11月6日から地球温暖化に関する国際会議COP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)がエジプトで開催されている。2022年1月から米国の大学で気候変動の専門研究員を行った筆者が、世界最大のCO2排出国であるアメリカの現場と、専門家のインタビューを交えて複数回にわたって「温暖化を受け入れる時代」の到来について考える。

■1200年ぶりの「メガ・ドラウト(巨大干ばつ)」と蜃気楼に消えるラスベガス

 この夏、アメリカ西部で果てしなく広がる人工湖が干上がった光景を目にした。

「こんなに干上がったのは1200年ぶりといわれています。気候変動を身近に感じますけれど、何ができるのかと正直わかりません。」

日本人ガイドのHさんが案内してくれたのはラスベガス東部に位置するアメリカ最大の人工湖ミード湖だ。

 ロッキー山脈やグランドキャニオン流域など一体からコロラド川の水が流れこみ、フーバーダムによってせき止められてできた湖だ。全体で180kmの長さがあり、琵琶湖の2倍の広さがある。想像を絶する巨大な湖だが、20年前と水位を比べるとその変化は一目瞭然だ。

一番左の2000年と右の2022年では、湖の面積も深さも激減していることがわかる(提供:NASA Earth Observatory)
一番左の2000年と右の2022年では、湖の面積も深さも激減していることがわかる(提供:NASA Earth Observatory)

 2000年の写真と、2021年、2022年を比べると、湖の面積が激減してるのがわかる。降雪量などの変化もあり、ミード湖の貯水量は満水時の35%以下だ。流域の他のダム湖も30パーセント前後の貯水量に低下している。

 ミード湖は、カリフォルニア州など7つの州で4000万の家庭に水と電気を供給している。広大な農地にも供給されており問題は深刻だ。1200年ぶりと言われるこの干ばつは「メガ・ドラウト(巨大な干ばつ)」とよばれている。影響は2030年ごろまで続くと予想されており、水道当局では、水位は 2024年にさらに20メートル下がると予測している。

 ミード湖から50キロにあるラスベガス(ネバダ州)。砂漠に突如現れる華やかな街のカジノやゴージャスなホテルを支えているのは、ダムからの大量の電力や水だ。現在は、ミード湖以外からの供給も行っているが、流域全体にメガドラウトの影響が続いたなら、この街はいつか蜃気楼のように消えてしまうかもしれない。

■連続する山火事 大阪市と同じ面積が消失

 「メガ・ドラウト」は今年だけの問題ではなく、2020年ごろから続く長期的な気候のトレンドの一環だ。2020年には、アメリカの三分の一の州が干ばつ状況にあり5000万人以上が生活に影響を受けた。ネバダ州、ニューメキシコ州の93%以上が干ばつ、ユタ州、コロラド州の61%が深刻な干ばつ状態となった。オレゴン州、アリゾナ州、ワイオミング州も75%が干ばつに見舞われた。深刻な干ばつは、作物の不良、井戸水減少、そして山火事の深刻な増加をもたらした。

 「メガ・ドラウト(巨大な干ばつ)」を目にした2022年夏、アメリカ西部では深刻な山火事が次々と発生した。高温と異常な乾燥で火の勢いが収まらず、消火は進まなかった。7月、カリフォルニア州のニューサム知事は非常事態を宣言し、住民約1万人が避難。最も大きかったマッキニー火災の燃焼は約224平方km。大阪市と同じ面積が消失したことになる。国立気象局は火災と熱波の警報を出し、環境保護庁も6段階中最も悪い「屋外の活動危険レベル」を発表した。住宅消失や煙による健康被害が続いている。

■アメリカ西部は乾燥地帯に、東部は多雨に

 「今後、アメリカ西部は、より乾燥します。西部の山火事を考える場合、問題は国家の半分が西部であることです。米国民の生活に与える影響が大きいのです。」

 名門コロンビア大学気候スクール学部のリサ・デール教授(サステナブルデヴェロップメント専門)は静かに語りはじめた。

 「私は中西部のコロラド州出身ですが、何年も前から頻繁に何千もの山火事が発生して深刻になっています。兄の一家は山火事の増加による恐怖と、煙害による健康問題で、最近、移住を決めました。」

 同じくコロンビア大学の気候スクール学部のバーベル・ホーニッシュ教授(地球物理学専門)は、

 「西部の乾燥と逆に、東部は今後、多雨になります。洪水やハリケーンの影響が甚大になるでしょう。山火事や干ばつに限界を感じた人々が、国内東部へ移住というケースも増加するでしょう。太古の昔から気候変動は繰り返されてきました。例えば5600万年前にも大規模な地球温暖化が起き、多くの絶滅がおきました。しかし、それは数千年かけて生じたもので、現在では人間活動によって非常に短期間で大規模な変化がおきつつあります。」

■「温暖化を受け入れる時代」へ 

 米国の名門コロンビア大学は、気候変動を最重要課題に位置づけ、2020年に気候スクール学部を立ち上げた。長年、高レベルの研究をしてきた自然科学系学部と、政治や行政などの社会科学学部が連携する、学際的な専門家集団だ。背景にあるのは、気候変動が限界を超えつつある現実だ。

 前述のリサ・デール教授は、現在エジプトで開催中のCOP27にも代表団の一員として参加している。

 「COPの会議では、メディアは政府間の交渉そのものに注目しますが、交渉のほとんどは各国に排出量の削減を促す“Mitigation(ミティゲーション = 緩和対策)”が中心です。すでに世界のあらゆる地域は、気候変動に直面しています。今後は、“Mitigation(ミティゲーション = 緩和対策)”ではなく、“Adaptation(アダプテーション = 受け入れる対策)”が重要になります。あらゆる活動に気候変動への対策を組み込むこと、つまり「温暖化を受け入れる」が全ての基本となるのです。」

    筆者は「温暖化を受け入れる」をキーワードに、気候変動に揺れる米国を、気候変動の専門家の知見を交えながら複数回リポートする。