探偵がミラーを見上げ遅日かな ちせい
◎(瞳人)解決策なし、糸口も見えず、へぼ探偵だ
遮断機の竿(バー)の直立五月来る アネモネ
〇(ちせい)季語は「五月来る」。写実的な詠みぶりに惹かれました。
〇(珠子)立ち姿のすっきりした句。5月がきても閉塞の日々ではあります。
〇(春生)中七「竿の直立」が季語「五月来る」とびびきあって、生き生きとした感じが出た。
今日は出社いつものバスとハナミズキ 餡子
○(敏)自粛による間引き就労の今日は出社日、いつものバス停脇には例年通りに花水木が咲いている。年年歳歳自然は同じにめぐり来るが、人の世はどんどん変わっていく、という感慨が読み取れます。
◯(道人)そのままの景ですが、時期を得た句で、すっと心に入ってきます。
○(あちゃこ)変わりない事への有り難み。中七がいい。
〇(藤三彩)自宅のテレワークというのでしょうか。出社しなければ進まないこともある。現役お疲れ様です。
〇(宙虫)見慣れた光景が少しずつ出社のたびに変っていく。
八重桜行方の知らぬバスの中 仙翁
のろのろと下りる遮断機風は夏 あちゃこ
○(まきえっと)「のろのろ」が今の世の中のようですね。
〇(春生)夏のけだるさが感じられる句。
舗装路のすく間朗らに菫草 瞳人
○(泉)気持ちが明るくなる俳句です。
物質転送装置は不調遠蛙 宙虫
○(泉)「物質転送装置」には驚きました。SFの様な俳句です。
職安に向かふ横顔五月来る アゼリア
◯(道人)「今日は出社」の句と同じく時宜を得た句。此方は コロナ禍で仕事を失った方の 不安そうな顔に焦点を当てた句。視点を変えて、失業中かつ五月病の若者の不安感を捉えた句ともとれる。
○(餡子)今節、職安も大変な状態でしょう。職を失った人、店をたたまなければならない人、学生もバイトが出来なくなって・・・。コロナが収まった後も、先行きが見えないですね。おろおろするばかりです。新緑の美しい気持ちの良い5月が来たというのに。
〇(珠子)仕事を得ることの大変さ。この惨事の中ではなおさら。「横顔」が鬱屈した心を伝えています。
○(あちゃこ)うーん。横顔にこめる思いは、複雑でしょう。
〇(瞳人)くらい顔が目に浮かびます、でも、待てば海路の
◯(アネモネ)「五月来る」に希望が持てそう。
〇(藤三彩)不安な横顔だったんでしょう。
〇(宙虫)五月へ向かう明るさがさみしい。
余花落花黙したまゝの起重機に 道人
〇(仙翁)起重機は、黙ったままで存在感がありますね。
投函の切手は牡丹濃紫 楊子
〇(メイ)濃紫の牡丹に思いを込めた手紙かと思いましたが、もしかしたら、何気なく選んだ切手に投函するときに気が付いて、あせっているのかも。
〇 (多実生) 花の切手集の牡丹。何気なく貼っていますね。
〇(藤三彩)投句には記念切手を貼っています。先輩女子は断捨離に昭和の切手を惜しげなく使う。
コロナ禍の時差登校や花は葉に 春生
〇(珠子)うかうかすると終息は桜紅葉の頃となるかもしれません。時差登校でもいい・一日も早く登校できる日がきてほしいものです。
風光る遠近法の似合う街 敏
◎(ちせい)季語は「風光る」。中7座5の詠みぶりが安定して居ると思いました。
◯(道人)「遠近法の似合う街」からの勝手読みです。少し郊外にで出るとビルもなく、遠山に向かってまっすぐな農道が続いている小規模な地方都市のイメージです。
〇(メイ)人のいないしんとした真っ直ぐな街に、爽やかな風が光って流れている。現在を受け入れて多くを求めない、大人の視線。
○(まきえっと)「遠近法」に目を付けたところがすごいです。
◎(泉)言われてみれば、この道路は完全な遠近法ですね。
◎(藤三彩)遠近法をサブテーマにしたと思われる写真でした。「風光る」と下五で美しい街に変身。
三月のあの日とおなじさくらさく メイ
◎(敏)「三月のあの日」といえば9年前の東北大震災でしょう。桜を仰ぐたび、あの日の記憶が甦ります。
◎ (多実生) 三月は大空襲と大震災。花は花は花は咲くです。
〇(瞳人)そういう電報、むかし、打ったことあるなあ、丘の上から
〇(藤三彩)2011年3月11日の記憶が風化してゆきます。1945年3月10日の東京大空襲を語る句会の先達も逝く。
電線の隙間から見る五月晴 泉
〇(瞳人)コロナに支配された空に見る、だ
StayHome空押し上げる花水木 珠子
○(敏)余儀なくされたStayHome。わが家の窓からも、蝶の翅に似た無数の花びらが空を押し上げるように咲いている花水木が見えます。
〇(メイ)たわわな花水木に希望を託してStayHome、「空押し上げ」て、もっと空へと伸び上がろう。
◯(アネモネ)花水木の在りようがいかにも。
電線の引っ張り合っている暮春 まきえっと
○(敏)世の中は右に戻ろうとしているのか左に進もうとしているのか、そんな引っ張り合いを暮れ行く春の電信柱の姿に見取ったのかも知れません。
〇(仙翁)確かに、電線は空に引っ張り合っているように見えますね。
○(ルカ)中七がいいですね。
◎(珠子)電柱を引っ張り合い、「暮春」を引っ張り合っている電線。時には鴉や燕の休憩所となる電線。取り合わせの「暮春」が魅力的。本来の目的を考えて電線を見上げたことはない気がします。
◎(あちゃこ)世情を投影した緊張感が伝わります。
◎(アネモネ)光景を素直に受け止めることが出来ます。
〇(春生)中七「引っ張り合って」と捉えて感覚の鋭さに同感。
◎(宙虫)引っ張り合うがいろんなことを想起させて、ちょっとした暮春の緊張感が伝わる。
五月晴恨めし過ぎるコロナの禍 多実生
春雷の遠近標せる赤コーン 藤三彩
遮断機の向こう五月の蒼き空 ルカ
絶え間なき道路工事や落椿 泉
〇(ちせい)季語は「落椿」。タールの匂いや様々な起重機が思い浮かびました。
ガス燈の倫敦恋ひし五月空 瞳人
○(泉)倫敦には電線は無いのでしょうか?
〇(藤三彩)夏目漱石の『倫敦塔』が出てきた不可思議。奇想だが原作の幻影、幻想と五月空のつながりが不可解。
電線が風受け止める花は葉に ちせい
◎(仙翁)揺れる電線、緑の葉、青い空も見えます。
○(まきえっと)電線が目につきましたが、「風を受け止める」としたところがいいです。
〇 (多実生) この頃ピンときませんが、空っ風等の故郷の風はいつも電線を鳴らしていました。
帰郷への戸惑いバス待つ修司の忌 藤三彩
○(敏)今時は躊躇いの多い帰郷。果たして5月4日に寺山と同じ故郷へのバスに乗れるのでしょうか。
○(餡子)県に入るな!県をでるな!厳しいですね。せっかくのゴールデンウイークも自粛。5月4日47歳で亡くなった修司。青森への思いとこの作者の戸惑いとが取り合わせの良い句だと思いました。麦の松岡耕作さんと、修司は学生時代の俳句投稿仲間。文通もしていらしたそうです。
◯(アネモネ)「修司忌」で句にストーリーが出ました。
○(泉)新型コロナ関連の俳句でしょうが、「修司の忌」が良くマッチしています。
〇(宙虫)ドラマがあって、切ない。
ふるさとの鉄橋春の音させて 楊子
〇(メイ) どんな「音させて」かな、耳を澄まして待っていると、いろんな音が聴こえてきます。
○(ルカ)春の音、どんな音なのでしょうね。
〇(ちせい)季語は「春」。ふるさとの鉄橋には郷愁を誘うものがあるのでしょう。
やや傾ぐ電信柱花は葉に アネモネ
〇(仙翁)確かに、斜めになった危なっかしい電柱、ありますね。
○(ルカ)実感あり。
〇(春生)観察の効いた句。
天を指す遮断機の尖鳥雲に 敏
〇(メイ)遮断機の上へ上へ、そのはるか先には渡り鳥が・・・。
筍を抱えゾンビが来る踏切 宙虫
〇(道人)句意を消化しきれていませんが、踏切に来る「筍を抱えるゾンビ」は存在感がありますね。
○(泉)ミステリアスですが、何となくユーモラスな俳句です。
〇 (多実生) 筍とゾンビの組み合わせと踏切、考えましたね。
粛々と物みな動きの止まる春 餡子
〇(ちせい)季語は「春」。宣言の動向をみんな見守って居る事でしょう。
〇(瞳人)そういうことが実際に起きてみると、やっとわかるね
犬友が歩道狭める日永かな 多実生
単調に暮れて残花の匂う路 あちゃこ
◎(道人)今年の4月の巣ごもり生活を言いえて妙。この路はあくまで開け放たれた窓辺から見える路。
○(まきえっと)せっかくの連休も自粛だと短調です。
◎(餡子)散歩と買い出しの日々は単調と言えば単調。早く仲間と句会を持ちたいですね。散歩のお陰で道ばたの草花、よそのお庭の樹木などに今までより目がいくようになりましたが・・。
〇(珠子)今年の春ほど平凡・単調な生活のありがたさを痛感したことはありません。
〇(宙虫)ほんとうにこのとおりです。桜の記憶を追う。
バス停に故郷の訛り四月尽 道人
◎(メイ)バス停で「故郷の訛り」が聞こえてきたけど、話しかけはしない。年度初めの山を乗り越えた「四月尽」の今日であるなあ。
○(餡子)啄木の歌の本歌取り。この方は、どちらの出身でしょうか。訛りは、心がほんわかとします。
○(ルカ)季語がいいですね。
◯(アネモネ)故郷の訛りをバス亭に聞くという場面設定に驚きました。
〇(春生)啄木の歌「ふるさとの訛なつかし・・・」を思い出しました。
限りなく塀は水平春の土 メイ
○(餡子)家の土台や塀を作るときの職人さんの仕事ぶりには感心させられます。糸をピンと張って、水平を測っては土を掘ったり埋めたりしてブロックを重ねていっています。この句、職人さんの腕の良さがわかります。
〇(宙虫)どっしりと構える塀と春の躍動感がいい。
踏切を渡りポストに春は過ぐ 仙翁
○(まきえっと)踏切を渡ってポストってなんか素敵です。
花水木パワーショベルが街を噛む 珠子
〇(仙翁)街を噛む、面白い、いい表現ですね。
◎(まきえっと)「街を噛む」がいいですね。
○(ルカ)下五が生き生きしています。
〇 (多実生) 今の街は季節に限らず、大型ショベルの工事が見られ、まさに街を噛むです。
◯(アネモネ)年度末の毎年の無為無策の光景を、「花水木」が詩的にとらえています。
花冷えのポストを統べる男かな ルカ
〇(ちせい)季語は「花冷え」。ポストを統べるとは大胆で印象的な表現だと思いました。
遮断機の分ける青空春惜しむ まきえっと
◎(ルカ)もう夏。春はあっという間に去ってゆく。
○(あちゃこ)分けているのは、過去?現在?かつての日常にある青空を思いやるせない。
(選外)(道人)遮断機が恋路を邪魔しているかのようにも想像が広がります。
出稼ぎの寮に故山の余花便り アゼリア
○(敏)県外に出ることを自粛させられている今だからこそ、目にした花便りに遠く離れた故郷への想いが強く募ったことでしょう。
◯(道人)帰るに帰れない今年の単身赴任者のようです。故郷に住む家族よりの「余花便り」が切ない。 「出稼ぎ」がやや古いかも。日本へ出稼ぎに来ている外国人なら「故国の花便り」かも。
○(餡子)せっかくのゴールデンウイークも帰郷できずにいる。故郷の家族から、手紙が届く。今は、パソコンやスマホの画面で簡単に飲み会でもクラス会でも出来るようになってきましたが、やはり手紙がうれしいですね。
○(あちゃこ)三枚の写真から出稼ぎへ?作者にしか分からない郷愁。
〇 (多実生) こんな現実も有りそう。
◎(春生)「出稼ぎの寮」を想像したのが手柄。
踏切の竿高々と揚雲雀 春生
〇(仙翁)上を見上げている様子が見えます。
〇(珠子)大きな駅を出て数分もするとそこはもう田園風景、雲雀も蛙も蛇もいる豊かさ。
○(あちゃこ)どこまでも高く上がれ揚雲雀。わずかな希望を感じます。
(選外) (道人)勢いよく上がる踏切棒と揚雲雀の取り合せがいいですね。
寂しそうに立っているのです。
日本の、こんな明るい五月晴れの空の下より、
暗くて霧深い、倫敦がきっと恋しいのですね。
五月になって次第に暖かくなって来ました。新型コロナは紫外線には弱い、という専門家の意見があったので、そろそろ収束か、と期待しています。今まで感染しなかったのは、全くの幸運です。