
昨年の暮れ、国内で生まれた日本人の数は明治32年(1899年)に統計が取られ始めて以降の120年間で初めて90万人を割ることが厚生労働省の推計で分かったと、多くのメディアが報じました。
少子化の最大の要因に新生児の母親となる若い女性の減少があることは、(それぞれコメントを寄せている)多くの識者が指摘しているところです。
人口が比較的集中している団塊ジュニア世代がいよいよ40代後半になり、出産期を外れようとしています。一方、25~30歳の女性については毎年約20万人規模で減少しているという現実があり、現在の出生数の減少が長期化するのは避けられない状況と言えるでしょう。
さらに憂慮されているのは、政府の想定よりも出生数の落ち込みが激しいことです。
国立社会保障・人口問題研究所は、出生数が86万人台になるのは2023年と推計していたましが、それよりも4年も前倒しされる形で減少が進んでいます。
一方、こうした状況に伴う人口の減少も深刻で、死亡者数から出生数を差し引いた人口の自然減は51万2千人と、こちらも我が国が統計を開始して以来、初めて50万人の大台を超えています。
世論の中には、もともと(国土の面積に比べて)他の先進国よりも多い人口を抱える日本にとって、人口の多寡自体を問題にする必要はないと考える意見もあるようです。
しかし、人口の急激な減少はその過程で、経済の沈滞や社会保障費の増大など社会や経済に計り知れない影響を与える可能性が高いことも事実であり、政府はこれをひとつの「国難」として位置づけ、(子育て支援を中心に「一億総活躍社会」の実現など)効果的な対策を講じるための議論を続けています。
実際、現在の少子化日本の置かれた状況をどのように把握し、解決策をどこに導くべきなのか。
Business Journalに連載中の「半歩先を読む経済教室」に、法政大学教授の小黒一正氏が「少子化、報じられない本当の理由…生産年齢人口維持には移民3233万人必要?」と題する興味深い論考を寄せています。
現在の日本経済は、①「人口減少・少子高齢化」、②「低成長」、③「貧困化」という3つの問題を抱えているが、2050年を展望し、最も大きな問題はやはり人口減少の問題だろうと氏はこの論考の冒頭に記しています。
それでは、我々は(政策的に)何等かの方法を採ることで、人口減少という状況を脱出することができるのか。効果的な方法は(わずかに)二つ。「出生率の引き上げ」と「移民政策の導入」だと小黒氏は述べています。
まず、「出生率の引き上げ」について。氏は、厚生労働省「出生動向基本調査」からは夫婦の完結出生児数は、1972年の2.2から2010年の1.96、2015年の1.94まで概ね2で推移していることが読み取れると説明しています。
それにもかかわらず、合計特殊出生率が低下してきている主な理由は、生涯未婚率が上昇してきたためと考えられる。例えば、35~39歳の未婚率は1970年の男性4.7%・女性5.8%から2015年で男性35%・女性23.9%まで急上昇しており(「人口統計資料(2018年版)」)、出生率低下の最大の要因が未婚率の上昇(晩婚化を含む)にあることは統計上もはっきりしているということです。
従って、(もちろん結婚と出生の意思決定に関する同時性にも注意が必要でしょうが)出生率増には未婚率を引き下げる政策を中心にすべきだというのが、この論考における小黒氏の見解です。
2016年に1.44あった日本の合計特殊出生率は、2017年に1.43、2018年には1.42と徐々に低下しつつある。また、1975年以降、出生率は恒常的に2を下回るとともに、1989年の1.57ショックを含め長期間にわたり低下傾向にあり、第3次ベビー・ブームは起こらなかった。
一方、2010年の平均理想子供数は2.4人であり、未婚率が現状のままでも(子育て支援などで)夫婦の出生数を理想子供数に近づけられれば、出生率を1.6程度まで回復できる可能性は残る。しかし、(こうした)これまでの状況を踏まえれば、出生率が2を下回り続ける限り人口減少を脱することは難しいのが現実だと氏は指摘しています。
次に、「移民政策」についてです。
小黒氏によれば、国連が先進各国を対象として人口水準の維持や高齢化進行の回避に必要な移民流入数(2000年時点)の推計をした「補充移民」に関する試算というものがあるそうです。
この推計では「5つのシナリオ」を分析しており、「シナリオⅠ」は、1998年改訂の国連人口予測における中位推計をベースラインとした場合、「シナリオⅡ」は1995年以降に移民の流入がない場合、「シナリオⅢ」は1995年以降における総人口ピークの水準を維持する場合の推計を行っているほか、「シナリオⅣ」はシナリオⅢと同様にピーク時の15~64歳人口を維持する、「シナリオⅤ」は同様にピーク時の15~64歳人口の65歳以上人口に対する割合を保つ…ことなどを前提に推計を行っているということです。
試算に当たっては、各々のシナリオに沿って必要な移民流入数を推計し、2050年までの移民総数や平均年間移民数を比較している。総人口ピークの水準を維持するシナリオⅢで日本が必要とする移民数は(2050年までの累計で)1714万人(年間平均34万人)となり、生産年齢人口(15~64歳人口)を維持するシナリオⅣでは累計3233万人(年間平均65万人)に及んでいると小黒氏は解説しています。
さらに、高齢化進行の回避を目指すシナリオⅤでは、2050年までの累計で5億2354万人、期中の年間平均でも1047万人の移民の流入が必要とされ、移民政策のみによる日本の少子高齢化への歯止めは(ある意味)非現実的だというのが氏の考えるところです。
出生数90万人割れはまだ序章にすぎず、人口減少が本格化するのはこれからが本番だと小黒氏はこの論考に綴っています。
政府は、少子高齢社会における社会保障のあり方を検討する新たな改革の司令塔として「全世代型社会保障検討会議」を設置し、全世代が安心できる制度改革の方向性の議論を行い、2020年夏までに最終報告を取りまとめる方針としています。
しかし、これまで指摘されてきたような現実を考えれば、「これで(本当に)100年安心」と言えるような素晴らしい解決策を見出すことが、そう簡単ではないのは私のような門外漢でもわかります。
議論に当たっては人口減少対策の困難性を十分に認識したうえで、「少子化対策に資源を投入しつつ、年金・医療・介護をはじめ、人口減少に適合した制度(医療版マクロ経済スライドの導入を含む)に抜本的に改める政治的な努力を期待したい」とこの論考を結ぶ小黒氏の指摘を、私も厳しく受け止めたところです。
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