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心に残る女人たち その④

2015-01-22 22:05:25 | 歴史諸随想

その①その②その③の続き
 近代中東史で特に印象的だったのは、19世紀イランの女流詩人ファーテメ・バラガーニー。彼女のことは2008-06-02付の記事でも書いたが、バーブ教神学者でもあるファーテメは、もはやイスラム法に従う必要はないとして、公衆の前で頭部を蔽ったへジャブを脱ぎ捨てた女性だった。1848年当時としては衝撃的な行為であり、イラン初の女権運動家と評する人も居る。死の前、「好きな時に殺すがよい。されど、女性の解放は抹殺できない」と言ったことが伝わっている。

 19世紀のイランでバーブ教徒は凄まじい迫害を受けており、ファーテメも他の信者と共に殺害された。彼女は酔った政府の官吏によりヴェールで絞殺されたが、そのヴェールはファーテメが将来の殉教のため予め用意していたものだったとも云われる。遺体は庭の井戸に投げ込まれたらしい。処刑時に出生記録は抹消されたため、生年月日はよくわかっていないが、30代の初頭から半ばと考えられている。
 痛ましい死だが、現代のイスラム原理主義者ならば、もっと惨たらしい処刑を行うだろう。男女平等のお題目を利権の手段とし、権国家の走狗同然の現代日本のフェミニスト連中には敵意と侮蔑しか覚えないが、インド・中東の女性活動家の勇気には心から敬意を払う。この地域での原理主義の男たちは、逆らうならは少女でも躊躇わず攻撃、処刑するのだから。

 中東に関わった英国女性ガートルード・ベルも忘れ難い。ベルについては2008年7月の記事でも書いたが、女性中東学者の先駆け的人物でもある。現代は女の教授は珍しくないが、ベルは1868年生まれ、どれほど優秀でも19世紀には女性は教授にはなれなかったのだ。それどころか第一次世界大戦後の1921年、ベルがイラク民生白書を執筆した際、「女に白書が書けるとは驚きだ」というのがメディアの反応だった。日本も含め第三世界の女の社会的地位の低さを説教する英国も、20世紀前半はこの体たらくだったのだ。
 男優位社会に苦しんだはずのベルだが、女性参政権に反対していたのは面白い。同僚外交官の夫人たちにも軽蔑を隠そうともしなかったらしく、同性を見る目はかなり厳しかった。ベルは信仰面では世俗主義だったが、フェミニズムに反対した女はカトリック、プロテスタント双方にいる。

 日本史で私が気に入っているのは持統天皇。夫の元カノ額田王の方が一般に知られているが、日本史上最もスケールの大きな女帝だろう。「尼将軍」や「政子」の名称で誤解されがちだが、北条政子は政治力では持統天皇に到底及ばない。静御前を庇い、彼女の産んだ男児への助命嘆願をしているから、冷酷な女ではなかったということ。北条政子が妾の亀の前の家を打ちこわしたのだけは、いかにも土豪の娘然として痛快だったが、持統天皇なら敵を謀略で平然と始末していたはず。その持統さえ、エカチェリーナ2世マリア・テレジア等の外国の女帝には及ばない。

 以上、歴史で心に残る女人たちの名を挙げてみたが、彼女らが君主や聖女が殆どだったのは私自身も驚いた。ただ、歴史で名を遺すのは男でも君主やその家臣、聖職者、文人や芸術家、発明家が大半なのだ。男の場合は英雄も多く、その妻若しくは愛人も同時に名前が後世に伝わる。たとえ悪名でも後世に名を遺す者は、至って少ない。

 歴女にはフェミニストもおり、フェミニスト宣言なしでも文面からフェミ系らしき女性もいる。それは個人の信条や思想の自由だが、彼女らの中にはローマ皇帝の妻のファンを公言しているブロガーもいた。件のブロガーは北条政子にも感情露わな擁護をしていたし、正室タイプによほど憧れが強いらしい。男社会や世間一般の価値観に従う同性を叱責する女性が良妻賢母のファンとは苦笑した。私のようなフェミ嫌いが男社会の中で生き抜いた女性君主に惹かれ、対照的にフェミ系歴女は権力者の正妻が好きというのは皮肉というか…

「女は弱い男を支配するよりも、強い男に支配されたがる」と言ったのはヒトラーらしいが、確かにこれは女の本性を突いた名言でもある。現にヒトラーは階級の上下問わず、多くの女達から絶大な支持を得ていた。フェミ系らしき人物が正妻に憧れるのも、自立よりも優れた男の伴侶になりたいという女の本能があるはず。権力者の妻の座に憧れるのは女としては健全だが、彼氏や伴侶を得られない欲求不満解消がフェミニズムの原因?…と冷ややかに見ている者もいるだろう。

◆関連記事:「ルネサンスの女たち
 「ガートルード・ベル-イラク建国に携わった女

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2 コメント

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私の場合 (巨大虎猫)
2015-01-29 20:45:21
イスラム史を勉強している者にとって、アイシャとラビアのことは必須でしょう。私はラビアのことは、アッタールの『イスラム神秘主義者列伝』で知りました。この本は、少なくともトルコでは人気のある本で、私がこの本を読んでいるのを見たトルコ人のご婦人が喜んでいました。
最近の心に残る女性と言ったら、仙台の聖ウルスラ学院英智高等学校出身の大内万里亜容疑者でしょう。彼女は、私が終身会員となっている学士会の会員となったかもしれない人物なので、私はこの事件に強い関心があります。報道内容から私は、被害者の老女はエホバの証人であったと考えています。事件を一種の宗教戦争と考えているのは私だけではないでしょう。
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Re:私の場合 (mugi)
2015-01-30 21:10:17
>巨大虎猫さん、

 イスラム史において、ハディージャはアイシャに比べて影が薄いですよね。最初のムスリマというにも拘らず、アイシャが重視されます。開祖が逆玉婚で養われていたことが、後世の男性神学者には面白くなかった?アッタールの『イスラム神秘主義者列伝』は未読ですが、面白そうですね。アッタールの生国イランでの人気はどうなのでしょうか。

 容疑者が19歳ということもあり、地元の河北新報では実名はもちろん出身校も伏せられていますが、実名・出身校ばかりか顔写真まで公開されているのがネットの凄さです。いかに軽薄でもノンクリの親が、娘に“万里亜”の名前を付けることはまず考えられない。やはりクリスチャンホームの生まれ?

 大内は勧誘がしつこかったと言っていたので、被害者の老女はエホバの証人?と思いましたが、貴方も同じでしたか。土日の朝を狙って布教活動する女性信者の多くはエホバの証人なのやら。
 ただ、私は事件はサイコパスによるものと片付けており、一種の宗教戦争とは思ってもいませんでした。おそらくノンクリの多くは単なる異常者による殺人と見ているでしょう。
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