もりんの日々是迷い人

もりん。50代主婦。
×あり。子あり。
良い職場と幸せを探し求める日々。

止まってしまった時間と心臓。

2024-05-12 09:00:00 | 家族
あの日の前日。
私は、仕事がお休みのご主人と、遅い花見に出掛けていた。

風が強くて。
桜吹雪が舞う中。
『あの人』のことを考えていた。

桜が儚く散っていく。
あの人は。
来年も桜を見ることが出来るのだろうか?と。

その日の夜。
娘から電話が来た。

あの人が今日、病院へ行く日だとは聞いていた。
娘は、一緒に病院に付いて行ったのだそう。

「入院した。
先生に、最後の入院になるって言われた」
娘は涙声だった。

あの人が病気になってから、何度も「大丈夫?」と聞いても、いつもひょうひょうと「大丈夫。大丈夫」と言っていた娘が涙声で電話して来た。
それがとてつもなくショックで。
本当にもうダメなのかもしれない。
そう思った。

あの人の命は
あと1週間?1ヶ月?と。

あの人が亡くなったのは。
その次の日だった。


午後3時過ぎに家に帰ると、待っていたかのようにメールの音がした。
娘からのメール。
「もうだめなかもしれない」

急いで病院に向かう。 
ただひたすら、生きていてと祈って。

病院は。家族じゃないと病棟に入れない。
私は。気持ちは家族でも、あの人とは戸籍上は他人。
「病院から危ないと連絡もらった身内です!」と嘘をついてB棟に向かった。
B棟では。娘が私のことを話しておいてくれたので、嘘をつく必要はなかった。

病室の前で、看護士さんに言われた。
「もう心臓は止まって、瞳孔も開いている状態です」と。
つまり……もう、死んでいる。と。

病室に入ると。
人間ってこんなに黄色くなるんだ。と思えるくらい、黄疸がで出た顔で、苦しそうに喘いでいるあの人がいた。
喘いでいる?
機械で呼吸させられているだけの『遺体』。
頭では理解していても、どうしても死んでいるとは思えなかった。 

でも。確かに死んでる。
そう感じたのは、あの人が『イビキ』をしていなかったから。

元々は太っていて。
寝るといつも地響きのようなイビキをかいていたあの人が、
苦しそうに息だけしている。
それはもう、あの人であってあの人じゃない。

手はまだ温かくて。
起こしたら起きるんじゃないかって。
「起きなよ」って声をかけたけど無反応で。

お医者さんが来て。
死亡確認して。
機械を外して静かになったあの人は…
やっぱりもう、生きている人ではなかった。
ただ、苦しそうな息からは解放されて。穏やかでほっとした。


看護士さんに
「これから綺麗にしますので待っていて下さい」と、別室に案内されて。
息子と娘と3人で待った。

看護士さんに
「着せる服はありますか?」
聞かれた。
前日、あの人が怪我をして、服に血がついたから、娘が持ち帰っていたらしい。
硬直が始まる前に着せたいので、早めに用意して欲しいと。
下のコンビニで浴衣が売っていると聞いて、浴衣を買いに行った。

本当は。
「死んだら着せて欲しい」と言って、買ってあった服があったらしいけど。
取りに行く余裕もなくて、仕方なく浴衣にした。

2時間ほどして。呼ばれて。
綺麗にしてもらって、浴衣姿のあの人と再会した。
浴衣……似合ってた。

運ばれる前に。
あの人の頭を撫でた。
何も考えてはいなかったけど…考えられなかったけど…
なんとなく愛おしかった。 






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