limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 80

2019年12月24日 17時23分09秒 | 日記
「あん!・・・気持ち・・・いい・・・、いっぱい・・・出たね」ホールから溢れる液を指ですって、懸命に中へ押し込む姿は、他人には見せられたものでは無い。千絵との3連戦を終えた僕は、ソファーに座るとタバコに火を点けた。1本を灰にすると、シャワーを浴びにバスルームへ行った。千絵は背後から抱き着くと、息子を掴んで「坊やは、まだ元気だねー、あたし、まだ満足出来ないよー!」と言う。体調不良や帰省もあったから、千絵を抱くのは久しぶりだ。「まだ、頑張らせるのか?」「うん!“ご懐妊”を狙って!排卵日、今日だからさ!」「真面目に基礎体温を測ってるな。“当てる”つもりか?」「同然でしょう!?」千絵は水しぶきを浴びながら返して来た。「この底無しがー!」カランを閉じると、バスマットの上で4回戦が始まった。四つん這いになった千絵の背後から、猛然と突きを入れてやる。喘ぎ声にエコーがかかり、バスルームを占領し続けた。「まだよ!・・・まだ出しちゃダメ!・・・一緒に・・・イクの・・・イキたいの!」荒い息遣いの中で、千絵はねだった。絶頂に達すると、悲鳴にも似た声を上げる。同時に液が千絵の中へ送り込まれた。「ありがと・・・、これで・・・命中したわ」バスマットに崩れつつ、千絵は微笑んだ。“懐妊”を確信しているかの様に。千絵と互いに“洗いっこ”をしてから、バスタオル1枚を巻いてソファーに座ったところで「千絵、教えてくれないか?神崎先輩と岡元の間に何があったのかを?」と言うと「あたしも完璧に知ってる訳じゃないけど・・・」と言いつつも、過去を紐解いてくれた。

神崎先輩が新入社員だった頃の国分サーディプは、今のような体制では無く“混合生産”の時代だった。“大ピン”“中ピン”“小ピン”に部門が別れたのは、2年後にみーちゃんが入社した頃だった。丁度、時を同じくして、返しに岡元が配属されのが“事件”の発端だった。岡元は、みーちゃんに惚れ込んでしまい、あらゆる手段を駆使しての“セクハラ”を始めた。身体を触ったり、みだらな言葉をかけたりと日に日に“セクハラ”は、エスカレートして行った。業を煮やして、神崎先輩が抗議に出向くと「そんなつもりも無いし、していない!」と岡元はトボけたり、はぐらかしたりして“罪の意識”すら持たなかったと言う。そして、遂に神崎先輩は、上司に訴え出た。当時の上司は、岡元と神崎先輩を呼んで事情を聞いたが、岡元が全てを否定した事や“証拠”となるモノが無かった事から、注意するのみに留めて、“セクハラ”の根底を断ち切らなかったと言う。故に、悲劇は続き完全に岡元のなすがままになった。それでも、神崎先輩は折れる事無く、声を上げ続けた。しかし、ある朝、神崎先輩を“中傷”する怪文書が撒かれた。筆跡で岡元が犯人である事は、一目瞭然だったが、神崎先輩は好奇な目で見られる様になってしまった。上も“我関せず”を通したため、更なる地獄へと落とされる事になってしまう。即ち、“無視”される事になってしまったのだ。流石の神崎先輩も折れてしまった。孤立して仕事もロクに与えられず、男性陣からは“扱いに困る問題児”と見られ、同僚の女性達からも浮いてしまった。最悪の結末だった。それ以来、彼女は“貝”となって深く閉じ籠る日々を送って来たと言う。僕が、返しに座るまでの4年間、彼女は陰で隠れる様に過ごして来たのだと言う。

「そうか、そんな過去があったとはな」僕も絶句するしか無かった。「Y先輩、どうして今の話を知りたがったんです?」千絵もややバツの悪い顔をしていた。「神崎先輩に“もう一度、輝いてもらわなくてはならない”からさ。経験の無さは、経験する事でしか補えない。赴任して、わずか4ヶ月足らずの僕には、到底追い付けない高みに立ってるんだ彼女は。しかも、検査の経験はゼロ!そんなヤツが“責任者”のツラをして、頭ごなしに指示を出せるか?“餅屋は餅屋”の例え通り、“検査には検査”が適任なんだよ。そりゃ、回しの指示や総合的な判断は、責任を持って下すが、“良否判定や細かな症例”については、“委任”しなきゃ出来るはずが無いだろう?返しは、これから橋口さんと共同で回して、いずれは任せる方向だし、出荷は徳さんと田尾の独壇場。そうすると、検査は必然的に神崎先輩に振るしか無いんだよ!勿論、岩崎先輩や千春先輩、宮崎さんや千絵にも率先して動いてもらわないと無理だ。けれど、その人達をコントロールする“管制官”を置かなくては、混乱は必至だろう?僕1人で全てが回せる訳じゃ無い。要所、要所に拠点となる人を置いて管理させなくては、これから先は絶対に躓くだろうよ。神崎先輩に検査を委ねる事、それが“本来の検査室”を取り戻す一番の近道なんだよ」「今でも、わだかまりを抱いている神崎先輩の心のドアを開けさせるの?」「“閉ざされたドア”を強引に開ける必要は無いよ。氷解するまで待てばいいんだ。少しでもいいから、振り向いて欲しい。知識と知見を広めて欲しい。そうすれば、検査のレベルは自然に上がるし、流れも品質も向上する。最終責任は負うから、彼女なりのやり方で、牽引して行って欲しい。その一念なんだよ。だから、過去にあった事を知り、同じ轍を踏まない様にしたい。多分、神崎先輩もそれを一番懸念してるだろうからさ」「大丈夫じゃ無いかな?神崎先輩、Y先輩が検査室のデスクで仕事してる時、凄く優しい表情をしてますから。先輩は一番後の席だから、見えないかもしれませんが・・・」「本当か?」「ええ、硬かったのが嘘みたいにほぐれてますよ!“鼻歌”なんかも出てますし・・・」「ちーえー!そう言う情報は、メモ書きにして直ぐに僕の手元に届けてくれよ!全てを把握しなくては、“責任者”の名折れじゃないか!」「はーい!今後は“スパイ活動”で先輩を支えてご覧に入れまーす!」と返事をしつつ膝に乗ってはしゃぐ千絵。結局は、千絵の計算にミスがあり、今回も“懐妊”はおあずけになったのだった。

日曜日の午後イチ。「カンパーイ!」威勢良く声が上がり、グラスを重ね合う。昼食会を兼ねた“宴”は、賑やかに始まった。上座に座らされるのは居心地が悪い。橋口さんも「何処でもいいと思うけどね?」と困惑して居た。僕の左側は、原田さんが座り、右側には恭子とちーちゃんが鎮座。原田さんの隣が橋口さん。上座の面々は、こんな面子だった。他は全て“おばちゃん達”である。強敵揃いの面々は、順番にお酌に訪れる。開催までに、随分と時間を要した本日の“宴”を“おばちゃん達”は、みんな待ち望んでいた。“我が子同然の子と呑める”のをひたすらに待ったのだ。返しだけで無く、検査のおばちゃん達も“さあ、どうぞ!”とばかりに馳せ参じるのだ。お猪口が空になる時など無い。「これ、ヤバくない?」恭子に言うと「かなり、ヤバイわね!ちーが潰れなきゃいいけど・・・」と不安そうに言う。そのくらいのハイペースで徳利が転がって行くのだ!ビールなど飲ませては貰えない!冷やの“芋焼酎オンリー”なのだ!僕は、意識的に呑む量をコントロールしなくてはならなかった。コップで呑んだら間違い無く“前後不覚”にされてしまうだろう。だが、敢えてそれをした人が2人居た!橋口さんとちーちゃんだ。20分もすると、2人は“怪しい雰囲気”を醸し出し始めた。「恭子、原田さん、注ぎに回ろう!鎮座してたら潰れちまう!」「OK!」「了解です!」3人揃って宴席へ打って出て、潰されないように予防線を張りに出た。僕は、牧野・吉永のご両名へ注ぎに出向いた。「ねえ、10月末で帰っちゃうの?」「もう、返しは“卒業”しちゃうの?」と先行きについて尋ねられた。「橋口さんに、任せっきりにはしませんよ。そのために、返しの作業室にもデスクを据えたんですから。それに、僕は“はい、そうですね”って帰るつもりはありませんよ!出来る限り長く“居座る”腹積もりですから」と言って安心させる。「そうなら、安心したわ!」「でも、本当に忙しくなっちゃったわね。そんな中でも、返し作業やれるの?」と言われる。「返しは、僕の“原点”ですからね。腕を落とさない様に、時間を見つけてやり続けますよ。仕事は増えましたが、最終的な責任は僕の肩に乗ってます。これからも、宜しくお願い致します!」と言って頭を下げた。「かあさん!一杯やろうか?」次は、西田・国吉の両“家老”に注ぎに行く。「おー、息子が帰って来たわ!」と2人の顔が緩む。母の様な存在であり、陰に日向に支えてくれる“重臣”である。「橋口さんだけじゃ、つまらん!」「午前中は、返しの作業室におるのやろう?」2人は寂しそうに言う。「まだまだ、目は光らせてますよ。“本丸”は返しの作業室なんですから、追い出さないでよ!」と言うと「それでよか!」「長男の顔が見れんのは、つまらん!」と口々に言ってから、お返しを注がれる。一気に干してやると「流石は長男たい!」「共に苦労して来たかんね!」と喜んでくれる。しばらく、“2人の母親”と語りだした。その姿を見ていた野崎さんと恭子は「あれが、彼の凄いところよね。誰とでも仲良くするし、グチにさえ耳を貸してくれる。だから、信じて付いて行くのよ!」「Yと言う男性が、“年齢すら飛び越えて愛される存在”であると思い知らされるわ。本当にアイツにしか出来ない芸当。橋口さんには悪いけど、陰すら踏ませないつもりでしょうね!」と言い合っていた。「恭子ちゃん、千春ちゃんヤバくない?目が座ってるよ!」「橋口さんもヤバそうね!撃沈寸前よ!」野崎さんと恭子が気付いた時点で、橋口さんは、落ちる寸前、ちーちゃんは陽気にはしゃいでいた。「Yに言って止めさせなきゃ!Y!Y!手を貸してよ!」喧噪の中で恭子が懸命に叫んだ。「どうした?何かヤバいか?!」僕は慌てて駆け付けた。「橋口さんは、沈没したからいいけど、ちーが危険な状況よ!止めに行かなきゃ!」「ヤバっ!目が座ってる!これって危険水域で沈むかもな!」僕等は、ちーちゃんの元へ駆け付けた。だが、時既に遅しであった。ちーちゃんは“前後不覚”寸前まで酔っていたのだ。このままでは、あらぬ方向へと暴走しかねなかった。最悪の場合、恭子は「衣服を脱ぎ捨ててあられもない姿になる」と警告した。「ちーちゃん、風に辺りに行こうよ!」僕が耳元で言うと「うん!行く!」と言ってフラフラと立ち上がった。「Y、悪いけど、ちーを見てあげて!」恭子に言われるままに、僕はちーちゃんを宴席から連れ出した。通路に出ると「Yお兄ちゃん、オシッコー!」と腕にもたれて来る。「行っておいでよ」と言うと「ダーメー、一緒に行こうー!」と呂律の回らない口調で言い出す。仕方が無いので、オトメストイレに連れ込んだ。ちーちゃんは、恥じ入る事も無く用を足し始める。「Yお兄ちゃん-、見て!見て!止まらないよー!」と、ちーちゃんは言うが、流石に振り返るのは気が引ける。しばらくすると、グイッと手を掴まれて抱き着かれた。「へへへへ、パンティあげる!Y、しちゃおうか?元気になってるしさ!」デニムのスカートをめくって、ちーちゃんが襲い掛かって来る。「これでがまんしてよ」と言って、指を2本ホールに入れてかき回してやる。直ぐに愛液が滴たり落ちて行く。「あー、気持ちいい・・・、もっと・・・激しくー!」ちーちゃんは、たちまち底無し沼へ沈みだした。唇を重ねつつ、腕を動かすと絶頂に昇り詰めて、多量の愛液を流した。「大好きだよー・・・、今度は・・・、あたしが・・・イカせてあげるー!」と言うと息子を引きずり出して吸い付いた。「お口の中に出してね!」と言って舌を使いだす。飢えているちーちゃんにして見れば、久々の行為に夢中なのだ。唇と舌に刺激されて「ダメ・・・出る」我慢の限界を超えた僕は、ちーちゃんのお口に液を注ぎ込んだ。ちーちゃんは、1滴も余さずに液を吸い取った。「最高の美容液!もっと出せない?」と小首を傾げた。「今日は、ここまでで・・・我慢して」と言うと「次の週末は、ちーの中にお願いね!」念押しを忘れなかった。やっと、外へ出るとタバコに火を点じた。「ハードな宴席だなー」と言うと「これも、Yの実力の内だよ。みんな、あなただから付いて来たのよ!橋口さんは、未知数だけどYが背後でちゃんと見てれば大丈夫。きっと、いい結果がでるんじゃない?」少し酔いの覚めたちーちゃんが言った。「そうなら、何も問題は無いけど、ちーちゃんにもお手伝いはしてもらわないと、検査は大変だよ!」「勿論、あたしも先頭に立つわよ。それくらいはしなきゃ、Yに申し訳が立たないじゃない!」と力強く言ってくれる。タバコ1本を灰にすると、ちーちゃんを連れて宴席へ戻った。その後も、宴会は続き橋口さんは、ノックアウトとなり、国吉さんに引き取られて帰宅するハメになり、“おばちゃん達”もお迎えを待って、三々五々に帰宅して行った。僕と恭子は、完全に酔い潰れたちーちゃんをタクシーに押し込んで、女子寮の玄関先へ乗り付けさせた。恭子が事前に連絡を入れてくれていた事もあり、ちーちゃんはタオルケットを担架の代わりにして“搬送”された。「Y、お疲れ!」「恭子もな!」ひとしきり、荒い息を整えると、肩を叩き合ってから別れた。ヘビー級の“宴会”は、無事に終わった。

翌朝、出勤時間になり寮を出ると、みんなが顔を揃えていた。「おはよう」「おはよう。Y、あたし、昨日どうやって帰って来たの?」ちーちゃんがケロリとして聞いて来る。「ちー、あなた記憶無いの?」恭子が疲れ切った声で言う。流石はちーちゃんである。都合の悪い事は“一切記憶に御座いません”なのだ。「僕等がタクシーに押し込んで、寮の玄関先まで連れて来て、タオルケットを“担架”の代わりにして“搬送”された時、寝てたからな。骨が折れたよ」と言うと「あたし達が“搬送”に関わった事も知りませんよね?」永田ちゃん以下、千絵や実里ちゃんも手を挙げて言う。「えっ!えっ!そんな迷惑をみんなにかけたの?」ちーちゃんが青ざめて慌てだす。「流石は、千春だよなー!酔うと記憶が飛ぶのは、いつもの通りじゃねぇか?」田尾が腹を抱えて爆笑し出す。僕と恭子は、肩を竦めるしか無かった。「まあ、いいや。行こう!9月が始まる。正念場はこれからさ!」僕は前を向いて歩き出した。みんなも続いて来る。「まあ、4分の1は済んでるし、今日も更に先行させる!Y、心配は無用だ!」田尾は自信を見せたが、「橋口さんが使い物になるか?神崎先輩が乗ってくれるか?前途は多難だよ。管理業務もあるし、落ち着いて仕事になるか?否か?諸々を考えると、頭が痛い」「でも、やるんでしょ?あなたらしく“全開”で!」ちーちゃんが言う。「そうね、良くも悪くも“指揮官先頭”がYのやり方。“大人しくしてなさい”って言っても突っ走るんでしょ?」恭子が釘を刺しに来た。「そうした姿が見られない時を想像したくないな~!」永田ちゃんが何気に言う。だが、僕は、ハッとさせられた。“今の当たり前は、いつかは終わる日が来るんだ!”と。「簡単には“終わらせる”つもりは無い!例え剣を手にして戦う事になろうともな!」語気を強めて言うと「誰と戦うんです?」と実里ちゃんが言う。「田納さんやO工場の連中さ!“はい、それまで”なんて言わせるものか!」「そう来なけりゃ、困るぜ!体制刷新は半分も終わってねぇ!投げ出すのは許さねぇからな!」田尾が肩を組んで来る。「Yが“途中下車”なんてしないわよ!必ずやり遂げる!だから、みんなが付いて行く!そうでしょ?」恭子が不安を振り払う様に言った。みんなが頷いた。僕には“最強の仲間達”が居る!「さあ、行こうか。まだ見ぬ世界へ!」朝礼に備えて、足早に建屋を目指す。新たな月の幕開けだ!

“安さん”の長い演説を聞き終えて、慌ただしく作業の準備に取り掛かったものの、橋口さんの“ダメージ”は結構大きかった。午前中は、僕の手出しが必要だろうと考えて、自分の治具の用意も行った。「Yさん、手伝ってくれるの?」「ええ、午前中はやりますよ。時折抜けるかも知れませんが、基本は、ここのデスクで対処しますから」必要なファイルも検査室のデスクから持ち込んだ。「済まん!無様を晒すとは、何たる不覚!」「“おばちゃん達”を甘く見ない事ですよ。見て無い様で、ちゃんと見てます。昨日の事は忘れましょう!今日は“通常体制、Aシフト、速度はやや早め”で行きますから、無理しないで付いて来て下さい」「その“通常体制、Aシフト、速度はやや早め”ってどうやって決めてるの?」「製品の出具合や、急ぎがあるか?無いか?溜まり具合を見て決めてます。“体制”と“シフト”については、皆さんに聞いて下さい。いずれは、文書にしますが、今は僕の頭の中と“おばちゃん達”の頭の中にしか入ってません。日に寄って随時可変しますし、人数でも変わるので、組み合わせは無数になります。言わば“身体で覚える部分”ですね。理屈じゃ無いんですよ。説明しろ!って言われても答えられない箇所なので」「他にもそう言う部分はあるのかな?」「勿論、多々ありますよ。これから随時覚えて行けばいいので、敢えて言いませんでしたが、まずは、基本をしっかりと作りましょうよ!1週間やそこらで全て継いでもらおうとは、考えていませんから。僕は“否応無し”でしたが、橋口さんには時間をかけてじっくりと取り組んで欲しいんですよ。1度に“あれもこれも”じゃ身が持たないでしょう?」「まあ、そうだね。もう少し猶予がもらえるならありがたいからね。そろそろ“おばちゃん達”が来るね。朝礼はどうするつもり?」「僕がやりますよ。接点が少なくなる分、貴重な時間になりますから。“安さん”の話を噛み砕いて伝えるのは、意外と難しい作業ですし」「そんな事までやってたの?」「ええ、必要な“情報”は、全部オープンにしてますよ。そうしないと、隅々まで伝えた事にはなりませんし、同じ方向を向いて仕事に臨めませんから」「そんな細やかな事も手抜き無しか。だから、“みんなが付いて行く”のか!“信玄の極意”はこんなところにまで及んでいたとはな。サラリと言われたけど、やっぱり並みの事をやってた訳じゃないのか!私には到底及ばないよ!」「だから、9月いっぱいかけて覚えて行きましょうよ!僕もバックアップしますし、“おばちゃん達”も教えてくれますから!」と言っていると“おばちゃん達”が続々と出勤して来た。昨日、結構呑んだ割にはみんなケロリとしているのが“薩摩おごじょ”らしい。歳は取れども肝が据わっているのが、何よりの証拠だ。「では、そろそろ始めましょうか?」パート朝礼で、僕は9月の予定と具体的な細目を伝え、今月の方針を示した。「実質は、8月の後半から生産は続いていますが、これから中旬までが1つの勝負どころになります。例月の倍ですから数量も加速度的に増えて行くでしょう。大変なのは、百も承知。皆さんの活躍と協力が欠かせません!僕も出来る限り力を尽くします!どうか、付いて来ていただきたい!そして、細かな問題は直ぐに僕に話して下さい!その都度、速やかに修正を行います。どんなに些細な事でも構いませんから、困ったら直ぐに言って下さい。午前中は、ここのデスク、午後は検査室のデスクにいるので、声をかけて下さい。では、今月も宜しくお願いします!」朝礼を閉じると「“信玄”、橋口!ちと、ツラを貸せ!」と“安さん”から声がかかった。作業室の隅に行くと「橋口、いよいよ“信玄”の“国家老”として、真価が問われる月が始まった。覚悟はいいな?」「及ばぬ事ばかりですが、鋭意努力します!」「うむ、頼んだぞ!貴様の働き如何で“信玄”が、自由に“軍事作戦”を展開出来るか?否か?が決まる!死ぬ気で食らいつけ!さて、“信玄”、下のフロアは、完全に貴様の“領国”になった。支配権は引き渡したのだから、思うがままにするがいい!ただ、これで終わりでは無いぞ!まだ、塗布工程と整列工程の2つの城を落としておらん!“地ならし”はしてやるが、攻略して攻め取るのは、貴様の才覚と知略と戦略にかかっておる!貴様が標榜する“新体制”の元、事業部の1部門を1つの“線”で繋いで見せろ!整列から出荷までを一元管理出来れば、その効果は計り知れん!必要なら“権限”は渡してやるし、物品も揃えてやる!後戻りする事無く必ずや“新体制”を確立して見せろ!“派遣任期”など気にせずともよい!田納さんは、俺が跳ね返してやる!背後を気にせず、ただひたすらに前進しろ!“無敵の騎馬軍団”を率いて頂点を目指せ!いいな?」「はっ!必達のために前進し続けます!」僕等が神妙に答えると「これを機会に、古い衣は脱ぎ捨てる!名実共に“新世界”へ一気呵成に突き進む!貴様達は“先陣”を切って進む武人に他ならん!期待を裏切るなよ!“別の意味で裏切る”なら、なおいいがな!」と言うと肩をバシバシと叩いて引き上げて行く。「とんでもない事を命じられたな」「そうですか?これは、千載一遇のチャンスですよ!“思う通りにやれ!”って言うんですよ!これに乗らない手はありませんよ!」「それなら、早速、要請を出そう!」「何をです?」「午前中、力を貸してくれ!スタートで躓くのは、避けたいんだよ!」「では、早速、始めましょうか?」僕等は作業台に向かった。「通常体制、Aシフト、速度はやや早めで!」僕が号令を出すと「はいな!そんなら行こうか?!」“おばちゃん達”が動き出す。「Y、スポットを急いでくれ!」田尾から煽りが来る。「僕がやりましょう!現状を維持!橋口さん、手伝って下さい!」僕等の“進撃”が始まった。“武田の騎馬軍団”は止まらない。立ちはだかる者は蹴散らして行く!その先頭を切って進むのは、僕だった。

その頃、用賀事業所の一室では、田納本部長が“しかめっ面”をしてFAXに見入っていた。それは、O工場の三井さんが発したもので、“早期帰還要請者”の一覧がくっついて来ていた。3日3晩、三井さん達“生産技術”の連中が練りに練った労作であり、一覧には、僕や吉田さん、克ちゃん、鎌倉、高山(美登里)の名もあった。三井さんは、“新機種立ち上げに当たり、どうしても必要な技術者の早期帰還を実現していただきたく、ここに要請します”と綴っていた。「どうも、O工場はアカンな!“絵に描いた餅”を突き付けられても、“でけへん!”言うしかあらへんがな!居ないなら“居ない成りの体制”で切り抜けるんが、技術屋の腕の見せどころやないか!小林、こないだの“帰還者名簿”は、O工場へ送ってあるやろ?」「はい、既にFAX済みで、メールでも送付してあります!」「ほんなら、これは何や?“まだ足りん”ゆうんか?」「どうやらその様ですが、些か“欲張り過ぎている”と言って宜しいのでは?」「そうやな!向こうは、なんも“見えとらん”ようやな。お前も知っての通り、各本部長がやっと話を聞いてくれる様になって来たばかりやぞ!“ほう、そないか!”とゆうてくれ始めた最中や!そして、50名を“帰してもええ”と国分も折れたばかりや!いらん欲を掻いとる場合やあらへんがな!こんなん、出したら臍を曲げられるんが落ちや!小林、済まんがO工場へ行って“しばらくは、黙っとけ!”ゆうて、釘を刺して来てくれへんか?今、下手に動いたら“半永久的に留め置かれるだけや!”とゆうて口を封じてくれんか?」「はい、では、早速午後の列車で向かいます!」「よっしゃ!頼んだでー!どんな手を使こうてもかまへん!いらん口出しは“今後一切するな!”と言っとけ!この文書は見んかった事にするさかい、罪には問わん!その代わり“口出しは無用や!”と念を押して来てくれ!」「はい、黙らせて参ります!では、直ぐに出張の手配を致します!」小林副本部長が部屋を辞すると、田納さんは、FAX文書をシュレッダーにかけて粉砕した。「アホ共が!ワシらの苦労を水の泡に変えられてたまるか!」吐き捨てる様に言うと、タバコに火を点じた。紫色の煙が怪しく揺れた。

同時刻のO工場では、三井さんと国分の田中さんとの電話会談の真っ最中だった。「三井、FAXを田納さんに送り付けたりして無いだろうな?」と田中さんが誰何すると「送りました。返事を待ってますが?」と平然と言われる。田中さんは呆れ果てて「三井!首が飛んでも知らんぞ!田納さんがこのままで済ませるつもりは、更々あるまい!覚悟しろ!」と怒鳴り返した。「しっ、しかし、これはどうしても通したい案件で・・・」「馬鹿者!50名を帰還させるに当たって、田納さん達がどれだけ神経を使ったか?分らんのか!国分側との“和平交渉”も一筋縄では行かなかった!裏で必死の“工作”を展開してやっと掴んだ代物だぞ!それに、鎌倉やYや美登里や吉田に進藤は、国分工場の“中核を担う至宝”と呼ばれる逸材になっとる!特にYは、今月から事業部の部門の半分を束ねる“責任者”に抜擢されてる!約70名を率いる“総大将”なんだ!それが、O工場へ戻れば、ただの“平社員”だとすれば、国分側が納得すると思うか?タダでさえ“帰すに及ばず”と言われてるヤツを“はい、そうですか”と引き渡すはずが無い!美登里も“本部長表彰”が噂されてるし、鎌倉も設備更新の指揮を執る“看板”なんだ!吉田も進藤も“生産に欠かせないリーダー”になってる!いずれにしても“それなりの椅子”を用意しなくては、帰すに返せない“大物”ばかりだ!それを“事情がありますので”なんて気楽に帰還云々を言うな!恐らく、小林さん当たりが来て“口を出すことはまかりならん!”と釘を打たれるのがオチだろうよ!首を洗って待つんだな!」「しっ、しかし、元は“責任者”でもありませんよ!歳の差はありますが、みんな平等です。“それなりの椅子”云々を言われても・・・」「三井!もっと広い視点でモノを言え!O工場では、“平社員だった”だろうが、国分工場では“事業部の大看板”なんだぞ!そつちの常識が通用しないのが、何故理解出来んのだ?“年功序列”では無く、“実力主義”が国分工場の掟だぞ!例えば、Yの事だが、ヤツが職場を仕切る立場に立ったのが、着任後、わずか、2週間足らずなんだ。そこから、徐々にステップアップして、今は“責任者”。経験や何処から来たなどと言うのは関係無し。実際、業績は右肩上がりに回復させたし、通期で“トントン”がやっとの現場で、上期だけでも“黒字化”を達成させるだろうと言われる“金看板”にまで出世してるんだよ。恐らく、部門全体を掌握するのも時間の問題だろう。そいつが“平社員で、1から出直し”なんて立場になると知れたら、間違い無く“反乱”が起きる。Yの名前は知らなくても“サーディプ事業部の信玄”と言えば知らぬ者は居ない“大物”に化けたんだ。そいつを意図も容易く“引き抜こう”なんて、安易な考えは捨てろ!“誰もヤツには届かない”んだよ!他の連中も、みんなそうだ。自らの力を発揮して地位を得たんだ!当人と所属事業部の了承無くして“帰して下さい”などと安易に言うな!これは、非常にデリケートで難しい問題に発展しとる。横車を押し通すのは止めろ!いいな!三井!」「ですが、“籍”はこちらにありますし、派遣されている立場ですよ?」「“転籍”させれば問題は無い。本部長同士が合意すればな。確かに“籍”は、O工場にあるが、紙切れ1枚で済むんだ。事業部の意向や本部長の腹の内で、どうにでもなっちまう。三井、そっちの事情もあるだろうが、国分にも“事情”はある!それを無視して事を運ぼうとしても、もう無理なんだよ。“2枚落ち”でも事を進める手を考えろ!駒が足りなければ、他の手を指すしか無いだろう?お前さんの首が繋がる事を祈るよ!」その時、三井さんの手元にメモが来た。“小林副本部長が来場する”と書かれていた。「田中さん、副本部長が来ます。多分、お咎めがあるでしょうよ。分かりました“駒落ち”で指す方法を考えて見ますよ!」「こっちからも、援護はして見よう!可能性は低いが、田納さんに“今回に限り格段の配慮”を願い出て見る!期待はするなよ。事が事だ。後は自ら血路を切り開け!Yの様にな!」「やって見ますよ。Yに出来て、俺に出来ないとは言わせない!やれる事はやり切りますよ!」「うむ、やってみろ!こっちも急いで手を回してやる!じゃあな」電話を終えた三井さんは「全行程を見直すぞ!1から組み直せ!社内で出来ない分は、外注に振れ!工数を削るんだ!」と宣言した。「しかし、3分の1は既に外製化が決まってます!これ以上、出せばコストに跳ね返りますが?」「“飛車角落ち”を覚悟しなきゃならん!戻って来る50名をどう使うか?も含めて再検討しよう!」と言い放った。生産技術と製造技術、設計も含めた再検討をしなくては、O工場の存亡が危ういのだ。「無理は承知でやらなければ、活路は開けん!次の会議に間に合わせるぞ!」三井さんの決死行が始まった。前途多難ではあったが、O工場も9月のスタートを切ったのだった。

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