新潟久紀ブログ版retrospective

新潟独り暮らし時代48「鈴木辰治ゼミへの留学生(その5)」

●鈴木辰治ゼミへの留学生(その5)

 新潟大学経済学部の鈴木辰治教授ゼミを卒業した先輩の就職先というツテを頼りに、世界的に名の知れた大手エンジニアリング企業幹部との面談の機会は、先輩とやりとりして対応して頂く役員の方の都合を調整した結果、昭和61年2月上旬にセットされた。
 向かう先は当該企業の本社がある神奈川県横浜市。出向くメンバーは言い出しっぺのブラジル人留学生とゼミ長である私は当然として、せっかくの機会だからと他のゼミ員達にも打診してみた。皆がその春から就活を控えるものの、行く先の業種に関心が薄かったのか、反応は鈍かった。石油資源開発などのエンジニアリング企業というのは日常生活からは馴染みが薄かったこともあったのかも知れない。それでも副ゼミ長と関西弁のあるタイガースファンの元気なゼミ員が一人、同行に応じてくれた。これで4人体制。行動するにもこのくらいが丁度良いかもしれない。
 貧困の大学3年生が遠く横浜まで旅行するわけだから、交通費はできるだけ抑えたい。新幹線などもってのほかなので、当時運行して間もなかった新潟から東京池袋までの高速バスを利用することに。当時は片道5,000円で往復で購入すると一割引ではなかったか。とにかく新幹線の半分程度で都心にダイレクトにアクセスできるのは魅力だった。
 しかしやはり安いものにはリスクが…。新潟東京間の高速バスは、途中主要な都市に停車しながら片道所要5時間程度か基本だったと思う。ところが、時期は2月でしかも3年連続の豪雪になる年であった。新潟市内というのは新潟県内では例年比較的少雪の地域なのだが、起点となる万代シティバスセンターではボサボサと雪が降り続いていて、発車は12:00だというのに厚い雪雲のためにあたりは薄暗いほどだった。
 それでも、日本海側と太平洋側の境となる三国山脈を貫く関越トンネルを越えれば嘘のような好天が待っているよと互いに励まし合って、我ら大学3年生3人とブラジルからの留学生1人はバスの指定席に乗り込んだ。
 これは降雪のための渋滞になりそうだな。既に中古車を所有して普段から界隈を乗り回していた私は、新潟県内外の道路事情が大方見当がつくようになっていた。この雪の降り方だと定刻に池袋には着けないだろう。途中で事故にでも巻き込まれたらなおさらだ。
 時期的にそんな想定もあったので、我々は余裕を見て都内に前泊する段取りで旅程を組んでいた。大企業の幹部と面談ということなので、皆がスーツで赴こうと決めていたのだが、道中の荷物を嵩張らせたくないので、最初から皆が着込んでいたのだ。
 案の定、高速バスは新潟県内で途中乗車させるために停留する度に、各々の予定の時刻を遅れ始めていった。経路の中間になる関越トンネルに入るまでで全体の予定時間に達するほどだった。狭いバスの座席で同じ姿勢を強いられていると、慣れないスーツを着ているのが仇になった。肩肘が凝る一方でシワにも出来ないからお行儀良くしていなければならない。乗車時間が5時間6時間と過ぎていくと悶絶しそうになる苦しさだった。
 更に可哀想だったのが、留学生の彼だ。ブラジル仕立てのスーツは自国ではエリートの彼らしく良質なものだったが夏物であり寒いことこの上ない。「サンパウロで冬物スーツなんて無いよ」と大雪の中の走行で暖房の効きも悪いバスの座席で震えながら話していた。新潟在住の親戚からはそこまでのきめ細かなアドバイスは受けていなかったようだ。
 退屈しのぎをするスマホも無い時代なので、各々が自前のウオークマン(懐かしい)でカセットテープを聴いたり、それも飽きてしまうと、冗談を言い合ったり仮眠してみたりで時間をつぶしをしていると、なんとか事故も無く池袋に到着したのはなんと21時過ぎ。あれだけうんざりしながら眺めてきた雪が全く無い池袋に喜ぶ元気もなくヘタれ切っていた我々は、明日の企業訪問の待ち合わせ時間と場所だけを確認すると、都内の親戚筋や友人宅など各々で確保していた前泊の宿へと散らばっていった。別れ際に私は疲れて声も出なかった。

(「新潟独り暮らし時代48「鈴木辰治ゼミへの留学生(その5)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた独り暮らし時代の思い出話「新潟独り暮らし時代49「鈴木辰治ゼミへの留学生(その6)」」に続きます。)
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