総務省が10月8日に発表した8月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は29万7487円と物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1.9%減少したということです。
同省によれば、勤労者世帯の実収入は実質で前年同月比2.0%増えた一方で、消費支出は1.2%減と4カ月連続で減少している由。南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が8月上旬に発令されたほか、台風の影響もあり自動車の購入や旅行への支出が減ったほか、節約志向が止まらず野菜や果物、肉類の購入点数などを減らす動きも続いているとされています。
個人消費が伸び悩んでいる背景に、(賃金の増加が物価の上昇に追いつかないことによって)実質賃金が依然マイナスで推移している現実があるのは言うまでもありません。少なくとも消費者は「可処分所得の増加は一時的なもの」と捉え、生活の先行きに根強い不安感を抱いているものと考えられます。
とはいえ、日本人の持つ金融資産が増加傾向にあるのもまた事実。日銀が9月に発表した2024年4〜6月期の資金循環統計(速報)によると、6月末時点の家計の金融資産(総額)は前年同期比4.6%増の2212兆円。6四半期連続で過去最高を更新中とのことです。
では、そうしたお金が「どこ?」にあるかと言えば、その多くが「高齢者のお財布の中」という指摘があるようです。
内閣府が今年8月に結果を公表した世代ごとの家計が有する金融資産の分析調査によると、80代前半の金融額は平均で1564万円、85歳以上では1550万円とのこと。世代別で金融資産が最も多いのは退職金を受け取る60代前半で、平均で1838万円となっているが、(それでも)80代との差は15%程度にとどまっているということです。
その意味するところは、高齢世代はお金を持っているのに「使わない」ということ。調査報告書は、高齢者の間で長寿に備えて金融資産の取り崩しを控える動きや、将来への不安から子どもに財産を残したいという意向が背景にあると見ています。
「資産運用立国」への脱皮を掲げる政府は、「資産所得倍増プラン」(令和4年11月策定)に基づきNISAや idecoなどを活用した国民の資産形成を促していますが、いくらお金を貯めてもそれを使わなくては経済が回らないのは自明です。
折しも、10月11日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」が、『消費あっての資産運用立国』と題する一文を掲げていたので、参考までのその主張を小欄で取り上げておきたいと思います。
内閣府がまとめた2024年度の経済財政報告によれば、老後に備えてためた金融資産が85歳以上でも、ピークの60代前半から平均1割強しか減っていないとのこと。人生100年時代を迎え「倹約は美徳」と考える人も多いが、この美徳は経済に負の影響をもたらす恐れがあると筆者はコラムに記しています。
コラムによれば、筆者の知人の母親が99歳で他界されたとのこと。(その生活ぶりから)遺産などは誰も期待していなかったが、結局、彼女が残した預貯金や株式などの総額は予想以上に多かったということです。
しかし、その知人も既に70歳。子育ても終わり消費支出も限られる。(遺産が手に入ったからと言って)資産から消費に回る金額は、実際そう多くないだろうと筆者は言います。
そして、彼の資産は30年後に70歳になる子供に相続されるのだろう。かくして金融資産は消費に向かうことなく、高齢者から高齢者へ引き継がれることになるというのが、筆者がコラムで指摘するところです。
こうした「倹約のループ」は何をもたらすのか。政府は「資産運用立国」を掲げて新NISA(少額投資非課税制度)などの政策を打ち出してきた。預貯金偏重の日本人にとって積極的な資産運用は重要だが、資産運用だけでは勿論お金は回らないと筆者は話しています。
(「オルカン」で知られるようになった)全世界株型の投資信託の人気ぶりからも分かるように、低成長の日本では投資家の多くが海外を見ている。資金が国内での消費に向かわなければ日本経済の成長に貢献しないし、現在の円安もその状況を反映したものだということです。
(それ以上の問題として)そもそも日本人は倹約で幸せになっているのだろうかと、筆者はここで問いかけています。最近「DIE WITH ZERO」という本が売れているが、消費して資産を遺さないことが幸福につながると説いている。資産運用は(あくまで)手段に過ぎず、資産を消費して幸福になることが目的のはずだということです。
投資理論でも、「生涯を通して消費を増やすこと」を資産運用の目的関数としている。方や、現在の日本人は消費を我慢して、個人の幸せを諦めているようにみえるというのが筆者の認識です。
資産運用立国を掲げるのであれば「消費立国」も目指さないとバランスを欠く。そのためには将来不安を減らすことが重要だが、資産を持つシニアから子育て世代への資産移管を促す大胆な優遇策が必要だろうと筆者は提案しています。また、金融機関は資産運用だけでなく、資産を賢く取り崩して消費し生涯の幸福度を高めるメニューも強化すべきだということです。
さて、確かにコラムも言うように、お金を「今必要としている人」に効率的に渡していくことは、「相続税の税収を挙げること」よりも経済に与える影響ははるかに大きいことでしょう。また、例えば「70歳で5000万円を預けてもらえれば、責任をもって(衣・食・住)死ぬまで(この)レベルの生活を保障します」といった商品を提案してもらえれば、手を挙げる高齢者もきっと多いのではないでしょうか。
いずれにしても、どんなお金持ちだってお金はあの世までは持っていけない。何より重要なのは、消費を通して人生を豊かにするというポジティブな消費者教育だと話すコラムの指摘を、私も頷きながら読んだところです。