オオカミになりたい(遺言)

ずっとそばにいるよ

古今名婦伝 「紀有常娘」

2018-06-11 | 豊国錦絵

紀有常娘(きのありつねのむすめ)は平安時代初期の女性

生没年未詳

文久3年(1863)出版  歌川豊国(国貞)絵

 

紀有常娘

昔、和州葛城郡(かつらぎのこおり)にいた人が

久しく連れ添った女を飽き心になり

河内國高安に色めきたる女がいて 立田の山越えして

はるばる遠き道も厭わず しばしば通った

本妻はこれを妬む色もみせないので もしや吾留守に

異男(ことおのこ)を引き入れてはいないかと疑い

河内に行くふりをして庭に隠れ伺えば 此の妻あらぬ方を眺めて

「風吹けば 沖津白波立田山 よわにや君が獨(ひとり)こゆらん」 と

讀み出きて内に入りて仰向けになり銅器(あかのうつわ)に

水を盛(いれ)て胸にすえかかえると其の水は湯となった

此の妻口にも慎み色さえも出ださないが 胸の焦ることかくの如し

男は見るに浅ましく 此の妻のかく慎み深きを感じ

植込みよりかけ出で妻を慰め 其の後河内へは行くことはなかった

此の男を在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)

女を紀有常の娘と云う説あれど 証拠(よりどころ)あるには非ず

婦(おんな)は慎みを第一とすべきなり

                (柳亭種彦記)

祐昌が句に             

『色かへぬ 松にかたまる 日和哉』