MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2478 女性はなぜ長生きなのか?

2023年10月09日 | うんちく・小ネタ

 「人生100年時代」と言われて久しい昨今、中でも日本は世界で一、二を誇る長寿国とされています。2020年に行われた厚生労働省の調査によれば、女性の平均寿命は87.74歳と世界一。男性も81.64歳で世界2位と、日本の高齢者のタフさは際立っている様子です。

 しかし、そこで気になるのは男女の平均寿命の年齢差が約6歳もあること。長く生きることだけが幸せとは限りませんが、ジェンダー平等が叫ばれるようになったこのご時世に(初老を迎えた男性のひとりとして)何だか不公平な気がしないでもありません。

 実は、女性の寿命が男性より長いのは日本だけではなく世界的な傾向とのこと。WHOが発表した「世界保健統計(2021年)」を見ても、先進国、開発途上国を問わず、ほぼ全ての国で女性の方が長寿だとされています。

 また、女性が男性よりも長生きするようになったのは最近のことではないとのこと。100年以上前の1891年~1898年の資料をみても、平均寿命は男性42.8歳、女性44.3歳だったとのことで、日本でも明治の当初から女性の方が長寿だったことがわかります。

 戦争や事故、犯罪などに巻き込まれるケースが男性の方が多い可能性はあるとしても、総合的な体力や出産などのリスクを考えれば女性だって生きていくのは決して簡単ではないはず。それなのになぜ、女性の方が(こうも明確に)長生きなのか。

 そんな疑問に対し9月4日の経済情報サイト「PRESIDENT Online」が『進化生物学が解き明かした「おばあちゃん仮説」をご存知か』と題し、解剖学者の養老孟司氏と生物学者の小林武彦氏の対談を記録した『老い方、死に方』(PHP新書)の概要を紹介しているので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 動物学的には、子どもを産めなくなった時期、つまりメスの閉経を「老化」、それ以降を「老後」としていると小林氏はこの対談で説明しています。そして、その定義で言えば、ヒト以外の哺乳動物で老後があるのはシャチとゴンドウクジラだけ。ヒトとゲノムが99%同じ寿命40~50歳のチンパンジーでも、死ぬ直前まで排卵があって生殖可能なので「老後」という時期はないということです。

 ではなぜヒトの女性は、50歳前後で閉経した後も30年以上生きるのか。進化学の世界では、その理由の一つを「おばあちゃんは若い世代の子育てを手伝うなどの役に立つから」だとしていると小林氏は話しています。

 これをその世界では(親しみを込めて)「おばあちゃん仮説」と呼んでいるとのこと。ヒトの先祖は今で言うところの類人猿のように、体が毛で覆われていた。変異で徐々に体毛を失い今の姿になったが、そのためヒトの赤ちゃんはチンパンジーやゴリラのように母親にしがみついて移動できなくなったと氏は言います。

 赤ちゃんはそれにより、大人に抱っこされ、世話をしてもらわないと生き残れなくなった。これは親からすれば、子育てに大変な時間と労力がかかるようになったことにほかならないということです。

 そこでおばあちゃんの出番がやって来る。(集団生活の中で)閉経後の女性が、子どもの子育てを手伝う、あるいは子どもに代わって孫の世話をするという使命を担う必要が生じた。閉経したからといって人生を終わりにするわけにはいかず、結果、ヒトは老後の人生を生きることになったというのが氏の見解です。

 これはおそらく、男性(「おじいちゃん」)も同じだったろうと氏はしています。生物学的に言えば、「おばあちゃん」や「おじいちゃん」が長生きな家庭が、より子どもを多く残せて選択されたということ。子育ての期間が長くまた、子供に手がかかったからこそ、じいちゃん・ばあちゃんの手と知恵が求められたということでしょう。

 また男女を問わずシニアには、若い世代の子育てを手伝うことに加えて、社会をまとめるという重要なミッションがあったと氏は続けます。

 シニアがこれら2つの役割を果たしたことが、結果的に乳幼児の生存率を上げ、同時に生き延びるのに有利な集団が形成されていった。繁殖能力を失い老化した後も社会の役に立つ人たちのいる集団が生き残り、彼らの子孫としての私たちが存在しているというのが氏の認識です。

 なので、現代人の寿命が(さらに)ここまで延びたのは、シニアが社会に求められて存在しているおかげだと見ることができると小林氏はここで指摘しています。求められているからこそ長生きしている。逆に言えば、人間のシニアには求められている役割をしっかり果たす必要があるということでしょう。

 だから私自身は、年齢で一律に解雇する「定年制」には反対だと氏は話しています。辞めたかったら定年を待たずに辞めて、ほかのやりたいことをやってもいいし、会社に残って働きたい人は仕事を続ければいい。(高齢化が進めば進むほど)定年制の名の下にシニアを排除していくようなシステムはあってはいけないと考えるということです。

 この社会では現在、一生懸命働いているシニアに向かって「老害」と揶揄したり、社会から排除しようとしたりする向きが一部に起こっている。しかし、誰だってやがて年を取るのに、そういう見方はないだろうと氏は言います。

 シニアが社会基盤を整えて、そのうえで若い人が自由にイノベーティブに生きる。そういう2層構造があるからこそ、人間の社会は高い生産性を達成でき、発展していくものではないか。

 若者だけだったら、自分たちが欲望のままに暴走するのを誰も止められず、社会の秩序が乱れてしまうかもしれない。(そんな社会に)いいことはあまりないように思うと話す小林氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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1 コメント

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Unknown (ねも)
2024-02-02 09:26:05
初めまして、興味深い記事が満載で、あちこち拝読しています。
そんなこと知ってるよと言われそうですが、自殺、過重労働、喫煙、飲酒など寿命を縮めそうなことをするのは圧倒的に男性っていう原因でしょう。
逆に女性の最大のリスクは出産です。100年以上前の日本や現在でも南アジアなどで、男女の平均寿命差があまりないのは、このことを物語っています。
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