『君戀しやと、呟けど。。。』

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『キスシーン』ⅩⅢ

2009-12-10 00:05:59 | 連作short/妖婉シリーズ
*****
 睦みあう、男と女。
 衣擦れの微かな気配と、喘ぐ声――。

 目の前で繰り広げられているのは、閨の痴態。男に跨り、揺れる姿態。
 クスクスと笑っているのは、女の方か。
 真っ赤な襦袢から見える、真っ白な腕が男の首に巻きついている。女の腰には男の腕が廻され、髪を乱し仰け反り、真っ白な首も顕わに女が嬌声を上げた。

 立ち尽くしていた俺と、女の目が合った。
 ゾクッとした。
 寒気の伴う、冷気と情欲。
 しかし女を抱く男には、余裕が見えた。
 綺麗な筋肉のついた背中。汗で光沢のあるようにうっすらと光る体躯。
 その時、今度は男が女の様子に気付いた。
 女の視線の先にある、俺。
 振り返るほどではなく、視線をちらりと投げられる。

 あれ。
 何か、変だ。
 灯る蝋燭の中に浮かぶ、ふたりには見覚えがある。
 その時、男が振り向いた。
 あれは…、親父だ!

 いったい、何が見えてるんだ。
 俺は後ずさろうと、足を引く。途端に何かが背中に当たる。
 そんな筈はない。後ろに壁などなかった。扉を開けた場所から一歩も動いていないのに。

 叫び出しそうな恐怖が、初めて俺を襲う。
 体が震える。
 助けて。
 勝手に入り込んだ、俺を許して。
 帰して。
 許の世界に。

 誰にというわけではない。それでも叫ばずにいられなかった。
 俺を…
「瑠璃のところに還してくれ!」
 と――。

                         著作:紫草

                        To be continued.
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