国家安全保障 マス・メディアにおける論議 1990年代
読売新聞と朝日新聞 1997年/1998年/1999年
読売新聞 1997年
1996年12月に発生したペルー・日本大使公邸占拠・人質事件について、
1997年2月3日の社説で、
テロリストの要求に屈しないペルー政府を支持し、
1997年2月19日の社説では、
日本のテロ対策が不十分であると指摘している。
1997年6月13日の社説
では、
「決して屈してはならない」
と主張している。
こうした、危機に対し有効に処するため、
1997年5月2日の社説では、
憲法解釈の変更をふくむ抜本的な内閣法の改正を主張、
特に、首相の権限強化を訴えている。(1997年3月7日の社説)
1997年8月8日の社説「憲法論議の機は熟している」
では、
世論調査では国民は憲法改正に賛成していると指摘、
しかし、この機運を阻む、
親ソ連だった社民党の「護憲」姿勢を批判している。(1997年6月5日の社説)
1997年4月27日の社説「より確かな同盟関係の構築を」
では、
「日米安保共同宣言」で、日米安保体制の再定義をしたことを評価、
日米同盟に隙ができないよう訴えている。
そのためガイドラインのとりまとめを急ぎ、東アジア情勢に対処できるよう求めている。
1997年8月10日の社説「指針協議は国の安全を優先せよ」
で、
加藤紘一・自民党幹事長が、
「周辺事態に中国・台湾は含まれない」
とした発言を批判、
また中国に配慮して及び腰になっている政治家の存在を指摘し、
日本の安全を最優先したガイドラインの策定を要求している。
1997年3月26日の社説では、
沖縄に配慮して、
アメリカ海兵隊を削減することに反対している。
1997年の読売新聞は、危機管理体制の向上と、そのための首相権限強化、そして日本の安全確保のための日米同盟の強化と、それを確実なものとするガイドラインの早期策定を主張している。
読売新聞 1998年
1998年3月22日の社説(注35)と、
1998年8月24日の社説
では、
ガイドライン策定による日米同盟の強化と、
日本の防衛の向上をもとめ、
その具体的な対応として、
1998年12月27日の社説「TMD推進で抑止力の強化を」
で、
TMD(戦域ミサイル防衛)を日本が導入することが抑止力につながると主張、
1998年9月15日の社説「専守防衛の質高める偵察衛星」
では、
弾道ミサイルの早期発見につながる偵察衛星を専守防衛に反しない有効なものとして、導入を提言、
宇宙開発の平和利用国会決議にも反しない、
と指摘している。
また、いくつかの社説では、北朝鮮の脅威に対しては日米の協調が重要であると指摘している。
読売新聞 1999年
1999年の3月23日に発生した北朝鮮の工作船事件に対し、
読売新聞は
3月25日、4月27日、5月3日
に特集を組み、
日本の防衛法制の欠陥を指摘している。
その欠陥を是正すべく、
読売新聞は
5月3日に自衛隊への領域警備任務付与、武器使用基準の整備、首相権限の強化、その他法制の整備
を進めるよう提言している。
3月14日、4月27日、5月25日
には
日米防衛協力のための指針の早期成立と、
その東アジアの安全保障に与える意義、問題点を指摘している。
また、有事法制、通信傍受法の制定の促進を訴えている(6月17日、6月2日)
民主党に、責任政党としての憲法論議を求め、自民党と民主党ともにお憲法改正に動き出すことを求めている。(7月7日など)
1999年の読売新聞は、日本人の安全保障感に重大な影響を与えた北朝鮮の工作船事件に触発され、新法の提言を掲載するなど、防衛政策に積極的に取り組んでいる。また、日本の安全の強化のため、日米同盟の充実、ガイドラインについての記述が多い。そのはか、日本の安全保障環境を向上させるための主張、提言が多かった。
朝日新聞 1998年
1998年(平成10年)4月29日の社説「周辺事態法 このまま通してはならぬ」
において、
「どれをとっても従来の防衛政策からの決定的な転換である。」
と主張している。
さらに
「米国主導による紛争対処への協力者として一定の役割を担い、それを日本の官民が支える。そうした枠組みが、この法案に他ならない。」
と続けている。
台湾問題においては
「とくに、中国と台湾の紛争は『周辺事態』にふくまれないと、はっきりさせる必要がある。」、
「『ひとつの中国』政策に沿った明確な判断を示すべきときだ。」
と、
かなり中国の政策を擁護している。
1998年11月7日の社説「情報衛星 短絡的導入の危うさ」
では、
情報収集衛星導入に対し、
「宇宙の平和利用に反する」
と、
異を唱えている。
日本はオープン・スカイに力を入れるべきで、情報収集衛星はアメリカへの情報提供につながると懸念している。
1998年の朝日新聞は、相当追い詰められた感のある主張になっており、日本の防衛に関することはとにかく反対、平和活動に専念せよという、理不尽なものになっている。
朝日新聞 1999年
日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連の社説が5本あり、ガイドライン関連法成立阻止に向けた怨念が感じられる。
そのなかで、
1999年(平成11年)3月13日の社説「ガイドライン法案審議に 『日米中』の将来を語れ」(注15)
において、
中国との関係の重視を提言している。
しかし、具体的方策は述べられていない。
その他のガイドライン関連社説においても、
従来の主張と変わらない、
日本は軍事協力すべきでない、
平和に向けた予防外交を、
といった実現性のないものである。
ガイドライン関連法案とは直接的には関係ないと思われるが、
1999年5月21日の社説「TMDが緊張をつくる ガイドライン法案審議に」
では、
中国、ロシア、韓国の反対や、
TMDの技術的実現性、
相互確証破壊理論の崩壊の危機、
アジアへ緊張をもたらす、
との理由で反対している。
核の傘という抑止力を非難してきた朝日新聞が、
ここにきて相互確証破壊理論をもちだしていることは、
日本のTMD研究を阻止するためなら手段を選ばないとの意思表示のようである。
1999年7月19日の社説「空中給油機 導入は間尺に合わない」
において、
冷戦期ならともかく、
脅威のない今、
航空機による大規模侵攻はなく、
空中給油機は必要ない、
との主張であるが、
冷戦期においても空中給油機はおろか、
マクドネル・ダグラスF-4ファントム戦闘機導入の反対、
F-15イーグル戦闘機の装備削減
を主張してきた朝日新聞は、
過去の言質を問いただす必要があろう。
ミサイル基地への先制攻撃については、
周辺国家の警戒があると社説では述べられているが、
日本の危機と周辺諸国の警戒のどちらが重要なのか、
認識が問われる。
1999年10月20日の社説「これはひどすぎる」
では、
西村慎吾防衛政務次官の核保有論議推奨を
「核の保有や製造、持ち込みを禁じた非核三原則は、唯一の被爆国として、核兵器の廃絶を目指す国民合意の結実であり、東アジアや世界の平和の土台のひとつである。それを西村氏は踏みにじった。」
と、
強い調子で非難している。
非核三原則は核兵器の保有を論じることまでは禁止しておらず、
これを禁止しようものならば、それは言論の自由に反する。
そして、非核三原則は国会決議に過ぎない。
核兵器保有に反対する、TMDにも反対する、朝日新聞。
1999年の朝日新聞は日本の先行軍縮による国際情勢の緊張緩和という実現不可能な妄想と、それによって結果的にもたらされる日本の防衛弱体化をすすめるため、手段を選ばず、論理も破綻して、迷走している。