「白河の関」越えましたね。
練習の成果を出せた人もいればそうでなかった人も。励まされます。
兼題:文
文月や供華と遺影の文机 幹夫
(選外)(卯平)文月と文机は狙った感がある。供養は省略できるだろう。
秋鴉桂文治が脱ぐ羽織 宙虫
〇(珠子)Wikipediaによると、『小烏丸』は古典落語の演目の一つ。主な演者に6代目・桂文治が知られる…と。高座の桂文治が鮮やかにイメージできます。
◎(あき子)言葉の調べにのせてスローモーションのように景が見えてくる。季語が絶妙。
(選外)藤三彩 秋鴉(あきがらす)というより明烏(あけがらす)なのではないかな
糸とんぼ百円文庫並ぶ市 楊子
○(泉)何となくホノボノとした感じが良いと思います。
○(瞳人)3冊100円というのもありで、嬉しいようなさみしいような
○(卯平)糸ととんぼが上手い。
新涼や波乱を生きた幸田文 泉
◯ (アゼリア) 新涼の季語が幸田文にぴったりです。
夢に見し古文・漢文明易し アネモネ
○(餡子)よく分かります。後味の悪い夢です。私にとっては物理かな。
○(ちせい)高校時代を思い出したのでしょうか。夢にまで出て来る。
文筆業注文を待つ残暑かな 瞳人
○(泉)確かに文筆業は厳しい職業ですね。
鶏頭に向く文机や子規めける 餡子
○(アネモネ)「子規めける」に得心です。
〇(珠子)ご自宅の文机、実際には回転椅子つきの大きな机なのかもしれませんが。庭の鶏頭を見ていたら子規になった気分だ、というより子規の気持ちを思いやったというのかもしれません。
○(あちゃこ)取り合わせよく、雰囲気のある一句。
〇(まきえっと)モニターに向かうのと違いますね。いい雰囲気です。
文月や葉書に貼りし紙の鶴 あちゃこ
◎(幹夫)文月の特性を捉えて、作者の感情が強く詠まれていると思いました。
○(仙翁)紙の鶴にはどんな思いが込められているのでしょうか。
文鎮の重さ八月十五日 まきえっと
◎(ルカ)何もいう事はありません。重みに全てが言い尽くされています
〇(珠子)八月十五日の句は無数にありますが、この取り合わせには惹かれました。文鎮の重さは心の重さでもあります。
○(吾郎)色々考えさせられる、考えなければならない日
○(アダー女)辛うじて戦中派の私の記憶は戦後の混乱からしかありません。文鎮の重さだけで戦争の重さを十二分に表現していて見事だと思います。
○(敏)普段ではさほど感じなかった文鎮の、終戦日ゆえに感じられる重さ。
◎(道人)八月十五日は不戦の誓いの日。未来永劫詠みかつ書き継ぐべき日。
◯ (アゼリア) 八月十五日と聞くだけで重い気分になります。
文章に瑕疵は少なし百日紅 敏
〇(楊子)目に染みるように咲き誇る百日紅をみていると何の文句もつけようがありません。
夏の灯を消すよう女将の仕舞文字 藤三彩
◎(瞳人)そうやって良き店は消えてゆくのですね、さみしいけど
○(宙虫)旅館の女将?小料理屋の女将?それぞれの夜の空気感がいい。
○(アダー女)ほっそりと静かな女将の営んできた居酒屋で多くの男たちが愚痴や夢を静かに聞いてもらえたのでしょう。その店が閉店になる。女将らしい細く消えそうな文字で店仕舞いを告げる文字が入り口に。男たちの「淋しいねえ!」というつぶやきが聞こえてきます。ちあきなおみの歌も聞こえてきそう。
海面部濃霧はムウの文明か 吾郎
◎(餡子)今ではムー大陸は伝説の大陸。存在しなかったという説の方が有力とか。航海している作者に見えたのは濃霧。想像を膨らませ古代のロマンに浸る作者。
〇(めたもん)霧の太平洋、不思議な雰囲気が....ムウの幻影か。想像力を掻き立てられます。
◯(道人)幻のムウ大陸が時空を超えて霧の海から出現したかのような。錯覚か現か判然とし難い句。ムウ大陸はなかったがムウ文明は存在したとの説もある。
紀行文誘う佐渡へと秋の旅 アダー女
〇藤三彩 佐渡の世界文化遺産の登録を逃したのは惜しい。
例文のような恋文秋ぐもり あき子
◯(アネモネ)これはなんとも味気ない!
〇(楊子)きっとラブレターの書き方を参考にしたのかもしれません。
○(泉)恋文を書くのも大変です。今時、珍しいかな。
○(ちせい)訳の分からない駄文よりはましかもしれませんが、見くびられる原因なのかもしれません。
〇(まきえっと)例文の安心感がありそうな今の時代。
○(敏)頂いた恋文の端正ゆえにどこか心が離れているように感じてしまう曇り日のような気分なのでしょう。
◯(道人)恋しい人からの手紙はどこにでもあるような類型文とはかなしい。秋曇りの日の心の揺らぎも垣間見える。
読み返す父の文あり終戦日 ルカ
○(幹夫)人間の年齢にしたら喜寿、77回目の終戦の日でした。
○(仙翁)いろいろ、懐かしくなることがありますね。
縄文の墓に今年の黒揚羽 仙翁
◎(吾郎)縄文時代から現代までの草地性蝶の栄枯盛衰の歴史を解明した研究グループがあるとか。何にせよ<今年の>が絶妙。暑さにバテている場合ではないか
◎ (アゼリア) 縄文人は争いの跡のあまり見られない人々だだったとか。見習うことが多々ありそうです。
来し方のこと次々と大文字 道人
◎(アダー女)八月十六日は京都五山の送り火。三年ぶりの全面点火がテレビでも放映され、映像を通してですが、わたしもつくづく亡き人々のことを思い、今このとき、この世とあの世の間を彷徨っている兄の心の平安を祈り、自分の過去、現在、未来にも思いを巡らせました。
拙文の連載原稿夜の秋 卯平
競い合う原色文字の街晩夏 めたもん
○(あちゃこ)暑さにうだる街に原色のネオン看板。熱い。アツい。
〇(あき子)原色の街にも秋が近づいているのを感じながら。
文箱に戦死の子の遺書虫の声 アゼリア
○(アダー女)特攻隊員としての覚悟の遺書か、戦地へ赴く時や戦地からの・・・さまざまの死と向き合って家族に残した遺書を大切に文箱にしまわれている親御さんの心境を思い、今なおウクライナで、そしていつ戦禍に巻き込まれていくかわからない21世紀。戦争の悪をつくづく思います。そとで聞こえる虫の声が淋しさを募らせます。
台風圏部首に呼び出す異体文字 珠子
◎(あちゃこ)異体文字には、難儀しますね。リアルな心の動きも伝わります。
◎(卯平)異体文字には色々ある。検索には苦労する。台風圏より「颱風裡」の方が緊張感があると観賞するが句全体としては好きな句。
(選外)(道人)台風と異体文字の取合せが新鮮。
幸田文塔再建記夏が逝く ちせい
〇(あき子)母が大切に読んでいた幸田文。重ね合わせてその気丈な生涯を思います。
テーマ:期限
いつぱしの顔してゐたる捨案山子 ルカ
○(幹夫)雨にも負けず風にも負けず。案山子さん有難う。
◎(仙翁)昔の案山子でしょうか、いい顔の案山子いますね。
◎(敏)捨てられていても役目をつらぬこうとする矜持が見えます。
秋気澄むもう似合わない恋の歌 まきえっと
○(あちゃこ)いやいやそんな事は、ありません。歌いましょう恋の歌を。
ひぐらしや二番ホームの弁当売 道人
〇(楊子)弁当があまり売れなかったのですね。ひぐらしという季語が意味ありげに置かれています。
○(ちせい)ああ、駅弁。人気のあるイカ飯だったのかもしれません。
○(吾郎)ひぐらしが付き過ぎくらいよく似合う絶滅危惧種の職業へのオマージュ
◯ (アゼリア) 学生時代の鈍行の旅を思い出します。
(選外)(卯平)出来ている句だが類似感がある。
延長の賞味期限や颱風裡 卯平
○(アネモネ)笑っちゃいましたW
炎帝を鎮める九月神のかほ 瞳人
花おくら今ごろ自白してごめん 宙虫
◎(めたもん)ごめんと言われても.....面食らうような発想が魅力。季語が憎い程効いています。
○(吾郎)あなたも苦しかったんだね──なんて言うわけないだろ!こぉらぁ!!
解禁の鮎ににぎはふ峡の駅 アネモネ
◯(ルカ)鮎解禁の駅はにぎやか
原爆忌天然水は期限切れ アゼリア
◎(泉)意味不明ですが、強烈なインパクトを感じます。
○(宙虫)天然水は買うもの。時代は進んだ。
〇(まきえっと)水はだいじですね。
○(卯平)期限切れと原爆忌は少々緩いが許容範囲。
古酒よ締め切り決めし避けざる腐 吾郎
借りたまま学校印を曝書かな 藤三彩
○(瞳人)そうやって大事に持っている、それもまた
○学校で借りた本が返さないまま、本箱の奥から出てきた!他の本共々虫干ししている姿が滑稽味があると同時に罪悪感も感じられて面白い一句だと思います。それにしても返却の督促が来ていたでしょうに。
(選外)(卯平)「学校印の」であれば選の対象。
秋蝉や無人ポストに本返す めたもん
〇(楊子)夏休みも終わりごろになるとそろそろ宿題をそろえたりします。読書感想文は嫌いだけどしかたがありません。
○(宙虫)秋へ向かう図書館の返却ポスト。読み終えた本のポストへ落ちる姿と蝉の声がちょっとした寂しさを呼ぶ。
(選外)(卯平)秋蝉は納得。但しよくある句の一つ。
十日前の日付悩まし氷菓子 敏
○(泉)賞味期限って、誰が考案したのだろう。本当に厄介ですね。
賞味期限切れし私冷奴 餡子
○(アネモネ)身につまされます。
○(瞳人)そんなこと言わないで、生きてる限りは青春だあと、裕次郎が唄うじゃないですか
〇(めたもん)少し笑えて少し哀しい味わい。中七の「私」から「冷奴」への転換がいい感じです。
○(敏)自虐的に「私」を見つめている私。
◯(道人)女性の句であろう。自虐の中のブライドが良い。冷奴の斡旋が中々。「私」は平仮名表記の「わたくし」もありかも。
水蜜桃末期の兄に与えたき アダー女
生かされているうちが花滝飛沫 あちゃこ
〇(珠子)生かされている=活かされている=少しは役にたっている。今日も前向きに~。
〇(あき子)瀧の飛沫を浴びながら、生かされている今を思う。
接触者待機台風余波の雲 珠子
送り火や期限を感じる顎の凝り ちせい
敗戦忌彼の日届きしハルノート 幹夫
〇(あき子)ハルノートで開戦に突入した日本の、開戦から敗戦日という期限への着目が鋭い。
原稿を待つ担当の夜長かな 泉
○(餡子)良く作家の○○先生係というのが出版社にはいたとか。執筆している部屋の隣の部屋で、何人もの担当者が順番を待っていたのでしょう。
○(吾郎)リアル過ぎて取らざるを得ない
(選外)(卯平)待つのであれば夜長となる。
背を押され慰霊の登山赤のまま あき子
〇(藤三彩)御巣鷹山の山中ヘ墜落した航空事故は1985年(昭和60年)8月12日。すきやきの坂本九さん亡くなり37年が経つ。
○(ちせい)霊峰富士や御岳山など、諸種の事情が有るかとお察しします。
◯ (アゼリア) 御巣鷹でしょうか。遺族も高齢化し登山も大変そうです。群馬なので事故の悲惨さ見聞きし心が痛みました。
落蝉や七年七日を全うし 仙翁
○(幹夫)日陰暮らし7年も命、日向7日も命ですね。
○(瞳人)たしかに、全うし、です。最近、懐かしい言葉です
黴生えるまでは捨てない祝菓子 楊子
○(アネモネ)そうそうそうでした、鯛の砂糖菓子!
雑詠
あの頃に在りしあの頃盆の月 めたもん
○(仙翁)あの頃とは、いつの頃か、遠い昔でしょうね。
(選外)(道人)考妣との思い出は次から次へと広がってゆく。
けむりなきポパイのパイプ終戦日 卯平
○(泉)マッカーサーのパイプを思い出しました。
○(宙虫)アメリカ製のヒーローにときめいた日々があった。けむりが意味深。
○(餡子)パイプと聞くと、マッカーサーを思い浮かべますね。終戦日という季語がざらざらとした感じでマッチしている。
何もかも笑ひ飛ばして生身魂 ルカ
◎(アネモネ)存在感横溢です。
○(餡子)私もこうありたい!!
〇(珠子)この明るさ力強さ。そうでなくっちゃ!
〇(まきえっと)そうそう。
○(卯平)長寿の秘訣はこうでなければ。
気が急くな待てないな手間泣く施餓鬼 吾郎
○(餡子)毎年7月25日は、お寺でお施餓鬼会がありましたが、コロナが流行し始めてからもう3年中止です。気がせくよ、待てないよ、ああ。
◎(珠子)生前の悪行によって落とされた魂や薄幸だった無縁仏の魂が飢えと乾きに苦しみ泣いている、その魂たちへ一刻も早く食べ物や飲み物を!回文のふしぎなリズム感が臨場感を強めています。
〇(藤三彩)お寺さんからお施餓鬼中止のご案内が届く。コロナの感染者急増で泣く泣くの決断。卒塔婆の準備も大変なのに。瞑回文。
○(仙翁)施餓鬼の様子が面白く描かれていますね。
◎(まきえっと)雰囲気が出てます。
見る人に語るドームや秋高し 泉
○(幹夫)がらんどうの広島原爆ドームでしょうか。「秋高し」ですね。
雑巾で家の平和を磨く盆 宙虫
○(幹夫)墓石を拭く動作に共感します。
◯(ルカ)雑巾が生きてます
○(あちゃこ)中七の平和を磨くがいいですね。雑巾とは。意外性に富んでいます。
〇(まきえっと)雑巾で平和を磨くのがいいですね。
〇(あき子)雑巾がけは平和の象徴。「平和を磨く」に願いがこめられている。
秋澄めり車窓に夜の京都タワー アダー女
◯(ルカ)京都タワーの佇まい、夜が似合います
◎(ちせい)水の秋と言う季語を思い出しました。
集落の祖は源氏残党秋螢 アゼリア
〇(藤三彩)平家の落人村というのが通説ではあるが、源氏の集落とはどういうことか。宇治川の戦いで敗れた木曽の義仲一党ということも。
○(あちゃこ)生まれ故郷にもそのような伝説があります。義経神社があり、そこから北へ逃れたとか。東北には多いですね。季語が効いています。
身辺りに水ある暮し原爆忌 道人
〇(楊子)特に夏は何も考えずに水をじゃぶじゃぶと使います。原爆忌忘れないようにしたい。
○(宙虫)原爆に水・・・たくさん詠まれてきた題材だが、令和の時代、あちこちで起きる水害に別の現実を見る。
◯ (アゼリア) 水のありがたさ思い知らされました。
青き風包みて香る夏の水 仙翁
蜘蛛の囲に顔を包まる老眼鏡 藤三彩
○(瞳人)それがしょっちゅうとなると、老人です、いや、他人事ではありません
◯(ルカ)微笑ましい
〇(めたもん)あ時のなんとも言えない顔の感触。下五の老眼鏡への着地が上手い。
(選外)(道人)ありそうです。俳味たっぷりな句。
天守より望む湖の国秋暑し 餡子
◯(ルカ)今はなき安土城をふと思いました
南風に提灯揺らぐ送り盆 敏
戦には大義名分秋暑し まきえっと
◎(藤三彩)秦の天下統一に燕の太子丹の命を受けて秦に赴き始皇帝(王政)の暗殺に失敗した荊軻がいる。これを理由に燕は滅ぼされた。
○(敏)その大義名分は概ね後付けでしょうね。
二十時の定点観測秋の蝉 あき子
猫の尾のすこし鈎型秋立つ日 アネモネ
◎(楊子)こんな身近でささいなことにも秋を感じる感性がいいです。しかも何の関係もない猫の尾というところがいいです。
〇(藤三彩)庭猫の姿が見えない。溽暑の連続で涼しい居場所を転々としているのだろうか。
〇(めたもん)鉤しっぽの猫は幸運を招くとか。目の付け所がユニークでリアルでクスっときます。
○(吾郎)その因果関係ありやなしや
◯(道人)立秋は猫にも分かるのかも。
八月や一杯の水一滴の血 幹夫
○(ちせい)示唆して居る事を思うと意味ありげな句だと思いました。
○(仙翁)一杯の水と一滴の血、命を感じますね。
反骨に貌をつければ真葛原 珠子
◎(宙虫)意気地を張って、抜き差しならないことに。多くの反骨精神が真葛原に埋もれているのかも。
○(敏)他を顧みない独りよがりとでも言ったら良いでしょうか。
◯(道人)抽象から具象への展開が面白い。
(選外)(あき子)真葛原が立ち上がってくるように感じました。
保健室の奥に少女と花氷 楊子
〇(めたもん)「保健室」「少女」「花氷」。取り合わせで成長期の不安定な心が表現されています。
○(アダー女)「戦争が廊下の奥に・・・」の不気味で恐ろしい句を思い出しますが、揚句では、「少女と花氷」という少女の可憐さとちょっと華やかな氷中花で全く異質なほっとする句になっています。
○(卯平)保健室と少女の関係は大変微妙。保健室登校の少女だろう。花氷が優しい。
盆の月とろり抜けでる島の影 あちゃこ
立秋や不惑コボちやん緩緩まゐれ 瞳人
睾丸を痒いと思う虫の夜 ちせい
☆☆次回をお楽しみに。
広島は未だに暑い日々が続いています。雨も多いし、蒸し暑い日々です。思えば八月は原爆忌、敗戦忌と終戦の月でした。しかし、台湾海峡の波は次第に高くなり、日本は再び軍事力を拡大させていく事でしょう。歴史は繰り返す。