感情を切り離し機械になれ。
そう言い放ったヤツの背中を、あの時すぐにも蹴り飛ばしておくべきだった。
後悔だと? この俺が。この俺が、後悔したまま、後悔しながら死んでゆくだと。糞が!
背後からレーザーの連射を受け、それがシールドの尽きたウルフェンの装甲を貫いたとき、ウルフ・オドネルの感情は爆発した。
彼にとっては感情が、欲望が、野望こそが自分の中核をなすものだった。そしてそれと同時に、自分のなかの煮えたぎるマグマのような感情に、支配されることなく手なずけ乗りこなせるという自負があった。己の度量もわきまえず、感情に任せて暴発し自滅するやつらとは違う。俺は俺の感情が望むこと、それを自分に提供できるだけの力がある。胸に野望を抱きながらそれを手繰り寄せる力を持たず、自分を満足されられないまま消えていくやつらとは、違う。
そういう自負は誰よりも強く、またウルフ・オドネルがウルフ・オドネルであるために絶対に必要なことだった。
それなのに。レーザーが己の愛機を貫き、焼き焦がしてゆくのを旋回して避けようにも、その愛機のプラズマエンジンはすでに瀕死だった。プラズマ加速ユニットが損傷しているのだろう、もはや空中で姿勢を保つことさえ難しかった。
感情を切り離し機械になれ。でなければ愛機がそのまま棺桶になるぞ。
あいつの言葉どおりになるだと。そう思うと体が硝子細工のように透ける気がした。脈打つ心臓や。膨らんでは縮む肺。そして縦横無尽に走る血管や神経までが透けて見えるように思った。頭蓋のなかの脳から伸びた神経が、枝分かれしながら桿を握る手の指先まで伸び、筋肉を動かし感覚を伝えている。そしてその手が握る操縦桿の操作が、また枝分かれした多くの配線のなかを電気信号となって機体に伝えているのだ。
まるで俺がウルフェンの部品のひとつのようだ。ウルフは思った。
俺という部品が欠陥を抱えていたせいで、いまこの機体は朽ち果てようとしているのか? ……馬鹿な!
俺の感情がなければ。これはただの機械だ。そうだ感情がなければ。ヒトも機械に過ぎない。感情を切り離した時点で、てめえは機械に成り下がったんだ。機械なら機械らしく。俺に従え!
操縦桿を渾身の力で握り締め、あらんかぎりの力で引いたが機首は上がらない。
死ぬのか。俺が。
頑強を誇っていた彼の肉体も、いまはひどくもろく壊れやすく、はかないものに思われた。頭の両側から大きな衝突音が聞こえたが、それは彼のこめかみに這う血管を、疾走する血液が早鐘のように打ち鳴らしているのだった。
そう言い放ったヤツの背中を、あの時すぐにも蹴り飛ばしておくべきだった。
後悔だと? この俺が。この俺が、後悔したまま、後悔しながら死んでゆくだと。糞が!
背後からレーザーの連射を受け、それがシールドの尽きたウルフェンの装甲を貫いたとき、ウルフ・オドネルの感情は爆発した。
彼にとっては感情が、欲望が、野望こそが自分の中核をなすものだった。そしてそれと同時に、自分のなかの煮えたぎるマグマのような感情に、支配されることなく手なずけ乗りこなせるという自負があった。己の度量もわきまえず、感情に任せて暴発し自滅するやつらとは違う。俺は俺の感情が望むこと、それを自分に提供できるだけの力がある。胸に野望を抱きながらそれを手繰り寄せる力を持たず、自分を満足されられないまま消えていくやつらとは、違う。
そういう自負は誰よりも強く、またウルフ・オドネルがウルフ・オドネルであるために絶対に必要なことだった。
それなのに。レーザーが己の愛機を貫き、焼き焦がしてゆくのを旋回して避けようにも、その愛機のプラズマエンジンはすでに瀕死だった。プラズマ加速ユニットが損傷しているのだろう、もはや空中で姿勢を保つことさえ難しかった。
感情を切り離し機械になれ。でなければ愛機がそのまま棺桶になるぞ。
あいつの言葉どおりになるだと。そう思うと体が硝子細工のように透ける気がした。脈打つ心臓や。膨らんでは縮む肺。そして縦横無尽に走る血管や神経までが透けて見えるように思った。頭蓋のなかの脳から伸びた神経が、枝分かれしながら桿を握る手の指先まで伸び、筋肉を動かし感覚を伝えている。そしてその手が握る操縦桿の操作が、また枝分かれした多くの配線のなかを電気信号となって機体に伝えているのだ。
まるで俺がウルフェンの部品のひとつのようだ。ウルフは思った。
俺という部品が欠陥を抱えていたせいで、いまこの機体は朽ち果てようとしているのか? ……馬鹿な!
俺の感情がなければ。これはただの機械だ。そうだ感情がなければ。ヒトも機械に過ぎない。感情を切り離した時点で、てめえは機械に成り下がったんだ。機械なら機械らしく。俺に従え!
操縦桿を渾身の力で握り締め、あらんかぎりの力で引いたが機首は上がらない。
死ぬのか。俺が。
頑強を誇っていた彼の肉体も、いまはひどくもろく壊れやすく、はかないものに思われた。頭の両側から大きな衝突音が聞こえたが、それは彼のこめかみに這う血管を、疾走する血液が早鐘のように打ち鳴らしているのだった。