第五高等中学校の開校式は明治２３年１０月１０日行われた。工事は文部省の直轄工事として文部省の技官山口半六、久留正道の設計監督の下に行われているがその開校式に於いて久留正道が工事の報告を行っているその報告書の文書を掲載する。文部省直轄第五高等中学校新築茲ニ成リ本日竣工ノ式ヲ挙ゲラル依テ聊カ該工事ノ顛末ヲ掲ケ左ニ一言ス抑モ文部省ニ於テ当校敷地ヲ熊本県飽田郡黒髪村ニ選定シ建築ニ着手シタルハ実ニ明治廿一年一月ニシテ当初文部省会計局長久保田譲氏大体ノ方針ヲ定メ指示セラレタルニ基キ小官文部三等技師山口半六ト該建築ノ設計ヲ為シ爾来文部書記官蒲原忠蔵雇大場景貞等ノ諸氏ト共ニ其工事ヲ薫督シ歳月ノ久シキニ彌ルモ幸ニ異常ノ障碍ナク事業ノ進歩ハ予期ニ違ハス茲ニ竣工ヲ告クルニ至リシハ啻ニ当校ノ慶幸ナルノミナラス小官等モ亦欣喜ニ堪ヘサル所ナリ
当校建築ハ合面積弐千七拾五坪余ニシテ其費額金拾萬円ヲ要シタリ而シテ其費額ハ全ク熊本県ヨリ創立費トシテ文部省ニ差出シタルモノニ係ル而シテ此金額支出ノ区分ト建築工事ノ順序トヲ略言セハ概ネ左ノ如シ
一 敷地ハ面積五萬千三百六坪壱合六勺ニシテ此ノ地購入代金壱萬三千百五拾七円拾七戦六厘ナリ
一 本校は煉化石造二階建
二百八拾四坪余ニシテ此建築費金弐萬五百四円弐拾弐銭弐厘明治廿一年二月起工同廿二年八月竣工セリ
一 化学実験場ハ建平屋煉化石造百弐拾九坪余ニシテ此建築費金七千百弐拾三円五拾六銭壱治廿一年五月起工同廿二年十二月竣工セリ
一 物理学実験場ハ煉化石造リ平屋建百弐拾七坪余ニシテ此建築費金六千六百七拾七円七拾弐銭七厘明治弐拾一年八月起工同廿二年十一月竣工セリ
一 寄宿舎ハ厨房木造二階建浴室食堂ハ平屋建ニシテ合計八百弐拾九坪余建築費金弐萬八千七百七拾円五拾八銭八厘明治廿一年十月起工同廿三年一月竣工セリ
一 事務所ハ木造平屋建百四拾七坪余ニシテ此建築費三千八百円五拾八銭壱厘明治廿二年起工同年九月竣工セリ
一 雨天体操場ハ木造平屋建百五拾六坪ニシテ此建築費金千五百五円九銭弐厘
一 教師館二棟ハ木造平屋造百九拾坪ニシテ此建築費金五千三百弐拾八円四拾七銭弐厘
以上ハ当校建築ノ主要ニシテ其他生徒控所銃器庫物置ハ建坪弐百拾坪ニシテ之ニ要スル費用ハ金弐千四百六拾円九拾七銭弐厘ナリ又官舎壱棟建築竝ニ敷地ノ地均周囲ノ境界竝ニ門建築等及工事中雑件ニ係ル費用ハ金壱萬千四百六拾三円六拾壱銭四厘ヲ要シ而シテ官舎ハ猶未タ着手ニ至ラスト雖モ其他ハ巳ニ悉皆竣工セリ
尚ホ終リニ臨テ一言スヘキモノアリ当校創立ノ費用拾萬円ハ今ヤ敷地ト化シ建物ト変シ当校ノ資金ニ属スルヲ以従テ其保管ノ責全ク当校長ニ帰セントス希クハ将来一層注意アラン事ヲ
明治廿三年十月十日
文部四等技師 正七位 久留正道
