「還暦」の声を聴くようになるに従い、周辺から「相続」の話をよく聞くようになりました。戦前・戦中に生まれ、高度成長、オイルショック、バブル経済と崩壊、失われた30年と様々な局面を生き抜いてきた昭和世代の親たちも、いよいよ人生の最終局面を迎えるケースが増えているようです。
一方、彼ら彼女らを送り出すのは、(こちらも)既に定年を迎えようとしている子供たち。「大往生だったね」などと言いながら、(漠然と予想していたこととはいえ)「で、あの実家はどうしようか…」などと、雑然と遺された様々なものの処分に戸惑いを隠しきれない様子です。
当時は「ニュータウン」などと呼ばれた首都圏の郊外に位置する土地・建物や、捨てるに捨てられない遺品の数々。合わせればそれなりの額になる預貯金などについても、「もう少し早くもらえていれば使いようもあったのに…」という声をしばしば耳にするところです。
親が健康で長生きしてくれるのはもちろん結構なことだけれど、相続の作業も(それなりに)気力や体力を使うもの。最近はあまり会うこともなくなった兄弟たちとひざを突き合わせ、お互いに気を使いながら今後の相談をするのもなかなか面倒な話です。
いくら「人生100年時代」とは言っても、人は誰でも最期の時を迎えるもの。だとすれば、戦後ベビーブーマーの退出に伴う「大相続時代」を前に、イマドキの相続事情を知っておく必要もあるでしょう。昨年10月23日の日本経済新聞に『増える「老老相続」 相続人の半数が還暦以上に』と題する記事が掲載されていたので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。
年齢が高い人どうしで遺産が受け渡される「老老相続」が増えている。2022年時点で、相続人の半数超が還暦以上だったと記事はその冒頭に記しています。遺産を相続する人のうち、60歳以上の割合は52.1%に及ぶ。現役世代である50歳代は27.0%、49歳以下は20.6%なので、相続人の多くが既に「高齢者」と呼ばれる世代だということです。
一方、亡くなった被相続人は、80歳以上が19年に全体の7割と、30年前と比べ1.8倍に増えている。想定以上の長生きに備えたり、将来の経済見通しが不透明で子や孫の生活水準低下を防いだりするため、(過大な)遺産を残すケースも増えていると記事は指摘しています。
実際、高齢世帯の支出額は現役世帯と比べるとかなり少なく、23年の総務省の家計調査では、70歳以上の2人以上世帯の家計支出は月24万9177円とのこと。全世代平均では29万3997円なので約4万円の差があると記事は言います。
そうした中、貯蓄残高は高齢者で上昇傾向にあるというのが記事の指摘するところ。23年の貯蓄残高を世代別でみると70歳以上では前年比3.8%増の2503万円。全世代の平均は0.2%増の1904万円なので、高齢者の上昇率のほうが有意に高いということです。
一方、若年層はと言えば、持ち家率の高まりもあって負債超過の状況にある由。23年時点で、40歳未満世帯の貯蓄は平均782万円とほかの世代と比べ最も少なく、負債は貯蓄の2.2倍の1757万円だったと記事は記しています。
低金利環境が続き、若年層でも住宅ローンを借りるハードルが比較的低くなっているうえ、住宅価格の値上がりで借入額が増加している。しかし、金利上昇局面に入って返済額の増加が見込まれる中で、金利上昇で不動産価格が下落する可能性も否定できないため、今後、(彼らの)負担感が膨らむことも考えられるということです。
日銀の資金循環統計によると、家計部門は金融分野だけで2200兆円を超す資産を有するとのこと。今後も高齢化が進み老老相続の構図が強まれば、家計のお金が高齢層に滞留し、経済全体に有効に使われない可能性があると記事は懸念を表しています。
現在でも、2500万円までなら贈与税がかからず、祖父母らが亡くなったときに納税する相続時精算課税制度など、確かに相続時期よりも早く資産を移転させる仕組みはある。さらに、住宅取得や教育資金、結婚・子育て資金では贈与非課税の制度もあるが、正直、その手続きは煩雑に過ぎるということです。
さて、日本人の平均寿命が伸び、男性81歳、女性87歳と長寿化が進む中、長生きで生じるお金のリスクを抑制することの重要性はますます大きくなっていると記事は最後に指摘しています。
より長く働くことができれば、収入増につながり、経済全体の人手不足も緩和される。66歳以降に公的年金の受給年齢を繰り下げることで、増額した年金を受け取ることができると記事は言います。
老後の安心をカバーできれば、無理をしてお金を貯め込む必要も薄らぐはず。「若いうちは苦労をするもの」「先憂後楽」などという言葉が現実味を帯びていたのは、時間とともに経済が拡大・発展することが前提だった昭和の時代であればこそ。まずは「今」を生き伸びなければならない不確実性の時代には、経済を回しながら次の世代の負担感を減らしていくのも大人たちの責任ということでしょうか。
現在、社会保障制度を支える保険料や税金の多くは、収入をベースにした負担となっているが、高齢者の中には収入はなくても資産がある人も一定数(というより「かなり」)いるのは、統計数字を見ても間違いありません。
そうした状況を鑑みれば、なるべく早い段階で所得ではなく金融資産を考慮した医療や介護負担を求める仕組みを作っていくことも必要となるのではないか。社会保障制度の安定感を高めるためにも、ストック面も踏まえた適切な負担のあり方を構築することが求められていると話す記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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