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本日は、20日に出たばかりの新刊、
萩尾望都『一度きりの大泉の話』(河出書房新社)についてのお話です。
どうぞ、おつきあいくださいませ。
(ネタバレを避けたので、ザックリした内容ですが、お許し下さい)
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タイトルにある「大泉」は、練馬区の大泉。
そこで、二年ほど、著者の萩尾望都先生は、
竹宮惠子先生と共同生活をしておいででした。
その時期のことを「一度きり」話しましょう、というのが本書。
それは当然気になります!
なんといっても、
萩尾望都先生も、竹宮惠子先生も、私には、燦然と輝くお名前ですから。
お二方の活躍していらした「別冊少女コミック」や「週刊少女コミック」に
小・中学生の頃、お小遣いを注ぎ込み、楽しみにしていました。
「ポーの一族」も「風と木の詩」も、リアルタイム読者だったことは
今の私のちょっとした自慢ですw
さて・・・
竹宮惠子先生の自伝『少年の名はジルベール』(小学館)が出て以来、
大泉について問われることが増え、萩尾先生は「困惑」されているとか・・・
実は、わたしも、2016年、竹宮先生のご本をすぐに読んで、
「大泉」を知り、なんだか解せない気持ちでいました。
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50年前に、竹宮恵子先生が萩尾望都先生を誘って始めた
共同生活の場「大泉」は、山岸凉子、ささやななえこ、山田ミネコなどの
各先生方も出入りなさっていたものの・・・
2年後、共同生活は終わります。
その理由は当事者たちにも、よくわからなかった・・・というのです。
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少女マンガのファンの間では、知られた話だったのかもしれませんが、
私は小学生だったし、10代の後半に一時、マンガから離れていましたし・・・
だから、竹宮先生の御本を読んで、当時のお気持ちを知り、驚愕。
それなのに、片一方の当事者である、萩尾望都先生に対しての、
その後の書きぶりが、奥歯に物がはさまったようで
解せないままでした。
今回、萩尾先生の本を読んで、ああ、こういうこともあったのかと、
理解ができました。
その一方で、泣けて、泣けて仕方ありませんでした。
小学生の私が、竹宮先生の「ファラオの墓」や
萩尾先生の「小鳥の巣」に夢中になっているときに、
起こっていたことなのですから。
マンガ界で活躍していらしても、まだお若かったお二人です。
どれほど、お辛かったことか・・・と、胸が苦しくなりました。
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萩尾先生は、本書の最後に書かれています。
「このような話を聞いて読者の方は混乱したり、漫画界に失望したり
なさるかもしれない...」
「それでも、ここに来てお話をしたのは、まず、読者の方も歳を取り、
人生体験を乗り越えて成長し、こういう個人的な話を聞いても、おそらく
大人として落ち着いて聞いて下さるのではないかと思ったからです」332頁
まさしく、この「読者」は、わたしです。
昨夜は、「大泉」の解散までを読み大「混乱」し、
竹宮先生の『少年の名はジルベール』を、読み返してしまったほどでした。
それでも、一夜明けて、萩尾先生の著作を読了した今は、
「大泉」について、「大人として聞いて」いられます。
そういうこともあるよねと、「人生体験」から察することができるからです。
あるひとつの出来事を、違う角度から見ること、
多様な見方をすることが、昨今では、当たり前の世になっていますし・・・
萩尾先生の側から、「大泉の話」を読み、
竹宮先生の本で抱いた解せない気分が、解消でき、
何やら、すっきりもしましたw
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そして・・・
『一度きりの大泉の話』では、私の大好きな
「ハワードさんの新聞広告」が全編掲載されています。
去年の自粛中に、この作品について熱く語ったくらい、
忘れがたい作品でした。(→「萩尾望都作品集」の時間)
今回、「大泉」の中で、その執筆に至るエピソードを知ることができ、
ここでも、泣きました。
嬉しいのと切ないのと・・・
原作者、池田いくみ先生のご冥福をお祈り申し上げます。
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マンガを読んできて良かったな・・・
アラカンともなると、以前はできたのに、できないことが増えてきて
歯がゆいことも多いのですが、
長く生きたからこそ感じられることも、あるのだなぁと・・・しみじみと。。
何よりも、小学生の頃から、今もなお、「ポーの一族」の
新作を待ちわび、読んでいられる幸せを感じています。
萩尾望都先生はもちろんのこと、
半世紀前から、ずっと活躍していらっしゃる、
漫画家の先生方のご健康とご活躍を祈ってやみません。
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書影は版元ドットコムよりお借りしています。
『一度きりの大泉の話』は書影がなかったので、お許しを。
冒頭はエドガーに敬意を表し、横浜・イギリス館に咲く早咲きの薔薇の花を。
他の書影は、「ポーの一族」以外は、大人になってから読んだ、
萩尾作品の書影です。
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拙ブログでは、読んだ本の一部だけをアップしていますが、
ブクログ「由々と本棚」は、読み終わった本を収めています。
本のお好きな方、どうぞ、遊びにいらして下さいませ。