『君戀しやと、呟けど。。。』

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『キスシーン』ⅩⅣ

2009-12-11 09:25:27 | 連作short/妖婉シリーズ
*****
「…っちゃん。みっちゃん。巳継ってば」
 名を呼ばれた気がして、今度は軽く体を揺すられ、薄っすらと目を開く。
 見慣れた天井と、瑠璃の顔。
 思わず瑠璃を引き倒し、抱き締めた。

「ちょっと、どうしたの」
 腕の中で、瑠璃が身を捩る。
「少しだけ、少しだけでいいからこうしてて」
 頭を抱えるように、瑠璃を抱く。
「どうしたの? みっちゃん、蔵の前で倒れてたんだよ。運ぶの大変だったんだから」
 瑠璃は離れることを諦めたようで、布団の中に潜りこむ。

 そっか。倒れてたのは、蔵の外か。
「お前が運んだの?」
「まさか。自分がどんだけデカイか認識しよう。私がいくら大きくたって、もっと大きいみっちゃんを運べる筈ないでしょ。ちょうど、伯父さんが来てたの。それで一緒に運んだ」
 いつまでも起きないから帰っちゃったよ、と付け加えて。

 親父!?
 瞬時、あの蔵で見た光景が蘇った。

 あの時、あの女を抱いていたのは、確かに親父だった。
 ならば女の方は…

「どうしたの? 何か、変だね」
「瑠璃。瑠璃、瑠璃…」
 俺は、ただ瑠璃を抱き締めてその名を呼び続けた――。

 その日の深夜。
 親父から電話がかかってきた。
 最初に電話を取った瑠璃が、ひとしきり話している。途切れ途切れのその会話の中に、蔵に入ったという言葉が聞こえた。
 途端に背筋が凍りついた。
 確かに入ったのだ。他の誰でもない、それは俺自身がだ。

「みっちゃん。伯父さんが話せるかって」
 俺は否定の意味をこめ、首を振る。
 分かった、と瑠璃が子機を掴んだまま部屋を出て行った。

 結局、潜りこんできた瑠璃の方が先に寝入ってしまった。
 瑠璃を抱き寄せながら、自分がここにいるのだと、何も変わっていないのだと繰り返す。
 しかし、何ヶ月経ってもあの光景が脳裏から去ることはなく、俺は再び蔵の前に立った。ただし、今度は瑠璃とふたりで。

                       著作:紫草
                      To be continued.
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