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睦みあう、男と女。
衣擦れの微かな気配と、喘ぐ声――。
目の前で繰り広げられているのは、閨の痴態。男に跨り、揺れる姿態。
クスクスと笑っているのは、女の方か。
真っ赤な襦袢から見える、真っ白な腕が男の首に巻きついている。女の腰には男の腕が廻され、髪を乱し仰け反り、真っ白な首も顕わに女が嬌声を上げた。
立ち尽くしていた俺と、女の目が合った。
ゾクッとした。
寒気の伴う、冷気と情欲。
しかし女を抱く男には、余裕が見えた。
綺麗な筋肉のついた背中。汗で光沢のあるようにうっすらと光る体躯。
その時、今度は男が女の様子に気付いた。
女の視線の先にある、俺。
振り返るほどではなく、視線をちらりと投げられる。
あれ。
何か、変だ。
灯る蝋燭の中に浮かぶ、ふたりには見覚えがある。
その時、男が振り向いた。
あれは…、親父だ!
いったい、何が見えてるんだ。
俺は後ずさろうと、足を引く。途端に何かが背中に当たる。
そんな筈はない。後ろに壁などなかった。扉を開けた場所から一歩も動いていないのに。
叫び出しそうな恐怖が、初めて俺を襲う。
体が震える。
助けて。
勝手に入り込んだ、俺を許して。
帰して。
許の世界に。
誰にというわけではない。それでも叫ばずにいられなかった。
俺を…
「瑠璃のところに還してくれ!」
と――。
著作:紫草
To be continued.
睦みあう、男と女。
衣擦れの微かな気配と、喘ぐ声――。
目の前で繰り広げられているのは、閨の痴態。男に跨り、揺れる姿態。
クスクスと笑っているのは、女の方か。
真っ赤な襦袢から見える、真っ白な腕が男の首に巻きついている。女の腰には男の腕が廻され、髪を乱し仰け反り、真っ白な首も顕わに女が嬌声を上げた。
立ち尽くしていた俺と、女の目が合った。
ゾクッとした。
寒気の伴う、冷気と情欲。
しかし女を抱く男には、余裕が見えた。
綺麗な筋肉のついた背中。汗で光沢のあるようにうっすらと光る体躯。
その時、今度は男が女の様子に気付いた。
女の視線の先にある、俺。
振り返るほどではなく、視線をちらりと投げられる。
あれ。
何か、変だ。
灯る蝋燭の中に浮かぶ、ふたりには見覚えがある。
その時、男が振り向いた。
あれは…、親父だ!
いったい、何が見えてるんだ。
俺は後ずさろうと、足を引く。途端に何かが背中に当たる。
そんな筈はない。後ろに壁などなかった。扉を開けた場所から一歩も動いていないのに。
叫び出しそうな恐怖が、初めて俺を襲う。
体が震える。
助けて。
勝手に入り込んだ、俺を許して。
帰して。
許の世界に。
誰にというわけではない。それでも叫ばずにいられなかった。
俺を…
「瑠璃のところに還してくれ!」
と――。
著作:紫草
To be continued.