午後二時を回っていた。
「もうこんな時間か、オバサン残りは使って下さい」。下の皿に溜まった玉を出して残りはおばさんにやった。
「アリガトウね、じゃあ打たせてもらうよ」と嬉しそうに席を代わった。
そして台車を借りて景品交換所に向かった。すると、抱える程のバンドを交換所へ持っていった。計算すると、五百円で十万以上も稼いでいた。
店員に交換所を聞くとへ景品を抱えるように持って店をでた。
駐車場にある小屋、駐車場の片隅に小さなプレハブ小屋があった。
窓口一杯に景品を置くと、両手で数えながら金額を口で言い、十万円を先に渡すと一万五百円差し出した。
有難う御座いました。こんな事もあるのか、快感だった。
通りに出るとタクシーを拾ってアパートに向かった。
そして石田街沿いのコンビニに寄って暖かい飲み物とスナック菓子、弁当を買ってアパートに向かった。
すると、もう引っ越しセンターのトラックが到着していた。
タクシーがアパートの前で止まるとトラックから三人の男立ちが降りて来た。それは夕べ来た人達だった。「済みません、ご苦労様です」。
部屋を開けて何を何処へ降ろすか責任者と相談した。
次々と家具が降ろされて行った。すると責任者が粗品を持ってアパートに挨拶回りをしているのだった。
私はそれを見て驚いた。今時の引っ越しセンターでは挨拶回りまでしてくれるのか。私は部屋に入るとタンスから封筒を三枚取り出して五千円づつ入れた。
そして一服して貰うように話し、買って来たジュースとスナック菓子を出した。「少ないですけど気持ちです、タバコでも」と封筒を一人一人に渡した。
「済みません、では遠慮なく」もう少し多くても良かったかな、そう思いながら喜ぶ顔を見ていた。
そして午後五時には総ての家具が入った。
そして請求書が渡され、私は遠慮しないようにと大目に払い、残りは夕食代にしてくれと告げた。
「しかし、此れでは頂過ぎです」。
「此れは会社の経費ですから、自分の腹は痛くありませんので」。
すると責任者は勉強しない正規の額の領収書を別に切った。
「此れなら少しは近藤さんにもお小遣いが出来ます、有り難うございます。では遠慮なく頂戴します」。
私は買って来たジュースとスナック菓子を袋ごと渡した。すると、若い作業員は嬉しそうに抱えてトラックに乗り込んだ。
「有り難う御座いました、では失礼します」。
そして、パ~ン、とクラクションを鳴らすと長野に帰って行った。
誰もいなくなって静まり返った部屋、私は机に向かってバソコンで引っ越しに掛かった経費の計算をして本社の経理にメールを送った。
此れで年明けの五日まで何もする事がなくなった。
夕飯の材料でも買いに行くか、スーパーへ出掛けて材料を買い込んでアパートに戻った。そして米を研いで炊飯器にセットした。
するとチャイムが鳴った、出ると真っ白な髪をして年の多い新聞屋さんだった。
私は二つ返事で了解した。出された申し込み用紙に書き込んでいると、おじさんは出て行った。そして直ぐに戻って来た、
手には紙袋を下げて、「此れをどうぞ」。中には洗濯洗剤、ママレモンなどが入っていた。そして一月分はサービスすると言うのだ。そして今日の朝夕刊を置いて帰って行った。
私にも新聞屋のおじさんの気持ちは良く分かっていた。私も営業一本でやって来て営業の辛さは身に染みていた。
すると、ピッピッピッと炊飯器がご飯が炊けた事を知らせた。
冷蔵庫には引っ越し前に買った物がそのまま入っていた。適当におかずを作って夕食を済ませた。
こうして一人の寂しい年越しを向かえる事になった。
何もする事もなく、街に出でビデオを借りてアパートで観ている毎日だった。
そして三十一日、紅白も年事につまらなくなっていた。と言うより、歌手を知らないから観ても楽しくないのだ。この五~六年は観てはいなかった。
NO-5-10

小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(4)CG

2008-07-06 18:17:23 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(4)CG

「え~っ・・・この時期に転勤ですか。そりゃ大変だ」。
手慣れた手つきで丼を出した。両手で受け取ると、そのとき初めて寒さが身に染みて感じた。熱いラーメンを啜りながら、ふとあの女性の事が頭に浮かんだ。無事帰ったのだろうか、OLか、体は大丈夫かな?・・・そんな事を思いながら駅のタクシー乗り場に視線を向けて彼女の姿を探していた。
いる訳無いよな、そう思いながら流し込むスープも旨かった。
御馳走様、釣りはいいよ。と千円を渡して気前よく屋台を離れた。
駅の構内を通り抜け、ステーションホテルに入った。
チェックインを済ませ、モーニングコールを八時に頼んで部屋に入った。バスルームに入って風呂の蛇口を捻り、湯を張った。
そして部屋の冷蔵庫から缶ビールとつまみをだして飲んでいた。
ポケットから不動産屋から受け取ったメモを出し、新しい住所を手帳に書き込んで一本だけのつもりがロング缶を二本も空けた。
少し酔いが回ってフラッとしながら風呂に入ると、疲れがドッと出た。そしてベッドに入るといつしか眠っていた。
そんな中で私は夢を見ていた、とてつもなく恐ろしい夢だった。
ウワ~ッ・・・けたたましいベルの音で目が醒めた。それはモーニングコールの電話だった。そっと受話器を取ると
「お早いようございます、八時でございます」。優しい女性の声でした。
「お早ようございます。有り難う」
そして手帳を持つと再び受話器を持った、そして長野の引っ越しセンターに電話して住所を知らせた。
「分かりました、それでは住民票と電話の方も総てそちらの住所に変えておきます。光熱費もお立て替えしてありますので一緒に請求させていただきます。では午後三時には着くようにしますので」。
私は此れで長野に帰る事もなくなった、住所変更も光熱費、電話変更も何もかも引っ越しセンターがしてくれた。
便利になったものだ、そう思いながらモーニングを頼んでシャワーを浴びた。シャワーから出ると間もなくモーニングが届き、食事を済ませて十時前にホテルを出た。

そしてホテルの向かのMデートにに入った。コートを彼女に貸したまま、ジャンバーでも買おうと入った。中は人の熱気と暖房でむせかえる程熱かった。
みんな忙しいそうに買い物に夢中だった。そんな人混みを避けて空いているフロアーを探しながらエスカレーターに乗った。そして紳士服売り場で降りると思いの外空いていた。
すると、歳末大売り出しと書かれた看板が目に入って向かった。
そこは紳士服とスポーツ用品が並んだ売り場だった。一通り見ると、赤札のダウンジャケットが眼に着いた。
サイズは?・・・と手を延ばした。これから自分で買うのか。そんな思いが頭を過ぎった。
「お客様、それは大変お買い徳になっております」。と正面から声がした。見ると若い店員がニコッと笑っていた。
私はサイズを見ると袖を通した。軽くて暖かくて買う事にした。
「じゃあ貰います。着ていても良いですか」。
「はい、結構です。ではこちらへどうぞ」。
店員の後につづいてレジに行った。一万五千円を払ってフロアーを出た。
定価の半額か、信じられない思いにささやかではあるがリッチな気分になっていた。
デパートを出ると、先程とは打って変わって小雨交じりの冷たい風が吹いていた。私は歩いて15分ほどの七間町と言う町の映画館に向かった。そして切符売り場に顔を出すと、
「お客さん、もう始まって一時間半ほど過ぎていますからね。三十分待って入った方がいいですよ」。
私は開演時間を見た、言う通りだった、「じゃあそうするよ」と、私は筋向かいにあるパチンコ屋に入って時間を潰そうと入った。
五百円分の玉を買い、空いていた席に座った。
何気なく打っているとものの数分でフィバーした。店員が走って来て箱を置いてくれた、私は一杯になった箱を持って席を立った。
「あんた、それは無制限の台だから続けて打っていいんだよ」。と隣のおばさんが教えてくれた。
「そうですか、有り難うございます」。私は二掴みレーンに入れてやった。おばさんはニッコリしてチョコレートをくれた。
NO-4-8

小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(3)CG

2008-07-06 18:13:11 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(3)CG

肩のコートを両手で身体を包み込むようにする彼女を見ていた。
そして三島を過ぎる頃には身体が暖まったのか、幾らか顔に赤みがさして顔色も良くなっていた。
そして静岡に着くと長野から来たせいなのか寒さは感じなかった、ふと彼女を見ると以外と薄着だった事に気付き、コートはそのまま着せてホームに降りた。そして改札を抜けた。
「近藤さん色々有り難うございました。お借りしたお金とコートは必ずお返しに上がります」。
「いいえ、気にしないでいつでもいいですよ」。
そして駅を出ると知り合いの木下不動産の社長が待っていた。
私は彼女と別れ、車に乗り込んだ。
「お疲れさまです、また急な事ですね。あの美人は一緒じゃないんですか」。
見るとタクシー乗り場で私達の方を見て手を振っていた。私もつい手を出して振っていた。
彼女との出会いと事情を話した。そして車は駅から南に走り出し、アパートのある敷地に向かった。
「近藤さん、ちょうど会社のある高松の隣の敷地に新築のアパートの空きがありましてね、会社まで歩いても十分ですから見ましょう」。
それは私には嬉しい事だった。大学から今の会社に入ってから社用車を貰って通勤にも使っていた事もあり、未だマイカーは持った事が無かったからだ。
しかし静岡では買わなきゃならないと思っていた。
車は静岡駅南口から南に石田街道を南に向かって走った。登呂遺跡の入り口を素通りし、東名高速道路のガードをくぐって敷地町に入った。前に何度か出張で来て見慣れた道だっだ。
そして左折すると20メートルの道幅の道路に入り、二つ目の交差点を南に右折した。そして敷地公園の脇の一方通行の標識を左折した。
すると、左前方にハイツコンシエールと書かれた二階建てのアパートの1号と書かれた駐車場に止まった。
「角部屋に入る予定だった若い夫婦が夕方キャンセルになりましてね、それこそ近藤さんから電話を貰って直ぐでした。
新築ですから良いですよ、それで家賃ですが込み込みで六万です。それでも外の部屋より特別二千円安くしてあります。それで敷金と礼金が三ケ月ですがどうです」?
やはり長野の物価に比べて家賃は高かった。そして部屋に入って狭い事にまた驚いた。
長野なら3DKでも五万ちょっとで借りられる、それに比べて六畳と八畳と四畳半のキッチン、トイレ、バス着きなら仕方ないかと思った。それに一人暮らしだから。
私はその場で契約書にサインをして印鑑を押した。そして敷金礼金、そして二ケ月分の家賃を収めた。
「有り難うございます、ところで今夜はどうされます」。
木下は渡した金を数えながら眼鏡の奥の目を上目使いに聞いた。
私は駅のホテルに部屋を執った事を告げた。
「そうですか、では確かに頂戴しました。では此れが合鍵とスペアキーの二つ、一つは会社で管理しますので。ではお送りします」。木下はホルダーからキーを1つ残して差し出した。
そして風呂場とトイレ、洗面所、そして流しの水道とガスの設備を点検すると明かりを消して部屋を出た。
そして会社までのルートを走って貰うと来た道を戻り、ホテルに向かった。
そして南口で降ろして貰った。
もう人気もなく、タクシーが山のように止まっていた、駅の時計を見ると午前零時を回っていた。
すると、駅前にチャルメラの屋台が出ていた。暇そうにおやじがタバコをふかしていた。
ちょうど腹も空いていた所だった、小走りに駆け寄ると主はタバコを消して「いらっしゃい」
看板にはネギラーメン、味噌チャーシュ、そして醤油ラーメンとあった。
「おやじさん、味噌チャシュー下さい」。
「あいよ、仕事の帰りかね」。と気安く声を掛けた。
「いや、転勤で来たばかりです」。
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小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(2)CG

2008-07-05 13:27:59 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(2)CG(壁紙にどうぞ)

新幹線は空席が目立ち、席に座ると早速携帯を出して静岡の知り合いの不動産屋に電話を入れた。
そして事情を話し、到着時間を知らせると快く待っていてくれると言うのだった。その嬉しかったこと、人の情を知った思いだった。
そして一時間四十分、九時前には東京へ降りた。キヨスクで駅弁とお茶を買うと下り21時25分発名古屋行きの終着ひかり293号に乗り込んだ。
すると、長野新幹線とは逆に車内は万席で座れなかった。一時間足らずの道程を立つ事にして乗降口に立った。
間もなくドアの閉まる知らせのベルが鳴ると、急いで乗り込んで来た若い女性がいた。乗り込むと同時にドアが閉まり、肩をドアにぶつけて痛そうに押さえていた。「大丈夫ですか?・・・
「はい、有難う御座います。そそっかしいものですから、大丈夫です」
そして俺を見ると恥ずかしそうにペコッと頭を下げて俯いていた。細いうなじに可愛い顔をして真っ赤になっていた。
その笑顔に私は嫌な事が一度に吹き飛んで消えてしまう程、その女性の恥ずかしそうな笑顔がステキに思えた。
学生だろうかOLだろうか、しかし、手ぶらでバックさえ持っていない。
なんでだろう。そんな事を思いながら昇降口に写る自分の姿の向こう側に走り去る景色を見て居た。
すると、ドカッと音がして振り向くと女性は床に座り込んでいた。うなだれるように俯いていた。私は心配になり近付いた。
「どうしました」?するとゆっくり顔を上げた。
真っ青な顔をして目は虚ろで病気のようだった。私はそっと額に手を充てた。すると少し熱があった。
私はコートを脱いで肩に掛け、カバンを床において座らせた。
「済みません、風邪ひいちゃったかも、済みません」。
「少し熱がありますね、大丈夫ですか、貴方はどちらまで行かれるんです」?
「はい、静岡までですから大丈夫です」。
「そうですか、自分も静岡までです。待っていて下さい、何か暖かい物でも買ってきますから」。
私は両方の車内を見た、すると一両先に車内販売のワゴンが見えた。早速向かうとホットコーヒーと弁当を買うと戻った。

「済みません、わあ~っ暖かい。お弁当まで、本当は腹ペコなんです。遠慮なく頂きます」。
そう言うと両手でカップを押さ、身体を縮めるようにして口に運んでいた。
そして私は冷たい缶コーヒーを額にそっと充ててやった。
「ほんとうに済みません、私は立花美保って言います。OLです」。
「自分は紺野京平って言います、バツ一で長野から静岡支社へ転勤です」。
「ウフッ、バツイチだなんて。でもこの時期に大変ですね」。
すると車掌が回って来た、私はポケットから切符を出して渡すと、女性は困った顔をして俯いた。私はすぐに分かった。
「済みません、急いでいたものですから彼女の切符は買ってありません、済みません静岡まで」。
私は財布から一万円を出した。
「有り難うございます、乗車券と急行券で5670円です」。車掌は切符とつり銭を渡すと次の車両に移って行った。
「立花さん、どうぞ」。
「済みません、私勤め先から逃げ出して来たんです」。
そう言って涙ぐんでいた。
私は腰を降ろし、財布から3万円を出して四つ折りにすると切符と一緒に手に握らせた。驚いたように顔を上げた。
「必ずお返しします、有り難うございます。住所を教えて下さい」。
「いいんですよ、困った時はお互い様ですからね。それに、まだ住所が分からないんです。アッハハハハ」。
「え、ウフッ・・・良かった、いい人に出会えて。じゃあ会社は」?
私は名刺を出して渡した。
「豊島樹脂工業、課長、紺野京平さんですか」?
「はい、新しい名刺はまだなんです。裏に静岡支社の電話番号がありますから。でもお金の方はいいですからね。それより身体の方は大丈夫ですか」?
「はい、もうたいぶ楽になりました。あっバック」。
「あっ、立たないでそのまま座っていて下さい」。
私は自分の彼女でもない初めて出会った女性にこんなに親近感を覚えた事はいままで一度もなかった。
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小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(1)CG

2008-07-05 13:23:14 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(1)CG

鉄槌のスナイパー
97年、その年も終わろうとしていたクリスマス明けの二十七日。世間は来年の長野冬期オリンピックでスポーツ界は賑わっていた。
そんな長野市内にあるオフィースビルの一室で、私は専務に呼び出されていた、行き成り静岡に転勤を言い渡されたのだ。
断れば此の不景気で人材は豊富にあり、あっさり首をチョンされる、私は一呼吸置いて両手で辞令を受け取った。
「本当に急で申し訳ない、今回は君のようなベテランでなければ勤まらないからね、支社の腑抜け社員等を再教育し直してくれたまえ」。
帰りかけようとすると、「そうそう、まだクレー射撃はしてるのかね」。
「いいえ、時間が取れませんので」。専務はムッとしたように眼鏡を外した。
「それは嫌味かね・・・」と笑みを浮かべ「冗談だよ。では宜しく頼む」。
専務直々の要請だった。
私は営業一本でプラスチック成型の技術的な事は殆ど分からない。体裁の良い首きりの一段階だと言う事は瞬間的に察していた。
会社は若返りの為と賃金の高い四十代以上の管理職は殆どリストラされていた。私はまだ三十、まさか私の所にも来るとは思ってもみなかった事だった。
妻とは半年前に協議離婚で別れて子供も無い、身軽と言えば身軽だが、事此々に来て転勤には参った。
そして営業課に戻ると転勤の事は既に知れ渡っていた。
「課長、本当に転勤なんですか」?
今年入ったばかりの若い事務の子が涙ながらに訊いてきた。私はそれだけでも救われた感じがした。
「色々世話になったね。急いで引き継ぎをしないと」。
胸にポッカリと穴が空いたような感じでデスクを片付けていた。すると全員が来て机を取り巻いた。
「課長、こんな事許していいんですか。組み合いで抗議しましょう」。
「いや、いいんだ。気持ちは有り難いがそんな事したら会社の思うままだ。あいにく私は気楽だから選ばれたんだよ」。
すると皆んなは俯いて女子社員の啜り泣く声が流れていた。
仕事を続けるように促すと、思いを引きずるようにデスクに戻った。

そして午後から始めた片付けも済み、夕方には引き継ぎを終えた。
私物の入ったダンボール箱を抱えながら皆んなに別れを告げ、会社を出た。
すると係長の本田健が後を追って来た。
「課長、明日の晩送別会しますので来てくれますね」。
「有り難う、せっかくだけど時間がないんだ。これから引っ越しセンターに全部頼んで静岡へ行かなければならないんだ。静岡も混乱していてね、先任の所長がまだ居座っていて部屋を明け渡してくれないそうだからね。気持ちだけでいいよ」。
「そうですか、じゃあこちらに来た時に皆んなでやりましょう」。そう言うと本田は腰を深く折って戻って行った。
そしてフト見上げると営業課の窓から皆んなが手を振っていた。
釣られるように思わず手を振っていた。気が付くと何人もの通行人が足を止めて見上げていた。急に恥ずかしくなって振った手を下げた。
歩きながら脳裏に浮かんだのは妻の顔だった。もし、こんな時期にこんな辞令を聞いたら何を言われるか、そう思うとゾッとした。
そしてアパートに帰ると早速電話帳を開いて引っ越しセンターに電話した。しかし正月休みに入っていたり、忙しいと断られ続けて三軒目、どうやら引き受けて貰えた。
そして何をどう片付けて良いのか分からず、うろうろ待つ事三十分、表にトラックが止まった。するとチャイムが鳴った。開けるとブルーの揃いのつなぎを着た数人の男女が立っていた。
「お世話になります、信濃引っ越しセンターです」。と全員が一斉に頭を下げ、元気の良い声が静まり返った夕暮れの闇に響き亙った。
私は事情を話し、今夜段取りを付けて明日の午前中までには家を探して連絡を入れる約束をして片付けを初めて貰った。
私は現金と預金通帳、簡単な着替えを旅行カバンに詰め込んで鍵を責任者に預けると長野駅に向かった。
すると、スキー客や帰省の人達で駅はごった返していた。
スキーを持った客の中を避ける様に切符売り場に行くと、上りの新幹線の席はすんなりと買う事が出来た。
そして十五分後の七時0五分発上りのあさま319号に乗り込んだ。
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