その①、その②の続き
Dore様
再び返信を有難うございました。
19世紀、ナショナリズムは欧州全体を覆ってましたね。貴方の国はその最先端をいっていた。
西欧から生まれた民族型ナショナリズムは、アジアにも飛び火し、また領土獲得のため西欧人が煽ったりもした。もちろん日本にもかなり影響を与え、鹿鳴館が典型の極度な西欧化への反動も生まれ、「日本主義」も出てくる。
ただ、雑誌特有の大言壮語と煽動も入り混じる「日本人」(創刊88年、後に「日本及び日本人」に改題)のような類は、安易で早急なナショナリズム論の根拠とするのに最適な文献でもあるけど。同時代のインドで独立など大それたことは夢にも思わず、古典懐古趣味の現地人さえ、ナショナリスト視されたのを思い出しました。
しかし、95年の遼東半島返還(三国干渉)で恨みの対象となったのは西洋諸国ではなく、ロシア。日本の一般国民さえロシアがこの(三国干渉)の主役だったことを知っており、明治政府の音頭取りで「臥薪嘗胆」が流行り言葉となった。距離的に近いロシアは脅威であれ、遠い西欧にさほど恨みは憶えず、02年以前にも都市の金持ちや風流人はハイカラ嗜好で洋食や洋装を取り入れていた。
宗教戒律の厳しいインドや中東と異なり、日本で西欧の技術や風俗を受け入れるのに抵抗はあまりなかった。ハイカラ復活をどうしても日英同盟と結び付けたい貴方の心情が分からなくもないですが、ロシアと共に三国干渉を行ったドイツやフランスの文化はそれ以前にも排斥されなかったのをお忘れなく。
ナショナリズムは過去の遺物ではなく、現代も世界で衰えません。「困らせるべき」政府や個人、集団への威嚇のためその言葉を使う者こそ、実はナショナリストの権化(またはその協力者)だったりする場合も。
私はナショナリズムを頭ごなしに否定するのではなく、むしろコントロールして行く方がより建設的だと思いますが。
以上3度目の返信でドーア氏とのやり取りは終了した。世間一般では私は中年となるが、氏は1925年生まれであり、彼からすれば年端のいかぬ若造同然だろ う。メールを交わしてつくづく思い知らさせたのは、日本含め他国のナショナリズムを糾弾し続ける英国人とは、絶対自国のナショナリズムに言及しないという こと。コラムでの辛辣な饒舌はどこへやら、途端にダンマリ。これは何も英国人に限った現象ではないが。
英国人のドーア氏が日英関係に注目するのは無理もない。もし彼がフランス人なら、文明開化でのフランス文化の影響を中心に調べ、その箇所を特筆しただろう。だが、それまでのハイカラ趣味を無視し、その復活を英国に結びつける印象記述はフィクションの分野に入る。ウスターソースがかつて英国の食文化として世界を席巻したのは、現代のコカコーラやマクドナルドのようなアメリカ食品に当たる。
「氏はどれだけ日本を理解しているのでしょうか」とのコメントを頂いたことがあるが、彼の日本理解度は重要なことではない。大事なのは、氏が事情に疎い日本人、他国人問わず己がこの上ない日本通の専門家と周囲に理解させる技能に長けているのが、私に分かった。
以前、ドーア氏に関する私の記事を見て、その感想を書かれたブロガーさんがいた。海外滞在体験豊富な管理人は私よりも鋭く英国人の欺瞞性を見抜いている。反って私の方が教えられたので、内容の一部を抜粋したい。
「イギリス人が発する「自分の国を困らせるべき」などという発言ほど偽善の極致に あるものはないのではないかと思う。自国アメリカを攻撃するリベラルアメリカ人も多いが彼らはしばしばボロを出す…しかしイギリス人はもっとずるく汚い (と思う)…本当に自国(政府)が悪いと思っているのなら(もっとも、彼らはイギリス「政府」が悪いだけで「イギリスという国」は悪くない、という論理 を、ハッキリ打ち出さないでいながらも常に背景に持つ、という戦略だろうが)…」
おそらく河北でドーア氏のコラムを見た方は、氏の日本への知識に驚嘆した人が大半だろう。ロンドン大学政治経済学院名誉客員の肩書きもそれを保証する。その実態を見抜いた者など、果たして何人いたものか。私のような一介のブロガーなど、映画「300」で百万人の敵兵と戦った主人公より遥かに分が悪い。先日読んだ小説「聖都決戦」にこんな文句があった。「真理は現実の前にしばしば屈する」。
ドーア氏のメールアドレス rdore@alinet.it
◆関連記事:「知日派学者、その正体は…」「ハイカラ趣味」
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Dore様
再び返信を有難うございました。
19世紀、ナショナリズムは欧州全体を覆ってましたね。貴方の国はその最先端をいっていた。
西欧から生まれた民族型ナショナリズムは、アジアにも飛び火し、また領土獲得のため西欧人が煽ったりもした。もちろん日本にもかなり影響を与え、鹿鳴館が典型の極度な西欧化への反動も生まれ、「日本主義」も出てくる。
ただ、雑誌特有の大言壮語と煽動も入り混じる「日本人」(創刊88年、後に「日本及び日本人」に改題)のような類は、安易で早急なナショナリズム論の根拠とするのに最適な文献でもあるけど。同時代のインドで独立など大それたことは夢にも思わず、古典懐古趣味の現地人さえ、ナショナリスト視されたのを思い出しました。
しかし、95年の遼東半島返還(三国干渉)で恨みの対象となったのは西洋諸国ではなく、ロシア。日本の一般国民さえロシアがこの(三国干渉)の主役だったことを知っており、明治政府の音頭取りで「臥薪嘗胆」が流行り言葉となった。距離的に近いロシアは脅威であれ、遠い西欧にさほど恨みは憶えず、02年以前にも都市の金持ちや風流人はハイカラ嗜好で洋食や洋装を取り入れていた。
宗教戒律の厳しいインドや中東と異なり、日本で西欧の技術や風俗を受け入れるのに抵抗はあまりなかった。ハイカラ復活をどうしても日英同盟と結び付けたい貴方の心情が分からなくもないですが、ロシアと共に三国干渉を行ったドイツやフランスの文化はそれ以前にも排斥されなかったのをお忘れなく。
ナショナリズムは過去の遺物ではなく、現代も世界で衰えません。「困らせるべき」政府や個人、集団への威嚇のためその言葉を使う者こそ、実はナショナリストの権化(またはその協力者)だったりする場合も。
私はナショナリズムを頭ごなしに否定するのではなく、むしろコントロールして行く方がより建設的だと思いますが。
以上3度目の返信でドーア氏とのやり取りは終了した。世間一般では私は中年となるが、氏は1925年生まれであり、彼からすれば年端のいかぬ若造同然だろ う。メールを交わしてつくづく思い知らさせたのは、日本含め他国のナショナリズムを糾弾し続ける英国人とは、絶対自国のナショナリズムに言及しないという こと。コラムでの辛辣な饒舌はどこへやら、途端にダンマリ。これは何も英国人に限った現象ではないが。
英国人のドーア氏が日英関係に注目するのは無理もない。もし彼がフランス人なら、文明開化でのフランス文化の影響を中心に調べ、その箇所を特筆しただろう。だが、それまでのハイカラ趣味を無視し、その復活を英国に結びつける印象記述はフィクションの分野に入る。ウスターソースがかつて英国の食文化として世界を席巻したのは、現代のコカコーラやマクドナルドのようなアメリカ食品に当たる。
「氏はどれだけ日本を理解しているのでしょうか」とのコメントを頂いたことがあるが、彼の日本理解度は重要なことではない。大事なのは、氏が事情に疎い日本人、他国人問わず己がこの上ない日本通の専門家と周囲に理解させる技能に長けているのが、私に分かった。
以前、ドーア氏に関する私の記事を見て、その感想を書かれたブロガーさんがいた。海外滞在体験豊富な管理人は私よりも鋭く英国人の欺瞞性を見抜いている。反って私の方が教えられたので、内容の一部を抜粋したい。
「イギリス人が発する「自分の国を困らせるべき」などという発言ほど偽善の極致に あるものはないのではないかと思う。自国アメリカを攻撃するリベラルアメリカ人も多いが彼らはしばしばボロを出す…しかしイギリス人はもっとずるく汚い (と思う)…本当に自国(政府)が悪いと思っているのなら(もっとも、彼らはイギリス「政府」が悪いだけで「イギリスという国」は悪くない、という論理 を、ハッキリ打ち出さないでいながらも常に背景に持つ、という戦略だろうが)…」
おそらく河北でドーア氏のコラムを見た方は、氏の日本への知識に驚嘆した人が大半だろう。ロンドン大学政治経済学院名誉客員の肩書きもそれを保証する。その実態を見抜いた者など、果たして何人いたものか。私のような一介のブロガーなど、映画「300」で百万人の敵兵と戦った主人公より遥かに分が悪い。先日読んだ小説「聖都決戦」にこんな文句があった。「真理は現実の前にしばしば屈する」。
ドーア氏のメールアドレス rdore@alinet.it
◆関連記事:「知日派学者、その正体は…」「ハイカラ趣味」
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