limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 79

2019年12月21日 11時23分19秒 | 日記
O工場で三井さんが、“遅すぎる追撃”に取り掛かった頃、僕は徳永さんからの“引継ぎ”を受けていた。「大変だろうが、お前ならやれる!後は任せるぞ!」膨大なファイルを受け継いで、9月からは管理業務も背負う事になったのだ。「はい、思う様にやらせていただきます!」重責を担う訳だが、徳永さんが異動する訳では無い。“安さん”も含めてのバックアップはまだ受けられるのだ。“新体制”の構築に向けて、着実に新たな道へ一歩を踏み出せばいいのだから、晴れやかな気持ちだった。そして、終礼では、8月の“大勝利”を“安さん”が宣言して「9月は倍の生産に挑む!」と高らかに言った。いよいよ、正念場を迎える事になるのだ。「Y、いよいよだな!」徳さんと田尾も引き締まった表情で言う。「ああ、だが、4分の1は既に終わってる。スタートから飛ばすよ!」と言うと「任せな!」「ブッちぎりでゴールしようぜ!」と勇ましく返して来る。「Y、このまま飛ばして!」「“新体制”を確固たるものにしましょうよ!」と恭子も神崎先輩も言って来る。全員が前を見据えて動いている。着任した当時とは大違いだ。「これで、当初の予定通りに“移譲”した訳ですが、来月は“地獄の苦しみ”を味わう事になりそうですな!」と井端さんが言った。「それはそうだが、相手は“信玄”だぞ!余程の事がない限り、根を上げるような“無様”を晒すとは限らん!先が愉しみだ!」と“安さん”が応じた。「しかし、後ろからの追い上げもそろそろ限界に達するのでは?」井端さんは懐疑的だった。「今、“信玄”が目論んでいるのは、“磁器の納入から出荷までをトータルでコントロールする”と言う壮大な計画だ。既に素地は出来上がっておる。後は、改良を重ねて“システム化”するだけ。新型整列機や塗布機の置き換えと改良が加われば、効果は計り知れんものになる!どう転んでもタダでは起きないヤツの事だ、必ず何かやってくれるだろうよ!」“安さん”が目を細めて笑った。「“川中島の戦い”さながらですな。決戦の時が来ましたね!」「そうだ!命運を分ける決戦だ!ヤツの底力がどれ程のものか?占うには格好の舞台。予定通りなら、O工場に帰す理由が無くなるし、ヤツとて“平社員”に成り下がる事は望むまい。有無の一戦!俺は、ヤツが勝利する方に賭ける!」「もし、予定を上回ったら、誰も異を唱える者は居なくなりますな。“信玄無くして、サーディプ事業部無し”を地で行くと?」「この勢いは本物だ!O工場が、光学事業本部が何を言って来ようが、“信玄”は、我々がいただくさ!」“安さん”は、不敵な笑みを浮かべていた。「Y、早速、作戦会議だ!ブッちぎりで行くには、“策”が無けりゃ進まねぇ!」田尾が呼んでいた。「そうさ、出だしが肝心だ。何処まで先行させられるか?読んでみるか!」僕等は、打ち合わせに向かった。小林副本部長の来場など知る由も無かった。

今や“全社が注目する問題”となった、O工場VS国分工場の“和平交渉”が始まったのは、その日の夕方近くからだった。小林副本部長は、これまでの経緯を素直に詫びて、第1次隊の妻帯者を中心とした“帰還予定者名簿”を提示して、ひたすらに理解を得ようとした。田納本部長からの“親書”も届いており、国分側も態度を幾分トーンダウンさせざるを得なかった。しかし、人員が抜ける事に変わりは無いのだ。国分側としても一旦態度を保留にして、“工場責任者会議”を招集し、別室で対応を協議した。田納さんが示した“帰還予定者”は、国分側の生産活動への影響を最小限に留める“配慮”がなされており、“帰還ありき”ではあったが、国分側としても“無下に出来ない”ものになっていた。最大の関心事は、“誰が抜けるのか?”であり、人数は余り問題にはならなかった。ある事業部からは「これなら、影響は最小限に留められる。これを“拒否”してしまったら、“泥沼の抗争”に発展してしまい、我々のメンツにも関わる大事になるだろう。今回の提案には前向きな検討をするべきだ!」と言った意見が出された。一方では、「ここに来ての人員の減少は致命的である。せめて、後、数か月の猶予期間を求める!」との慎重論も出た。今回の“帰還予定者名簿”には、半導体部品事業部在籍の派遣隊員は対象から外れてはいたが、「いずれは、抜かれる対象にされるのは明らか!現段階での引き上げには、当然ながらリスクも伴う。後任の育成には、数か月を要する事を考えれば、年内の引き上げを見送る様に、O工場並びに光学に対して申し入れるべきだ!」と岩留さんが釘を刺した。“安さん”も同じ意見を述べて“時間稼ぎ”を要求した。国分工場幹部は、悩ましい事態に直面してしまった。“当初の予定”ならば、9月末日を持って第1次隊の50名を帰還させる義務がある。しかし、現状で50名の人員を抜かれたら“穴埋め”は困難な調整作業を伴ってしまう。そこで、急遽、捻りだされた“奥の手”を用いる事で調整を図ろうと画策したのだ。すなわち、“抜かれても影響が少ない人員”を派遣時期を問わずに、50名選抜して帰還させ、時間稼ぎを図ろうとしたのだ。子細に言えば、第4次隊として再派遣されて来た、有賀・滝沢・西沢・五味の4人や女性隊員達、妻帯者で高齢な者達、下期に減産を余儀なくされる事業部の妻帯者達である。この手は賛同者が得られ易く、当面の時間稼ぎにもなり、1ヶ月後に予想される次回の交渉までに体制を立て直すには、有効な手であった。各事業部の責任者の9割が賛成して、可決され同時に50名の選抜も済ませた。驚いたのは、小林さんだった。25名を「何とか戻していただきたい」と懇願したばかりなのに、“50名を9月末で帰す”と回答されたのだから“瓢箪から駒”が出る状態になった。O工場としての希望、25名の内5名は削られたが、倍の人員を帰してもらえるのだ。断る筋合い、選択は無かった。こうして、何とか“和平交渉”は軌道に乗り、50名の帰還も約束された。万々歳ではあったが、ホテルに引き上げた小林さんの表情は冴えなかった。それは、最も欲しい人材が多数残さる事になったからだ。用賀の田納さんに電話を入れて、結果を報告して見解を述べると「ええやないか!倍返しにしてくれるんやろ?初回にしては万々歳やないか!ようやった!」と褒められた。「しかし、我々が欲しい、最も肝心な“技術者”の帰還は見送りとなりました。それでも宜しいのですか?」と恐る恐る聞くと「“国分の事情”も無視でけん!今回はこれでかまへんがな!下手に臍を曲げられてみいや?“また、無理難題を押し付けた”言われて四面楚歌になってまう!今は、これでええんや。小林、ようやったな!来月は、ワシも出向くさかい、もっと突っ込んだ話もでけるやろ。しっかりと“調印”に持ち込んでくれ!」と励まされた。田納さんは、押すか?引くか?を慎重に見極める人だった。今回の“交渉”が成功したのは、“無理を言わなかった”からだと分かっていた。「これで、一息付けるでー。50人はデカイ!次は、俺が決めに行かなアカンな!」と先を見据えていた。

その日の夕方、O工場VS国分工場の“和平交渉”の結果は、新谷さんや岩元さんの協力もあり、鎌倉に“情報”として耳打ちされて、僕等の知るところとなった。田中さんは、早くも“帰還予定者達”に向けた“通知文書”の作成に追われていると言う。「派遣時期を問わずに、50名を即決で決めたとはな。責任者連中も思い切った手を繰り出したな!」夕食の食卓を囲んで鎌倉が言った。「そりゃあ、いずれは“帰す”のが前提だ。取り敢えず“居なくても支障のない人達”を選んで、カッコ付けたんだろうな!“本丸”である僕達に抜けられるよりは、遥かに“現実的”ではあるぜ!」と返すと「言ったら怒られるかも知れないけど、有賀・滝沢・西沢・五味の4人も帰すのは、賢明な策ではあるわね!大した貢献もしてないらしいから」と美登里が斬り捨てた。「“阿婆擦れ女4人衆”が引き上げるのは、当然さ。O工場に閉じ込めておく方が無難だよ!」と鎌倉も斬って捨てた。「問題は、次の“選抜方法”だな。今回であらかたの“余材”は斬っちまう。次は、間違いなく“壮絶な駆け引き”になるだろうよ!」「確かに、言えてるな。俺達は“プロテクトリスト”に入ってるが、他にどれだけリスト入りしてるか?まだ、調べが付いて無いんだ。1ヶ月でどれだけ配置転換と異動で間に合わせるのか?疑問だな?」鎌倉が首を捻った。「1ヶ月じゃ無理だよ。年内は動かさない方向に向かうか?田納さんが頭を下げて引き抜くか?いずれにしても、容易じゃない。多分、田納さん自らが乗り出してくるはずだ!」僕は、9月末に起こるであろう“タイトルマッチ”を予測した。「あたし達は“帰らない”方向でしょう?帰っても“平社員”に逆戻りなんて割に合わないわ!」「そりゃそうだ!それなりの“椅子”があるなら話は別だが、O工場にそんな“椅子”なんてあるものか!ジジイ達が“踏ん反り返ってる”だけなんてゾッとするぜ!」美登里も鎌倉も現実を良く認識している。「僕も“思う通りにやれ!”って言われる場所の方がいいに決まってるさ。“帰る選択肢”は持たない!折角、ここまで積み上げたんだ。捨てて帰る程、愚かしい事はしないさ!」「決まりね!“徹底抗戦”で!」「ああ、決まりだ!剣を持って戦うのみ!」僕等は改めて“残留・転籍”へ向けて“徹底抗戦”を貫く事を確認した。

「やってくれるじゃない!そんな裏取引をしてるなんて、冗談じゃないわ!」話を聞いた恭子は、すっかり“おかんむり”だった。「まあ、まだ時間も手も残ってる。“責任ある立場”にある者を“強引に引き抜く”真似でもすれば、総スカンを喰らうだけさ。田納さんだって、そこまで無茶はやらんだろう?そうした事案を作らないための“権限移譲”でもあるんだから、時期的にも丁度良いタイミングだと思わなきゃ!」となだめにかかる。「でも、不安は拭えないのよ!所詮は“紙切れ1枚の世界”じゃない!失うのが何よりも怖いのよ!」恭子は、今度は怯え始めた。「Y、置いてかないでよ!あなたを失ったらどうすればいいか、分からないのよ!」涙が頬を伝う。どうした訳か感情が揺れている。普段は、絶対に見せない姿だった。路側帯に車を停めると、恭子を後部席へ連れ込んで抱いてやる。「嫌よ!嫌よ!」止めど無く涙が溢れて止まらない。「大丈夫だ!置いてったりしないから!」と優しく言って抱きしめてやる。恭子も離すまいと必死にしがみ付いて来た。「恭子、落ち着け。泣きたいだけ泣け。誰も咎めやしないさ」胸元に顔を埋めると、恭子は肩を震わせて泣き崩れた。泣きたいだけ泣かせると、恭子は落ち着きを取り戻した。「ねえ、キスして」と言うので唇を重ねて舌を絡ませる。恭子も懸命に唇と舌を絡ませて来る。手を取り、スカートの中へと導くと、「お願い、忘れさせて」と言う。脚を開かせてから、湿り気を帯びているパンティの中へ指を入れた。ピクピクと痙攣が始まった。不安を快楽で忘れさせるには、ちょっとだけ“いじわる”をしなくてはならなかった。指を2本、ホールにゆっくりと潜らせると、そっとかき回す。恭子の口から喘ぎ声が漏れだした。やがて、声は徐々に荒くなり「もっと・・・いっぱい・・・して」とねだった。勢いよく指でピストン運動をしてやると「ああー…、出る!・・・出ちゃう!・・・イッてもいいですか?・・・いいですか?」と言い終わらない内に愛液が溢れ出した。パンティはびしょ濡れになり、腕を伝った愛液はシートをも濡らした。「ごめんなさい・・・、でも、・・・気持ちいい!」恭子は唇を重ねてから、濡れたパンティを剥ぎ取った。「早く、行きましょう。“坊や”が欲しいの。何もかも忘れさせてよ!」恭子との逢瀬は、激しく熱く繰り広げられ翌朝まで続いた。

恭子に一晩中付き合って、寮に戻ったのが早朝5時。「Y、ごめんね。あたし、どうかしてたわ。あなたが“愛しい人達”を置いて行く訳ないものね。でも、これで少しは落ち着いて過ごせそうよ」と彼女は微笑んだ。「それならいいさ。“正室”がシャンとしてないと、必ず伝染するからな」と言って唇を重ねる。「さあ、休んで。あなた、殆ど寝てないんでしょう?」「そうする。じゃあ“おやすみ!”」と言って車を降りると、ローレルから、鎌倉がフラフラとした足取りで降りてきた。「よお、揃って朝帰りとはな」「Y、女の子ってヤツは、どうして不安に陥るのかね?“置いて行かないで”ってさめざめと泣かれたんだよ」と鎌倉が言う。「以下同文か。こっちも同じさ。泣きたいだけ泣かせて落ち着かせたよ」と返すと「同じ事をやってるとはね。新谷さんが、あんな姿を見せたのは、初めてだよ。Y、恭子さんもそうか?」「ああ、だが、こっちは慣れてるから、まだマシだったが、神経質になってるのは確かだ」「参ったなー、手が浮かばんのだ。Yはどうしてる?」「ストップさせられるか?泣かせて落ち着かせる。そして抱きしめてやる。他に名案は?」「それしか無いか。ほぼ寝てないよな?」「右に同じく。とにかく、寝ようぜ。腹が減ったら起こしてくれ。社食で善後策を考えよう」「了解だ。じゃあ、おやすみー」僕と鎌倉はベッドに潜り込むと直ぐに寝息を立てた。だが、悪魔が僕達を呼び起こしに来るとは想像していなかった。昼前、2人揃って田中さんに叩き起こされて「おやすみ中に申し訳ないが、騒ぎの鎮圧に手を貸してくれ!」と藪から棒に言われる。「誰だ?ギャーギャーと騒ぐ迷惑者は?」「こちとら、寝足りないんだ!いい加減にしてくださいよ!」僕等の機嫌はいいはずも無い。「騒ぎを起こしているのは、有賀達だ!“お前さん達を出せ!”と言ってる。“同期のサクラ”でなくては、鎮圧もままならんのだ!」「あの“阿婆擦れ女4人組”か!」鎌倉が悪態を付く。「有賀を止めるとなると、僕等がでるしかあるまい。鎌倉、出陣だ!」「おうさ!」僕等は、談話室へ向かった。各派遣隊の隊長達と、激しくやりあう声は直ぐに耳に入った。「12月まで任期があるのに、何故このタイミングなんですか?帰らなきゃいけない理由はなんですか?」有賀が声を張り上げている。「田中さん、今回の帰還予定者名簿は?」僕は、談話室へ乗り込む前に、名簿を見せてもらった。鎌倉も隣から覗き込んだ。「ちょっと借りますよ」と断りを入れてから、談話室へ入った。「あー、お恥ずかしいったらありゃしない!男子寮で騒ぎを起こして、何の得があるんだよ?」僕が言うと、有賀が振り返る。「Y!納得できないからに決まってるでしょう!」ヒスを起こして詰め寄って来る。「まずは、静かにしろ!そして、Yの話を聞け!」鎌倉が鎮圧に乗り出した。「これが、今回の帰還予定者名簿だ。これを見れば一目瞭然!O工場が“助けてくれ!”って悲鳴を上げてるのが分かるぜ!一刻も早く“レスキュー隊”を呼んでるのもな!」「どう言う意味よ?」有賀が名簿を引っ手繰ると目を落とした。「この人選に何が隠れてるって言うのよ?」「分からないかなー、有賀なら“読める”はずなんだが?」わざとはぐらかして、怒声を鎮めた。「Y、答えは何なのよ?」有賀は首を傾げた。「男性陣は、“ダイキャスト加工のエキスパート若しくは、組立の達人”で構成されてる。女性陣は言うまでも無く“組立のエキスパート達”だ。そこから見えて来るとしたら、何が見える?」「うーん、答えは何?」有賀が焦れた。「“ミラーボックス”の加工時間と工数、サブ・アッセンブリーの開始時期を考えて見ろよ!適材適所で呼び戻すとしたら、最適な人材を選んでるじゃないか!新機種の開発が大詰めを迎えて、いよいよ量産に向けて動き出したい!だが、如何せん人手が足りない!その道の“プロフェショナル”に戻って来てもらわなきゃ、進む事さえままならない。“サブ・アッシーの女王”を呼ばずして、事が進むと思うか?」「うーむ、確かに言われて見ればその通り。じゃあ、O工場がSOSを出してるって事なの?」「当たり!喉から手が出る程、欲しい人材ばかりじゃないか!ここで燻ってるより、得意分野で活躍出来る方が気は楽だろう?有賀なら、生産高を3倍に上げられる“技”を持ってる。“匠”と呼んでもいいだろうな。そんな有賀に“早く戻ってくれ!”って非常招集が来たんだぜ!拒む理由がどこにあるんだ?」「そっそうなの?そう言う意味での“帰還要請”って話?」「他に何がある?」「有賀、落ち着いて分析して見なよ!Yの話を聞いて少しは分かって来ただろう?」鎌倉が押しを加えた。有賀は改めて名簿に目を落とした。さっきの剣幕はどこへやら。どうやら、読めて来たらしい。有賀は、ヒスを起こして騒ぐ場面もあるが、説明をしてやれば読み解くのは早い方だ。頭の回転は悪くはない。始末に負えないのは、滝沢と五味ぐらいだった。「そうか!そう言う話か!」有賀は目覚めた。滝沢・西沢・五味と共に小声で話し始めた。こうなれば、鎮圧完了である。各派遣隊の隊長と田中さんが、胸を撫で下ろす。「流石に“同期のサクラ”だな。ツボを心得とる。Y、後は任せていいか?」「やっときますよ。帰せばいいんですから」と言って引き受けた。田中さん達は、ゾロゾロと引き上げて行った。一方、有賀達は、ようやく“事の意味”を理解した様だ。落ち着いて何やらコソコソと話している。「Y、“工場責任者会議で適当に人選した”名簿で、良くあそこまで言い切ったもんだな?」と鎌倉も声を潜めて言って来る。「“口から出まかせ”を並べてみただけさ。だが、半分は嘘じゃないぜ!実際、さっき言った通りの人達が集められてる。有賀には“多少のおだて”は付けといたがね」「そう言う技をさり気なくやってのけるのは、お前さんの得意技だよな!」鎌倉がしてやったりの表情で言う。有賀が名簿を返しながら「ごめん。意味も知らなくて騒ぎ立てて。でも、これで納得が行ったのも事実よ。Y、カマ、ありがとう!寝てたのに叩き起こして悪かったわ!」と言うと談話室を出た。借り上げてあるアパートへ戻る様だ。「起きちまったついでだ、メシ食いに行くか?」鎌倉があくび交じりに言う。「そうだな、出るか」僕等は社食を目指して歩き出した。残暑と言うには気が引ける暑さの中へ。

その日の午後2時頃、有賀から呼び出しが来た。「同期のサクラとして、Yと“おしゃべり”がしたいのよ!サシでどう?」「久しぶりだな。新入研修以来になるかな?いいだろう!受けて立つぜ!時間は?」「30分後でどうかな?迎えに行くから」「乗った!サシでとことん話そうぜ!」僕は電話を切ると、部屋に戻り支度に掛かった。「おい、Y、何処へ行く?」鎌倉が心配そうに聞く。「有賀とサシで、“おしゃべり”をして来る!」「おいおい!ヒステリーの餌食にされちまうだけだぜ!止めとけよ!」と鎌倉は止めたが、「同期のサクラとして、引導を渡してやるさ。有賀のヒステリーを止められるのは、誰だった?」「そりゃ、お前さんか、三井さんだったが、無理してやる事か?」「必要性はあるだろう?蹴りを付けるなら、誰かがやらなきゃならん!同期のサクラから引導を渡して置くのも、義務の内さ!」「確かに、有賀の暴走を制御が出来るのは、お前さんしか居ない!OK!行って来な!きちんと落とし前をつけて来な!俺達、“同期のサクラ”の代表としてな!」鎌倉は諦めたらしい。午前中の悪夢を再現されたら、たまらないからだ。寮を出ると、1台のポンコツカローラが控えている。「Y、こっちだよ!」有賀が呼んでいた。

城山公園の茂みの陰に車を停めると、窓を開けてシートをリクライニングさせた。有賀と向き合うのは、久しぶりだ。「Y、いつもの通りでいい?」「ああ、“オフレコ”も含まれてるから、本人には言うなよ!」僕等は話始めた。昔と変わらずに。「Y、美佐江が“戻れる”って聞いて一番喜んでたわ。あの子にとって、ここは“荒野”だったから」「だろうな。アイツは“人見知り”が半端ないからな。一歩じゃなくて三歩は引いちまう。ルーティンワークにしても、人の倍かかって理解するからな。昔、僕と有賀とカマの3人で、何度も責任者の元へ“説明と要請”に行ったのを覚えてるか?O工場ならそれで済んだが、ここだと事業部の枠を飛び越えちまう。“越権行為”だと見なされりゃ、それまでだからな。手出しも出来なかったし、やれる事には限界がある。“集団直訴”で解決出来ないとすれば、自ら立ち向かうしか無いのが、ここのルールだ。“壁を越えて進める者”だけが生き残れる“サバイバルレース”に向かなけりゃ、帰るのが現実的な選択だな」「Yは成功したね。責任者にまで昇り詰めたじゃない!あれって、どうたの?」「“好きな様にやって見ろ!”って言われて、本当に“自分の都合のいい様に”やったら、結果がくっついて来た。“瓢箪から駒が出る”を地でやっちまったから、責任も降って来た訳さ。望んでやった事じゃないよ」「それで、もしかして、戻らないつもり?」「分かるだろう?“途中下車”何てのが一番嫌いだって事をさ。ここまで来たら後へは引けない。行けるとこまで行くだけさ」「やっぱり、そうかー。Yの性格だとそうなるもんね。“指揮官が先頭に立たずして、部下が付いて来るはず無し”だもんね。走り続けるんでしょ?」「そのつもりだよ」「美佐江が悲しむなー。“頼りになる同期が居なくなる”って下を見て歩くよ」「そろそろ、自立してくれなきゃ困るぜ!後輩達に抜かれ続けて、いい訳ないだろう?もう、個々人の道へ進まなきゃダメさ」「それは、あたしも常々言ってるの。“1人で出来る様にならないとダメ!”って。でも、美佐江は断ち切れないんだろうね」「丁度いい機会でもある。O工場へ戻ったら、自らの力で立たせる事を仕向けてくれ!いずれは、それぞれの道へ別れて行く定めだ。現実を見させなきゃ、いずれ取り残されちまう」「Yとカマ、それと美登里が残るのかもね。もう、手は回してるんでしょ?」「抜かり無く」「本当に変わらないわね。陰でちゃんと手を打ってる。それに何度も救われて来た。あたし達も変わらないよね?」「嫁に行けたらな。行けなかったら、考えてやる」「あー、酷いなー、女としての魅力ゼロって事?」「S実の“番長”だからな。余程の“物好き”か“騙してかかるか?”の2択だろう?」「馬鹿!あたしだって1人や2人は・・・」「無理するな。自然体で居ろ!有賀ならきっと出会えるさ」「そう?Yみたいに理解のある人何ているかな?」「多分、居るさ。上か下かは別にしてな」「あたしの事どう思ってた?」「香織ちゃんには及ばないが、他の同期の女子とは明らかに違う。男子に交じって馬鹿やってたからなー、“女の子”ではあるが、ワルガキ仲間としては欠かせない存在ではあるな。こうして、話してても“本音”で言い合える仲だし、もらい手が無ければ、僕が手を挙げようか?」「何よ!それー!まあ、Yだから許せるけどさ。異性として見られてない?もしかして?」「“襲え”って言うのか?」「そう!襲ってきなよ!あたし、Yになら素直に裸見られても平気だもの!」有賀は、プリーツスカートをヒラヒラとさせた。上は水色ノースリーブだけだ。「じゃあ、遠慮なく行かせてもらいますか!窓閉めて、エンジンをかけろ。エアコンは全開にして。後部席に行こう」有賀に誘われて、僕は彼女を膝に乗せた。「いつだったか、泣きに来た事があったろう?」「うん、部材間違えて不良にして、怒られた時に。あの時も、ずっと抱いててくれたよね」「ああ、そうだな」「Yの胸は“駆け込み寺”みたいなとこ。でも、今日は違うの。愛しい場所。ずっと憧れてた場所」「初めて会った頃、ショートだった髪も伸ばしたな。ロングも案外似合うじゃん」「そうしないと、見向きもしなかったくせに!Yは、女の子の選考基準が高すぎよ!」「それは、それは、失礼」唇を重ねると、直ぐに舌を入れて来た。飢えているのは察しられたし、何より“男に抱かれたい”と言う欲求が有賀から発せられていた。1度だけ、有賀とした事はあった。あれから数年ぶりに彼女を抱いているのが不思議に感じられた。本能のおもむくままに求め合い、激しく欲求と快楽をぶつけあった午後だった。「Y、必ず戻りなさい。あたし、待ってるからさ」有賀は最後にそう言って、僕を車から降ろした。

有賀との“おしゃべり”を終えた僕は、寮に戻りシャワーを浴びた。言うまで無く有賀の匂いを消すためだ。彼女の唯一の厄介な点を上げるとすれば、“香水”を愛用している事だろう。シャネルの何番目か?は失念してしまったが、独特な“香り”を消すには洗い流すしか無かった。夜には、千絵が待っていた。このところ、すっかり遠ざかっていたが、千絵も“飢えた狼”に違い無かった。その頃、“別の世界”では、別の“プロジェクト”が密かに進んでいた。“安さん”が主宰した“帰還阻止計画”である。徳永さんや井端さんを中心に、サーディプ事業部の各責任者が国分市内のとある居酒屋に、続々と集っていた。「知っての通り、10月末で10名の派遣隊の“任期”が来る!来月になれば、誰を“O工場へ戻すか?”否応なしに“選択”しなくてはならん!恐らくは、田納さん自らが交渉に、乗り込んで来るのは明らかだ!俺は、基本的に“全員の帰還阻止”を考えているが、“譲歩”を迫られるのは明々白々だ!そこで、改めて問う!仮に“譲歩”するとしたら、“誰を差し出して時間稼ぎ”を図ればいい?」「問答無用!全員を死守すべきです!」大ピン部門は、そう答えた。「我々も同じく!剣を携えて戦うべきです!」中ピン部門も続いた。「私も同意見です!再建は道半ば。Yを筆頭に死守すべきと考えます!」徳永さんも続いた。「しかし、相手は、田納さんだ。何処かに“逃げ道”を用意しなくては、勝てませんな!向こうも決死の覚悟で来るでしょう。真っ向勝負では、傷だらけになりますよ!半分程度は、“譲る姿勢”を取らなくては、“バルチック艦隊”は打ち破れませんよ!」井端さんは、慎重論を展開した。「確かに、遥か遠方から攻めて来るのだから、“バルチック艦隊”に例えるのは、的を射ているな。だが、井端よ、気休めでもいい、“肯定的な要素”は無いか?」“安さん”が問うた。「人材を失うのは辛いですが、O工場が定めた期限は“半年間”でした。期日が来たから、“戻して下さい”と言われたら、余程の“理由”が無い限り、全員を帰さない選択を取るのは、難しいですな。ただ、“信玄”だけは、プロテクトする“具体的理由”があります!“責任者”に抜擢しましたから、直ぐには“代わりの人材を育成をするには無理がある”と言えるばすですから」「それでは、我々はみすみす手足を失ってしまう!残る9人をどう守るのだ?」“安さん”が更に言う。「“信玄”の様に“権限委譲”を進める以外にありますまい。“代わりの利かない人材”に仕立て上げるのが最善策です。“信玄”以外の9人も資格はあります!“流出”を止めるには“隔離”するしかありません!」井端さんは、淀み無く言い切った。「高代、花岡、今井の3人は、切り離しても構わんか?いずれも、塗布工程に在籍しておる。“譲る代わりに残りの7人は守る”これしかあるまいよ!こっちにも“自らの飛行計画”はあるが、この際、忘れようじゃないか!我々にも“切り札”は必要不可欠だろう?“新たなるミッション”が始まると思うしかあるまい!」“安さん”の意は決まったかに見えた。「しかし、各塗布工程から1名づつを抜かれれば、少なからず影響は出ます!何とか“全員をプロテクト対象”に出来ませんか?せめて、年内一杯は留め置きたいのが本音です!」と声が上がった。「誰も失いたくは無いだろう。俺も本音は“全員残留”で行きたいのだ!だがな、田納さんを攻略するには、“武器”が欠かせないのだ!例え“平取”であっても“本部長”に変わりは無い。それを相手に剣を持って戦うには、“盾”も必要なのだ!3人には悪いが、“盾”の代わりとなってもらうしか無いのだよ!それに、あの3人なら、補充は比較的に容易だ!機械工具事業部に余剰人員が出そうなので、早速手を回して押さえてある!これからの難局を切り抜けるには、被害を“最小限”に留めて体制を立て直すしか無いのだ!手塩にかけて習熟させたのは誰も同じ。しかし、皮肉な事に、個々人に“格差”が生じてしまった。“信玄”の様に“大化け”したヤツも居れば、単純作業に終始している者も居る。振るいにかけるとすれば、自ずと答えは見えるだろう?“信玄”を含む7名を抜かれたら、“再生・再建計画”そのものに類が及ぶ。それだけは、譲れない一線なのだ!“肉を切らせても、骨を切らせぬ事”押さえなくてはならんのはそこなのだよ。無論、これは、あくまでも“最終手段”に過ぎない。基本は、“全員残留”で臨むつもりだ!それも、“年内に限り”の前提条件を示してな。余剰人員3名は、予定通りに受け入れる方向で動く。“和戦両様の構え”を取ることで生き残りを目指す!」こうして、“安さん”は反対論と慎重論を封じて、“宴”に移った。水面下では、“決戦”に向けての準備が着々と進行していた。

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