ピピピピ、という電子音が、機内に響く。フォックスは通信を受けた。
グレートフォックス内のナウスの映像が、モニタに浮かび上がる。
「どうした? ナウス」
「公共ノ電波帯全域ニ、アンドルフカラノ映像ガ送信サレテイマス」
「アンドルフだって?」
アーウィンを駆る三人の叫びが重なった。
その名前を口に出すより先に、フォックスは総毛立っていた。ざざざざざ、草原を風が走るように、怖気が体表を波立たせていく。
フォックスたちは周波数のダイアルを捻ると、一般のTV放送の周波数帯に合わせた。モニタからナウスの顔が消え、銀色の粒子のざらつきのあと――彼が、姿を現した。
「……すこし、話をさせていただこうか。皆さんが満喫している快適な暮らしを、支えているものについての話だ。
母なる星、コーネリアは、生命が満ちあふれ、資源豊かな惑星ではあるが……しかしコーネリア由来の資源のみでは、現在のような宇宙航行時代が訪れることはありえなかっただろう。
超高温のプラズマをエンジン内部に封じ込めるための高密度隔壁、惑星間ワープ飛行にかかる莫大な電力、時空をゆがめ空間と空間をつなぐのに不可欠のグラビティウェル。
これらを手に入れ、維持するためには、ライラット系の各惑星の資源のかずかずが、そして実際に宇宙に出て作業にあたる人員が不可欠だ。
そうだ、宇宙だ。ゆりかごのように我々を育んでくれた、緑の大地と清浄なる海とは違う。気密をへだてて広がっているのは、本物の死の世界だ。冷凍の干物に加工されるには最も適している。
そんな環境での作業だ。自分からすすんでやりたがる者はいない。その日の食い扶持にも困るような、貧しい者でなければな。
私の故郷でも、宇宙建設会社の営業たちがやってくるのを何度も見たよ。若さを持て余し、金をためて今の生活から抜け出してやると息巻きながら、そのための具体的な方策は持てずにいる――そういう若者たちを薪の束のように車に詰め込み、走り去っていった。衛星軌道上、あるいは惑星間の作業場へとな。私の4つ上のいとこも、その若者のなかの一人だった。
彼らは金持ちになっただろうか。いや、ならなかった。
宇宙空間の職場環境は、劣悪を極めたのだ。点呼のさいに返答がなかったにもかかわらず宇宙空間に置き去りにされたもの、宇宙線の降り注ぐなか長時間の作業にあたり、放射線障害を負ったもの、デブリの衝突で身体を損なったもの、酸素欠乏から高度の脳障害に陥ったもの……。満身創痍の状態で、解雇を告げられるか、暗黒の海の藻屑となり二度と帰らないか。彼らの多くが辿ったのは、そんな運命だ。
そしてだ。私が怒りを覚えているのは、かれら宇宙空間作業者の実に7割以上が、われらハールの若者たちであるということだ……。」