limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 57

2019年10月28日 14時58分30秒 | 日記
午前5時、けたたましく目覚ましが鳴りだした。上のベッドでゴソゴソと音がすると、克ちゃんがあくびをしながら着替えを始めた。土曜日の朝だが、克ちゃんは4直3交代勤務なので、曜日に関係無くご出勤だった。「わりぃ。起こしちまったか?」「いや、構わんよ。吉田さんは?」あくびをしながら僕が聞くと「残業だろうな。まだ戻ってないよ」と返事が返って来た。3人3様の時間帯で生活し始めて1ヶ月近くが経過していたが、3人揃って休みの日と言うのは今もって無い!「お前さんは、早番オンリーだけど、懐具合はどうなんだ?」と克ちゃんが言う。「それなりさ。克ちゃんの稼ぎには及ばないよ」と言うと「夜勤は儲かるぜ!今からでも遅くはねぇから、配置転換を希望したらどうだ?」と言われる。「そうしたのは山々だが、こっちにも“大仕事”が振られて来てる。それを放り出すのは認められないだろうな。もう、完全に取り込まれてるからな!」「第3次隊の連中もそうなる運命だ。知らぬ内が花さ。現実は甘くないって事を伝えて置けよ!どっち道、俺は歓迎会に顔は出せないからな」と克ちゃんは自嘲気味に言う。「ああ、そこら辺はきっちりと言っとくよ。向こうの常識は通用しないってな」「頼んだぜ!じゃあ、俺は行ってくる!誰が入って来るか知らねぇが、時間帯がズレてるってきちんと説明してくれよ!俺達が寝てる脇で騒ぐな!って釘を刺しといてくれ!」と言うと克ちゃんは仕事に向かった。「さて、寝直すか」とベッドに横になったところへ「Y、起きろ!お姉さま方からお呼び出しだぞ!」と田尾がシーツを剥ぎ取った。「インターフォンが入ってる。5番に出ろ!」と言う。「朝から何の騒ぎだ?今日は何も予定は入ってないぞ」と止む無く起き上がると「予定は向こうが決めるらしいな!岩崎が待ちくたびれてるぜ!」と鼻で笑われる。1階へ降りて5番のインターフォンに出ると「Y、昨日はどうだった?千春を満足させられたかな?」とクスクス笑っている岩崎さんの声が聞こえる。「それは、本人に聞いて下さいよ。日付を跨いでの帰りだったから、まだ眠いんですが・・・」と言うと「精気をすっかり抜かれた様ね!千春はどんな感じだった?」とたたみかけられる。「“ちーちゃんと呼んで”って言われまして・・・、疲れましたよ」と言うと「えっ!Y、今“ちーちゃんと呼んで”って言ったわよね!マジなの!」と声のトーンが跳ね上がった。「ええ、ご本人の強い希望でそうなりましたが、どうかしました?」「千春が“ちーちゃん”を言い出したとなると、彼女本気で奪いにかかってる証拠よ!千春が本気になったとなると、ヤバイ事になりそうだわ!また、“山口組の抗争”が勃発するわよ!それに、あたしの描いた構図にも狂いが出るの!Y、悪いけど非常招集よ!直ぐに支度して出て来てちょうだい!朝食を食べながら作戦会議よ!30分後に迎えに行くから急いでね!」と言うとインターフォンは切れた。「寝ても覚めても暇は無しか」僕は急いでシャワーを浴びると、寮の玄関前に急行するハメになった。

待機していたスカイラインに乗り込むと、岩崎さんは急発進をかけた。後部席には永田ちゃんと実里ちゃんも居た。「おはようございます」と言うと「Y先輩、実にヤバイ事になりましたよ!」と永田ちゃんが深刻な顔で言った。「“ちーちゃん”が出たと言う事は、予定外のハプニングじゃなくて、実に危険なサインなの!まずったわ!千春の心を読み違えるとは、迂闊だった!」と岩崎さんも唇を噛んでいる。僕にはさっぱり分からないが、彼女達にすれば一大事なのは間違い無さそうだ。車は海岸沿いの喫茶店に突っ込んで停まった。ボックス席で朝食をオーダーすると「Y、確認なんだけど、千春は“ちーちゃんと呼んで”の“範囲”を指定したの?」「ええ、“2人だけ”になった場合に限りと言われてますが」と言うと3人は一斉に安堵の溜息を洩らした。「指定されたなら、まだ手は残されてるわね。みんなの前で“ちーちゃん”が横行したら、血を見るだけでは済まないのよ!全てが崩壊するかも知れないの!千春が“ちーちゃん”を許可するって事は“誰よりも信頼するわよ!あたしを自由にしていいわよ!”って意味なのよ!悪いけど迂闊に“ちーちゃん”とは呼ばないでね!」と岩崎さんはコーヒーを飲んで言った。「それにしても、厄介な事には変わりがありませんね!“ちーちゃん”が出た以上は、これまでよりも神経を使わなければなりませんから!」と永田ちゃんも言う。「男性に対しては、初めてじゃないですか?」と実里ちゃんが言うと「そうなのよ!しかも、相手がYでしょう?どうやって封じるか?頭が痛いわ!」と岩崎さんも応じた。「“ちーちゃん”を言い出したのは、千春先輩ですが“イエローカード”なんですか?」と僕が聞くと「“レッドカード”なの!“Yと結婚します”と同じ意味よ!だから、困ってるのよ!」と岩崎さんに思いっきり釘を打たれる。「しかし、知り得ているのは、Y先輩と千春先輩とあたし達だけです。この中で封印してしまえれば、実害は免れませんか?」と実里ちゃんが言う。ちょうどモーニングセットが届いたところだ。「そうね。この中で封印してしまえれば、最善なのよ。でも、代わりの手も考えないと千春が爆発しかねないわ。さて、どうやって口封じに持ち込もうかしら?」3人はしばし思案に沈んだ。「千春先輩が納得した上で、“ちーちゃん”を封じる・・・か。まずは、公式の場では言わない事!これは当然ですが、千春先輩とはどう折り合います?」僕が言い出すと「Yには悪いけど、明日も千春の“生贄”になってもらうしか無いわね!果実で釣り上げてから、“ちーちゃん”を限定的にしか使わない様に説得するしか無いでしょう!千春に言い聞かせるのは、あたしがやるとして、実里と永田ちゃんはYの口元に注意してもらう。これしかないわ!」「でも、Y先輩なら口が滑る心配はしなくてもいいのでは?」と実里ちゃんが言うが「万が一に備えるのは、王道よ!Yだって完璧では無いの。監視の目は必要だわ!」と岩崎さんは主張した。女の子達は殊更に気を遣う。針1本でも見逃すつもりはない様だ。「Y、千春から連絡させるから、明日は予定を入れないでくれない?何事もこの先の平和のためよ!千春のワガママに、もう1日だけ付き合ってあげて!そうすれば、実害が出ない様に封印するから!」岩崎さんはそう言って釘を打った。「分かりました。平和のためなら、何でも致しましょう」と息を殺して返した。「さあ、行動開始よ!でも、ちょっとだけ遠回りしてから戻ろうか?Y!」岩崎さんがキーを投げて寄越した。「じゃあ、また、最速記録を叩き出しますか?」と僕が言うと3人が微笑む。こうして、朝の騒動は幕を閉じた。寮に帰るとトラックから大量の荷物が搬入されていた。いよいよ、第3次隊の受け入れが始まったのだ。

部屋に帰り着くと、吉田さんは眠っていた。そーと、必要な物品を揃えると、僕はずっとやりたかった仕事にとりかかった。国分に来てから僕は“ワープロ”を手に入れていた。欠勤届や早退届の類は、原本を使われると新たに作ってもらうのに、手間と時間を必要とした。コピーの原本を複数作成出来れば、余計な心配をする必要もなくなる。時間はたっぷりあるのだから、こう言う時間にまとめて作成するには持ってこいだった。フロッピーにデーターを保存すると、感熱紙を使って試し刷りをして行く。仕上がりは順調だった。これで、コピーを大量に取れば、しばらくは心配することも無いだろう。昼前になったので、作業服に着替えて社食へと歩き出した。しばらくすると肩を叩かれた。「久しぶりだな。お前さんが週末に居るとは、珍しいな」と長老の田中さんが言った。「そうですね。“優しいお姉さま方”にずっと誘われてましたからね」と言うと「“薩摩おごじょ”は豪快だな。酒も強いし話も上手い。ウチは4人だが、Yのところは何人居る?」「年齢を問わなければ50人居ますよ。半分はパートさんですがね」「花園で勤務か!羨ましいね」「いばらの道ですよ。強烈な“おばちゃん達”と渡り合うには“通訳”が必要ですから」と言うと田中さんは噴出した。「確かにそれは分る!半分も理解出来ればいい方だ。今度、着任する連中も同じ苦労を味わうハメになるな!」と言って笑った。「勤務は?」と聞くと「夜からだよ。昼間起きてないと寝れないから、仕方なくこうしてるだけさ」と返して来た。あれこれと話して昼食を食べ、寮に戻るとダンボール箱の移動を手伝った。女子寮に運ぶダンボール箱は結構な量があった。一汗流して談話室で休んでいると、インターフォンが鳴った。誰も居ないので仕方なく出ると、相手は千絵だった。「Y先輩、これから空いてますか?」「ああ、今のところは空いてるがどうした?」と言うと「買い物に付き合ってくれません?買い溜めするから、荷物持ちお願いしてもいいかな?」と言うのでOKすると「じゃあ、15分後に車付けますからお願いします!」と嬉しそうに言った。そそくさと着替えて、財布と免許証を持つと玄関を出る。千絵のマーチは既に横付けされていた。「運転任せます!」と言うので、マーチを市内に向けて走らせる。「何を買うか決めてあるのか?」と言うと「日用品と食料品だから、2ヶ所に行くわよ」と明るく笑って左手に右手を重ねて来る。“千絵となら未来が見えるのかな?”とフッと思った。同じ事を考えていたのか分からなかったが、千絵は横顔を見て「毎週、こうして買い物に行くのが夢よ。明るく楽しい家庭を築きましょう!」と言った。「いつからにする?」と聞くと「明日からでもいいよ。あたし、待ってるから!」と力強く言った。千絵の笑顔が眩しかった。

日曜日、赤いスタリオンは、錦江湾の東沿いを南下して、佐多岬を目指していた。「昨日、恭子に散々怒られたわよ!“大奥取締役が抜け駆けしたら、何も意味が無いでしょう!”って力説されて、延々とお説教!でもね、あたしは“一番槍”を取るわよ!見事に男子を挙げるからね!」ちーちゃんは挫けてはいなかった。2人だけの時は“ちーちゃん”と呼ぶが、公の場では今まで同様に“千春先輩”と呼ぶ事で合意した様だが、彼女は意欲満々で助手席に座っていた。デニムのミニスカートにチェック柄のタンクトップ。ノーメイクだが、肌は透き通る様に白い。明らかに“連れ込む”算段だろう。化粧道具を持参しているが何よりの証拠だ。問題は“いつどこで仕掛けて来るか?”だった。何故なら、ちーちゃんの右手は、既に僕の下半身を触っているからだ!「ちーちゃん、余り刺激しないで下さいよー」と言うが「Yの息子は良く知っておる。良いではないか!早くあたしの元へ来るがいい!」と笑っている。これは、半分拷問だ!恐らく、仕向けたのは岩崎さんだろう。条件提示の段階で、ちーちゃんの要求を飲んだ結果がこれなのだ。朝からこの調子では、先が思いやられる!鹿屋付近を過ぎると、対向車線から車が来るのも少なくなった。「Y、あそこに停まってよ」ちーちゃんが路側帯を指した。鬱蒼と枝が茂っている中へ車を停めると、ちーちゃんは襲い掛かって来た。唇を重ねている間に助手席が倒されて、ベッドの代わりになった。「Y-、おっぱいちゃんだよ」と言ってブラのホックを外すと、豊満な乳房に触らせる。巧みに体をくねらせると、スカートを脱いでパンティに僕の手を持って行く。湿り気を帯びているちーちゃんのハンティの中に手を入れてやると、嬉しそうに声を上げ始める。「お願い、早くしようよー」知らぬ身体ではない。ちーちゃんの中へと息子を入れていくと、たちまち喘ぐ声が高まった。「あん!もっと・・・、いっぱい・・・突いてちょうだい!」ちーちゃんは首に腕を巻き付けると、何度もキスをしながら突きをねだった。猛然と突きを入れてやると「あー・・・・、あーあー・・・、イク・・・あたし、いっちゃう!」と腰をくねらせた。ありったけの体液を注いでやると、痙攣しながら1滴も余さずに吸い取った。「気持ち良かった。Y、ティシュ取って」と言うと、ちーちゃんは溢れる体液を拭き取り、僕の息子も拭いてくれた。「抱いて」と言って膝に座り込むと、ピッタリと密着して「出来るといいね」と妊娠を願う。その表情は真剣そのものだ。「Y、このパンティあげるよ。濡れちゃったし、着替え持ってるから」ちーちゃんはあっけらかんと言う。この底抜けの明るさこそ、ちーちゃんの魅力だろう。どうにかして、お互いに服を着ると再び車を走らせる。佐多岬ロードパークまでは、まだ先があった。だが、ちーちゃんは我慢が続かなくなってしまったらしい。「Y―、もう1回しようよ!」と盛んにおねだり大作戦を展開し始める。「しょうが無いなー!」と諦めると急遽、鹿屋へ転進してモーテルを探す。やっとの思いで空き部屋を見つけると、ちーちゃんは直ぐに部屋へ僕を押し込んでから、服をもどかし気に脱ぎ捨てて、襲いかかって来た。応戦しつつ、後ろから猛然と突きを入れてやると、たちまち理性をかなぐり捨てて「もっと・・・、もっと・・・、いっぱい突いてちょうだい!そうよ・・・!もっと激しくして!」と喘ぎながら言って、自らも腰を動かし始めた。身体を入れ替えて正面から突くと「気持ちいい・・・!中よ・・・!中に出して・・・!お願い!」と盛んに言って脚をクロスさせて、逃さない態勢を取った。大量の体液を注いでやると「気持ちよかった。Y,頑張ったね」と言ってから、僕の左側に寄り添うと胸元に顔を埋めて目を閉じた。ちーちゃんは、スヤスヤと眠りの世界へと入って行った。乱れた髪を直してやりながら、寝顔を見るとカワイイ顔をしていた。シーツでそっと覆い隠すと、もう一度寝顔に見入る。女の子の寝顔なんて滅多に見られるモノじゃないので、しばらく観察していると、ちーちゃんが現実の世界へ戻った。「ごめん!あたし、今まで寝てた?」「うん、スヤスヤと」「どうだった?あたしの寝顔は?」「可愛かったですよ!寝言を除けば」と言うと「何ていったの?教えなさいよ!」と馬のりになって問い質す。豊満な乳房に手を伸ばして、乳首に刺激を加えてやると「ダメよー!また、したくなっちゃうー!」と身体をくねらせた。ちーちゃんも、僕の息子に触ってパワーを入れようとし始める。「元気にしてあげる!だから、もう1回頑張ってよ!」ちーちゃんは、舌を使って息子にエネルギーを送り込んだ。「今度は、あたしが上よ!あっ・・・、大きい・・・、Yのが根元まで・・・入ってるよ!じゃあ、動くね」と言うと、たちまち理性をかなぐり捨てて、喘ぎ声を出し始める。下から突き上げてやると、悲鳴に似た声をあげて「もっと・・・、もっといっぱい・・・突いて下さい!・・・突いて下さい!」とねだった。再度、背後を取ると猛然と突きを入れてやる。「いい・・・、気持ちいい・・・!あたし・・・、イク、いっちゃうよー!」ちーちゃんは絶頂に登りつめた。同時に体液が注がれる。ちーちゃんは、ベッドに横たわると、僕の体液を指ですくってホールへと押し込んで行く。「気持ちよかった。これで妊娠出来るかな?あたし、Yの子供欲しいの!」と言う目は真剣な眼差しだった。それからは、バスルームでシャワーを浴びながら、互いにボディソープを塗り合って遊び出した。バスタブに湯を張ってから、2人してゆっくりと浸ると「お腹が大きくなる前に、ドレスを着たいから今回は期待してるのよ!絶対に当てるからね!」ちーちゃんは、その気満々だ。「Y,あたしを置いて行くな!妻として何処までも共に歩むからさ!」抱き着いて来るちーちゃんを僕は優しく抱きしめた。結局は、もう一度の熱戦をして、佐多岬ロードパークには行かずに、国分の街へと帰ったのだが、ちーちゃんの機嫌はすこぶる良くなり、ちーちゃんと呼んで問題は無事に決着したのだった。「アンタ、相当に頑張った見たいね!千春の晴れやかな顔を見れば一目瞭然!Y,お疲れ様でした。次は、あたしの番だから、覚悟してなさい!」夕方に入ったインターフォンで岩崎さんが言った。「少しは、休ませて下さいよ!」と言ったが「ダメよ!大奥の掟は厳しいの!正妻の顔は立てなさい!」と敢え無く撃沈の浮き目にあった。「こりゃ、痩せるな。しっかり食べないと体力が続かない」僕は作業服に着替えると社食で目一杯食べて、翌日に備えた。

月曜日、月が代わって6月。南九州一帯の梅雨入りは、間近に迫っていた。全体朝礼に備えて整列していると「Y,昨日はありがと!」と千春先輩が後ろから抱き着いて来た。「はい!そこまでよ!千春、Yは共有財産なのよ!控えてちょうだい!」と岩崎さんに引き剥がされる。「Y,結局、何試合したのよ?」彼女は入れ替わり際に囁いた。僕は黙して指を4つ立てた。「ボクシングのタイトルマッチをしてから、アメフトの試合に出た訳ね。分かったわ、今日は仕事で無理はさせないから!」と言って列に並ぶ。延々と続く朝礼を乗り越えて、おばちゃん達との格闘も済ませると、1日はあっと言う間に過ぎ去った。「Y先輩、帰りますよ!」と千絵が呼びに来る。寮に向かって歩き出すと、後ろから第3次隊、50名が着いて来る。「道を譲るよ」と僕が言うと左側に寄って、隊列を先に出させた。数名が僕に気付いて手を上げた。「Y先輩、お知り合いですか?」と千絵がボケをかます。「全員が知り合いだよ!来月に第4次隊が着任すれば、今回の派遣隊全員が揃う。先月に着任したのを忘れたか?」と返すと「あっ、そうか!でも、Y先輩は元々居た様な気がするんです」と永田ちゃんが言う。「それだけ、Yの存在感は大きいって事よ。今回も誰か配属されるのかしら?千春、何か情報は?」「今のところ無し。ただ、レイヤーとディップで駆け引きしてるのは確か。押し付け合ってる感じらしいわ」と不穏なニュースを聞いた。「まあ、明日になれば分かるさ。今晩は、ヤツらの出方を伺うとしましょう!」僕等もゆっくりと寮へと歩き出す。「今回は、女の子が多いのが特徴的だよね。女子寮も久々に満杯になるのよ。各部屋へ分散するけど、どんな子が来るのかな?Yを付け狙う子は居そう?」岩崎さんが心配気味に言う。「厄介なヤツは居ませんよ。例え居たとしても、これだけ厳重にガードされてるんですから、付け入るスキはありませんね!」「そうだといいけど、予防対策はしっかりと取りますからね!」と女性陣は奪取されぬ様に厳戒体制を敷いている様だ。「好きな様にして下さい。どの道、みんなバラバラの時間帯に放り込まれるんです。すれ違う暇すらありませんよ!」僕は差して気にもしなかった。寮ですれ違う事でさえ稀な事なのだから、己の事で手一杯になる明日からの生活で余裕は無いはずだ。寮の玄関先で「また明日ねー!」と手を振り千絵達は女子寮へと入って行った。田尾と僕もそれぞれの部屋へ急いだ。誰が来るのか?皆目見当が付かないからだ。克ちゃんが爆睡中だし、吉田さんもTVの前で寝ている。部屋のドアには何も表示が無い。「セーフか?」と思っていると、ゴソゴソと音が聞こえた。「よお!」と言って現れたのは、同期の鎌倉だった。慌ててヤツの口を塞ぐと「静かにしろ!寝てる連中に袋にされちまう!ここでは、みんな違う時間帯で生活してる。騒いだらタダじゃあ済まない。手伝うから静かに運べ!」と言って荷物を運んでやる。吉田さんも起きてくれたので、鎌倉の荷物運びは、直ぐに終わった。「ベッドは僕の上を使え。細かい作業は、克ちゃんが起きる午後7時以降にしてくれ。どの道、寮長からの説明会だろう?」と言うと「お前さんは上がりか?」と言うので「僕は早番オンリーだが、吉田さんは3交代、克ちゃんは4直3交代だ。残業だってバンバンあるから、定時上がりは稀なケースさ!」と説明会をしてやる。「思ってる以上に過酷だな。コンビニはどこだ?」「無いよ!向こうの常識は通じないんだ!それから、調味料も丸で違うから、ここの味に慣れるまでは味噌と醤油は節約するんだな。ちなみに、醤油味と塩味のラーメンは無いから、覚悟して置け!」と釘を刺した。「マジ?!そんな中でどうやって生きてくんだよ?」「“住めば都”だろう?大丈夫だ。慣れればどうって事は無い」と吉田さんも言う。「さあ、談話室へ行け!詳しい話は、それからだ!」鎌倉は肩を落として階段を降りて行った。「最初はあんなもんさ。その内慣れるだろう。後の世話は頼んだぞ!俺達は仕事があるからな」と吉田さんが言う。「鎌倉で良かった。アイツなら妙な事はしないから、安心ではありますよ」「ああ、ヤツなら直ぐに女の子とツルんで遊び回るさ。お前さんの様にな!」「お姉様方に遊ばれてるんですが?」「同じだろう?」「違いますよ!」僕等は意見の相違を言い合った。時を同じくして、談話室でも言い合いは始まっていた。そして騒ぎは僕にも降り掛かって来た。「Y,助けてくれ!美登里が騒いでるんだ!鎮圧に手を貸してくれ!」田中さんが青ざめた顔でやって来た。「“緑のスッポン”がですか?!何故ヤツが国分に?」「直前になって入れ替えがあったんだ。本来なら向こうに釘付けになるはずだったのに、やむを得ない事情で送られるハメになったらしい。ともかく火を消すのに人が足りないんだ!何とか封じ込めるしかあるまい!」田中さんも唇を噛んでいる。1階へ降りると、激しいやり取りが聞こえた。「あたしは、不条理を指摘しただけです!!男子寮に空き部屋があるなら、そこを使わせて下さい!バラバラにされたら、連絡も容易には付きません!変えて下さい!!」美登里の金切り声は、相変わらずキンキンと響く。「ともかく、連れ出そう!Y,このままでは、他の連中の迷惑になるだけだ!行くぞ!」僕と田中さんは、素早く美登里を捕捉すると、有無を言わさずに談話室から屋外ヘ引きずり出した。

「離してよ!何をするの!」美登里は抵抗するが、僕と田中さんの手で、寮の外ヘ連行された。「初めに言って置くが、“郷に入れば郷に従え”と言うだろう?ここは、国分なんだから国分のルールに従うのが筋だろう?自己都合を押し付けて、みんなを困らせるな!」田中さんが、いつになく語気を強めて、美登里を黙らせる。「お恥ずかしいったらありゃしない!部屋割り1つであの騒ぎか?信頼を得るには、黙々と努力を積むしか無いが、失うのは一瞬でおじゃんさ!第1次隊と2次隊のみんなの顔に泥を塗る真似は許さんぞ!立場をわきまえろよ!」と僕も半分脅しをお見舞いする。「でっ、でも、各部屋にバラバラにされたら、連絡も取れなくなります!納得出来ません!大体、事前に根回しをして無いなんて、信じられない!みんな、受け入れ準備すらして無いじゃありませんか!無責任過ぎます!」美登里は悪びれる素振りも見せずに言い返した。「田中さん、向こうに連絡して強制送還の依頼をして下さい!これでは話になりませんよ!君は帰った方がいい。協調性の無い自己中心的な考えは通じないんだ!旅費は出してやる!だから帰れ!」と美登里を突き放した。田中さんは早速、O工場に電話を入れに行った。「そんな命令は無効です!不条理に立ち向かって何が悪い訳?」「アンタの理論では不条理かも知れないが、僕達には不条理とは見えないぜ!そもそも軒先を貸してもらうんだ。ありがたくお世話になるのが、普通じゃないか?」「それは男性だから言えるんです!女性の立場に立って、考えてくれなければ困るんです!」議論は平行線を辿ったままだった。“緑のスッポン”は石橋を叩き壊しても渡らない頑固者だ。田中さんが「美登里、総務部長が呼んでる!電話に出ろ!」と呼びに来た。美登里は、仕方なく受話器を取る。「Y,アレどう言う事?」千春先輩が聞いて来る。彼女は寮生会の幹部でもある。「見ての通りの頑固者ですよ!自分の我が通らないと、気が済まない悪癖があるんですよ。協調性の欠片も無い“鼻摘まみ者”で通ってます。すみませんね。皆さんの気分を害してしまい、お詫びのしようもありません。寮長さんに頭を下げて来ます。田中さん、いいですか?」「済まんが頼む!後で、1次隊と2次隊の隊長も行くと伝えてくれ!」「そんな!Yが土下座する必要は無いのに!あたしが取りなすから、止めときな!Yの責任にされちゃうよ!」千春先輩は止めに入ろうとするが、僕は聞かなかった。憮然とした表情の寮長さん達に詫びを入れて土下座を繰り返した。第3次隊の連中も必死になって詫びを入れ始める。「分かりました。もうその辺で頭を上げて下さい。Yさんに、こんな事されたのが知れたら、私が吊るされますよ!そうでなくても、現に睨まれてますから」と寮長さんは、慌てて僕の土下座を止めた。女子寮の幹部達が、僕を助け起こすと「Yの責任にしないで!やむを得ない事情があったんだからね!」と千春先輩が言い放った。「それは分かってるさ。彼が、どれだけの信頼を勝ち得ているか?を考えれば、女子寮の意向は無視出来ない。彼にかかっている期待と仕事も含めれば、罪に問える訳ないよ!」と寮長さんは言って、女性陣の追求を逃れた。「Y、ちょっといいか?」田中さんが呼びに来る。美登里はうつむき加減で、受話器を握りしめていた。「総務部長が、話たいそうだ!代われ!」僕は受話器を握りしめて話に耳を傾けた。美登利が、派遣隊に加わった経緯から説明されたが、現実に美登里が引き起こした“騒動”に話が及ぶと、総務部長の声は上ずり氷漬けになった。「信頼関係を一瞬で破壊されたんです!明日中には、国分全体に話が拡散するでしょうし、我々も釈明に追われるでしょう!Oの恥を晒す真似は許されません!部長!美登里は引き上げにすべきです!」と僕は釘を打った。「Yからそう言われると、無下には出来んな。お前さんの評価は、群を抜いて高いし期待も大きい。ウチのエースが無理だと言うなら、従うのが筋だろう。分かった!高山美登里は、引き上げとする!代替え要員は、1週間以内に派遣する。工場長、それで宜しいですか?」どうやら、会話はオープンマイクで聞いていたのだろう。工場長は、即断で引き上げを了承した。「詳細は、これから国分の方と詰めるが、そちらに迷惑をかけるつもりは断じて無い。田中さんにもそう伝えてくれ!Y,済まなかったな。大変だろうが、頑張ってくれ!」と言うと電話は切れた。「どうだ?」詫びを入れに行った田中さんが戻った。「引き上げが決まりそうです。O工場の恥は晒せない。工場長も同意した様です。我々に迷惑はかけないから、安心しろと言ってました」「やはりそうか!美登里、責任は取れ!我々の顔に泥を塗った罪は重いぞ!」彼女は蒼白で頷いた。寮長さん達の説明会が終わると、3次隊の連中が談話室から出て来た。一様に美登里を睨み付ける。1人の子が美登里の手を引いて、女子寮へ向かった。「“緑のスッポン”を派遣した方が間違ってるんだ!」「Y,済まなかったな!」男達は僕の肩を叩いて言った。「先が思いやられるな。これで終わりとは行かんだろう。爆弾を抱える覚悟はして置こう!」と田中さんは言った。実際、騒動はこれで終わらなかった。

life 人生雑記帳 - 56

2019年10月28日 14時35分43秒 | 日記
「Y先輩、1言お願いします!」千絵に言われて立ち上がったものの、僕は何を話していいか?分からなかった。すると「あたしから質問してもいい?」と神崎先輩が立ち上がった。「今の心境は?」「緊張して頭の中が真っ白です」と言うと笑い声が起こった。「美女の集団に囲まれて、戸惑ってるって感じかな?いつもの切れが無いわねー!リラックスして聞いて!別に噛み付くつもりは無いもの。鹿児島に来て1番驚いた事は?」「コンビニが近くに無い事。それと自販機が少ない事かな?」「コンビニは分かるけど、自販機はどうだろう?長野だともっと多い訳?」「公園や道端や駅に“これでもか!”ってくらいにあるので、そう感じるのかも知れません。タイプもモデルも違いますし」「どう違うの?」「歩道にはみ出さない様に全体的に薄く作られてますね。“スリムタイプ”と呼ばれてますよ。品数も多いですし、地域限定品もありますね。黒ビールなんかは向こうにしか無いかも」「黒いビール?金色じゃなくて、真っ黒?」「炭みたいに黒い訳では無いですよ。茶色のやや黒みがかった色って言えば分かります?」「何となく想像してるけど、黒は予想外だわ。他に無いモノは?」「インスタントラーメンの醤油味と塩味ですね。味噌味は見かけますが、他は陰も形も無いのがショックでした」「ここは、豚骨が主流だから諦めて!貴方の基本的戦略は?」「風林火山ですね!」「武田信玄か。原典を言える?」「“疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷振の如し”」「流石、Yだわ!スラスラと出て来るのが貴方らしいわ。現代語訳を言える?」「物凄く簡単に言うと“進むときは風の様に早く、機を待つときは林の様に静かに、攻めるときは火が燃え広がるように急激に、じっとしているときは山の様にどっしりと、自分自身は暗闇の中にいる様に気配を消して、動くときは雷鳴が轟く様にドーっと、行動にはメリハリを付ける事が肝要であり、中途半端はダメだ。1つ1つの行動に全力で取り組まなくてはいけない”と孫氏は言っています」「やっと乗って来たじゃない!それでどうやって勝つのよ?」「誤解しないで欲しいんですが、孫氏の兵法の基本は、“戦わずして勝つ”なんです。如何に兵力を温存して相手を挫くか?時には引く事も考えるように、孫氏は言ってます。“撤するは恥にあらず。勇気を持って引くに際しては戦いを避けよ”とも言ってます。もっとも、今は引いてる場合ではありません。勇気を出して戦わなくてはなりませんよ。そのために私は選ばれたのでしょう。“安さん”が言ってました。“最初の2ヶ月は思う通りにやって見ろ!笛吹けど踊らずか?全員が踊るか?俺は後者に賭ける!お前をあそこに据えた真価を見せてみろ!必要な支援は、直ぐにしてやるから遠慮なく言うがいい!”と。ですが、正直に言うと引き継いだはいいが、何から手を付けて行くか?最初は全く分かりませんでした。しかし、問題点は直ぐに見えました。余り前任者の事を悪く言うのも気が引けますが、岡元さんは“放牧状態”で仕事をしてましたよね?統率を取って居なかったに等しい状態なんです。だから、“おばちゃん達”もお喋りに夢中になると手が止まるし、ふざけ始める。これを是正するとなると、相応に手がかかるし、時間も必要です。もう1つは、“情報の伝達”を怠っていました。朝礼で伝えるべき事を伝えていなかった。これは、意思疎通が全く取れていない証拠でもあります。そこで、まず考えたのは、伝えるべき情報を“漏れなく伝える”事です。朝礼のやり方は変えていませんが、関係がある事は、例え些細な事でも余す事無く伝える様にしてます。そして、みなさんご存じの“ボード”です。あれの目的は“情報の可視化”です。“言った、言わない”の様な不毛な争いを無くす事も勿論ですが、“次に自分は、何をやらなくてはならないか?”を常に意識させる事も含まれてます。“おばちゃん達”を動かすには、力で動かすのでは無く“自主的に動いてもらう”方が角が立たないで済みます。今、自分は国吉さんに“弟子入り”してますが、そこから学んだ事は順次横へ広げるつもりです。“おばちゃん達をマルチに使う”事が最終目的ですが、並行して“1極集中を避けて楽をさせる”目的もあります。人間は楽をする事を覚えれば、もっと楽をしたがるものです。楽をしたいなら、大勢で手早く片付ければいい。そうすれば、検査工程にもっと早く製品を送り込めるし、余裕も生まれる。質が上がれば受注も増えるでしょう。少しづつではありますが、流れは良い方向に向かいつつあります。みなさんには、今しばらく待って欲しいとお願いしたいのです。意識を変えれば、必ず好循環が生まれます。後は、継続して取り組むのに加えて、意思疎通をしっかりと取り続ける事です。鉄の扉を引き戸に変えるだけでも、溝は確実に狭くなるでしょう。僕が“こうしましょう!”と押し付けても、人は動きません。“動くように仕向ける”事で、僕は立ち向かっています。まあ、褒められた作戦ではありませんが・・・」と言うと、みんなは真剣に聞いていてくれた。「なるほど、こんな深慮遠謀が隠れていたのね。貴方なりに“おばちゃん達”を動かす算段をしてくれていたとは。確かに雰囲気は変わったわね。品証もそれは肌で感じる?」と神崎先輩が細山田さんを見た。「明らかに違いますね!今までは“厄介者”と見られているのをヒシヒシと感じましたが、今は“今日は何を取りに来たの?これ、持って行きなさい”って感じですから、行くのも苦にならなくなりました!実里は特にそうじゃない?」「ええ、Y先輩が直ぐに対応してくれるので、助かってます!」「あたしも度々お邪魔してるけど、トゲトゲしい雰囲気が和やかになりつつあるのは感じるわね。さあ、重たい話はこれくらいにしましょう!自由に聞いていいわよ!Yさんも座って飲んで!」と神崎先輩が宣言すると、女の子達はガヤガヤと話し出し、飲み始めた。「まずは、一献」と神崎先輩がお酌に来た。「恐縮です」と言い受けると「今まで、あたしに臆す事無く、真正面から受けて立ったのは“安さん”だけだったの。貴方はひょっとして信玄の生まれ変わりじゃない?“風林火山”の計で、あの手強い“おばちゃん達”に何も言わせないとは、驚き以外の何物でも無いわ!」と言われる。「僕には“最強の騎馬軍団”を率いる力はありません。ただ、聞いて信じて戦うだけですよ。まだ、道半ばですがね」と返すと「それでいいの!聞いてくれる。信じてくれる。どれだけ、あたし達が望んでいたか?今は分るでしょう?貴方は“自分らしく”走りなさい!どこまでも貴方を追って行くから!頼むわよ!」と手を重ねて言い含めた。彼女が去ると「Y先輩、どんなパンティが好みですか?ちなみに、今日はピンクのチェック柄ですよ!」と千絵がスカートをめくる。恐ろしいギャップだが、千絵らしい質問だ。「あたしは水色のレースよ!」と千春先輩も見せ付けるべくスカートをめくる。「ねえ!」「どっちが好き?」とステレオ攻撃を受けてしまう。「じゃあ、逆に聞くが“勝負パンティ”は何だ?」反撃するならこれしか無かった。「ふむ、数ある中でとなると・・・」千絵がもたついていると「Tバックの赤いヤツよ!」と千春先輩が先制攻撃を見せた。「先輩!入るのあるんですか?」と千絵も切り返す。「あたし、そんなにおデブじゃないもん!サイズ合うの持ってるから。Y―、見たいでしょ!今度お姉さんと遊んでー!」と抱き着かれる。だが、千絵も負けてはいない。膝元に座り込むと「Y先輩は、あたしのモノ!」と千春先輩の腕を引き剥がして行く。「それは無いでしょう!Yは共有財産なんだから!」と両者での争いに発展し始める。僕は“紛争地帯”から早々に逃げ出して、田尾のいるテーブルに潜り込んだ。「あーあ、派手にやってるねー。酒が入ってるから収拾が付くのは簡単じゃねぇだろうよ!」と田尾も気圧され気味だ。「もう、見てられないから止めて来るね!」と岩崎さんが調停に乗り出した。「Y、“おばちゃん達”をどう操縦するんだよ?」と田尾が突っ込んで来る。「操縦はしないよ。“自主的に従う様に仕向ける”のさ。力でねじ伏せようとすれば投げられるか潰さるが、自分の意志で付いて来るなら手を差し伸べる。極論にはなるが、脱落者が出ても仕方がないと考えてるよ」「ヒュー、そこまで腹括ってるのか?」「ああ、付いて来れなければ足手纏いになるだけだ。非情にならなきゃいけない事もあるだろうよ」「反発喰らってもか?」「勿論、既に予測は立ててあるさ。3分の1は入れ替わる可能性は否定しない!」「古狸は一掃するか、一気に塗り替えるつもりだな!相変わらず思い切りがいいじゃねぇか!まあ、1杯やりなよ!」と焼酎のお湯割りを差し出した。「これからの活躍を祝して!」男2人で乾杯をしていると、品証の2名が押しかけて来た。細山田さんが田尾に、実里ちゃんが僕に近寄ってお酌をしてくれた。「“山口組”の抗争は、しょうがないよね。2人共、Y先輩と遊びたいだけなのに、どうしても主導権を勝ち取りたいらしいわね?」細山田さんが言うと「御大将を差し置いて、何やってんだ?まあ、実害がねぇだけマシだけどさ!」と田尾は投げやりに返す。「Y、矛を収めさせる手立てはあるのか?」「ある訳ないじゃん!勝手にやってるんだから、火に油を注ぐ様なもんさ。あーあ、また飲んでからやり合ってる!こうなると最悪だ!」僕は陰に隠れる様に身を潜ませた。「Y先輩、こっち、こっちへ!」実里ちゃんが盾になる様にして僕を奥へと逃がしてくれる。「そろそろ、バックレる頃合いか?Y、幸い誰も見ていねぇ。まずは、一服着けてからにするか?」田尾がライターを取り出した。「外で一息付こうか。こう騒がしくちゃ落ち着けないからな!」田尾と実里ちゃん達と席を外すと、僕らは外へでてタバコに火を着けた。中の喧騒がウソの見たいに、静かに街は夕暮れ時へ向かっていた。「今は、喧嘩をやらかしてるが、千春も千絵も岩崎も神崎先輩もアンタの手腕に期待してる。無論、俺達もそうだ。返しと検査は一体で運用しないと、これから増々苦しくなるし、いずれは行き詰まりになっちまう。そうなる前に、アンタがどれだけ見せてくれるか?“安さん”の関心もその1点だ。御大将!采配に抜かりはねぇだろうな?」「日々の積み重ねがモノを言うだろう。“おばちゃん達”も抜け目なく見てるしな。失敗は許されないのは承知してるが、焦ったら負けだし手綱を緩めてもマズイ!ちょうど微妙な時期に差し掛かってるのは、間違いないが裏を見れば、思い切って動ける時期でもある。そろそろ、鞭を入れるタイミングかもな!」「それは、犠牲を伴ってもか?!」「さっきも言ったろう?3分の1は脱落しても仕方ないと。“古いしきたり”でしか動けないとしたら、これからのスピードには足手纏いになるだけだ。“新しいやり方”に慣れなければ、置いて行くしかない!時代の流れは速いし、弱者には優しくない!事業部の方針に乗り遅れないためにも、ピッチは上げるしかないんだよ!」「非情と言われてもか?」「ああ、それが僕に課せられた使命だとするならな!」「でも、Y先輩はそんな事はしないと思います。みんなを拾い上げて荷車に乗せてでも、時の流れに立ち向かうつもりでしょう?」細山田さんが言う。「あたしも、そう思います。先輩の性格からして、弱者を見捨てるとは思えません!」実里ちゃんも同調した。「見抜かれてるぜ!多分、“おばちゃん達”も抜け目なく感じてるだろうよ!鬼の面は似合わねぇ。“仏の参謀長”だったんだろう?」「そう言われた事もあるな。もう、昔だが・・・」「だとしたら、“仏の参謀長”を思い出せや!戦う姿は似合わねぇよ!じっくりと策を巡らせてジワジワとやればいい。“おばちゃん達”を敵に回したら、元も子もねぇだろう?」田尾は核心を突いて来た。「いずれにしても、流儀は僕の流儀でやるさ。それだけはハッキリと言える!」「その言葉を忘れるな!自分に対して、他人対しても譲れない流儀を貫けよ!御大将!」田尾の言葉は心に響いたモノになった。“自分の流儀を貫け!”と言うセリフは、最後まで僕を奮い立たせる指針となった。「ここに居たの?ごめんね!もう騒ぎは収まったから飲み直さない?」岩崎さんが呼びに来た。「よし、もう1度乾杯からやり直しだ!」田尾の一言で僕らは部屋に戻った。宴会はその後も盛大に盛り上がったし、僕は散々に女の子達に絡まれ続けたのは言うまでも無い。

そして、月曜日。眠い目を擦り、痛む頭を抱えて寮の玄関に立つと「オス!」と田尾がやって来た。だが、いつもの切れが無い。「昨日、何時に帰って来たか覚えてるか?」と靴を履きながら聞いて来るが「記憶が飛んでるんだよ。何時だったかな?目覚ましはセットしたらしいが、どうも靄がかかってるんだよ」と返すと「同じかよ。結局、最後まで付き合ったらしいが、どうもイマイチ思い出せねぇんだよな!」と言う。「3次会でカラオケに行ったのは、薄っすらと思い出せるが・・・」「確か、千春と千絵がマイクを離さなかった様な記憶があるぜ。それ以降はどうしたんだよ?」「・・・、分からん!」2人して工場へ歩き出すと、前を行く岩崎さんと永田ちゃんが振り返って「おはよー!」と元気な声を上げた。「千絵と千春は?」田尾が聞くと「それがね、2人共“化粧に時間がかかるから先に行って”って言うのよ。顔中、傷だらけなのを隠すのに必死なの!」と岩崎さんが笑って言った。「でも、“何で傷だらけなんだろう?”って口を揃えて言うの!喧嘩した事、完全に忘れてる見たいよ!」永田ちゃんが可笑しさを隠す事無く笑いながら言う。「都合の悪い記憶だけが抜け落ちてるとは・・・」「ノー天気なヤツらだぜ!」僕等は、お手上げのポーズを取るしか無かった。「カラオケで20曲を熱唱したのに、それもすっかり抜け落ちてるの!全くどう言う事かしら?」岩崎さんも首を捻るが、当人達にしか分からない事だろうと思った。多分、“安さん”の雄叫びを聞けば目覚めるはずだ。僕等に遅れる事5分後、千絵と千春先輩も到着し、朝礼に備えて整列を終えると「昨日はごめんなさいね。今日からまた、しっかりと頼むわね!」と神崎先輩が言いに来た。「お任せください」と言うと彼女はホッとしたのか微笑んで列に戻った。“安さん”のご機嫌は相変わらず斜めで、太く大きな声が頭の中で反響し続けた。今週を乗り切れば、いよいよ6月に入る。着任から1ヶ月が過ぎ去った事になるのだ。しっかりとメモを取り、パートさんの朝礼の“種”を拾い集める。月末でもあり、朝礼は1時間45分を要してやっと終わった。パートさん達が出勤して来るまで45分しか無い。ボードに書き込みを入れ、治具を用意して、炉から出た製品を仕分ける。その間に、徳田、田尾の両名が“本日の出荷予定と不足分”をボードに書き入れた。“おばちゃん達”は、早い組と遅い組に別れていた。早い人は8時15分には到着するし、遅い方は保育園へ子供さんを預けてからギリギリに入って来る。早く来てくれる人にも手伝ってもらい、何とか朝礼に漕ぎつける事が月曜日の宿命だった。型通りの朝礼を終えると、みんな三々五々に仕事を始める。検査担当のパートさんは、鉄の扉の後ろへ急いだ。僕も国吉さんの隣で“修行”に精を出す。スピードでは、まだ国吉さんに及ばないが、基本的な手技は大体掴みつつあった。「Yさんは筋がいい。後は、焦らんで確実にトレーに受け止めるだけよ」と“師匠”は言う。「Yさんは、全体を見ながらでいいのに、どうしてあたしに“弟子入り”したの?」と国吉さんが言い出した。「岡元さんの“遺言”なので。“オールラウンドにならんといかん!”って言われてますから」と返すと「それにしても、非常に熱心にやられるから、教えることはもう無いよ!」と言われる。「いえ、まだまだ盗ませてもらいますよ!」と言うと「家には来ないでね!」と笑われる。他のパートさん達も釣られて笑い出す。しかし、手を止める人はもういない。少しづつだが、ここは変わろうとしている。「Y、悪いけどF社の銀ベースとキャップ、至急寄越してくれるか?」徳田が急遽の返しを要請して来た。「了解、じゃあ手分けして一気に返してしまいましょう!」国吉さんと僕が銀ベースをその他の2人でキャップをトレーに返して、徳田に手渡す。その間、およそ20分。1人なら倍の時間を要する作業だ。「Y、サンキュー!」田尾が笑顔で検査工程へ送り込む。「こう言う事か!1人より2人。3人なら15分で終わるものね。Yさんの目論見は、楽に早く終わらせることなの?」と国吉さんが言う。「そうですよ。今みたいな“飛び込み”が今週は多いはずです。通常の流れもやりながら、“飛び込み”にも臨機応変に答えて行く。そのためには、複数の手が欠かせません。僕がマルチに作業する事で、少しでも手厚く構えれば、みなさんの負担は減りますよね?」「そうだね。そのために“弟子入り”したの?」「ええ、どうせなら少しでも楽したいじゃないですか!後ろに“借り”を作って置けば、大目に見てくれる場合もあるでしょうし、苦情も減る。険悪な空気より、和やかな空気にしたい。その一心ですよ」「ふむ、いいとこに目を付けるわね!“借り”を作るか。気分もいいよね!」担当してくれた方が頷く。「ですから、今後もみなさんから、色々と盗ませていただきますよ!」と言うと「警察に突き出そうか?」と笑われる。「家には侵入しませんから!」と言うと更に笑い声が広がった。「やってくれるじゃない!Yの真骨頂はこれか!」隠れて様子を伺っていた岩崎さん言うと「こんなモノでは終わらないわよ!彼の力はまだまだのはず。知らずに操縦されてる“おばちゃん達”が本気になれば、あたし達もずっと楽になるでしょうよ!」と神崎先輩が返した。目に見える成果は日に日に挙がっていった。

金曜日、月末最終日も何とか乗り切って、見事に月初予定の達成が成されると、僕は心底ホッとした。“足を引っ張らずに済んだ”と言う安堵感に浸れたからである。午後には終礼で目標達成が報告され、“安さん”のご機嫌も少しは良くなった。後片付けと来月の予定の書き込みに追われていると「この野郎!冷や冷やさせやがって!だが、口やかましい“おばちゃん達”を見事に使いこなしたのは、僥倖だったな!Y、どうやって躍らせた?」と“安さん”が怒鳴り込んで来た。「躍らせてはいません。“自主的に動いてもらった”だけです。やらなければならない事は、ここに全て書き出してあります。これを見れば誰でも分かるし、“飛び込み”があっても慌てなくて済みます。“可視化”した事で、自主性が出てきましたから、少しは良い方向に向いた結果です。眠っていた力を呼び覚ましたに過ぎません」と言うと「ふん!小賢しい物言いだ!お前が仕掛けた策が当たったにも関わらず、それを殊更に言わないとは、どう言う了見だ?!」「まだ、半月しか経過していませんから、成果に乏しいのが実情です。ですが、来月はもっと貢献出来るように努力します」と返すと「過少評価をするな!岡元が仕切っていた頃には、検査で手が空いて困っていたんだぞ!それが月末の今週、検査は誰も手が空いていなかったじゃないか!徳永も顎が外れるほど呆れていた!“Yが仕切ったら流れが変わった!”とな!俺の目に狂いは無い!お前はここの歴史を塗り替えたんだ!来月はもっと驚かせろ!徳永が腰を抜かすくらいにな!」と言うと、僕の頭をくしゃくしゃにして、豪快に笑って去って行った。「褒められたのか?はたまた、発破をかけに来たのか?どっちだ?」と言っていると「両方だよ!Y、お疲れ様でした!」「嵐の月末を、意図も簡単に乗り切った感想は?」と千春先輩と岩崎さんが顔を出した。「何とか、無事にやり切った!その一言ですよ。少しは余裕が出てますか?」と言うと「余裕も余裕よ!月初にドカンと1発売り上げが立つ!今までこんなウハウハな事はあった試しもねぇよ!」と田尾も言いに来る。「改革の成果は、確実に積みあがってるわ!あたし達もがんばらなくちゃ!」と岩崎さんが頭を撫でた。「Y-、今日これから空いてる?」千春先輩が聞いて来る。「そうですね、後、30分もすれば上がれますが、どうしました?」「ちょっと付き合ってよ!千絵の承認も取ってあるからさ!お姉さんと遊んでー!」と千春先輩に抱き着かれる。「岩崎さん、これどう言う仕組み何です?実里ちゃんともそうですが、次々にお誘いが来るのは何故です?」田尾が引っ込んだのを見計らってから、彼女に問いただすと「知らぬはYだけね。実は、大奥が出来てるのよ!」と彼女は悪戯っぽく笑って言う。「Yをこちらに頂くに当たりまして、“既成事実”を積み上げる事に決めちゃったの!誰かに“ヒット”したらYだって置き去りにはできないでしょう?何とかして残る手を考えるはず。それを狙って恭子とあたしが結託してるのよ!」と千春先輩は恐ろしい事を平然と口にした。「前にも言ったけど“正室”はあたし。他は“側室”だけど、みんな順番にYの“子種”をちょうだいするの!まだ、“当たり”が出ないのが気がかりだけどね!」と2人して魔性の微笑みを浮かべる。「だから、本日は、あたしの番なの。30分後に帰りましょう!後は、黙って付いて来て!」と千春先輩はノリノリだった。「大奥とは・・・、いつの間にそんな組織を?」「簡単に帰すと思ってるの?あたし達は帰すつもりは、更々無いからね!さあ、大車輪で片付けてよ。あたし待ちきれなくてソワソワしてるんだから!」岩崎さんも千春先輩も意に介す風が無い!どうやら途轍もなく深いワナに落ちたらしい。釈然としない事も多々あるが、彼女達は“帰任阻止”で一致して結託したらしい。「無駄な抵抗はしない方がいいですね。分かりました。さて、急いで片付けるか!」僕は半ば諦めつつも片づけを始めた。千春先輩と寮に戻って15分後、僕は先輩の車に連れ込まれたのだった。「海岸へ行くよ!」赤いスタリオンは、グングンと加速して行った。

国分の街は、錦江湾の最も奥まった場所にあった。擂鉢状のカルデラの北端に広がっている平地に形成されていた街である。猛加速で疾走した赤いスタリオンは、海沿いの空き地に停まった。「下井海岸よ。大丈夫、呼び名は怪しいけど、墓場じゃ無いからさ」と千春先輩は笑った。砂浜へ出ると「Y、高校生活はどうだったの?」と聞かれた。僕は、道子と雪枝との再会から始まった高校時代について、ダイジェストを話した。「へー、意外とドラマチックじゃない!小学校以来の再会かー、お互いに意識はしてたでしょ?」「まあ、それなりには。でも、僕には幸子が居ましたからね。名前の刺繍が入ったネクタイを交換して、3年間そのままでしたし、道子と雪枝もそれぞれにパートナーを見つけて付き合ってましたから」と返した。今、僕が鹿児島に居るとは、誰も想像しては居ないだろうが・・・。「あたしは、最初に総務に入ったんだけど、“何か違う”ってずっと思っててね、半年後にサーディプ行きを志願したの。そして、恭子と出会って彼女の“更生”に手を貸したの。当時、“カミソリお恭”って言われてたけど、内面は意外にもナイーブで心は傷だらけだった。この地域では“超有名なワル”で名前は轟いてたけど、今は見ての通り、普通の女の子よ。そして、Yの“正妻”を自負してるの。ちょっと強引なとこもあるけど、恭子は誰よりもYに信頼を寄せてる。最初に10人で自己紹介した時に“アイツが欲しいな”って言いだして、その通りに配属先が決まったから、恭子にしてみれば“してやったり”だったのよ。その辺は聞いて無いでしょう?」「ええ、全く聞いてません。最初からハメられてたんですね」僕等は少し小高い草地に座った。心地いい風が吹き抜けている。千春先輩は白いロングスカートに水色のタンクトップ1枚というラフな服装で、ブラがチラチラと見え隠れする。缶コーヒーを開けると「そう言えば、Yは大抵ブラックコーヒーだよね?何か理由があるの?」と聞かれる。「何せ猫舌なので、例えば、ファミレスとかに入っても“アイスコーヒー”なら、直ぐに飲めるでしょう?そのクセがあるからですよ」と言うと「如何にもYらしい理由だね!」と笑われる。今頃は第3次隊の連中は、眠れぬ夜を過ごしているだろう。月曜日には50名が新たに着任するのだ。その内3分の1は女子社員で構成されている。僕には1ヶ月のアドバンテージがあるが、いつ追い越されるか分からない。7月に着任する第4次隊を持って派遣部隊全員が揃う。総勢200名が各事業部に分散して半年の任期で働くのである。工場に残った人々も大変なはずだ。「Y、月曜日に着任する部隊から、1人品証に配属されるって知ってる?」「いえ、初耳ですよ。どこからネタを仕入れてるんですか?」「それは内緒よ!秘密の情報網を駆使して、調べてるの。さて、付き合ってもらうわよ!今日はあたしのモノなんだから!」千春先輩の目が悪戯っぽく輝いた。腕を絡ませると車へと歩き出す。「3回戦までは根性見せてよね!」と言いながら胸を押し付けて来る。千春先輩は、少しポッチャリとしているが、底抜けに明るいのがチャームポイントだ。車のドアを開けると、キーを放って寄越す。「Yが行きたい場所へ連れてってよ!」と言う。僕は垂水経由で鹿児島市内を目指して、スタリオンのハンドルを握った。「Y、これ見て!」千春先輩がスカートをめくってパンティを見せ付ける。赤いTバックは“勝負パンティ”だった。「これからは、“ちーちゃん”って呼んでね。あたし、離さないから!」彼女もマジで仕掛けてきていた。夕暮れが迫る中、僕は思い切ってアクセルを踏んだ。スタリオンは即座に反応して加速を見せた。ちーちゃんとは4回戦まで付き合うハメになった。寮に戻る頃には、日付が変わろうとしていた。