まだ若い大将がやっている焼き鳥屋がある。
もともとはアラカルトのバル風焼き鳥屋だったのが、2020年の夏にリニューアルをして、コース1本の高級志向の焼き鳥屋になった。
こだわりの強い、端整な顔立ちの大将。やや気短なところもあり、ただし若いこともあってか、微笑ましい。
こちらの店も、日々試行錯誤を重ねて、進化しようとしている様子である。
最初の1品にスペシャリテを持ってくるという印象。
夏はトリュフを、冬はキャビアを、本人はけっして「映え」を意識しすぎることなく、適宜用いているという感じで、好感がもてる。
映えを意識するなら、もっとキャビアを前面に出してくるだろう。
そして、器が良い。奈良県の辻村塊さんの作品を多く使っている。器のことを語る大将は、何となく少年のようである。
肝なども美味い。
普段は飲んでも日本酒半合、あるいはハイボール1杯、あるいはシャンパン1杯のワタシだけれど、こちらのお店では日本酒を2合飲んでもまだ足りないほどである。
要は、美味しくて気分も居心地も良くなると(そして翌日の仕事が休みだと)酒量が増える。増えるといっても、まあ日本酒2合程度、シャンパン4杯程度なのだけど。
もものたたきが出てくると、とても嬉しい。
脂があまくていくらでも食べられるような気さえする。
そして粒胡椒だけで日本酒がススム、ススム。
茶碗蒸しもコースの中に組み込まれている。茸たっぷり、チーズも入った濃厚な茶碗蒸し。
時々、これがもう少し透明感のある、香茸の茶碗蒸しになったりもする。
リニューアルしてからずいぶん足繁く通い、すっかり器と味の虜になってしまった。
鶏スープも美味い。時々味の薄い濃いの違いはあるものの、職場のウォーターサーバーに入れてほしい美味さであることには違いない。残業も苦にならないはず。
初期のころは野菜は好きなものを2種選ぶというシステムだったが、いつのまにかおまかせで出てくるようになった。秋はやはり銀杏。まるで宝石のようにきらきらとしている。この写真はベストの撮れ方ではないナ。
もっちりとして、適度な苦みがある。秋の味覚である。
他、舞茸も非常に美味い。炭火で焼いた舞茸のとんでもない美味しさを、ワタシはこの店で知った。
もちろん焼き鳥屋なので、コース後半は串である。
焼き台のまえで、大将が汗を光らせて火入れをしている。特等席(店に入って左の奥角席)だと、時々弾けた炭が飛んでくるので危ないといえば危ない。
ねぎがあまくて美味しいのも良い。鶏だけが美味しければいい、というわけではないのだ。
この店ではじめてせせりを食べたときも感動した。大根の鬼おろしとぽん酢がかかっている。このぽん酢に、鶏のあまい脂が滲みだして、これがまた日本酒によく合う。人目を気にしてこっそり口に含み、日本酒を呑もうとしたら、隣で連れがまったく同じことをしていた。
手羽は少し歯ごたえがある。
気配り上手の女性スタッフが、きちんとこのあたりでおしぼりを替えてくれる。ので、遠慮なく手で持ってかぶりつくのが良い。
それからつくね。
ふわふわ、中に少しレア感が残っている。何度食べても「美味いなあ!」と感嘆の声をあげてしまう1串。
他、カタやもも、ハラミやちょうちんなど、その時々で美味しいものをコースに組みこんでくれている。
追加の串、〆、酒は別で6000円程度のコース料金だが、それだけの満足感、それを超える満足感があるので通ってしまう。一通りのコースが終わってまだお腹に余裕があれば、大将に追加の串をお願いする。
そして最後に、〆。
もちろん〆を頼まず店を出る人もいるが、ワタシは〆を我慢することができない。
〆はラーメン、そぼろ丼、親子丼、雑炊、焼きおにぎり。
雑炊以外はすべて食べたことがあるが、最近はずっと焼きおにぎり。
こんがり焼いたおにぎりに卵黄を乗せ、昆布チップを振ってある。そこらへんの安い焼き鳥屋でも「月見焼きおにぎり」などとしてこういうメニューは置いてあるけれど、やはり味わいが違うなあと思う。
2020年の秋冬は、月に2度ほどの間隔で通っていた。