カズオ・イシグロ『クララとお日さま』(早川書房)を読み終えました。
イシグロの「ノーベル文学賞受賞第一作」にして「最新長編」、
おまけに世界同時発売だそうです。
去年の暮れだったか・・・この情報を知って以来、楽しみにしていました。
(椿は日本原産、日本生まれのイシグロに敬意を表し、
先週撮影した、椿の画像と共に綴ります)
先週撮影した、椿の画像と共に綴ります)
まずは、あらすじを。
クララは人工知能を搭載し、
子どもの親友となるべく造られたロボット(AF)。
ジョジーとは、店のショーウィンドウでポーズをとっていたとき、
互いに一目惚れの如く出会う。
不安な日々の後、共に暮らすことができるようになる二人・・・。
病弱なジョジーは、田園地帯に住み、
隣の少年・リックと幼い恋を育んでいる。
やがて、静かな時間は、ジョジーの健康状態の悪化と共に陰りを見せる・・・
クララは、ある決断をし、そして・・・というお話。
イシグロの小説は、あらすじを追うだけなら
どんどん読みやすくなっている気がします。
『わたしを離さないで』や『失われた巨人』は、
物語を追うのが楽というか、すんなりと頭に入ってくるようになりました。
学園もの風だったり、神話伝説風だったり・・・だからかもしれません。
でも、その内容は?
・・・あらすじを追うだけなら、たやすいものの
考え出すと、次から次へと、様々なことを考えんでしまいます。
今回も、同じ。
語り手は、人形もとい、AFのクララその人。
近未来のロボットものながら、これは人形ファンタジーでは?と
感じたとおりの物語展開でした。
けれども、細部が、実に細やかで、
また、次々と提起される、さまざまな問題に素通りできないのです。
ひとつひとつの場面を、味わうようにして読まずにはいられません。
とはいえ、三部の途中、クララが、ある決意をもって行動するあたりから
俄然、こちらの緊張感も高まり、読む速度が上がります。
クララの想いが、まっすぐすぎて苦しいほどです・・・
同時に、物語世界からの問いかけも、たたみこまれていくようで・・・
そうしているうちに、あの美しいラストを迎えてしまいました。
(あの結末をどうとらえるかはさておき、なんて美しい!)
まさに「文学」を堪能。
ネタバレになるので、あまり詳しくは書きませんが・・・
一番考え込まされたのが、
帯で是枝裕和氏が挙げた「境界を越えた心の交流」。
その境界が、ひとつではないところが、また「今風」です。
人形と持ち主の少女といった「人形もの」としての
境界だけではありません。
今、あれやこれやを考えながら、思い起こしていると、
それが静かな感動となって、
心にジワジワと広っていくようです。
これから、新作に関するイシグロのインタビュー記事などを、
あちこちで読み、読後の想いは、
いっそう膨らんで、また考えを新たにするのでしょう。
おそらく、これからも読み返す、大事な一冊です。
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