注意:残虐表現が含まれます。
D-4、魔神城。広大な城の廊下に、キン肉万太郎は立っていた。
その顔や青を基調としたボディスーツには、所々血痕が付着している。
彼自身の血ではない。彼の目の前で殺された、彼の父親の血だ。
「父上……」
泣き出しそうな表情で、万太郎は呟く。
スケベで、口やかましくて、情けなくて……。それでも、あの人は紛れもなく誇れる自分の父だったのだ。
だが、その父は死んだ。いかに奇跡の逆転ファイター・キン肉スグルといっても、頭を木っ端微塵にされて生きていられるはずがない。
「僕の……せいなのか?」
重い悔恨を含んだ言葉が、万太郎の口から漏れる。
あの時自分がよけいなことを言わなければ、父が殺されることはなかったのではないか?
父を殺したのは、自分ではないか?
そんな考えが、万太郎の心をよぎる。
「いや、違う!」
だが万太郎は、自らその考えをきっぱりと否定した。
確かに、自分のも責任はあるかも知れない。だが、直接殺したのは紛れもなくあの少年だ。
ここで自分を責めていたところで、父は喜んでくれないだろう。自分が父のためにやるべきことは、正義超人としてこの殺し合いを潰すことだ。
「見てろよ! 僕は必ずこの殺し合いをぶっ壊す! そして、父上の仇を討ってやる!」
目に炎をともし、高らかに万太郎は叫ぶ。だが彼は、背後から人影が迫っていることに気づいていなかった。
その人影は万太郎のすぐ後ろに忍び寄り……
「わっ!!」
「ひぃっ!」
「にゃは、大成功ー♪」
……大声を出して、万太郎を驚かせた。
「ひどいなあ、何するんだよ!」
「いやあ、すまんすまん」
ばつが悪そうに、万太郎は自分を驚かした相手に抗議する。抗議された側……金髪の女性は、いたずらっぽい笑みを浮かべて彼に謝罪した。
「しかし、思ったより元気そうでよかったわ。目の前で親父さん殺されるなんてめっちゃショックなことやから、もう少し落ち込んでると思うとったんやけどな」
「え……? ああ、そうか……。お姉さんも、あの瞬間見てたんだね」
「ああ、正直、胃の中のもん全部ぶち撒けそうになったわ。なんとか踏みとどまったけどな」
その時のことを思い出したのか、女性の顔が曇る。
「さっきあんたを見つけた時は、落ち込んでるようやったら微力ながら励ましてやろう思うたけど……。
あんだけの啖呵張れるんやったら、うちが出しゃばるまでもなさそうやな」
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいよ。けど、なんで見ず知らずの僕のためにそんなことしようと……」
「見ず知らずやろうがなんやろうが関係ない。うちは教師や。青少年が困っとったら助けたるのが筋ってもんやろうが」
女性はニコリと笑って、親指を立てる。
「そういえば、まだ名乗ってへんかったな。うちは黒井ななこや。
うちも、殺し合いなんぞやる気はない。よかったら、一緒に来んか?」
「喜んで! あ、僕はキン肉万太郎です!」
ななこが差し出した手を、万太郎はギュッと握りかえした。
「それにしても少年、熱くなるのはええけど、周りも確認せずに大声出すのは不用心やぞ?
近くにおったのがうちやからよかったけど、もし殺し合いやる気になっとる奴やったら後ろからぶすりと……」
ぶすり
「え……?」
ななこの肩から、鮮血が飛び散る。そこには、鉄の矢が突き刺さっていた。
「うあああああ!!」
絶叫と共に、ななこが崩れ落ちる。その彼女に止めを刺すべく、背後の闇から再び矢が放たれる。
「危ない!」
しかしその矢は、ななこの前に躍り出た万太郎の蹴りに叩き落とされた。
その直後、足音が遠ざかっていく。どうやら矢を撃った張本人は、攻撃が失敗したと見るや即座に逃げ出したらしい。
「逃がすか! ……っと」
追いかけようとする万太郎だが、すぐにななこの存在を思い出し踏みとどまる。
「ななこさん! 大丈夫?」
万太郎の呼びかけにもななこは応えず、ただ荒い息を吐いている。
(辛そうだ……。そりゃそうだよなあ、こんな矢が刺さったら、僕らみたいな超人でもそうとう痛いのに……。
くそっ、何か治療できる物はないのか!)
顔をしかめ、万太郎は自分のデイパックをあさる。
(地図や筆記用具なんてどうでもいいんだ! 包帯とか痛み止めとか、そういうのはないのか!)
求めるものが見つからず、万太郎に焦りが募る。しかしある物を見つけ、その手が止まった。
「これは……」
それは小さな袋に入れられた、バンダナと写真だった。写真に写っているのは万太郎の父、キン肉スグル。そしてその親友、テリーマンだ。
万太郎は以前に、これを見たことがあった。このバンダナはスグルが肌身離さず持っていた、親友からの贈り物なのだ。
「父上……」
改めて父のことを思い出し、目尻に涙を溜める万太郎。だが、すぐに今はそれどころではないと持ち直す。
(使わせてもらうよ、父上。人の命を救うために使うなら、父上も文句なんて言わないよね?)
万太郎はななこの肩から矢を抜き、そこにバンダナを巻き付ける。そして、ななこの体を背負いあげた。
「ごめん、ななこさん。もっとちゃんとした治療しないといけないのはわかってるんだけど……。少しだけ我慢して!」
一刻も早く治療しなければならないのはわかっている。だが万太郎の心には、卑劣な襲撃者への怒りが燃えていた。
せめて一撃、あいつに喰らわせてやらなければ気が済まない。
守るべきか弱い人間を背負い、正義超人・キン肉万太郎は石造りの道を駆ける。
◇ ◇ ◇
そして万太郎のはるか前方を走る、鎧姿の男が一人。その名はサー。前魔神の代理人にして、裏切りの魔物。
サーは混乱していた。ようやくユマを倒し、魔神の力を手に入れられると思った矢先にこの殺し合い。
支配した魔物も持っていた風電の剣もなく、気が付けばこの住み慣れた魔神城に立っていた。
(いったい何が起こっている……。デルトリアの力の暴走か?
まあ、こうなってしまったものは仕方ない。遠回りになってしまったが、ここにいる連中を皆殺しにすればデルトリアに願いを叶えてもらえるんだ……)
気持ちを切り替え、サーはとりあえず最初に見つけた女を支給品のボウガンで襲撃した。
しかし、使い慣れない武器ということもあって狙いを外し、一撃で殺すには至らなかった。
そして一緒にいた男からの反撃を恐れ逃走し、今に至るというわけである。
(あの男、筋肉質で見るからに強そうだったからな……。正面からぶつかるのは得策じゃない。
なに、こっちはこの城の構造を知り尽くしてるんだ。ある程度距離を取ったら、また奇襲を仕掛けてやるさ)
大いなる野望を胸に、卑劣なる騎士・サーは石造りの道を駆ける。
【1日目・深夜 D-4 魔神城内部】
【キン肉万太郎@キン肉マンⅡ世】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、キン肉マンとテリーマンの写真@キン肉マンⅡ世、不明支給品0~2
【思考】
基本:主催者を倒し、父の敵を討つ。
1:ななこを攻撃した相手を懲らしめる。
※悪魔の種子編終了直後からの参戦です。
【黒井ななこ@らき☆すた】
【状態】右肩負傷、痛みで意識朦朧
【装備】友情のバンダナ@キン肉マンⅡ世
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。
【サー@世界征服物語】
【状態】健康
【装備】ボウガン@ツバサ、ボウガンの矢×28
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:優勝し、デルトリアに願いを叶えてもらう。
1:追跡を撒き、もう一度奇襲をかける。
※単行本1巻、由真に叛乱を起こした直後からの参戦です。
※支給品紹介
【友情のバンダナ&キン肉マンとテリーマンの写真@キン肉マンⅡ世】
キン肉マンが肌身離さず持ち歩いていた、テリーマンからの贈り物。
テリー・ザ・キッドのキン肉マンに対する偏見を解くきっかけとなった。
二つセットで一つの支給品扱い。
【ボウガン@ツバサ】
東京の「都庁」のメンバーが、自衛に使用していた武器。
専用の矢30本とセットで支給。
前の話
次の話