すでに電波ジャックは終了していた。
だが爆弾投下にもひとしいあの“建国宣言”のあとで、なにごともなく通常放送に戻れるわけもない。各局は緊急報道態勢へと移行し、アナウンサーたちは昔話にある魔界のような扱いで≪ベノム帝国≫の名を口にした。アナウンサーたちの姿と交互に、録画された映像が再生され、アンドルフが叫ぶ。――建国を宣言する!
フォックスの心臓ははげしく脈打っていた。
ロキオンとハール。コーネリアを二分する大種族の対立で、宇宙には衝突と混乱が巻き起こるだろう。ふたつの波濤がはげしくぶつかる黒い海を、自分は桿を握り必死に飛ぶ。嵐に揉まれる一枚の木の葉のように、運命を翻弄されながら――。
――――。
惑星ベノムの地表。外部からの観測では全く見分けはつかないが、厚い雲に含まれた酸が中和され、コーネリアと変わらぬ環境に保たれた一地帯がある。
さらにその地下、岩盤をくり抜き作られた大空洞に、皇帝アンドルフの居城はあった。
薄暗い部屋で、老人は深い吐息をついた。
聞く者の魂を揺さぶり、火をつけるだけの力ある言葉を発するには、いささか自分は歳をとりすぎている。それは理解しているが、しかしやらねばならない。
“・・・・・・”
部屋の奥には、老人が腰掛けている場所よりもさらに暗く、向こう側の壁も見通せない程の闇に沈んでいる。
その闇の中に、なにものかがいた。
血肉をもつなにかではなかった。冷たく硬質の、無機質ななにかが、それでも生きて、息を潜めていた。
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