日向国、日本書紀に記されている神話の舞台。それもあるのだが、今日は青い空と海が舞台だ。日向灘は、コバルトブルーの輝きを見せてくれていた。青島付近に差し掛かると、岩に砕ける波が一層美しくなった。路側帯に、スカイラインを止めると、僕はカメラを取り出してシャッターを切った。「35ミリを持って来るんだった!50ミリだと画角が足りない!あー、不覚をとっちまったなー!」僕が地団駄を踏んでいると、みんなが集まった。「Y先輩、レンズの選定を誤った様ですが、何が違うんです?」千絵が不思議そうに言う。「画角の問題さ!標準レンズじゃあ、この雄大な景色は、収まらないんだよ!覗けば分かるが、50/F1,4だと無理があり過ぎる!」「ふむ、見た目がほぼ一緒ですよね?もっと広い範囲が写せるレンズにすべきだったと言うんですか?」「ああ、35/F2.8か、28/F2.8にすべきだったよ!」僕がガックリしていると「Y,“標準レンズ”って、どう言う意味なの?」岩崎さんが小首を傾げていた。「あー、分からないですよね!まず、レンズのミリ数つまりは基本的に数字が小さくなる毎に、写る範囲は広がります。見た目も広く見えるんです。ただ、人の目は、大体45度くらいの視野ですから、それと同じ範囲が見えて写るレンズが、50ミリ。故に“標準レンズ”と言われるレンズが50/F1.4と言う訳ですよ」「そうなんだ。じゃあ、カタログに載ってる写真はどうしてるの?」「レンズは色々と使いわけて分けて撮影してます。ただ、ボディは“新機種”を使いますよ。最終試作が完了した段階で、撮影開始なんです。そうしないと、発売日に間に合わなくなるんで。撮影地は海外やスタジオですね。結構費用はかかってますよ!」「例えば、“8ミリ”なんてレンズがあったとしたら、どう写るの?」「“魚眼レンズ”ですから、まん丸な絵になりますね。360度が写るんで、空に向けて森を写すとか、用途は撮影者の使い方次第ですね。学術的な用途向けですよ」「反対に“500ミリ”とかは?」「サバンナに行って野生動物を撮ります?象とかライオンとか、接近戦に持ち込みたくない場合や、山奥の秘境にある滝の紅葉を狙うとか、超望遠レンズですから!」「そんなレンズがあるのが、怖いくらい。お値段もそれなり?」「8ミリなら1本30万、500ミリなら1本100万はしますよ!車と変わらない相場の話になりますよ!」「ひぇー!相場がまるで違うのね!ちなみにYが持ってるセットは?」「10万超えてますよ!11万5千円だったかな?」「ヒー!1ヶ月のお給金の半分が飛んでくの?永田ちゃん!Y先輩に返して!やたらと触っていいモノじゃないよ!」千絵がそーとカメラを僕の手元に返して来た。「これでも安い方さ。恐れる必要性は無いよ」と僕は言うが「されど約12万、壊したらバチが当たる!」とみんなは恐れをなして引き下がった。車に戻り、“鬼の洗濯岩”付近を目指して南下を再開すると、南国らしい風景が続くワインディングロードが現れた。スカイラインは苦もなくコーナーを駆け抜けて行く。「Y,やっぱり男の子だね。コーナーからの立ち上がりとか、ハンドルさばきが全然違うもの!」と後席の岩崎さんが言う。「FRならではの走りが出来るのは、エンジンのトルクがモノを言いますからね。ターボ車の特性にやっと慣れて来ましたよ」スカイラインは快調に疾走して行った。
“鬼の洗濯岩”で撮影を済ませた僕等は、鵜戸神宮に立ち寄った。「別名“運動神宮”よ。」「本殿までしっかり歩いてね!」とみんなが言う。歩き出すと直ぐに意味が理解出来た。岬の突端近くにある本殿まで、丘を越えて行かねばならないからだ。健脚を競って本殿へ辿り着くと「みんなの健康と改革の成功を祈念して!」と岩崎さんが言い賽銭を投げて祈りを捧げた。しばらく自由な時間を取ると、千絵達は御守りの吟味に向かった。「Y,昨日、あたしが話した事覚えてる?」と岩崎さんが問うた。「ええ、覚えてますよ」「Y,“おばちゃん達”は一筋縄では行かないわよ!そこをどう突破するつもり?」「時間はかかりますが、“相互乗り入れ”をやろうと思います。今は、岡元さんが決めた“規定路線の範囲内”でしか回っていませんが、あれだと誰か1人が休んだらアウトなんですよ!おばちゃん達の壁を取り払って、誰もが“何が来ても対応可能な人材”に育て直す。まずは、僕が“マルチプレイヤー”になる事。次は、技術を横に展開して行きます。専門家は必要ですが、それは1部の製品だけに絞り、複数でより早く返せる体制にする。キャップもベースも返せる人材に育て直して、よりスピードを重視します。確かに、一筋縄では変わらないでしょうが、1度でも好循環に乗せられれば、恩恵は図り知れません。1人に負担を強いるのでは無く、みんなでカバーし合える関係に持って行くつもりですよ!」「それが実現すれば、あたし達も相当楽になるわね。余裕を持って検査が出来るし、質も上がる!時間にもゆとりが生まれるから、徳田達も慌てずに済む。“岡元体制”を“Yのカラー”に染め直す。何か、貴方が言うと本当に実現可能に思えるから、不思議よね。手は回ってるの?」「ええ、足りない治具の製作依頼は出してあります。F社向けの新製品の治具製作に紛れて、必要なモノは揃えます!」「後は、Yの腕次第か。目星は着けてあるんでしょう?」「その第1歩が、ホワイトボードですよ!目先を変えれば、見えて来るモノもあります。否応無しにすれば、余計な事にかまけてる暇も無くなります!人は1度楽をすれば次からはもっと楽をしたがる。そこを突いてやれば壁は崩れる!」「戦略に抜かりは無い様ね!Y,思い切ってやりなさい!改革は貴方の腕にかかってるの!掩護はしてあげるから思う通りにやって!」「はい、やりたい様にやらせてもらいます!」2人で語り合っていると3人が袋を手に戻って来た。「Y先輩、これを!」3つの恋愛成就の御守りが届けられた。「あー、ズルい!あたしも行って来なきゃ!」岩崎さんが慌てて御守りを買いに行く。「岩崎先輩と何を話してたんですか?」千絵が気になる事を問い質す。「これからの改革の進め方さ。特にウチの“おばちゃん達”をどうするか?について、真剣に話してたよ」「本当ですか?嘘言っても通じませんよ!」と千絵は僕の腕をねじ上げ様とする。「おっと!その手は食わないぞ!逆にこうしてやる!」と言って、千絵を背後から包み込む様に抱いてやる。「馬鹿!もっとしっかりと抱きなさいよ!」と千絵は言うが、満更でもないらしく大人しくなった。「やれやれ、手のかかる子だこと!Y,これ持っててよ!」岩崎さんからは大願成就の御守りが手渡された。「あたし達の改革の成功を祈って。そして、その波が事業部全体を動かす大きなうねりになる様にね!」僕と岩崎さんは、ハイタッチを交わして誓いを確かめた。再び丘を越えて車に戻る頃には、全員が腹ペコになっていた。「“運動神宮”恐るべし!」「でしょう?甘く見るとヘトヘトになるの!あー、お腹空いた!」と千絵が言うと「誰か近くに知ってる食堂とかある?かなりヤバイわね!」と岩崎さんも言う。「志布志に行けばありますよ」と実理ちゃんが言う。「じゃあ、Yに頑張ってもらわなきゃ!とにかくブッ飛んで!」慌ててスカイラインに乗り込むと、ワインディングロードをひたすらに飛ばす。海沿いから山道へ入り、峠を越えた先のまた先に志布志はあるのだ。必死に車を走らせる事、約40分後、車は志布志へと入った。「流石にYだわ。最速記録じゃないかな?」岩崎さんが言うと「あそこです!左側のスタンドの次です」と実理ちゃんが言った。「これで一息付けるな」僕は安堵のため息を漏らした。取り締まりに合っていたら、間違い無くアウトだったからだ。「実理、お勧めは何?」千絵が聞くと「海鮮丼です!食べ切れないくらい御飯が山盛りで来ますよ!」と実理ちゃんは言った。「器さら食べてやりましょうよ!お腹空いた!」永田ちゃんはダウン寸前らしい。海鮮丼は、確かに美味かった。御飯もこれでもか!と言うくらい量はあった。だが、誰も残した人が居なかったのが、今でも不思議である。
我々もだが、車もガソリンを食って腹を空かせていた。軽快に走った分、メーターも無くなる寸前を示していたのだ。隣りのスタンドで満タンにしてから、これからの道筋を探り出す話になった。「さて、どうやって帰ります?北へ向かえば、山の中を走る事になりますから、ガソリンスタンドは少ないですし、時間もそれなりにかかりますよ?」実家が近い永田ちゃんと千絵、実理ちゃんが頼りだ。「西に向かって、鹿屋へ出るのが最短かな?後は海岸線沿いを北へ向かえばどう?」千絵はそう言って当たりを付けた。「OK、千絵に任せようか?ナビは永田ちゃんだね!Yは、後ろで少し休んでいいよ。昼前に大分頑張ってくれたから、ゆっくりして」と岩崎さんが決断した。スカイラインは千絵にハンドルを委ねられ、西に向かって進路を定めた。僕は後席でゆったりかと思いきや、岩崎さんと実理ちゃんの餌食となった。「実理!岩崎先輩!ズルいですよ!」たちまち千絵の機嫌は悪くなった。僕の左側には、岩崎さんがピッタリと貼り付き、膝には実理ちゃんが乗って、首に腕を回しているのだ。楽をしている暇は無いに等しい。「千絵先輩、前!前を見て!信号赤に変わってますよ!」永田ちゃんは、必死になって千絵を運転に集中させようと注意を促す。しかし、急ブレーキで車体はつんのめるように止まった。「危ないわねー!千絵!前をキチンと見て!」岩崎さんも悲鳴を上げた。「だったら、Y先輩から離れて下さい!あたしに見せ付けるなんて、やってる事が嫌らしいじゃないですか!」千絵は、すっかりおカンムリだった。「分かったわ。実理、膝から降りて、あたしも離れるから」と2人が離れるのを見た千絵は、少し冷静さを取り戻した。車は、スムーズに進んでは止まる様になった。その時、岩崎さんが実理ちゃんの耳元で何かを囁いた。彼女は、軽く頷くと腕を絡ませて来た。そして、僕の手をスカートの中へと導きだす。「触っていいですよ。でも、優しくしてね」と小声で言う。千絵は気づいていないが、分からないように2人は、色仕掛けを仕組んできたのだ。気が気では無いが、逃れる術は無い。僕の手は実里ちゃんのパンティにまで達した。彼女は、直も奥へ手を引っ張り込もうと画策する。だが、ここで車が突如として路側帯に止まった。「あー、道を間違えたみたい!Y先輩、地図を見てくれますか?」と言うと千絵が振り返る。僕は慌てて左手を引っ込めて地図を広げた。実里ちゃんは悔しそうに唇を噛んでいた。「どこだい?土地勘の無い人間に地図を見せても分からないぞ!」と言うと「地図を貸して下さい」と永田ちゃんが言う。前席の2人は、あーだ、こーだと議論を始める。「実里、惜しかったね。でも、夕方になったら、Yを貸し出すから自由にしていいよ!」と岩崎さんは言った。「Y、今夜は実里に付き合ってあげて!理由はあたしが作るから」と彼女はウィンクをして囁いた。「Y先輩、運転を交代して下さい!あたしがナビゲートしますから、最速でお願いします!」と永田ちゃんから要請が来た。「現在位置は?」「ここらしいんですが、どうも自信が無くて。先輩の直感を信じます!」と千絵が言い出す。「明後日の方向へ行っても知らないぞ!」と言ってから、僕はスカイラインを走らせた。方角が分からないので、標識と永田ちゃんのナビゲートが頼りだ。車は国道から逸れて県道を北西方向にズレて進んでいた。しばらく進むと“細山田”の交差点に辿り着いた。「左折して国道269号へ!」永田ちゃんが導く通りに走ると、国道220号に突き当たる場所へと出た。「ふー、元のルートに戻れました!このまま錦江湾へ降りて下さい!後は桜島に突き当たるまで1直線です!」永田ちゃんの声も明るくなった。「Yの本領発揮よね。未知なる道でも灯を掲げてくれる!まるで、灯台の様に」岩崎さんもホッとしていた。行く手には桜島が噴煙をたなびかせていた。
大正の大噴火で桜島は大隅半島と陸続きになっている。桜島に近づくとゴツゴツと溶岩が目に飛び込んできた。右折ポイントから3km過ぎた辺りで、僕は車を止めた。自販機もあり、飲み物の入手や空き缶を捨てるのに都合が良かったからだ。鹿児島市内とは表情も違う桜島を撮っていると、永田ちゃんが僕の撮影姿を自身のカメラで撮っていた。「Y先輩、このカメラには写すための枠があるんですが、1眼レフと何が違うんです?」と質問を投げかけられた。「レンズを通過した光を直接見てないからさ。1眼レフが世に出る前は、こっちが主流だったんだよ。ファインダーとレンズの位置がズレている関係上、見かけの位置を補正しないと絵はフィルムに正しく写し込めない。レンズとファインダーの2本の線に別れてるから、ズレを調整するには“視野枠”って言う枠を表示しなくちゃならない。こっちは、見たままが写るから、その必要がない。でも、小型化するためには、そっちの方が有利だから、今も生き残ってるけどね」「じゃあ、もしズームレンズを付けたら?」「ファインダーもズーム式に作る事になるね。そうしないと、見かけの変化に対応できないから。いずれは、その競争が始まるだろうよ」「良く分からないけど、カメラを作るのって大変なんですね!」永田ちゃんは半分くらいを飲み込んだ様だった。この年の7月、富士フィルムから“写ツルんです”が発売され、カメラ業界に新たな激震が走った。“レンズ付きフィルム”と言う新ジャンルは、コンパクト銀塩カメラの“高機能化”に拍車をかける事態を引き起こすのだった。この時は僕も知る由も無いことではあったが・・・。無事に錦江湾沿いを駆け抜けたスカイラインが寮に帰り着いたのは、午後4時を少し回った頃だった。「Y-、お疲れー!無事に帰れたから良かったね!千絵に運転させたのは誤算だったけど」岩崎さんが笑顔で言うと「不覚だわ!地元の近い場所で迷うなんて!」と千絵は悔しそうに言った。「さて、引き揚げますか?」と永田ちゃんが言うと、みんな寮に向かって道を下り始める。「あっ!Y、重要な連絡を忘れてたわ!明日の午後3時から、飲み会をやるから出てよね!検査と品証の女子合同での決起集会だからさ!」と岩崎さんが言い出した。「えー、マジですか?!そんな話、何も聞いてませんよ!」「神崎先輩と千春が隠密行動で仕掛けたからね。知らなくて当然よ!迎えは午後2時半。場所は寮の玄関前よ!分かったわね?!」有無を言わせぬ言葉に圧倒されて頷くと「千絵と永田ちゃんは、あたしの部屋で打ち合わせよ。Yに何を喋らせるか決めとかなきゃ!」「そうそう!」「残らず吐いてもらうから!」3人の目が悪戯っぽく輝いた。「さあ、急ごう!」岩崎さんは、永田ちゃんと千絵を急かして足早に寮に向かった。実里ちゃんと僕は取り残された。でも、これが岩崎さんの計略だった!実里ちゃんは、2人だけになると「行きましょうか?」と言って僕を車へと連れ込んだ。彼女は軽自動車を発進させると、北に向かった。国分市内の北側にある“城山公園”へ着くと「後部席へ」と言ってシートに座り直した。窓にはフィルムが貼られていて、外からは見えない様になっている。「さっきの続きをして!」と実里ちゃんは言った。白いロングスカートをめくると、ピンクのパンティを見せ付け僕の手を導いた。そっと手を入れてかき回してやると、喘ぎ声が漏れ始める。ブラウスのボタンをもどかし気に外して、ブラのホックを外すと小ぶりな乳房が見える。「優しくしてね」と言ってキスをして来ると、乳首を顔の前に押し付けた。彼女の手は僕の下半身をしっかりと掴んでいる。乳首を吸いながら下をかき回すと、ピクピクと反応し始める。「しよう。もう、我慢できない!」と彼女は言うとパンティを片足に残して馬乗りになり、ゆっくりと腰を動かし始めた。「ダメだよ。避妊しなきゃ」と言うと「いいの、中に出して」といい、次第に激しく動き始めた。下から突き上げてやると「ああ・・・、もっとよ!いっぱい突いて!」とねだった。いつもの彼女とは別人の様に、僕のモノを吸い込んで行く。ゆっくりと上下に動いて、奥深くまで余すことなく入れようとする彼女は、愛おしかった。「お願い・・・、出して・・・、いっぱい出して!」締め付けが強まる中、体液を注いでやると、ぐったりと体を預けて来る。「気持ちよかった・・・。暖かいね」と言うと、しばらく抱き着いて離れないでいた。ティシュを掴むと下半身にあてて、車内に垂らさない様に拭き取った。僕のモノも綺麗に拭いてくれる。「千絵はこんな事はしないでしょう?」と言うと僕のモノに吸い付いて舌を使う。パワーを取り戻させると、また馬乗りになって腰を動かした。小さな乳房を掴んでゆっくりと下から突いてやると「ああ・・・、もっと激しく・・・突いて!もっと!もっとよ!」と狂ったかのように言う。細く華奢な体は岩崎さんと似ているが、髪が長く背が小さい分、幼くも見える。2回目も大量に注いでやると、彼女は満足そうに「いっぱい出たね。うれしい」と言って、また後処理をし始めた。「きれいにしてあげる」と言って舌も使った。何とかお互いに服を着ると外へ出た。国分の街が一望出来る高台からは、工場の巨大さを改めて実感した。「優しいんですね。あたし、初めての時はもっと乱暴にされたから、余計にそう感じるんです」と彼女は腕を絡ませながら言った。「痛くなかった?」「全然、Y先輩の優しさを肌で感じました。今度は、2人だけでドライブに行きません?」「うーん、どこに行きたい?」「知覧方面かな。こことはまた違う景色がみられますよ!」「じゃあ、今度は2人だけで行くか?」「はい!期待してます!エッチも!」「底無しが!」と言って拳を頭に乗せると、ペロリと舌を出した。こうして、実里ちゃんとも関係を持ってしまったのだが、仕掛人は岩崎さんである。彼女が何を考えているのか?想像も着かなかったが、無意味に女の子を宛がうはずは無い。岩崎さんの真意。それは、翌日に探るしか無さそうだ。僕と実里ちゃんは寮の手前で別れた。歩いて玄関をくぐると、克ちゃんと赤羽に出くわした。「よお、久し振り!」「Yはどこに行ったんだよ?」とステレオで聞かれる。「優しい“お姉さま方”に誘われてね。日南海岸までブッ飛んで来たとこ。明日は“お姉さま方”と飲み会がセットされてる。休みは無いに等しいよ」「そうか、俺はこれから職場の“歓迎会”だよ。3次会まであるらしいから、いつ帰れるか分かったものじゃない!」と吉田さんも姿を現した。「“安さん”も出るのかい?」と僕が聞くと「ああ、そうだ。あの親父に捕まるとどうなるんだ?」「“焼酎を飲まんヤツは、俺のとこには居らん!”って言ってお燗の付いた焼酎で攻撃される。間違いなく撃沈の憂き目にあうだろう!」と返すと「ゲゲ、そう来るのかよ!Yはどうなった?」「2次会以降の記憶が飛んでるよ!後で、ボディブローの様にジワジワと効いてくるぜ!」「嫌な予感は良く当たるからな。仕方ない、覚悟決めて行って来るぜ!」と吉田さんが玄関を出て行った。「みんな同じ目に合ってる!潰されないヤツは居ないさ!」と赤羽が笑う。「Yのところに女性は何人居るんだよ?」克ちゃんが聞いて来る。「年齢を問わなければ、総勢50名。優しい“お姉さま方”がその半分だ。漏れなく仕事上で関わりがあるから、逃げる事は不可能だよ!残りの半分のパートさん達を指揮するのが俺の仕事。手も首も回らないよ!」「それもキツイな!女の集団の統率か?俺には出来ねぇ!」「俺もイコールだ。人数が多過ぎるぜ!」克ちゃんと赤羽がため息を漏らした。「それでも、やらなきゃならんのだ。とにかく休ませてくれ!本当は3交代になれば、こんな苦労とは無縁だったろうにな。悪いが、おやすみ!」僕は2人を煙に巻くと部屋へなだれ込んだ。ベッドに横になり上を見る。「とてもじゃ無いが“本当の事”は言えないな!」と呟く。5月も末を迎えつつある。来月になれば第3次隊50名が着任する。その内3分の1は女の子達だ。「疑いを持たれる事は避けなけりゃならんな」そう言うと目を閉じて眠った。午後8時に揺り起こされるまで、死んだように眠りこけた。
日曜日の午後、寮の部屋で支度をしていると、田尾がやって来た。「野郎からの呼び出しなら、喜んで出るがウチの“お姉さま方”からとなると腰が引けるぜ!何を企んでるか知ってるか?」「いいや、何も聞いて無い。お前さんも呼ばれてるのか?」「ああ、俺とそっちだけらしい。どうやって切り抜けるつもりだ?」田尾はTVの前に座り込んだ。「出たとこ勝負!生贄は俺だろうから、折を見て引き揚げろ!最後まで付き合ったらタダじゃあ済まない!」「それが通るか?神崎の姉さんが黙って帰すわけがねぇ!ピラニアの様に食い千切られるのがオチだよ!考えただけでも寒気がするぜ!」珍しく田尾は青くなっている。勇猛果敢な男なのに、神崎先輩は苦手らしい。そう言えば、岡元さんが“神崎と山口千春と岩崎は要注意だ!とにかく逃げろ!”と言っていたのを思い出した。忙しさの中ですっかり忘れていたのだが、岩崎さんと千春先輩とは良好な関係(?)を構築しているし、神崎先輩とも仲は悪くは無い。千絵や永田ちゃん、実里ちゃんや細山田さんとも悪くはない。千絵と実里ちゃんとは“男女の仲”になっている。田尾は知らないが・・・。「ともかく、特攻を仕掛けるタイミングだけだ!“三十六計逃げるに如かず”を地で行くしかねぇよ!市内に潜伏して夜中に戻ってくるしかねぇだろう?」「いや、真正面から突撃するさ!正面を突破してから裏を突く!“死中に活を求める”をやるしかあるまい!」「だったら、どう出る?」「したい様にやらせればいい。どうせ筋書きは出来てるはず。俺たちがトイレに立って逃げるのも計算されてるだろう。ならば、最後まで演目を楽しむしかあるまい!」僕は“開き直り”を提案した。「そう来るか。読まれてるとすれば、下手な手は通用しない。逆に“弱虫”のレッテルを貼られるのがオチか。それだけは譲れねぇ!Y、覚悟決めて行こうぜ!」「ああ、腹は括ったから、何でも来い!」「よし!乗り込むぜ!」男2人は、威勢よく玄関に向かった。迎えのマイクロバスは、既に寮の前に横づけされていた。「田尾―!Y先輩!こっち!こっち!」女の子達の黄色い声が響く。田尾が乗り込むと「アンタはここよ!」と岩崎さんに捕捉され前方に座らされる。僕は、実里ちゃんに背を押されて最後尾に座らされた。右手は千絵が、左手には実里ちゃんと永田ちゃんが控えている。「後は、誰が来てないの?」岩崎さんが言うと「千春先輩が最終確認してます!」と返事が聞こえた。「“地獄の宴席”へご招待かよ!」と田尾が迂闊にも言うと「“天国の宴”の間違いでしょ!」と岩崎さんが耳を引っ張った。そのテンポの良さにドッと笑いが起こる。「確認完了!お願いします」と千春先輩が言うと、マイクロはゆっくりと市内へ走り出した。「千春、現地集合のメンツの確認は?」「神崎先輩がやってくれてるはず。時間通りなら、もう集まってるわ!」と岩崎、山口の両名がやり取りをした。「Y先輩!覚悟はいいですか?」永田ちゃんが言う。「覚悟も何も、洗いざらい“自白”しなきゃ帰れないんだろう?」と返すと「そうですよ!耳の痛い事も全て話してもらいますから!」と千絵が心を見透かす様に言う。実里ちゃんはクスクスと笑っていた。昨日の今日だ。そこまでは千絵とて知らないだろう。マイクロは市内の大きな居酒屋の前に停まった。「さあ、開宴よ!」千絵が先に立って僕を引きずって行く。室内には大きな円卓が2つあった。「田尾は手前の奥へ、Yは主賓だからずずいと奥へ」と千春先輩が指示する。現地集合組も含めた“椅子取りゲーム”に寄って席順が決められた。僕の両隣は、千絵、千春の両“山口”が座り、正面には神崎先輩が座った。田尾は、岩崎さんと永田ちゃんに囲まれている。実里ちゃんと細山田さんは、こちらのテーブルだ。「では、宴会を始めます。みんな、参加してくれてありがとう。早速だけど乾杯しちゃいましょう!グラスを持って!」と千春先輩が直ぐに乾杯の用意を促す。千絵の手によってビールがグラスに注がれる。お返しに僕も千絵のグラスを満たした。「お疲れ様!今日はゆっくり話をしましょうよ!では、乾杯!」「カンパーイ!」岩崎さんの音頭でグラスが重なった。こうして女の子だらけの宴会は始まった。
「神崎先輩、一言お願いします!」千春先輩が指名をした。「えー、この様な場での挨拶は不慣れなので、まとまるか分かりませんが、Yさん!国分へようこそ!みんな、拍手して!」神崎先輩が上がり気味で言うと、ひとしきり拍手が響いた。「あたしは、正直ホッとしています。何故なら、岡元さんが居なくなったからです!あの人は、ご自身の足元しか見ていなかった。それで、あたし達はいつも、ヒーヒー言ってたし、けんか腰に喰ってかからなくてはならなかったわね。ことごとく跳ね返されても。無視されても。でも、今は、あたし達の話にとことん付き合ってくれて、職場を変えて行こうとする人に出会えました。もう直ぐ1ヶ月だよね?この1ヶ月で変わった事は数多あるけど、あの頑固な“おばちゃん達”をも巻き込んで、根底から職場を変えようとする動きは、みんなも知ってるわよね?改めてご紹介します!Yさんでーす!」「イエィー!」「彼が、千春と恭子と組んで進めようとしている改革路線をあたしは全面的に支援していきます!もっと、あたし達は変われるし、明るく楽しく仕事がしたいし、仲良くして行きたい!冷たい戦争はもう終わりにしましょう。鉄の扉も引き戸に替わると聞いてますし、返しの部屋にホワイトボードも設置されました。あれは、相互にコンタクトを取るためだよね?そうした発想自体が画期的だし、今までに無かった新たな事です。この前、“安さん”があたしに聞いて言いました。“どうだ?アイツはやるだろう?違う血を注ぐとまったく違う反応が連鎖する。それを育ててみろ!お前達次第で世界は劇的に変えられる!Yは、そのための起爆剤。ヤツを生かすも殺すもお前達の行動にかかっている!最後に決めるのはお前だ!”と。震えが止まりませんでした。でもね、この機会を逃したら、また次の機会が来るとは思えなかったのは確か。あたしは、“彼に賭けて見よう”と思いました。そして、思ってる事を全部吐き出しました!彼は、眉一つ動かさずにあたしの話を最後まで聞いてから、“このボードから全てを作り直しましょう”と言いました。男性に真剣に話を聞いてもらうのも初めてなのに、彼は全てを受け止めて答えをくれた!どれだけ、あたしが嬉しかったか!みんな分かる?」全員が黙して頷いた。「ここから、変えて行こう!変わろう!あたしは後戻りしたくない!前進あるのみ!進もう!彼を先頭にして、全てを一新しましょう!今日は、そのための決起集会よ!さあ、飲んで話して盛り上がろう!宜しくね!」「イエィー!」」神崎先輩が“サシで話したい”と言ってきた日を思い出した。彼女は今までの“負の歴史”を語り、それらを“変えて欲しい”と訴えて来たのだ。決死の思いで来ているのは、直ぐに察しが付いたが“安さん”のプッシュもあった事は初耳だった。彼女達は、ずっと抑圧下に置かれていた。悲しい事ではあるが、事実は覆らない。僕の使命は想像以上に重いモノだと改めて気付かされた挨拶だった。「では、Y先輩、答えて下さい!貴方はどうしたいか?何をしたいのか?教えてください!」千絵がそう言った。みんなが固唾を飲んで僕を見ていた。この思いにどう答えるか?僕はたじろぎながらも腰を上げた。僕の言葉をみんなが待っている。さて、どう答えるか?
“鬼の洗濯岩”で撮影を済ませた僕等は、鵜戸神宮に立ち寄った。「別名“運動神宮”よ。」「本殿までしっかり歩いてね!」とみんなが言う。歩き出すと直ぐに意味が理解出来た。岬の突端近くにある本殿まで、丘を越えて行かねばならないからだ。健脚を競って本殿へ辿り着くと「みんなの健康と改革の成功を祈念して!」と岩崎さんが言い賽銭を投げて祈りを捧げた。しばらく自由な時間を取ると、千絵達は御守りの吟味に向かった。「Y,昨日、あたしが話した事覚えてる?」と岩崎さんが問うた。「ええ、覚えてますよ」「Y,“おばちゃん達”は一筋縄では行かないわよ!そこをどう突破するつもり?」「時間はかかりますが、“相互乗り入れ”をやろうと思います。今は、岡元さんが決めた“規定路線の範囲内”でしか回っていませんが、あれだと誰か1人が休んだらアウトなんですよ!おばちゃん達の壁を取り払って、誰もが“何が来ても対応可能な人材”に育て直す。まずは、僕が“マルチプレイヤー”になる事。次は、技術を横に展開して行きます。専門家は必要ですが、それは1部の製品だけに絞り、複数でより早く返せる体制にする。キャップもベースも返せる人材に育て直して、よりスピードを重視します。確かに、一筋縄では変わらないでしょうが、1度でも好循環に乗せられれば、恩恵は図り知れません。1人に負担を強いるのでは無く、みんなでカバーし合える関係に持って行くつもりですよ!」「それが実現すれば、あたし達も相当楽になるわね。余裕を持って検査が出来るし、質も上がる!時間にもゆとりが生まれるから、徳田達も慌てずに済む。“岡元体制”を“Yのカラー”に染め直す。何か、貴方が言うと本当に実現可能に思えるから、不思議よね。手は回ってるの?」「ええ、足りない治具の製作依頼は出してあります。F社向けの新製品の治具製作に紛れて、必要なモノは揃えます!」「後は、Yの腕次第か。目星は着けてあるんでしょう?」「その第1歩が、ホワイトボードですよ!目先を変えれば、見えて来るモノもあります。否応無しにすれば、余計な事にかまけてる暇も無くなります!人は1度楽をすれば次からはもっと楽をしたがる。そこを突いてやれば壁は崩れる!」「戦略に抜かりは無い様ね!Y,思い切ってやりなさい!改革は貴方の腕にかかってるの!掩護はしてあげるから思う通りにやって!」「はい、やりたい様にやらせてもらいます!」2人で語り合っていると3人が袋を手に戻って来た。「Y先輩、これを!」3つの恋愛成就の御守りが届けられた。「あー、ズルい!あたしも行って来なきゃ!」岩崎さんが慌てて御守りを買いに行く。「岩崎先輩と何を話してたんですか?」千絵が気になる事を問い質す。「これからの改革の進め方さ。特にウチの“おばちゃん達”をどうするか?について、真剣に話してたよ」「本当ですか?嘘言っても通じませんよ!」と千絵は僕の腕をねじ上げ様とする。「おっと!その手は食わないぞ!逆にこうしてやる!」と言って、千絵を背後から包み込む様に抱いてやる。「馬鹿!もっとしっかりと抱きなさいよ!」と千絵は言うが、満更でもないらしく大人しくなった。「やれやれ、手のかかる子だこと!Y,これ持っててよ!」岩崎さんからは大願成就の御守りが手渡された。「あたし達の改革の成功を祈って。そして、その波が事業部全体を動かす大きなうねりになる様にね!」僕と岩崎さんは、ハイタッチを交わして誓いを確かめた。再び丘を越えて車に戻る頃には、全員が腹ペコになっていた。「“運動神宮”恐るべし!」「でしょう?甘く見るとヘトヘトになるの!あー、お腹空いた!」と千絵が言うと「誰か近くに知ってる食堂とかある?かなりヤバイわね!」と岩崎さんも言う。「志布志に行けばありますよ」と実理ちゃんが言う。「じゃあ、Yに頑張ってもらわなきゃ!とにかくブッ飛んで!」慌ててスカイラインに乗り込むと、ワインディングロードをひたすらに飛ばす。海沿いから山道へ入り、峠を越えた先のまた先に志布志はあるのだ。必死に車を走らせる事、約40分後、車は志布志へと入った。「流石にYだわ。最速記録じゃないかな?」岩崎さんが言うと「あそこです!左側のスタンドの次です」と実理ちゃんが言った。「これで一息付けるな」僕は安堵のため息を漏らした。取り締まりに合っていたら、間違い無くアウトだったからだ。「実理、お勧めは何?」千絵が聞くと「海鮮丼です!食べ切れないくらい御飯が山盛りで来ますよ!」と実理ちゃんは言った。「器さら食べてやりましょうよ!お腹空いた!」永田ちゃんはダウン寸前らしい。海鮮丼は、確かに美味かった。御飯もこれでもか!と言うくらい量はあった。だが、誰も残した人が居なかったのが、今でも不思議である。
我々もだが、車もガソリンを食って腹を空かせていた。軽快に走った分、メーターも無くなる寸前を示していたのだ。隣りのスタンドで満タンにしてから、これからの道筋を探り出す話になった。「さて、どうやって帰ります?北へ向かえば、山の中を走る事になりますから、ガソリンスタンドは少ないですし、時間もそれなりにかかりますよ?」実家が近い永田ちゃんと千絵、実理ちゃんが頼りだ。「西に向かって、鹿屋へ出るのが最短かな?後は海岸線沿いを北へ向かえばどう?」千絵はそう言って当たりを付けた。「OK、千絵に任せようか?ナビは永田ちゃんだね!Yは、後ろで少し休んでいいよ。昼前に大分頑張ってくれたから、ゆっくりして」と岩崎さんが決断した。スカイラインは千絵にハンドルを委ねられ、西に向かって進路を定めた。僕は後席でゆったりかと思いきや、岩崎さんと実理ちゃんの餌食となった。「実理!岩崎先輩!ズルいですよ!」たちまち千絵の機嫌は悪くなった。僕の左側には、岩崎さんがピッタリと貼り付き、膝には実理ちゃんが乗って、首に腕を回しているのだ。楽をしている暇は無いに等しい。「千絵先輩、前!前を見て!信号赤に変わってますよ!」永田ちゃんは、必死になって千絵を運転に集中させようと注意を促す。しかし、急ブレーキで車体はつんのめるように止まった。「危ないわねー!千絵!前をキチンと見て!」岩崎さんも悲鳴を上げた。「だったら、Y先輩から離れて下さい!あたしに見せ付けるなんて、やってる事が嫌らしいじゃないですか!」千絵は、すっかりおカンムリだった。「分かったわ。実理、膝から降りて、あたしも離れるから」と2人が離れるのを見た千絵は、少し冷静さを取り戻した。車は、スムーズに進んでは止まる様になった。その時、岩崎さんが実理ちゃんの耳元で何かを囁いた。彼女は、軽く頷くと腕を絡ませて来た。そして、僕の手をスカートの中へと導きだす。「触っていいですよ。でも、優しくしてね」と小声で言う。千絵は気づいていないが、分からないように2人は、色仕掛けを仕組んできたのだ。気が気では無いが、逃れる術は無い。僕の手は実里ちゃんのパンティにまで達した。彼女は、直も奥へ手を引っ張り込もうと画策する。だが、ここで車が突如として路側帯に止まった。「あー、道を間違えたみたい!Y先輩、地図を見てくれますか?」と言うと千絵が振り返る。僕は慌てて左手を引っ込めて地図を広げた。実里ちゃんは悔しそうに唇を噛んでいた。「どこだい?土地勘の無い人間に地図を見せても分からないぞ!」と言うと「地図を貸して下さい」と永田ちゃんが言う。前席の2人は、あーだ、こーだと議論を始める。「実里、惜しかったね。でも、夕方になったら、Yを貸し出すから自由にしていいよ!」と岩崎さんは言った。「Y、今夜は実里に付き合ってあげて!理由はあたしが作るから」と彼女はウィンクをして囁いた。「Y先輩、運転を交代して下さい!あたしがナビゲートしますから、最速でお願いします!」と永田ちゃんから要請が来た。「現在位置は?」「ここらしいんですが、どうも自信が無くて。先輩の直感を信じます!」と千絵が言い出す。「明後日の方向へ行っても知らないぞ!」と言ってから、僕はスカイラインを走らせた。方角が分からないので、標識と永田ちゃんのナビゲートが頼りだ。車は国道から逸れて県道を北西方向にズレて進んでいた。しばらく進むと“細山田”の交差点に辿り着いた。「左折して国道269号へ!」永田ちゃんが導く通りに走ると、国道220号に突き当たる場所へと出た。「ふー、元のルートに戻れました!このまま錦江湾へ降りて下さい!後は桜島に突き当たるまで1直線です!」永田ちゃんの声も明るくなった。「Yの本領発揮よね。未知なる道でも灯を掲げてくれる!まるで、灯台の様に」岩崎さんもホッとしていた。行く手には桜島が噴煙をたなびかせていた。
大正の大噴火で桜島は大隅半島と陸続きになっている。桜島に近づくとゴツゴツと溶岩が目に飛び込んできた。右折ポイントから3km過ぎた辺りで、僕は車を止めた。自販機もあり、飲み物の入手や空き缶を捨てるのに都合が良かったからだ。鹿児島市内とは表情も違う桜島を撮っていると、永田ちゃんが僕の撮影姿を自身のカメラで撮っていた。「Y先輩、このカメラには写すための枠があるんですが、1眼レフと何が違うんです?」と質問を投げかけられた。「レンズを通過した光を直接見てないからさ。1眼レフが世に出る前は、こっちが主流だったんだよ。ファインダーとレンズの位置がズレている関係上、見かけの位置を補正しないと絵はフィルムに正しく写し込めない。レンズとファインダーの2本の線に別れてるから、ズレを調整するには“視野枠”って言う枠を表示しなくちゃならない。こっちは、見たままが写るから、その必要がない。でも、小型化するためには、そっちの方が有利だから、今も生き残ってるけどね」「じゃあ、もしズームレンズを付けたら?」「ファインダーもズーム式に作る事になるね。そうしないと、見かけの変化に対応できないから。いずれは、その競争が始まるだろうよ」「良く分からないけど、カメラを作るのって大変なんですね!」永田ちゃんは半分くらいを飲み込んだ様だった。この年の7月、富士フィルムから“写ツルんです”が発売され、カメラ業界に新たな激震が走った。“レンズ付きフィルム”と言う新ジャンルは、コンパクト銀塩カメラの“高機能化”に拍車をかける事態を引き起こすのだった。この時は僕も知る由も無いことではあったが・・・。無事に錦江湾沿いを駆け抜けたスカイラインが寮に帰り着いたのは、午後4時を少し回った頃だった。「Y-、お疲れー!無事に帰れたから良かったね!千絵に運転させたのは誤算だったけど」岩崎さんが笑顔で言うと「不覚だわ!地元の近い場所で迷うなんて!」と千絵は悔しそうに言った。「さて、引き揚げますか?」と永田ちゃんが言うと、みんな寮に向かって道を下り始める。「あっ!Y、重要な連絡を忘れてたわ!明日の午後3時から、飲み会をやるから出てよね!検査と品証の女子合同での決起集会だからさ!」と岩崎さんが言い出した。「えー、マジですか?!そんな話、何も聞いてませんよ!」「神崎先輩と千春が隠密行動で仕掛けたからね。知らなくて当然よ!迎えは午後2時半。場所は寮の玄関前よ!分かったわね?!」有無を言わせぬ言葉に圧倒されて頷くと「千絵と永田ちゃんは、あたしの部屋で打ち合わせよ。Yに何を喋らせるか決めとかなきゃ!」「そうそう!」「残らず吐いてもらうから!」3人の目が悪戯っぽく輝いた。「さあ、急ごう!」岩崎さんは、永田ちゃんと千絵を急かして足早に寮に向かった。実里ちゃんと僕は取り残された。でも、これが岩崎さんの計略だった!実里ちゃんは、2人だけになると「行きましょうか?」と言って僕を車へと連れ込んだ。彼女は軽自動車を発進させると、北に向かった。国分市内の北側にある“城山公園”へ着くと「後部席へ」と言ってシートに座り直した。窓にはフィルムが貼られていて、外からは見えない様になっている。「さっきの続きをして!」と実里ちゃんは言った。白いロングスカートをめくると、ピンクのパンティを見せ付け僕の手を導いた。そっと手を入れてかき回してやると、喘ぎ声が漏れ始める。ブラウスのボタンをもどかし気に外して、ブラのホックを外すと小ぶりな乳房が見える。「優しくしてね」と言ってキスをして来ると、乳首を顔の前に押し付けた。彼女の手は僕の下半身をしっかりと掴んでいる。乳首を吸いながら下をかき回すと、ピクピクと反応し始める。「しよう。もう、我慢できない!」と彼女は言うとパンティを片足に残して馬乗りになり、ゆっくりと腰を動かし始めた。「ダメだよ。避妊しなきゃ」と言うと「いいの、中に出して」といい、次第に激しく動き始めた。下から突き上げてやると「ああ・・・、もっとよ!いっぱい突いて!」とねだった。いつもの彼女とは別人の様に、僕のモノを吸い込んで行く。ゆっくりと上下に動いて、奥深くまで余すことなく入れようとする彼女は、愛おしかった。「お願い・・・、出して・・・、いっぱい出して!」締め付けが強まる中、体液を注いでやると、ぐったりと体を預けて来る。「気持ちよかった・・・。暖かいね」と言うと、しばらく抱き着いて離れないでいた。ティシュを掴むと下半身にあてて、車内に垂らさない様に拭き取った。僕のモノも綺麗に拭いてくれる。「千絵はこんな事はしないでしょう?」と言うと僕のモノに吸い付いて舌を使う。パワーを取り戻させると、また馬乗りになって腰を動かした。小さな乳房を掴んでゆっくりと下から突いてやると「ああ・・・、もっと激しく・・・突いて!もっと!もっとよ!」と狂ったかのように言う。細く華奢な体は岩崎さんと似ているが、髪が長く背が小さい分、幼くも見える。2回目も大量に注いでやると、彼女は満足そうに「いっぱい出たね。うれしい」と言って、また後処理をし始めた。「きれいにしてあげる」と言って舌も使った。何とかお互いに服を着ると外へ出た。国分の街が一望出来る高台からは、工場の巨大さを改めて実感した。「優しいんですね。あたし、初めての時はもっと乱暴にされたから、余計にそう感じるんです」と彼女は腕を絡ませながら言った。「痛くなかった?」「全然、Y先輩の優しさを肌で感じました。今度は、2人だけでドライブに行きません?」「うーん、どこに行きたい?」「知覧方面かな。こことはまた違う景色がみられますよ!」「じゃあ、今度は2人だけで行くか?」「はい!期待してます!エッチも!」「底無しが!」と言って拳を頭に乗せると、ペロリと舌を出した。こうして、実里ちゃんとも関係を持ってしまったのだが、仕掛人は岩崎さんである。彼女が何を考えているのか?想像も着かなかったが、無意味に女の子を宛がうはずは無い。岩崎さんの真意。それは、翌日に探るしか無さそうだ。僕と実里ちゃんは寮の手前で別れた。歩いて玄関をくぐると、克ちゃんと赤羽に出くわした。「よお、久し振り!」「Yはどこに行ったんだよ?」とステレオで聞かれる。「優しい“お姉さま方”に誘われてね。日南海岸までブッ飛んで来たとこ。明日は“お姉さま方”と飲み会がセットされてる。休みは無いに等しいよ」「そうか、俺はこれから職場の“歓迎会”だよ。3次会まであるらしいから、いつ帰れるか分かったものじゃない!」と吉田さんも姿を現した。「“安さん”も出るのかい?」と僕が聞くと「ああ、そうだ。あの親父に捕まるとどうなるんだ?」「“焼酎を飲まんヤツは、俺のとこには居らん!”って言ってお燗の付いた焼酎で攻撃される。間違いなく撃沈の憂き目にあうだろう!」と返すと「ゲゲ、そう来るのかよ!Yはどうなった?」「2次会以降の記憶が飛んでるよ!後で、ボディブローの様にジワジワと効いてくるぜ!」「嫌な予感は良く当たるからな。仕方ない、覚悟決めて行って来るぜ!」と吉田さんが玄関を出て行った。「みんな同じ目に合ってる!潰されないヤツは居ないさ!」と赤羽が笑う。「Yのところに女性は何人居るんだよ?」克ちゃんが聞いて来る。「年齢を問わなければ、総勢50名。優しい“お姉さま方”がその半分だ。漏れなく仕事上で関わりがあるから、逃げる事は不可能だよ!残りの半分のパートさん達を指揮するのが俺の仕事。手も首も回らないよ!」「それもキツイな!女の集団の統率か?俺には出来ねぇ!」「俺もイコールだ。人数が多過ぎるぜ!」克ちゃんと赤羽がため息を漏らした。「それでも、やらなきゃならんのだ。とにかく休ませてくれ!本当は3交代になれば、こんな苦労とは無縁だったろうにな。悪いが、おやすみ!」僕は2人を煙に巻くと部屋へなだれ込んだ。ベッドに横になり上を見る。「とてもじゃ無いが“本当の事”は言えないな!」と呟く。5月も末を迎えつつある。来月になれば第3次隊50名が着任する。その内3分の1は女の子達だ。「疑いを持たれる事は避けなけりゃならんな」そう言うと目を閉じて眠った。午後8時に揺り起こされるまで、死んだように眠りこけた。
日曜日の午後、寮の部屋で支度をしていると、田尾がやって来た。「野郎からの呼び出しなら、喜んで出るがウチの“お姉さま方”からとなると腰が引けるぜ!何を企んでるか知ってるか?」「いいや、何も聞いて無い。お前さんも呼ばれてるのか?」「ああ、俺とそっちだけらしい。どうやって切り抜けるつもりだ?」田尾はTVの前に座り込んだ。「出たとこ勝負!生贄は俺だろうから、折を見て引き揚げろ!最後まで付き合ったらタダじゃあ済まない!」「それが通るか?神崎の姉さんが黙って帰すわけがねぇ!ピラニアの様に食い千切られるのがオチだよ!考えただけでも寒気がするぜ!」珍しく田尾は青くなっている。勇猛果敢な男なのに、神崎先輩は苦手らしい。そう言えば、岡元さんが“神崎と山口千春と岩崎は要注意だ!とにかく逃げろ!”と言っていたのを思い出した。忙しさの中ですっかり忘れていたのだが、岩崎さんと千春先輩とは良好な関係(?)を構築しているし、神崎先輩とも仲は悪くは無い。千絵や永田ちゃん、実里ちゃんや細山田さんとも悪くはない。千絵と実里ちゃんとは“男女の仲”になっている。田尾は知らないが・・・。「ともかく、特攻を仕掛けるタイミングだけだ!“三十六計逃げるに如かず”を地で行くしかねぇよ!市内に潜伏して夜中に戻ってくるしかねぇだろう?」「いや、真正面から突撃するさ!正面を突破してから裏を突く!“死中に活を求める”をやるしかあるまい!」「だったら、どう出る?」「したい様にやらせればいい。どうせ筋書きは出来てるはず。俺たちがトイレに立って逃げるのも計算されてるだろう。ならば、最後まで演目を楽しむしかあるまい!」僕は“開き直り”を提案した。「そう来るか。読まれてるとすれば、下手な手は通用しない。逆に“弱虫”のレッテルを貼られるのがオチか。それだけは譲れねぇ!Y、覚悟決めて行こうぜ!」「ああ、腹は括ったから、何でも来い!」「よし!乗り込むぜ!」男2人は、威勢よく玄関に向かった。迎えのマイクロバスは、既に寮の前に横づけされていた。「田尾―!Y先輩!こっち!こっち!」女の子達の黄色い声が響く。田尾が乗り込むと「アンタはここよ!」と岩崎さんに捕捉され前方に座らされる。僕は、実里ちゃんに背を押されて最後尾に座らされた。右手は千絵が、左手には実里ちゃんと永田ちゃんが控えている。「後は、誰が来てないの?」岩崎さんが言うと「千春先輩が最終確認してます!」と返事が聞こえた。「“地獄の宴席”へご招待かよ!」と田尾が迂闊にも言うと「“天国の宴”の間違いでしょ!」と岩崎さんが耳を引っ張った。そのテンポの良さにドッと笑いが起こる。「確認完了!お願いします」と千春先輩が言うと、マイクロはゆっくりと市内へ走り出した。「千春、現地集合のメンツの確認は?」「神崎先輩がやってくれてるはず。時間通りなら、もう集まってるわ!」と岩崎、山口の両名がやり取りをした。「Y先輩!覚悟はいいですか?」永田ちゃんが言う。「覚悟も何も、洗いざらい“自白”しなきゃ帰れないんだろう?」と返すと「そうですよ!耳の痛い事も全て話してもらいますから!」と千絵が心を見透かす様に言う。実里ちゃんはクスクスと笑っていた。昨日の今日だ。そこまでは千絵とて知らないだろう。マイクロは市内の大きな居酒屋の前に停まった。「さあ、開宴よ!」千絵が先に立って僕を引きずって行く。室内には大きな円卓が2つあった。「田尾は手前の奥へ、Yは主賓だからずずいと奥へ」と千春先輩が指示する。現地集合組も含めた“椅子取りゲーム”に寄って席順が決められた。僕の両隣は、千絵、千春の両“山口”が座り、正面には神崎先輩が座った。田尾は、岩崎さんと永田ちゃんに囲まれている。実里ちゃんと細山田さんは、こちらのテーブルだ。「では、宴会を始めます。みんな、参加してくれてありがとう。早速だけど乾杯しちゃいましょう!グラスを持って!」と千春先輩が直ぐに乾杯の用意を促す。千絵の手によってビールがグラスに注がれる。お返しに僕も千絵のグラスを満たした。「お疲れ様!今日はゆっくり話をしましょうよ!では、乾杯!」「カンパーイ!」岩崎さんの音頭でグラスが重なった。こうして女の子だらけの宴会は始まった。
「神崎先輩、一言お願いします!」千春先輩が指名をした。「えー、この様な場での挨拶は不慣れなので、まとまるか分かりませんが、Yさん!国分へようこそ!みんな、拍手して!」神崎先輩が上がり気味で言うと、ひとしきり拍手が響いた。「あたしは、正直ホッとしています。何故なら、岡元さんが居なくなったからです!あの人は、ご自身の足元しか見ていなかった。それで、あたし達はいつも、ヒーヒー言ってたし、けんか腰に喰ってかからなくてはならなかったわね。ことごとく跳ね返されても。無視されても。でも、今は、あたし達の話にとことん付き合ってくれて、職場を変えて行こうとする人に出会えました。もう直ぐ1ヶ月だよね?この1ヶ月で変わった事は数多あるけど、あの頑固な“おばちゃん達”をも巻き込んで、根底から職場を変えようとする動きは、みんなも知ってるわよね?改めてご紹介します!Yさんでーす!」「イエィー!」「彼が、千春と恭子と組んで進めようとしている改革路線をあたしは全面的に支援していきます!もっと、あたし達は変われるし、明るく楽しく仕事がしたいし、仲良くして行きたい!冷たい戦争はもう終わりにしましょう。鉄の扉も引き戸に替わると聞いてますし、返しの部屋にホワイトボードも設置されました。あれは、相互にコンタクトを取るためだよね?そうした発想自体が画期的だし、今までに無かった新たな事です。この前、“安さん”があたしに聞いて言いました。“どうだ?アイツはやるだろう?違う血を注ぐとまったく違う反応が連鎖する。それを育ててみろ!お前達次第で世界は劇的に変えられる!Yは、そのための起爆剤。ヤツを生かすも殺すもお前達の行動にかかっている!最後に決めるのはお前だ!”と。震えが止まりませんでした。でもね、この機会を逃したら、また次の機会が来るとは思えなかったのは確か。あたしは、“彼に賭けて見よう”と思いました。そして、思ってる事を全部吐き出しました!彼は、眉一つ動かさずにあたしの話を最後まで聞いてから、“このボードから全てを作り直しましょう”と言いました。男性に真剣に話を聞いてもらうのも初めてなのに、彼は全てを受け止めて答えをくれた!どれだけ、あたしが嬉しかったか!みんな分かる?」全員が黙して頷いた。「ここから、変えて行こう!変わろう!あたしは後戻りしたくない!前進あるのみ!進もう!彼を先頭にして、全てを一新しましょう!今日は、そのための決起集会よ!さあ、飲んで話して盛り上がろう!宜しくね!」「イエィー!」」神崎先輩が“サシで話したい”と言ってきた日を思い出した。彼女は今までの“負の歴史”を語り、それらを“変えて欲しい”と訴えて来たのだ。決死の思いで来ているのは、直ぐに察しが付いたが“安さん”のプッシュもあった事は初耳だった。彼女達は、ずっと抑圧下に置かれていた。悲しい事ではあるが、事実は覆らない。僕の使命は想像以上に重いモノだと改めて気付かされた挨拶だった。「では、Y先輩、答えて下さい!貴方はどうしたいか?何をしたいのか?教えてください!」千絵がそう言った。みんなが固唾を飲んで僕を見ていた。この思いにどう答えるか?僕はたじろぎながらも腰を上げた。僕の言葉をみんなが待っている。さて、どう答えるか?