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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯179 「第3号被保険者制度」に関する議論(その2)

2014年06月11日 | 社会・経済

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 引き続き、年間収入が130万円未満のサラリーマン世帯のいわゆる専業主婦が年金保険料を免除されている「第3号被保険者制度」についての話題です。

 先日紹介した6月3日の読売新聞では、女性が活躍しやすい環境づくりという観点から最近様々な議論を呼んでいる「第3号被保険者制度」についての特集(「論点スペシャル」)を組み、制度の現状とあわせて年金制度見直しの方向性に関する識者の意見を聞いています。

 年金シニアプラン総合研究機構理事長で上智大学名誉教授の堀勝洋(ほり・かつひろ)氏は、この紙面に掲載された寄稿において、以下の論点を挙げ、現状では当面第3号被保険者制度を維持すべきだとの見解を示しています。

 堀氏はこの寄稿において、女性が家事や育児、介護などを一身に担う社会慣行が残っている限り、第3号被保険者制度には今も存在意義があると主張しています。育児がひと段落した後で女性が再び働こうとしても、現実的にそこにあるのはパートタイマーなどの非正規就労がほとんどであり、正社員への道は厳しいと堀氏は言います。

 さらに、この第3号被保険者制度は女性が(一人前の仕事に就いて)働かない原因として批判を浴びているが、実際は夫のいる女性パートタイマーのうち就業調整をしている妻は約2割にとどまり、その理由として「130万円の壁」を挙げる人はさらにその半分(←つまり、パート主婦全体の1割)にすぎない(厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」)としています。

 また、一般に言われる「不平等」という指摘に関しては、世帯単位で見れば負担と給付の公平性は保たれているというのが堀氏の認識です。例えば夫の賃金が月50万円の専業主婦世帯でも、夫と妻の賃金を合わせて月50万円の共働き世帯でも、年金保険料は賃金の17.2%(概ね8万6千円)ということでその負担額は同じです。一方、老後に支払われる厚生年金は納めた保険料に比例する仕組みであるため、保険料額が同じならば両世帯とも夫婦それぞれが同じ金額を受給できることになるというものです。

 自営業者の妻などは、例え専業主婦であっても現行制度上は国民年金保険料を納めなければならないこととの不均衡についても、識者などによりしばしば「不公平」という観点から言及されています。このことについて堀氏は、第3号被保険者に支給する「基礎年金」は厚生年金や共済年金の加入者により負担されているものであり、国民年金に加入する自営業者などは全く負担していない。つまり、国民年金加入者はこの問題において比較の対象とはならないことを改めて指摘しています。

 そもそも、自営業者などが加入する国民年金の保険料は本人が受ける利益に応じて負担する「応益負担」なのに対し、サラリーマンなどが加入する厚生年金は負担能力に応じた「応能負担」で年金制度の(思想や)仕組みが全く異なるというのが堀氏の認識です。(←厚生年金の基本にあるのは、負担能力のある高所得者が低所得者の老後の生活の一部を支えるという「応能負担」考え方だということです。)

 最近では、第3号被保険者に該当する被扶養者(配偶者)からも国民年金保険料を徴収すべきだとする議論もあります。堀氏はこうした意見に対し、3号被保険者の過半数は現実に就労しておらず、また就労している者でも賃金は(130万円以下と)低いことを指摘した上で、こうした低所得者に保険料を課すことは個別の様々な問題を生じさせる原因となるうえ、賃金が同程度の共働き世帯との公平性が崩れることにつながるとしています。また併せて、当然ながら、保険料の未納が大きく増えることになる(そして、その結果として、無年金者が増加する)可能性が高いとの懸念を示しています。

 堀氏は、第3号被保険者の夫の厚生年金保険料を割り増しする案についてもその実現性に疑問を投げかけています。仮に被保険者からの保険料の徴収が可能になったとしても、果して今までのように事業主にその半分を負担させることが可能なのかという指摘です。第3号被保険者を扶養する夫は制度の作り方によっては労働市場で不利になり、リストラされやすくなるかもしれないと堀氏は言います。

 さて、こうした第3号被保険者を巡る諸環境を踏まえ、現状では第3号制度は維持したうえで、パート労働者への厚生年金の適用拡大を図るべきだというのが堀氏の考えです。現在、パートなど非正規雇用者のうち、週30時間未満の労働者は労使で保険料を折半する厚生年金には入れず、国民年金に加入し自分で保険料を全額払わなければなりません。

 確かに、こうしたパート労働者への厚生年金適用拡大は、将来、基礎年金に上乗せして厚生年金を受給できるようにすることで、非正規雇用者とりわけ第3号被保険者以外の人たちの処遇を改善することとなり、併せて、第3号被保険者を減らすこともつながると考えられます。

 将来的な方向としては、女性に不利な雇用環境を改善することにより第3号被保険者制度を廃止していくことが望ましい。しかし現状でこの制度を単純に廃止していくことは、国民の間に新たな不公平感をもたらす原因となるばかりでなく、日本の社会制度全般への混乱や不安をもたらしかねないというのが、この問題に対する堀氏の結論です。

 安倍内閣が進めるアベノミクスの成長戦略において、現在、女性活用政策の焦点となっているとも言える第3号被保険者制度の見直しですが、具体的な制度設計に当たっては、雇用・労働政策と連動させた複合的な視点と、国民の心理を踏まえた慎重な姿勢が必要だとする専門家の意見を、今回大変興味深く読んだところです。

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