森の中、歳不相応の上等な背広を着た、赤髪の少年が一人。
彼、ネギ・スプリングフィールドは、静かに怒りを燃やしていた。
(罪もない人たちを集めて殺し合いを強制させるなんて……。許されることじゃない!)
名簿に連ねられた約50人の名前を眺めながら、ネギは心の内で叫ぶ。
その中の一つ、下の方に記された「キン肉スグル」の名には、ご丁寧に赤い線が引かれていた。
おそらく、最初に殺された老人の名前なのだろうとネギは推察する。
(あの人だって、こんなくだらないことで殺されていい人じゃなかったはずだ!
それに、僕と一緒に連れてこられているみんな……。小太郎くんも、のどかさんも、那波さんも死んでいいはずがない!
あの少年がどれだけの力を持っているのか知らないけど……。絶対に倒してこの殺し合いを潰してやる!)
胸に溢れる熱い思いのままに、ネギはこの殺し合いの破壊を決意する。
そうと決まれば、動かないでいる理由はない。まずネギは自分の現状を確認すべく、デイパックの中を調べようとする。
だが、その腕はすぐに止まった。何者かの接近を察知したからだ。
(僕と同じように殺し合いに乗ってない人だったら、仲間を増やすチャンスだ。
だけど、殺し合いに乗ってる人だったら……)
戦闘に備え、ネギは拳を固める。やがて、木の陰から一人の男が姿を現した。
それは、漆黒の衣服に身を包んだ端整な顔立ちの青年だった。
「あなたは……」
青年に語りかけようとするネギ。だがそれを遮るように、青年は叫んだ。
「いい!」
「はい?」
その言葉の意味が理解できず、ネギは思わず気の抜けた声を漏らす。それにかまわず、青年はさらに言葉を続けた。
「そのかわいらしい顔立ち! 少年独特の未発達な体のライン! 実にいい!
ここに連れてこられた時はどうなるかと思ったが、君のような美少年に会えるとはまんざら不幸でもなさそうだ!」
一人で勝手に盛り上がる青年。ネギはそのテンションに付いていけず、顔に汗を浮かべている。
「あのー、もしもし?」
「あっと、失礼。私はイシマという者だ。よかったら、君の名前も聞かせてくれないかな?」
「あ、はい……。僕はネギ・スプリングフィールドといいます」
「ネギくんか……。いい名前だ」
「どうもありがとうございます」
イシマの独特の雰囲気に振り回されつつも、ネギはその友好的な態度に安堵を覚える。
「ところでネギくん。一つお願いがあるんだが」
「なんですか?」
「これ、着てみてくれないか?」
そういってイシマが自分のデイパックから取り出した物。それは、キラキラと光り輝くメイド服だった。
「え……?」
予想外の展開に言葉を失うネギだったが、数秒おいてから我に返る。
「いや、これって女性用の服ですよ?」
「そんなことは承知の上! 美少年は女装も似合うのだよ! むしろこれだけかわいい服なら美少年が着るべき! さあ!」
「ひいいいいい!」
妙な迫力で迫るイシマに、圧倒されてしまうネギ。しかし、そこへ救いの手がさしのべられる。
「初対面の相手になにやっとるか、この変態がー!!」
飛び出してきたのは、長い黒髪をたなびかせた大人っぽい雰囲気の女性。
その華麗な跳び蹴りが、イシマに命中する。
「おや、オル……早乙女先生。怒るとしわが増えますよ?」
「この状況で再会して、最初に言う言葉がそれかい!」
顔面に蹴りを食らったにもかかわらず平然と憎まれ口を叩くイシマに、「早乙女先生」と呼ばれた女性はさらに怒号を浴びせる。
「あのー……」
「うん?」
美女と言っていい顔立ちを苛立ちで歪めていた早乙女だったが、ネギに声をかけられるとその表情はすぐに落ち着きを取り戻した。
「僕を助けてくれようとしていただいたみたいで……。ありがとうございます」
「ああ、いいのよ。いつものことだから」
ぺこりと頭を下げるネギに対し、早乙女は笑顔で返す。
「それに……そんなこと言われたらやりにくくなっちゃうじゃない」
「はい?」
言葉の意味がわからず困惑するネギだったが、すぐにその困惑は衝撃に打ち消される。
彼の見ている前で、早乙女の姿は変貌を始めたのだ。
上半身を覆っていた暖かそうなセーターは、露出の多い蠱惑的なボンデージコスチュームに変わる。
耳はとがり、背中からはコウモリのような黒い羽根が、腰からはしっぽが生えてくる。
その姿は、まさに悪魔そのものだった。
「ごめんね、坊や。お姉さん、殺し合いに乗ることにしたの」
けだるげな表情でそう告げると、早乙女は両手で体の前に丸を作る。そこに魔力が集められ、エネルギーのボールを作り出す。
「お命、戴きます」
死刑宣告と共に、早乙女はエネルギー球を飛ばした。
「戦いの歌(カントゥス・ベラークス)!」
思いも寄らぬ攻撃に一瞬とまどったネギだったが、すぐに頭を戦闘モードへと切り換える。
身体能力強化の呪文を唱え、自分に迫り来るエネルギー球を回避した。
(こっちも杖があれば、魔法で対抗できるんだけど……。入ってないのか?)
狙いを付けられないよう走り回りながら、ネギは自分のデイパックに手を突っ込む。
そして何かを感じ取り、手にした物を取り出した。
それは一見、道ばたにでも落ちていそうな木の枝だった。だがネギは、それから強い魔力を感じていた。
(これなら!)
さすがに自分が普段使っている杖とは違って格闘に用いるのは無理だろうが、杖としてなら十分に使える。
そう判断し、ネギは「木の枝」を構える。それに対し、すでに次弾を装填済みの早乙女も発射態勢に入る。
両者が激突しようとしたその時……。
「!!」
ネギの襟が、突如後ろに引っ張られる。
「逃げるぞ、ネギくん!」
その犯人は、イシマ。きょとんとするネギを引きずり、そのまま森の奥へと走り去っていく。
早乙女は、それを黙って見送っていた。
「はあ……。なんか毒気抜かれちゃったわね……」
目を伏せてため息をつくと、早乙女は人間の姿に戻る。
(しかし、ここで追撃しないなんて……。やっぱり甘くなってるわね、私。人間界に長くいすぎたかしら……)
近くの木に背中を預け、早乙女は自虐的な笑みを浮かべた。
(それでも私は、魔界に帰りたい……。あの魔神が本当に願いを叶えてくれるなら、ただ帰るだけじゃなくて魔界を手中に収めることだって……)
彼女は、主催者のことをほぼ全面的に信用していた。自分自身が高い魔力を持つ魔族であるがゆえに、魔神の力の強さを肌で感じ取ることが出来たのだ。
それ故に、「何でも願いを叶える」というのもあながち嘘ではないと早乙女は考える。
200年間望み続けた、魔界への帰還。今は、それを叶えるまたとないチャンスなのだ。
(そのためには、たとえ教え子をこの手にかけようと……。
吉田くん、和泉さん……。駄目な先生でごめんね……)
もう一度ため息をつくと、魔女は森の中に消えていった。
◇ ◇ ◇
(さて、どうしよう……)
森の中を走りながら、イシマは苦悩していた。
元々彼は、殺し合いに乗って願いを叶えてもらうつもりでいたのだ。
しかし偶然発見した美少年に思わず声をかけてしまい、気が付けば彼と共に殺し合いに乗った早乙女から逃げている。
同行者であるネギから見れば、とても殺し合いに乗っているようには見えないだろう。
今からでも軌道修正は十分に可能だ。しかし一度予想外の方向に進んでしまうと、本当に元に戻していいのかという迷いが生まれてしまう。
(正直、こんな美少年殺す気にならないしなー……。あー、本当にどうしよう……)
奇妙な葛藤にさいなまれながら、イシマは森の中を駆け続ける。
【一日目・深夜 E-5 森】
【ネギ・スプリングフィールド@魔法先生ネギま!】
【状態】魔力消費(小)
【装備】大地の杖@世界征服物語
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:主催者の打倒。
1:イシマと行動する?
2:小太郎、のどか、千鶴と合流。
※麻帆良祭終了直後からの参戦です。
【イシマ司令@それじゃあ吉田くん!】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、光のメイド服@らき☆すた(小説版)、不明支給品0~2
【思考】
基本:殺し合いに乗ろうかやめようか……どうしよう。
1:早乙女から逃げる。
2:このままネギと行動する?
3:とりあえず、吉田は殺す。
※単行本2巻終了後からの参戦です。
【早乙女ヒカル子@それじゃあ吉田くん!】
【状態】魔力消費(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:優勝して願いを叶えてもらい、魔界に帰還する。
1:見つけた参加者は誰であろうと殺す……つもり。
※単行本2巻終了後からの参戦です。
※支給品紹介
【大地の杖@世界征服物語】
魔神復活に必要な、六つの秘宝のうちの一つ。神官レント・レントが所持する。
見た目はただの木の枝だが、地面に突き刺すと土を操ることが出来る。
【光のメイド服@らき☆すた(小説版)】
ななこ先生の砦に保管されていたレアアイテム。
魔法使いが着ると何かが起きる……?
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