10月に実施された衆議院議員選挙で自民党が圧勝した勝因の一つに、10代から30代の若い世代の有権者の自民党支持率が高いことが挙げられています。
選挙に際してマスコミが行った出口調査や世論調査でも、自民党に対するこの世代の支持率は60歳よりも上の高齢者世代と並んで高かったことが判っています。
例えば、NHKが投票日に実施した出口調査では、回答した人のうち自民党に投票した人の割合は20代が最も高く(実に)50%を超えており、30代では42%、40代では36%と続いています。一方、50代では34%、60代では32%と低迷し、70代以上で38%と持ち直す格好です。
若い世代から順に60代までは年齢が上がるほど自民党支持者が減り、若い人ほど「保守的」になっている…この指摘が妥当かどうかは判りませんが、少なくとも若年層の政治意識に大きな変化が起きているのは事実のようです。
若者ほど変革を求めるのが「世の常」だと思っていましたが、なぜここに来てこのような(ひと昔前であれば考えられない)状況が生まれているのか?
こうした疑問に応え、11月4日の情報サイト「BUSINESS INSIDER JAPAN」では、「自民党こそリベラルで革新的」と題する興味深い解説を行っています。
実際に若者の声を聞くと、従来のイデオロギー観とは全く違った彼らの政党観に驚かされると、記事はその冒頭に記しています。
読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所がこの夏に行った調査によると、40代以下では自民党と日本維新の会を「リベラル」な政党だと捉え、共産党や公明党を「保守的」な政党だと捉えているということです。
対して、50代以上は、従来のように、自民党や日本維新の会を「保守」と捉え、共産党を「リベラル」だと捉えるなど、大きな「断層」が生じていると記事はしています。
特に、若い世代ほど自民党を「リベラル」だと感じる傾向が強く、特に18~29歳では民進党よりも自民党の方を「リベラル」だと見ていたということです。
なぜ、自民党を「リベラル」だと思うのか。記事によれば、彼らの眼には自民や維新こそ、その政治姿勢が「革新に積極的」と映っているからだということです。
政権が繰り出すアベノミクスや憲法改正、積極外交、内閣人事局の設置などの政策は今までにないものであり、維新の大阪都構想や地方分権(道州制)なども改革志向にある。一方、その抵抗勢力である民進党や社民・共産党は、(憲法問題や雇用労働問題への対応などを中心に)現状維持を主張しリベラルとは逆のところにいると考えられているということです。
特に、現在の10代や20代前半にとっては政権末期の民主党や民主党政権時代の「自民党=野党」のイメージが強く、「改革派」の自民党、「抵抗勢力」の野党(民進党、共産党)という構図で捉えているのではないかと記事は見ています。
経済問題についても、安倍政権は働き方改革やデフレ脱却など(抜本的ではなくとも)悪かった日本の景気や雇用状況の改革に対峙してきた。その結果、大学生・大学院生の就職内定率は92.7%と過去最高になり、日経平均株価も約21年ぶりの高値となるなどの成果を身体で感じているということです。
他方、記事は、若い世代にとっての野党は改革の方向を争う相手ではなく、あくまで「現状肯定派」に見えていると説明しています。
野党はアベノミクスに変わる経済政策の具体策を提示できておらず、単に自民党政権の政策を中止しろと言っているだけ。年功序列とか前時代的な給与・労働体系を守ろうとする現状肯定派であり、旧来の枠組みから脱出することのない保守的なものに映っているということです。
また、記事によれば、若者の間には自民党の経済政策に関し、「アベノミクスはリベラル」という評価もある様です。
実際、安倍政権が進める金融緩和を重視するリフレ(リフレーション)やグローバル化に寄った経済政策は、リベラルとの親和性が高いと記事は考えています。
一般に「保守」は、財政規律を重視する傾向が強く、国内経済重視に傾く場合が多いということです。
一方、民主党政権時代の経済政策は、事業仕分けや財政健全化を重視などの印象が強く緊縮的なイメージに繋がっている。自民党も、家族など伝統的な価値観を重視する一方で、(それに任せるばかりでなく)介護保険など高齢者を社会で支える政策も実現しており、野党がそれに代わる価値観を提示しているとは感じにくいのではないかとの指摘もあります。
さらに、非正規社員のような弱者救済の観点でも、連合などの大企業の正社員中心の労働団体が支持母体である時点で限界が生まれていると記事はしています。一方の自民党では、働き方改革や官製賃上げなどで市場原理に介入することで、賃金上昇や長時間労働規制など労働者の権利を守る改革も実行しているように映るということです。
確かに、若者に話を聞いても、こと「政治手法」や「イデオロギー」として自民党が保守であることを否定する人はいないし、それに対して反発の声もあると記事はしています。しかし、若者にとって「より」重要なのは「経済政策」であり、安全保障に関しても(彼らは)ある程度の「改革」の必要性は認めているということです。
さて、自民党への支持率の上昇から若者は「保守化」していると見られがちだが、若者から見れば、自民党は現状の「改革派」であり、彼らが決して現状維持を望んでいる訳ではないことが判ると記事は説明しています。
立憲民主党の枝野幸男代表は選挙期間中のインタビューや街頭演説で自身のスタンスを「保守」、なかでも「リベラル保守」であると語り、現在の共産党が主張する政策に「保守」「現状維持」を感じる向きも多いことでしょう。
逆に、自民党や維新の会、そして希望の党の小池代表など「保守」の立場にある政党ほど、政治、経済、社会の「改革」を語るのもまた不思議な光景です。
結局、自由や民主主義、市場経済、マルクスレーニン主義などの言葉に代表される既成のイデオロギーは過去のものとなり、若い世代はもっとリアルな「肌感覚」で、政党の主張を評価しているのかもしれません。
若い世代の政治への関心を高め、なおかつ若年層の支持を得るには、「保守」か「リベラル」かという看板それ自体は(恐らく)そんなには重要ではないでしょう。
しかしその一方で、リアリストの若者たちの共感を得るためには、(各政党が)いかに日本を変えていくかをより強く提示していく必要があるだろうと結ばれたこの記事の指摘を、私も大変興味深く受け止めたところです。