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PCグラフィック、写真合成、小説の下書き。

一刻塚-(NO-11)

2009-08-12 13:44:58 | 小説・一刻塚
一刻塚-(NO-11)

こうなったら隠すしかねえって、誰もが外へは漏らすまいと口を封印したんだにの。その後、その二人の遺骨は人知れず無縁仏として村の寺に埋葬したんじゃ。この話しは儂以外ではもう数人しか知らん。
孫の話しじゃその十二人の女学生と二人の男達の内の四人の女学生が殺されたって聞いたが、それは本当ずらか?・・・」。

「ええ。惨い殺され方でした。その事でお聞きに上がったんです、今時祟りとかどうのって言う人はいますがね。私は信じる方でして」。筒井は苦笑いを浮かべた。
「そうかね、だとしたらあの人達は儂の話を聞いて何人かはバカにして笑っておったからの。面白半分で社に踏み入ったかも知れんの。
踏み入った女性は一月に一人づつ殺される。なんてバカな事をしただか」。
老人は呆れた様に皆の顔を見ると写真を手にすると見ていた。

「お爺さん。その1923年に二人の男の人は翌日一人づつ殺されたのに。今度は一年経って五月から一人つづ殺されるの」。麻代は不思議そうに老人を見詰めた。
「それはね、塚に眠る霊の優しさなんだ。社に土足で踏み入った女性に体しては、
その女性が自分のした事を悔いて、社に詫びに来る猶予というか、改心の情を猶予した裁判で言うと執行猶予みたいな一年じゃな。男は極刑って所かの」。
「怖~い。じゃあその祟りを静める方法なんかもあるんですか?・・・」。
麻代の問いに老人は「う~んっ」と、唸る様な溜め息を吐くと麻代を見詰めた。
そして老人の目だけが動き、皆の顔を見て回った。

「爺さん、あるかないのかどっちなんだ」。息子の政伸は覗き込む様に見た。
「ない事もないがの、これは出来ない話しだ」。そう言うとゆっくり腰を上げた。
「お爺さん、出来なくても知っているなら話すべきです。それが塚を守って来た人の役目じゃないでしょうか。・・・アッ済みません生意気な事をいいました」。
麻代は腰を上げると老人に深々と頭を下げた。
老人は頷くと腰を降ろした。

「いえ、何も謝る事はないよ。その通りだの」。
「済みません、私の知り合いも殺されてるものですから」。
「そうだったのかね、それは気の毒な事だったの。偉い刑事さんも居るらしいが此れは決して出来る話しじゃない。
獣と幼子の霊を納め、祟を抑えるには。殺される残りの数の人間と同じ数の幼子を塚に生きたまま埋葬するしか方法はない。無理じゃろ」と、老人は席を立った。
唖然と老人の背中を見送る刑事達と猿渡と麻代だった。

「そんなッ!、じゃあ私達は何しに来たの。ただ原因を知っただけであの人達が殺されるのを黙って見守るしかないの」。麻代は愕然と腰を降ろした。
「麻代、みんなも同じ気持ちなんだよ。山田さん、それで供養祭っていつなんです。その日以外に社の中へは入れないんですか?・・・」
「いえ、供養祭は九月二十三日の秋分の日ですが、山田家の人間が一緒ならいつでも入る事は許されてます。その前に供養しなければなりませんが」。
「そうですか、それで山田さんが業々来てくれた分けですか」。
「ええ、そう言うことです。ただ午前六時前と午後六時以降は決して入るなと言い伝えられていまして、死霊が取り憑くと言われてます」。
「怖~い、そんな事って本当にあるんですか」麻代は心なし身震いしていた。
すると、山田刑事の父親の政伸がゆっくり顔を上げた。そして麻代を見た。

「奥さん、これは私が子供の頃に父から聞いた話しですがね。私には三つ違いの兄がいたんです。その兄が六つの時に村の友達数人とあの社で遊んでいたそうです。
その遊びと言うのは隠れん坊でした。
兄は六時過ぎに社の中へ隠れたんだそうです。友達は親から何があっても社には入ってはいけないと言われていましたから、いくら隠れん坊でもはいらなかったそうです。
その晩、廊下を走り回る音で起こされた父と母は、兄が犬や猫の様に四つ足で歩き回っていたのを見たそうです。
それで翌朝、一緒に遊んでいた友達に聞いたら。社の中へ隠れたと話したそうです。食事も座っては食べられず、皿に盛ると口を付けて食べていたそうです。
それから一日二日と経つに連れて顔付きも犬の様になり、歯も犬や猫の様に牙が突き出して来たそうです」。そう話すと暗く重苦しい表情を見せた。

「それで亡くなったんですか、元に戻ったんですか」麻代は真っ青な顔だった。
「いえ、それから父は兄を山にある炭焼き小屋に連れて行って隔離したそうです。
それで翌日、食事を持って行くと兄は壁を壊して逃げ出して消えていたそうです。
それから村の人を頼んで何日も山狩したそうですが、見付からなかったそうです。死んだのか、まだこの村の何処かで生きているのか分かりません」。

「ご主人、まさか?・・・」と、猿渡はその先を言おうか迷い言葉を飲み込んだ。
「ええ。夕べ息子から四人の女性の惨い殺され方を聞いて、もしかしたら犯人は兄の貴雄が生きているか死霊になって祟っているのかと」。
NO-11-20

一刻塚-(NO-10)

2009-08-06 18:04:21 | 小説・一刻塚
一刻塚-(NO-10)

筒井は受け取ると五月一日の宿泊名簿を開いた。そして南田刑事から十二人の女性の住所と写真を受け取り、テーブルの上に置いた。

「話はもう山田刑事から聞いてご存じだと思いますが。去年の五月一日に泊まったのはこの女性達と男性二人ですが」。
主夫婦は写真を手に見ると頷いた。「間違いありません、この女性達です。それとこの二人の男性に間違いありません」。
「そうですか、それで、四件の事件の事はご存じでしたか」筒井の表情は険しくなり、刑事の顔に戻っていた。
「はい、事件の事は長野でも大騒ぎになりましたから知っていました。でも内へお泊まりになったお客様だったとは昨日息子から聞くまでは知りませんでした。
それにお泊まり頂いたのは一年前ですし、テレビや新聞のニュースに流れる顔写真と随分雰囲気が違いますからね」。主は表情を曇らせたまま写真を見ていた。
「それで、この人達はどんな話をされていたか覚えていますか」。
「男性の一人は一時塚の事を祖父から訊いていました。そうだったよねお爺さん」。
「そうだに、なんだか知らねえけど随分神妙な顔をして訊いとったに。わしもそんな詳しくは知らねうけえが、昔から言い伝えられて来た話しをしただに」。
「それはどんな内容なんです、ご面倒でも話して頂けませんか」と、筒井はボイスレコーダーを鞄から出してテーブルに置いた。

「あんたも同じのをもっとるんかね、あの馬場とか言う記者も持っとったに。あの塚と屋代は我が山田家が先祖伝来から預かった塚での、儂はただ昔から言い伝えられて来た事を話しただけだに。
一時塚が造られた年代までは分からんがの、一番新しい発見では十年前に一時塚の屋代を修復した時に、柱の土台の下から天正大判やら南繚二朱銀と言う貨幣が幾つも見付かって少しは大騒ぎになっただに。
その大判を東京の学者に鑑定して貰ったら、それは豊巨秀吉が天下統一の象徴として造らせた大伴で1588年に造られた大伴だと言う事が分かったんです。
たから塚はその時代に修復された時に土台の下に埋められた物だろうと学者は言っとった。これは想像だが、それから三~四百年前に造られた物だと思う」

「じゃあ一時塚は造られて最低でも四百年以上は経ってると言う事ですね。それで、その事以外に何を話しされたんです」筒井は食い入る様に老人を見詰めた。
「そうなれば埋葬されてる人と宝の話しじゃな、誰が祭られて何を一緒に埋めたかじゃろ。でも儂にも誰にも分からんに。
言い伝えでは、この世に生を受けて一時余りで死んだ幼子や獣を葬ったと言われて来た。ただ古い古文書が出ての、相当昔は獣の塚と人間の塚は別々だったんじゃが。それがどうしいか一つにされたと書かれておった。
学者の話しでは、獣の霊に幼子の霊を護らせる為ではないかといっとった。
宝の話しだがの、柱の下に大判なんか埋める位だから仏さんと一緒に相当な物が埋蔵されたと考えるべきじゃろうと、その人には言うたがの。
でもの、それなりの人間が決められた日に祭って供養せんと、近付いたりむやみに土足で踏みにじる様な事をすれば、祟ると付け加えたがの」。
それだッ!、猿渡は思わず声を発していた。老人は不思議そうに猿渡を見た。
「それだとは何でかな。祟りの事ですかな?・・」

「はい、その祟りとはどの様な祟りなんですか。自分達が勝手にお参りしても祟られるんでしょうか」その言葉に麻代は驚き、クリッとした瞳を見開いて猿渡を見た。
「いや、只のお参りに祟る様な仏はおらんずら。いま話した様に土足で屋代に踏み入ったり、塚を掘り返して物を盗む者がおれば仏は怒るだに。
これは言い伝えだが、その様な事をしたら獣の霊が盗掘した者を噛み殺しに来ると言われていての。儂がまだ子供の頃だが一度だけあった。

あれは1932年の5月15日、5・15事件の日だ。当時の首相の犬養毅を若い海軍の将校が暗殺した日だに。何処から聞いて来たのか一時塚の宝を盗もうと浮浪者風の男が二人で屋代に入っての、掘り返した時に村の者が偶然お参りに行って見付けたんだ。
それで引き返して来て、村の者を集めて二人を捕まえて駐在に突き出したんだ。
その晩は駐在所の牢屋に入れて次の日に篠ノ井の警察に連れて行く手筈だったんだが朝になると一人は牢屋の中で獣に食われた様にバラバラになって死んどった。村では大騒ぎになって一時塚の祟りだと、もう一人を別の部屋に移してどうするか、当時村長だった儂の父親なんかを集めて相談したそうだ。

篠ノ井の本署に知らせるか迷っていたそうだ、祟りなどと報告は出来ない。
だとしたら男を殺した犯人を準備しなければならねえって、思案に困ってその日は暮れちまった。翌日、もう一人を蔵へ入れていたんで朝ご飯を届けに蔵を開けると男は前の男と同じ様に殺されていたと言う事だった。
NO-10-18