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全国72社の私鉄が加盟する日本民営鉄道協会では、駅や電車内での迷惑行為について毎年ホームページ上でアンケート調査を行い「駅と電車内の迷惑行為ランキング」を発表しています。
振り返れば、現行のスタイルでアンケートを始めた今から約10年前、2009年の栄えある第1位は「騒々しい会話・はしゃぎまわり等」で、2位が「ヘッドホンらの音漏れ」、3位が「座席の座り方」というものでした。
因みに4位は「携帯電話・スマホの着信音や通話」、5位に「乗降時のマナー」、6位に「社内での化粧」と続いています。
確かに当時を思い出せば、大声で悪態をついている酔っ払いや行楽帰りのオバサマ達にうんざりしたり、ヘッドホンからシャカシャカ音をダダ漏れさせているヤンキーのお兄ちゃんに閉口したり、足を広げて座っているサラリーマンや荷物を横に置いたおばあちゃんをウザイと思ったりしていたことは事実です。
さらに言えば、当時は電車の中で大声で電話をかけているサラリーマンや高校生もよく見かけたし、電車の座席で化粧する妙齢の女性もなんとなくみっともなく見えたものでした。
そしてそれから10年の歳月が過ぎ、日本人は(酔っ払いのサラリーマンもできの悪い高校生も)以前よりずっと「おとなしく」なり、その分元気で騒々しいのはインバウンドで期待される訪日外国人ばかりとなりました。
ヘッドホンの性能が格段に上がったこともあって(大音響で)シャカシャカさせている若者は今ではもうほとんど見かけませんし、電車の椅子には一人分ごとにくぼみが付いていて真ん中に座ってもお尻が気持ち悪いだけ。足も大きく開いたりできないような(なかなか見事な)デザインに変化しつつあります。
さらに変化したのは携帯電話の扱い方で、今ではスマホを「電話」として使っているのはガラケー世代のおじいちゃんやおばあちゃんばかり。電車の中の若い世代やサラリーマンは電車に乗り込むなり皆スマホを取り出し、画面を見ながら黙々とSNSやゲームにいそしんでいるのが実情です。
誰かに連絡したければメールかLINEを使うだろうし、スマホから電話を掛けるという行為自体、よほど急いでいる場合に限られるというのが普通ではないでしょうか。
そうした中、先日発表された2017年の調査結果を見ると、迷惑行為の順位も(このような時代の変化を受けて)意外に大きく動いていることが判ります。
もっとも、2009年の1位の「騒々しい会話・はしゃぎまわり等」は2017年も相変わらずの1位で、2位には10年間で順位を一つ上げ「座席の座り方」がランクインしています。
そして、2009年の12位から赤丸急上昇したのが「荷物の持ち方・置き方」で、さらに4位には「歩きながらの携帯電話・スマホ操作」が枠外からのジャンプアップを果たしているという状況です。
公共空間において「話し声がうるさい」とか「座り方が邪魔だ」とかいうのは、(ある意味)時代を超えた普遍性を持っているのでしょう。また、老いも若きもスマホに頼り切っている最近の風潮として「歩きスマホ」は(気が付けば自分もしていたりするほど)本当に普通に見かけるので、(ぶつけられたりぶつかったりと)その危険さは身にしみてわかっているということでしょうか。
一方、「荷物の持ち方、置き方」がここ来て特に問題視されるようになった背景にはどんなものがあるのでしょうか。
確かに最近、特に中年より若い世代で出かける際の荷物がやたら大きくなっているような気がします。
それを実証するデータは見当たらないのですが、パソコンや様々な電子アイテムなどを仕事で持ち歩く人も増えましたし、旅行先にヘアドライヤーらクルクルカーラーやらを持って行く女性も増えていると聞きます。
男性も化粧ポーチを持つ時代ですから手ぶらの人を探すほうが難しいくらいで、駅のコーンコースでがらがらと大きなキャリーバックを引っ張っているのが海外からの旅行者とは限らない時代となっています。
さて、今回のアンケートでは、それぞれの迷惑行為の内容について、もう少し突っ込んだ質問を行っています。そこでは、評判の悪い「荷物の持ち方・置き方」で最も迷惑なものとして「背中のリュックサック・ショルダーバック」が55.5%と断トツの1位に挙げられているということです。
一昔前までは、ビジネスマンの通勤カバンと言えば、手提げのついた皮やビニール製の黒いブリーフケース(バッグ)を相場は決まっていました。
しかし、最近ではサラリーマンの持ち物が増えて薄いカバンでは入りきらなくなったことに加え、夏場のクールビズの普及や服装のカジュアル化などもあって、(服装に合わせた)ショルダーバッグやリュックサックを常用している人が大勢を占めている状況が見られます。
また、四角くて持ち手も付いた(いわゆる)ビジネスリュックというものもあるようで、古い世代には(言葉は悪いですが)「あんなもんを背負ってはずかしくないのかな」と、思わず2度見してしまう人などもたまに見かけるところです。
電車の中で片手でつり革を持ちもう一方の手でスマホを手繰る彼らにとって、両手が空いていることは大変便利なのでしょうが、確かに後ろに立たされた者にはこれほど迷惑なものはありません。
電車が揺れたりすると背中にガシガシ後ろの人のリュックが当たったりして、思わず少し押し返したりしたくなるのは(きっと)私だけではないでしょう。
朝の通勤電車の中にはリュックを背負った女子高生などいうのも相当数いて、集団でいる彼女らに「ちょっと邪魔なんだけど」なんて言うのは、昭和生まれの世代にはなかなかハードルが高いものです。
そもそも、リュクサックの何が頭にくるかと言えば、本人が周囲のことを全く気にかけていないという「無神経さ」というか「悪気のなさ」というか、そういうところにあるような気がします。
駅頭で「リュックは前に抱えて!」というポスターを見たような気もしますし、朝の満員電車中にはそうしている人もたまに見かけますが、それはそれで(かなり)違和感のある格好です。
普段持ち歩く「バッグ」といえばそれなりに身近な存在ですが、シェアビジネスやペーパーレスが普及していくこれからの時代、日常的に持ち歩く荷物自体を効率よく減らす努力が必要なのかもしれません。