「じゃあ、行って来るね・・・」心残りを滲ませて1人、また1人と外泊へ出発していく女の子達。「風邪ひくなよ」と僕が声をかけると、みんな頷いて行く。金曜日の午後は、見送りが続いた。マイちゃんは、どこかに出かけたのか留守だった。ガランとした指定席でする事も無くホールを眺めていると、マイちゃんが走って帰って来た。「どうしたの?そんなに慌てて?」「○ッシー、遠藤さん覚えてる?」「忘れる訳が無いよ。先代の横綱にして、僕をここに座らせた張本人だもの」「遠藤さんがね、○ッシーに“これからも、みんなのために戦ってあげて”って言ってたよ!SKとの激闘の事話したら“異次元で本当に衝突したんだろうね”って信じてた!」「向うから何か言って来た訳?」「久し振りにメールが来て、今までデイ・ルームで直電してたの。相変らずみたいだった。でも、元気そうだったよ!○ッシーに“くれぐれも宜しく伝えて欲しい。ただ、無茶はするな!”って言ってた」「“無茶はするな”か。そう言う方向に仕向けたのは誰だと思ってるんだ?」「多分、○ッシーは“そう言ってボヤくだろう”って予言してたよ。さすがは遠藤さん!遠くに離れてもちゃんと見えてるなー。そう言えば、みんな出発して行ったの?」「ああ、未練タラタラでね。Oちゃんも“帰って来るまで居なくなっちゃダメ!”って釘を刺して行ったよ」「甘いなー、Oちゃんが留守したならその間は、○ッシーをあたしだけが独占出来るもの!安々と明け渡すもんですか!」彼女は急にムキになる。「何処にも行かないって言うか、出られないんだからそんなにムキにならなくても・・・」「ダメ!○ッシーは渡さない!あたし決めたから!」決然と言い放つマイちゃんはちょっと怖かった。
夕食を済ませると、喫煙席は必然的に僕とマイちゃんの2人だけになった。広く使えばいいのに、僕らは当たり前の様に指定席に納まる。着かず離れずの距離感を取るのが自然の行動として染み付いているからだろう。「ねえ、○ッシー、¨ズンさん¨の事、聞いてもいい?」「どう言う風の吹き回しかな?彼女の何を知りたいの?」「中学の頃から知ってた?」「いや、¨ズン¨は県外からの受験生だったから、過去はあまり知らないんだよ!分かってるのは、小学生の頃に4回、中学生で1回の合計5回もの転校を経験してるって事だけ。お父さんの仕事の関係で、中々留まれなかったって話だ」「えー、凄い転校歴だね!」「裁判官と言う職務上、転勤は不可避だったらしい。いじめにも合ったし、友達とも直ぐに別れたり、悲しい日々だったって¨ズン¨も言ってたな。だから、高校では¨転校なしで3年間を過ごしたい¨って言って頑張ってた」「そうか、だから○ッシーの¨女の子選考基準¨の例外なのね?」「そう、彼女だけは例外だった。他にも道子や、ゆきえ、中島や堀川とかも居たけど、常に追いかけてたのは¨ズン¨だった」「4人の子の名前が出て来たけど、グループ?」「そんな感じ。お茶会の面子だよ。担任に井口明美先生も加わった10人くらいの同級生達が、生物準備室に溜まって昼休みに紅茶を飲んでた!そこで、色々あったんだ」「具体的には、何をやってたの?」「そうだね、先生に対して策略を巡らしたり、男女派閥の仲裁に入ったり、何でもありだったな。今の原点は、間違い無くあそこから始まってるね。いさかいの解決とか、恋愛相談とか、諸々の¨お悩み相談屋¨。正し、グループ内の事はテーブルに乗せない!それが暗黙のルール」「じゃあ、誰かが○ッシーの背中を追ってたとしても、グループ内だったら、相談しないって事?」「そう、個人的には色々あったけど、面と向かっては言わない。僕も可能な限り女子にも男子にも¨公平に接する¨様にしてたし、鈍かったせいもあって¨眼差し¨に最後まで気付かなかった。堀川には気付いてやれなかったなー。¨ズン¨に言われた時には、卒業式も謝恩会も終わって、駅で別れた後で¨あんた程の鈍感をずっと見てた堀川ちゃんが可愛くないのか!¨って、怒られた。でも¨あたしも同罪。チャンスを握り潰したのは、裏切りだから¨って言って駅のベンチで泣いてた。ハンカチを差し出したら¨あんたは優し過ぎるのよ!¨って大泣きしながらブレザーにしがみついて来た。¨ズン¨も気付いてくれてたけど、堀川の手前、感情を押し殺すしか無かったんだよ。最後になって、ようやく¨仮面をかなぐり捨てて¨本心を言ったんだ。けれど、遅過ぎた。もう、それぞれの道へ別れなきゃならなかった。彼女は¨5年間辛抱すれば、あんたは、誰も届かないトップレベルの技術者になる。そして、その頃には必ず誰かが傍に寄り添ってる。あたし達の事は今日ここに置いてきぼりにして行って!¨と言って僕のネクタイを緩めて持ち去ったよ」「何か、切ないね。互いに思いはあったのに、すれ違いなんて悲し過ぎない?」「でも、それが¨ズン¨と僕の宿命だったのは間違いない。彼女は、美容師を目指してたし、例え僕が¨ズン¨追いかけたとしても、いずれは別れる事になってたと思う。そうだとしたら、お互いもっと辛かっただろうよ」「じゃあ、¨ズン¨と別れて無かったら、今こうして○ッシーの隣に居る事も無かったのね。不思議だけど¨すれ違い¨があったからこそ出逢えたのかな?あたしは¨ズン¨に感謝しなきゃいけなくね!」左腕にマイちゃんがしがみついて、必死に離すまいとする。「そんな事しなくても、何処にも行かないよ。怖いの?」「うん、怖い!だからこそ、例え大昔の事でも焼きもちを感じるし、不安になる。だから、逃がさないように捕まえてる!」「だったら聞かなきゃいいじゃん!」「ダメ!一切合切吐き出しなさい!取り調べはまだ終わってないから!あたしを納得させるまでは、素直に白状しなさい!」マイちゃんの眼が吊り上げる。「では、次に犯人としては何を白状するんですか?」僕は静かに聞いた。「堀川さんって、どんな感じの子?例えば看護師さんなら誰に似てる?」「九条さんが一番近いかな?髪型は¨聖子ちゃんカット¨だけど」「流行ったよね!¨聖子ちゃんカット¨懐かしいなー。でもさぁ、そうすると、○ッシーの¨女の子選考基準¨からは、外れるよね。それなら友達・同級生としての認識しか浮かばないか。¨ズン¨は?」「Fさんを一回り小さくした感じで、少し可愛くすれば似てるかな?」「へー、例外って言うのはそう言う事か?○ッシーでも丸っこい子を見初める事はあるんだ!」「何で妙に納得してるの?」「文字通り以外だから。でも、性格も含めたトータルでの話でしょ!」「当然。人として思いやりがあるか?も含めてね」「それも、今に通じてるね。みんなとの接し方を見てれば分かる。○ッシーは外見だけでなく、心の内を見極めてるよね。何よりも¨人を思いやれるか?¨を大事にしてない?」「みんな、背負ってるモノは違うけど、ここで大事なのは¨思いやりの心¨だと思うね。その人の立場に立っての意見や指摘が出来るか?は、人としての基本的な部分だからね。色々な議論はあっても、最後は必ずみんなが納得する事。¨そうだね¨って言ってくれる様にまとめる事。それだけは、最低限守って来たつもり」「そう言う方向に持って行くの○ッシー得意だもの。脱線しても必ずコントロールしてくれてたね。だから、みんな自由に言えるし、言いにくい事も出せるんだろうな。だから愉しいし、雰囲気もいい。助け合いも生まれるし、救いの場にもなってる。あたし達って結構凄い事してるんだね!」「ああ、奇跡的にそうなってる場合もあるけど、オアシスとしては上出来だね!」「でも、○ッシーのキャパもそろそろ限界だよね。もう1人誰か居てくれてたら、あたしも安心感を持って居られる。今日みたいに」マイちゃんは膝に座り込みに来た。首に腕を回して¨お姫様抱っこ¨の様な姿勢を取る。「おーい、動けないんですけど?」「捕まえた!離さないからね!」マイちゃんは離すまいと押さえ込みに入る。「ちゃんと見てる、見守ってる。寄り添って、置いてきぼりなんかにしない。明日はどうする?みんなほとんど帰ってるから、4~5人集まるかどうか?」「明日考えればいいじゃん!それより、寝る前にちゃんとハグしてよね!」マイちゃんにしては、珍しく甘えが出て居る。多分、Oちゃんが居ないからだろう。寝る前に¨儀式¨を済ませると、彼女は笑顔で病室へ戻って行った。「何が“引き金”になるか分からないか・・・、とにかく見守り続けるしかないな!だけど、今日のマイちゃんは、どうしたんだろう?」彼女の甘えに一抹の不安を覚えつつも、その夜は床についた。
「○ッシー、おはよう!」朝からマイちゃんは元気だ。「病室に1人で大丈夫だった?」「さすがに静か過ぎて不気味だった。だから、早めに出てきたの。○ッシーも早いじゃん!」「何とも無いかい?不安になってない?怖くなかった?」「全部無いかと言われれば、嘘になる。だって・・・1人ぼっちだもん!」急に大粒の涙がこぼれ落ちる。4人部屋にたった1人だ。言い知れぬ恐怖心に陥っても不思議ではない。「夜中に○ッシーの部屋の前に行ったの。でも・・・、入れないでしょう!あたし・・・、怖くて怖くて、だから・・・」泣きじゃくる彼女。涙を拭って必死に声を絞り出そうとするが、言葉は途切れた。肩が震えている。優しく包み込む様にハグをすると「怖かったよー」と言ってしばらく泣き崩れる。暗闇の中、1人彷徨う1夜だったのだろう。「誰だって、1人は怖いよ。寂しいし、不安にもなるよ。我慢しなくていい。泣きたけりゃ思いっきり泣けばいい」そう言うと「うん。でも、もう大丈夫。○ッシー、タオル貸して」といって泣き顔を洗い流すと、少しシャンとして「このタオル貰った!○ッシーいいよね?」と気丈に言い出した。「ああ、持って行っていいよ!今日は何をしますか?時間はたっぷりあるぜ!」「まず、朝食を一緒に。それから、あたしの言う通りに着いて来て」と言うので「お供しますよ」と静かに返した。「じゃあ、指定席へ参るぞ!着いて参れ!」と命ぜられる。黙って彼女の背中を追って、指定席滑り込むと左手を握ってピッタリと寄り添ってくる。「○ッシー、何処にも行かないよね?置いてかないでね!」「ああ、何処にも行かないし、置いてかない」こうやって落ち着かせなくては、彼女は奈落の底へ真っ逆さまに堕ちるかも知れない。それだけは避けなくてはならない事だった。小さな不安をその都度消していく事。全ては彼女のために他ならない作業だ。感情の起伏が激しいのが気になったが、話してくれるのは幸いだ。もし、何も話さなくなったら、今度は戻れないかも知れないからだ。それだけは、回避しなくてはならない。改めて“危うさ”を思い知らされた朝だった。
「広い!ここってこんなに広かったけ?」Eちゃんが眼を丸くする。「普段、如何に大勢が集ってるかを思い知らされるな!何せ病棟の“最大派閥”だから」「本当だね。居なくなって改めて思い知らされるってヤツ。○ッシーを除けば全員が女の子だし」「空恐ろしい事をやってるんだな。自分でも驚きだよ」Eちゃんと他3人に、マイちゃんと僕の6人だけになると、つくづく思い知らされる現実だった。賑わいとは無縁とも思える空間は、ポッカリと穴が開いて文字通り“お通夜の席”さながらになっていた。「せっかくだから、今日は深く掘り下げて話したいね。発言の機会も多くなるし」マイちゃんが、本日の方向性を提起した。「深い話しか?どうせなら、遠慮なくモノを言いたいよね?」Eちゃんも同意してお題を探す。「ねぇ、どうして中高生になると“派閥”が出来るのかな?特に女子の派閥って、掟も厳しいし対立も激しいのかな?」1人の子が聞いて来る。「確かに男子にも派閥はあるけど、割と緩やかな連帯になるのが常だ。でも、女子の派閥は時として半端無い抗争に陥るね。それは、僕もずっと疑問に感じてた。感情のスイッチが入ると修復不可能になる事も稀では無いよね?」「そう、陰湿になるのよね。あたしも経験ある」Eちゃんも同意見らしい。「じゃあ、今日は派閥について掘り下げようか?○ッシー、男子の目線で見たありのままを話してよ!」マイちゃんがお題を決めた。派閥抗争、それも結構猛烈なヤツ。少しは昔の疑問は拭われるのか?興味半分、怖さ半分だった。
「派閥抗争で最も難儀だったのは、高2の時の学校祭の出し物を決める時だったな。結論から言うと、クラスが男女で真っ二つに割れた。その後の修復は悲惨だったな。結局は完全には修復する事は出来なかったし、感情の対立は卒業まで残ってしまった」僕が話始めると「何をやろうとしてたの?」と質問が来る。「一応は、隣のクラスと合同で模擬店を出すって方向でまとまりつつあったんだが、美夏だったか?5人ぐらいが、“反核平和の展示”をやりたいって言い出して、男子が“そんな政治がらみな事つまらん!”って茶化したのがボタンの掛け違いの始まり。非難の応酬から男女批判になって、後は想像付くと思うけど、女子が大同団結しちゃって分裂した」「その時、○ッシーはどっちに付いたの?」「基本的に僕は無派閥の中立の立場に居たんだよ。どちらに肩入れする事も無く、繋ぎ役に徹してたね。だから、どちらにも付かずに双方を見てた。つまり、一番ズルイ方法である“中立”を取った」「批判されたんじゃない?双方から強烈に?」Eちゃんが言う。「確かに批判はあったね。でも、学級委員長の竹内と副委員長の道子に言われて、どっちにも加担出来なかったんだよ。“今はしょうがないけど、いずれ修復に動かなきゃならない。どっちにも加担しないヤツが必要だ”って。“しがらみも無く事を治められるとしたら、どっちにも顔が利くあんたしかいない”ってね。だから、後々苦労するハメになった」「道子って“ズン”達のメンバーだった道子?」マイちゃんも突っ込んで来る。「そう、男子は単純だから時間と共にわだかまりを忘れて行くけど、女子は根深いから遺恨を消し去るのに四苦八苦。“ズン”や道子、ゆきえ、中島に堀川も手を貸してはくれたけど、美夏はとうとう和解に持ち込めなかったね。結局、僕を仲介しての対話しか受け付けなかった。あれは、最悪の結末だったな」「こじれると意地になるのは分かるな。感情もだけど生理的に受け付けなくなるのよ。それが“何故”かは上手く説明出来ないけど、あたし達にも男子に負けない意地があるから、軽々しく妥協はしなくなる。軽薄だって蔑んでしまうのは確か」Eちゃんが答えてくれた。「締め付けもあるね。女子特有のヤツ。破ると他からも相手にされなくなるから、怖くて従うしかなくなるの」提起の口火を切った子も応じて来る。「そう、実際問題、美夏達のグループは女子の中でも浮いちゃって、事ある毎に男女双方から“あそこはどう言うご意向か?”って調査依頼が来てその都度こっちが動くしかなかった。やがて引き抜きなんかもあって、美夏だけが取り残された。美夏自身にも意地があるから、孤立しても平然としてたな。他のクラスには美夏を支持する子も居たから、そっちとは仲は良かったが」「今の○ッシーの原点は、その時に築かれたのね。誰の肩を持つわけでもなく、公平に物事を見てアドバイスをくれる。○ッシーが今のスタイルを確立したのが、高校生の頃か」マイちゃんが遠くを見る様に言い、「○ッシー、上からの圧力とかは無かったの?」と問う。「それは幸いな事に無かったね。なにしろ、新設校で2期生だからね。1期生は居ても仲は悪くないし、伝統とかが無いからしがらみもなかったし」「それって、ある意味幸運だね。自分達が1から築く訳でしょう?前例も無いから、何でも自由に進められる。○ッシー達の歩いた道が伝統になるって羨ましいな!」「だからこそ、悪しき事は残せないでしょう?逆にプレッシャーにならなかった?」「自分達から始まる訳だから、先輩だって自分達だって手探りさ。先生達も同じく手探りだったから、ともかく自由な風は吹いてたな。だからこそ、クラスを割る様な事は避けたかったし、避けるべきだったと思う。最大の汚点だね」「○ッシーでも調停不能か。それはよっぽど深刻な対立だったのね。それでも美夏以外とは、和解に持って行ったんでしょ?どうやって治めた訳?」「女子には女子のコネクションがあるでしょ!1ヵ所を治めればある程度は“イモづる式”に持っていけるさ。ただ、1ヵ所目の目星を付けるのが大変。ズン”や道子、ゆきえ、中島や堀川に協力してもらって、最大派閥を軟化させるのに3ヶ月かかったな。竹内も尽力してくれて、焼き芋大会をやってようやく落ちた。猛烈に怒られたけど、それがきっかけになってくれたから結果オーライ!」「何で怒られたのよ?」「教室のストーブで焼けば匂いが充満して、直ぐにバレるだろう?でも、それが狙い目だったのさ!つまり、乗れば平等に責任を取らされる。ソッポを向いてても否応なしに会話が生まれる。距離を縮めれば、必然的に“悪い”“ごめんね”と言える。絡まった糸をほどく様に仕向ければ、男子も小学生じゃないから歩み寄れる。そうやって、まず半分が落ちれば女子だって雪崩を打って遅れまいとするでしょ?」「それでもダメな場合は?」「部活経由で1期生を動かしたり、他のクラスの女子の手を借りる。目立たぬ様に後ろから押してやれば、メンツを傷つけずに歩み寄れる」「正面からは行かないのね?」「女子はプライドも高いから、黒子に徹した方が上手く行くケースも多い。女子同士で“そろそろいいんじゃない?”の一言が出れば意外に効いたね」「確かに、男子と話してるのを見られると、必ず勘繰られるからその手は有効かも知れない。でも、そこまで持っていく○ッシーの苦労は誰が評価する訳?」「評価なんてどうでもいいのさ。女子の間に何となく“やったわね!”って空気が流れてくれればね。安いもんさ!」「そう言う境地に立てるのは、何故?苦労ばかりで空しくならない?」「クラスの中で自身の立ち位置をある程度決めて置くと、色んなモノが見えるから返ってやりやすかったな。高校生って通学区域が広いから、初めは出身中学で固まる傾向は仕方ないけど、打ち解け合うと意外な繋がりが出来て来る。“ズン”とだって席が隣だったからだし、道子とゆきえは保育園・小学校以来の再会だったし、中島と堀川は道子との繋がりからだし・・・」「ちょっと○ッシー!その話、あたし聞いてないよ!どう言う事?!」マイちゃんの表情が険しくなる。「マイちゃん、そんなに怒らなくても良くない?昔の事だし・・・」Eちゃんが援護しようとするが「あたし達の大事な○ッシーに何があったのか?は、ハッキリと掴んで置く必要があるわ!○ッシー、教えて!!」マイちゃんのお怒りは、真相を知るまで治まらない様だ。「道子とゆきえとは、保育園から小学校2年まで一緒だったんだ。でも、3年になる前に僕が転校して、その半年後には道子が転校して、4年になる前には、ゆきえも転校。3人はその後バラバラに人生を歩み、接点も無く年月は過ぎて、高校生になって何の巡り合わせかは知らないけど¨偶然同じクラス¨になった。僕も道子もゆきえも、初めは忘れてて¨何処かで会った記憶在りませんか?¨状態だったけど、道子がある日思い出して、古い写真を片手に¨ずっと昔に3人揃ってたよね?¨って言ってくれて、やっと記憶が蘇った始末。¨ズン¨も¨そんな偶然あるのね?¨ってびっくりしてくれて、それから4人で色々話す様になって、やがて中島と堀川が加わって、6人の仲間が生まれたのさ。だけど、男子1人じゃあ、あまりにも目立つからどうする?って考えて、たまたま掃除当番だった生物準備室で、お茶しながら話し込む様にしたの。その延長線上に出来たのが、¨お悩み相談室¨だよ。表立っては¨ズン¨を中心とした5人組だったが、¨参謀格¨で頭脳戦担当は僕に依頼が来ると言う図式にしてたけど、女子の洞察力は時に剃刀より鋭いから、直ぐに見抜かれた。けど、何かしらの都合上勝手が良かったのかどうかは分からないが、僕らのグループは女子の間でも例外的に認められたんだよ。まあ、道子の根回しと¨ズン¨の存在が大きかったのは事実だけど。そう言う事情でございます」「改めて聞くけど、道子は○ッシーの¨女の子選考基準¨に該当してたの?」「改めて考えれば、ギリギリセーフだったか?でも、道子は竹内を追ってたから、眼中には無かったはずだ!」「ならば、答弁を認めるわ!他には○ッシーに手出ししそうな子は居なかったでしょうね?!」心底マイちゃんの追及が怖い!「本題からは外れるが、¨2匹の背後霊¨は付きまとってたな。有賀重子と佐藤浩子!佐藤は¨漏れなく付いて来るオマケ¨だからいいが、有賀は、常に背後を脅かす悪魔だった。名簿順って50音だろう?僕の後ろは常に女子の先頭が座る宿命なんだが、有賀は中学高校の6年間を通してずっと背後に居続けたヤツなのさ。席順フリーになっても、必ず背後を取るんだ!箸にも棒にもかからない対象だったが、最低限の付き合いは途切れなかったよ。以上、申告します」「ふむ・・・、認めます!○ッシー、正直に答えてるね。¨マドンナ¨は誰?」「今井敦子さん。背丈はマイちゃんよりも小さかったけど、スポーツ万能で可愛かった。男子なら1度はあこがれた存在でした。彼女は競争率が半端なく高かったし、クラスも別だったから、接点は少なかったよ」「宜しい、正しい申告と認めます!」ようやくマイちゃんの眉間の皺が消えて、穏やかな表情になる。「なんかさぁ、○ッシーの“取り調べ”って面白くない?マイちゃんの突っ込みも絶妙なんだけど」Eちゃんが悪魔の表情をのぞかせる。マズイ!最悪の展開になりつつある。「これって病みつきになる話かも」「マイちゃん!“取り調べ”続行を希望します!」やはり、そうなるか!おもちゃにされるのは慣れてはいるが、学校時代の話は、ひょんな事から暴走しだすから危険極まりないんですが。僕は恐る恐るマイちゃんの表情を伺う。完全に追い詰められた犯人の様になって。「お題変更しようか?○ッシーの昔話に突っ込みを入れよう!」マイちゃんが勝ち誇るかの様に宣言した。「ヒューヒュー!」5人はノリノリだが、こちらは間違いなく撃沈コースが確定した。「○ッシー、美夏を例えるとしたら何になる?」「うーん、取扱い要注意だから“核ミサイル”かな?」「かなり危ないって事ね。じゃあ、重子は?」「ふむ、“パンプス”かな?」「それってどう言う例え?」「服に合わせて靴も選ぶだろう?“時と場合によって使い分ける”つまり、敵にはしたくないが、積極的に肩入れする必要も無いって事だよ。ただでさえゴーストの様に居るんだから」「○ッシー、重子によっぽど酷い目に遭ってない?」「遭ってる!中学の委員会活動で、ヤツが委員長をやった時の“尻拭い”を全部背負ってるから!」「因縁の相手か!重子は○ッシーを“利用する機会”を常に伺ってたのね?」「そう言う事になるな!でなきゃ、常に背後は取らんよ」「道子はどうなの?」「彼女は、司令官だな。実質“ズン”と2トップだったし、最終的に決断するのは彼女による部分が多かったし」「○ッシーは?」「僕は“参謀”だよ。作戦の立案者。僕の考えた策を実行する指揮を執るのは、常に道子達。クラスが割れた時も“どちらにも与するな!後で動ける人が必要”って進言したのは、道子の意思が強く表れてたね」「じゃあ、常に○ッシーを追ってた堀川さんは?」マイちゃんの声のトーンが変わる。微妙な点を突いて来たね。「広辞苑だよ。成績優秀だったし、煮詰まると打開点を見つけてくれたのは大抵、彼女だったな。“困った時の堀川頼み”とも言われた程だから」「ふーん、色々な引出しを持ってる○ッシーをも支えた才女なのね!逃した大魚は大きかったんじゃない?」痛点を突くね。マイちゃん。「誤解されると困るけど、今でも時々心の中で聞く事はあるよ。“堀川ならどうしたか?どう言ったか?”迷った時はどこかで問いかけるんだ。敢えて言うなら師匠みたいな存在だよ。ここを遠藤さんから引き継いでから間もなくは、特に気を使う様になったから、彼女の言葉を思い出して対処してたのは確か。今は、ありのままを出してるけど・・・」「○ッシーが“師匠”って言うくらいだから、出来る子だったんだ。今は“師匠”を越えたと思う?」「どうかな?自分では越えたと思ってはいるけど、人として越えたかどうかは分からない。男女としてではなく1人の人間として、越えられたとは思っていないな。僕も完璧ではないし、まだまだ学び成長する余地はあるだろうし・・・、高みを目指す姿勢はいくつになっても変わってはいないだろうし、彼女を越えるとしたら相応の事をやり遂げないと認められないだろうよ」「そう言う姿勢が○ッシーらしいな。女の子を尊敬するなんて、普通の男の子はしないよ。そう言うところを遠藤さんは見抜いてたから、ここの後継を託したんだと思う。そして、○ッシーはちゃんと期待に答えてるじゃない!すごい事だと思う。あたしも共同でって言われたけど、柱になってるのは○ッシーだものね。みんな、そうだよね?」周囲は頷いてくれた。何とか切り抜けた!マイちゃんの声も落ち着いている。このまま、違う道へ向かってくれと僕は願った。「遠藤さんか!懐かしい。確か最初に○ッシーを捕まえて、仲間に引き入れたの遠藤さんだよね?」Eちゃんが思い出す。「そう!全ての始まりは、彼女に捕捉された日から始まってる。あの頃は病棟の男女比も互角だったし、じいちゃん達が多くて遠藤さんも話し相手に飢えてたし、釣られた側の僕にしても歳がもっとも近い人だったから、気兼ねなく話してたな」
喫煙席の大集団の創始者にして、僕とマイちゃんを結び付けた存在である遠藤さん。彼女の“伝説”は数知れない。僕もマイちゃんも“伝説”に登場する人物でもあるのだが、病棟を去るに当たって、彼女の後継に指名されるとは思っても居なかった。「遠藤さんと言えば、臆面もなく“女子トーク全開”で突っ込んで来た事だよなー。僕を鼻から“男子扱い”せずに“生理が止まった”だの“ブラが面倒だからノーブラだよー”だとか平然と言うし、ケーキ3個を“買ってよー”ってねだられたり、最初は散々な目に遭った。でも、あの人に鍛えられなかったら、ここに座り続ける事も無かったのは間違いない」「確かに。遠藤さんも○ッシーの事を“結構歯ごたえがあるヤツ”って言ってたよね。着いて行けたのは大きくない?」Eちゃんが聞いて来る。「“手錠”をかけられてりゃ動くに動けないよ。彼女だけじゃないか?白昼堂々と病室に入って来て“買い出しに行くよ!”って引きずり出しに来たのは?しかも、こっちが着替えてる時に限って!」「そうだっけ?遠藤さんは○ッシーが来ないと落ち着かなかったのは確かだけど?」マイちゃんが小首を傾げる。「ああ、ある種の“精神安定剤”だったのは間違いないね。常に行動を共にする様に仕向けられたし・・・」僕も改めて思い出す。「色々喋ってたよね?お子さんの話とか、旦那さんの話とか?」Eちゃんも思いをはせる。「ブラとパンティ!口紅にファンデーション!香水にアロマ!カラーリングにヘアスタイル!最初、こっちは着いて行くのに必死だったよ。僕が“男性”って意識せずにどんどん深みに連れて行くんだから!」僕は悪夢の話を思い出した。「でも、臆せず着いて行けたのは、○ッシーだからじゃない?そうでなきゃ突っ込んだ話も出ないでしょう?」Eちゃんが指摘する。「まあ、それは否定しない。だって他に適当な人材は居ないし、居たとしても過激過ぎると引いて行ったし。とことん付き合った男性は結局僕だけだったし」「それは言えるね。とにかく聞き続けたのは○ッシーだけだったよね?」マイちゃんも言う。「結果論になるけど、あの経験が無ければ今の僕は無いだろうな。彼女の話にひたすら付き合った事で、学んだことは確実に今に生きてる!でなきゃ、女の子の集団のど真ん中に居られるハズが無い」「そうだね。だから後を○ッシーに託した。賢明な選択だったね!」「そうなるんだろうな。余人を持って治められる集団ではないからね。マイちゃんやEちゃんにも手助けをしてもらって、どうにかこうにか持ち堪えてはいるが、もう1人“補佐役”が必要なのは確かだよ。適当な人材が居てくれればなー・・・」僕がこぼすと「まず、無理だろうね!○ッシーの代わりは○ッシーしか居ないから!」マイちゃんが止めを刺しに来る。「Aさん1人だけでも封じられれば、格段に楽になるのに?」「それが出来る人が何処に居るの?○ッシーでなけりゃ無理な仕事じゃない?」Eちゃんも同調する。「うーん、そう言われると、返す言葉が無い!バランス良くやって行くには現状維持しかないのか・・・」僕は敢え無く撃沈の憂き目にあった。大脱線をして行った本日のお題だが、話はこの後夜まで延々と続いたのは言うまでもない。
夕食を済ませると、喫煙席は必然的に僕とマイちゃんの2人だけになった。広く使えばいいのに、僕らは当たり前の様に指定席に納まる。着かず離れずの距離感を取るのが自然の行動として染み付いているからだろう。「ねえ、○ッシー、¨ズンさん¨の事、聞いてもいい?」「どう言う風の吹き回しかな?彼女の何を知りたいの?」「中学の頃から知ってた?」「いや、¨ズン¨は県外からの受験生だったから、過去はあまり知らないんだよ!分かってるのは、小学生の頃に4回、中学生で1回の合計5回もの転校を経験してるって事だけ。お父さんの仕事の関係で、中々留まれなかったって話だ」「えー、凄い転校歴だね!」「裁判官と言う職務上、転勤は不可避だったらしい。いじめにも合ったし、友達とも直ぐに別れたり、悲しい日々だったって¨ズン¨も言ってたな。だから、高校では¨転校なしで3年間を過ごしたい¨って言って頑張ってた」「そうか、だから○ッシーの¨女の子選考基準¨の例外なのね?」「そう、彼女だけは例外だった。他にも道子や、ゆきえ、中島や堀川とかも居たけど、常に追いかけてたのは¨ズン¨だった」「4人の子の名前が出て来たけど、グループ?」「そんな感じ。お茶会の面子だよ。担任に井口明美先生も加わった10人くらいの同級生達が、生物準備室に溜まって昼休みに紅茶を飲んでた!そこで、色々あったんだ」「具体的には、何をやってたの?」「そうだね、先生に対して策略を巡らしたり、男女派閥の仲裁に入ったり、何でもありだったな。今の原点は、間違い無くあそこから始まってるね。いさかいの解決とか、恋愛相談とか、諸々の¨お悩み相談屋¨。正し、グループ内の事はテーブルに乗せない!それが暗黙のルール」「じゃあ、誰かが○ッシーの背中を追ってたとしても、グループ内だったら、相談しないって事?」「そう、個人的には色々あったけど、面と向かっては言わない。僕も可能な限り女子にも男子にも¨公平に接する¨様にしてたし、鈍かったせいもあって¨眼差し¨に最後まで気付かなかった。堀川には気付いてやれなかったなー。¨ズン¨に言われた時には、卒業式も謝恩会も終わって、駅で別れた後で¨あんた程の鈍感をずっと見てた堀川ちゃんが可愛くないのか!¨って、怒られた。でも¨あたしも同罪。チャンスを握り潰したのは、裏切りだから¨って言って駅のベンチで泣いてた。ハンカチを差し出したら¨あんたは優し過ぎるのよ!¨って大泣きしながらブレザーにしがみついて来た。¨ズン¨も気付いてくれてたけど、堀川の手前、感情を押し殺すしか無かったんだよ。最後になって、ようやく¨仮面をかなぐり捨てて¨本心を言ったんだ。けれど、遅過ぎた。もう、それぞれの道へ別れなきゃならなかった。彼女は¨5年間辛抱すれば、あんたは、誰も届かないトップレベルの技術者になる。そして、その頃には必ず誰かが傍に寄り添ってる。あたし達の事は今日ここに置いてきぼりにして行って!¨と言って僕のネクタイを緩めて持ち去ったよ」「何か、切ないね。互いに思いはあったのに、すれ違いなんて悲し過ぎない?」「でも、それが¨ズン¨と僕の宿命だったのは間違いない。彼女は、美容師を目指してたし、例え僕が¨ズン¨追いかけたとしても、いずれは別れる事になってたと思う。そうだとしたら、お互いもっと辛かっただろうよ」「じゃあ、¨ズン¨と別れて無かったら、今こうして○ッシーの隣に居る事も無かったのね。不思議だけど¨すれ違い¨があったからこそ出逢えたのかな?あたしは¨ズン¨に感謝しなきゃいけなくね!」左腕にマイちゃんがしがみついて、必死に離すまいとする。「そんな事しなくても、何処にも行かないよ。怖いの?」「うん、怖い!だからこそ、例え大昔の事でも焼きもちを感じるし、不安になる。だから、逃がさないように捕まえてる!」「だったら聞かなきゃいいじゃん!」「ダメ!一切合切吐き出しなさい!取り調べはまだ終わってないから!あたしを納得させるまでは、素直に白状しなさい!」マイちゃんの眼が吊り上げる。「では、次に犯人としては何を白状するんですか?」僕は静かに聞いた。「堀川さんって、どんな感じの子?例えば看護師さんなら誰に似てる?」「九条さんが一番近いかな?髪型は¨聖子ちゃんカット¨だけど」「流行ったよね!¨聖子ちゃんカット¨懐かしいなー。でもさぁ、そうすると、○ッシーの¨女の子選考基準¨からは、外れるよね。それなら友達・同級生としての認識しか浮かばないか。¨ズン¨は?」「Fさんを一回り小さくした感じで、少し可愛くすれば似てるかな?」「へー、例外って言うのはそう言う事か?○ッシーでも丸っこい子を見初める事はあるんだ!」「何で妙に納得してるの?」「文字通り以外だから。でも、性格も含めたトータルでの話でしょ!」「当然。人として思いやりがあるか?も含めてね」「それも、今に通じてるね。みんなとの接し方を見てれば分かる。○ッシーは外見だけでなく、心の内を見極めてるよね。何よりも¨人を思いやれるか?¨を大事にしてない?」「みんな、背負ってるモノは違うけど、ここで大事なのは¨思いやりの心¨だと思うね。その人の立場に立っての意見や指摘が出来るか?は、人としての基本的な部分だからね。色々な議論はあっても、最後は必ずみんなが納得する事。¨そうだね¨って言ってくれる様にまとめる事。それだけは、最低限守って来たつもり」「そう言う方向に持って行くの○ッシー得意だもの。脱線しても必ずコントロールしてくれてたね。だから、みんな自由に言えるし、言いにくい事も出せるんだろうな。だから愉しいし、雰囲気もいい。助け合いも生まれるし、救いの場にもなってる。あたし達って結構凄い事してるんだね!」「ああ、奇跡的にそうなってる場合もあるけど、オアシスとしては上出来だね!」「でも、○ッシーのキャパもそろそろ限界だよね。もう1人誰か居てくれてたら、あたしも安心感を持って居られる。今日みたいに」マイちゃんは膝に座り込みに来た。首に腕を回して¨お姫様抱っこ¨の様な姿勢を取る。「おーい、動けないんですけど?」「捕まえた!離さないからね!」マイちゃんは離すまいと押さえ込みに入る。「ちゃんと見てる、見守ってる。寄り添って、置いてきぼりなんかにしない。明日はどうする?みんなほとんど帰ってるから、4~5人集まるかどうか?」「明日考えればいいじゃん!それより、寝る前にちゃんとハグしてよね!」マイちゃんにしては、珍しく甘えが出て居る。多分、Oちゃんが居ないからだろう。寝る前に¨儀式¨を済ませると、彼女は笑顔で病室へ戻って行った。「何が“引き金”になるか分からないか・・・、とにかく見守り続けるしかないな!だけど、今日のマイちゃんは、どうしたんだろう?」彼女の甘えに一抹の不安を覚えつつも、その夜は床についた。
「○ッシー、おはよう!」朝からマイちゃんは元気だ。「病室に1人で大丈夫だった?」「さすがに静か過ぎて不気味だった。だから、早めに出てきたの。○ッシーも早いじゃん!」「何とも無いかい?不安になってない?怖くなかった?」「全部無いかと言われれば、嘘になる。だって・・・1人ぼっちだもん!」急に大粒の涙がこぼれ落ちる。4人部屋にたった1人だ。言い知れぬ恐怖心に陥っても不思議ではない。「夜中に○ッシーの部屋の前に行ったの。でも・・・、入れないでしょう!あたし・・・、怖くて怖くて、だから・・・」泣きじゃくる彼女。涙を拭って必死に声を絞り出そうとするが、言葉は途切れた。肩が震えている。優しく包み込む様にハグをすると「怖かったよー」と言ってしばらく泣き崩れる。暗闇の中、1人彷徨う1夜だったのだろう。「誰だって、1人は怖いよ。寂しいし、不安にもなるよ。我慢しなくていい。泣きたけりゃ思いっきり泣けばいい」そう言うと「うん。でも、もう大丈夫。○ッシー、タオル貸して」といって泣き顔を洗い流すと、少しシャンとして「このタオル貰った!○ッシーいいよね?」と気丈に言い出した。「ああ、持って行っていいよ!今日は何をしますか?時間はたっぷりあるぜ!」「まず、朝食を一緒に。それから、あたしの言う通りに着いて来て」と言うので「お供しますよ」と静かに返した。「じゃあ、指定席へ参るぞ!着いて参れ!」と命ぜられる。黙って彼女の背中を追って、指定席滑り込むと左手を握ってピッタリと寄り添ってくる。「○ッシー、何処にも行かないよね?置いてかないでね!」「ああ、何処にも行かないし、置いてかない」こうやって落ち着かせなくては、彼女は奈落の底へ真っ逆さまに堕ちるかも知れない。それだけは避けなくてはならない事だった。小さな不安をその都度消していく事。全ては彼女のために他ならない作業だ。感情の起伏が激しいのが気になったが、話してくれるのは幸いだ。もし、何も話さなくなったら、今度は戻れないかも知れないからだ。それだけは、回避しなくてはならない。改めて“危うさ”を思い知らされた朝だった。
「広い!ここってこんなに広かったけ?」Eちゃんが眼を丸くする。「普段、如何に大勢が集ってるかを思い知らされるな!何せ病棟の“最大派閥”だから」「本当だね。居なくなって改めて思い知らされるってヤツ。○ッシーを除けば全員が女の子だし」「空恐ろしい事をやってるんだな。自分でも驚きだよ」Eちゃんと他3人に、マイちゃんと僕の6人だけになると、つくづく思い知らされる現実だった。賑わいとは無縁とも思える空間は、ポッカリと穴が開いて文字通り“お通夜の席”さながらになっていた。「せっかくだから、今日は深く掘り下げて話したいね。発言の機会も多くなるし」マイちゃんが、本日の方向性を提起した。「深い話しか?どうせなら、遠慮なくモノを言いたいよね?」Eちゃんも同意してお題を探す。「ねぇ、どうして中高生になると“派閥”が出来るのかな?特に女子の派閥って、掟も厳しいし対立も激しいのかな?」1人の子が聞いて来る。「確かに男子にも派閥はあるけど、割と緩やかな連帯になるのが常だ。でも、女子の派閥は時として半端無い抗争に陥るね。それは、僕もずっと疑問に感じてた。感情のスイッチが入ると修復不可能になる事も稀では無いよね?」「そう、陰湿になるのよね。あたしも経験ある」Eちゃんも同意見らしい。「じゃあ、今日は派閥について掘り下げようか?○ッシー、男子の目線で見たありのままを話してよ!」マイちゃんがお題を決めた。派閥抗争、それも結構猛烈なヤツ。少しは昔の疑問は拭われるのか?興味半分、怖さ半分だった。
「派閥抗争で最も難儀だったのは、高2の時の学校祭の出し物を決める時だったな。結論から言うと、クラスが男女で真っ二つに割れた。その後の修復は悲惨だったな。結局は完全には修復する事は出来なかったし、感情の対立は卒業まで残ってしまった」僕が話始めると「何をやろうとしてたの?」と質問が来る。「一応は、隣のクラスと合同で模擬店を出すって方向でまとまりつつあったんだが、美夏だったか?5人ぐらいが、“反核平和の展示”をやりたいって言い出して、男子が“そんな政治がらみな事つまらん!”って茶化したのがボタンの掛け違いの始まり。非難の応酬から男女批判になって、後は想像付くと思うけど、女子が大同団結しちゃって分裂した」「その時、○ッシーはどっちに付いたの?」「基本的に僕は無派閥の中立の立場に居たんだよ。どちらに肩入れする事も無く、繋ぎ役に徹してたね。だから、どちらにも付かずに双方を見てた。つまり、一番ズルイ方法である“中立”を取った」「批判されたんじゃない?双方から強烈に?」Eちゃんが言う。「確かに批判はあったね。でも、学級委員長の竹内と副委員長の道子に言われて、どっちにも加担出来なかったんだよ。“今はしょうがないけど、いずれ修復に動かなきゃならない。どっちにも加担しないヤツが必要だ”って。“しがらみも無く事を治められるとしたら、どっちにも顔が利くあんたしかいない”ってね。だから、後々苦労するハメになった」「道子って“ズン”達のメンバーだった道子?」マイちゃんも突っ込んで来る。「そう、男子は単純だから時間と共にわだかまりを忘れて行くけど、女子は根深いから遺恨を消し去るのに四苦八苦。“ズン”や道子、ゆきえ、中島に堀川も手を貸してはくれたけど、美夏はとうとう和解に持ち込めなかったね。結局、僕を仲介しての対話しか受け付けなかった。あれは、最悪の結末だったな」「こじれると意地になるのは分かるな。感情もだけど生理的に受け付けなくなるのよ。それが“何故”かは上手く説明出来ないけど、あたし達にも男子に負けない意地があるから、軽々しく妥協はしなくなる。軽薄だって蔑んでしまうのは確か」Eちゃんが答えてくれた。「締め付けもあるね。女子特有のヤツ。破ると他からも相手にされなくなるから、怖くて従うしかなくなるの」提起の口火を切った子も応じて来る。「そう、実際問題、美夏達のグループは女子の中でも浮いちゃって、事ある毎に男女双方から“あそこはどう言うご意向か?”って調査依頼が来てその都度こっちが動くしかなかった。やがて引き抜きなんかもあって、美夏だけが取り残された。美夏自身にも意地があるから、孤立しても平然としてたな。他のクラスには美夏を支持する子も居たから、そっちとは仲は良かったが」「今の○ッシーの原点は、その時に築かれたのね。誰の肩を持つわけでもなく、公平に物事を見てアドバイスをくれる。○ッシーが今のスタイルを確立したのが、高校生の頃か」マイちゃんが遠くを見る様に言い、「○ッシー、上からの圧力とかは無かったの?」と問う。「それは幸いな事に無かったね。なにしろ、新設校で2期生だからね。1期生は居ても仲は悪くないし、伝統とかが無いからしがらみもなかったし」「それって、ある意味幸運だね。自分達が1から築く訳でしょう?前例も無いから、何でも自由に進められる。○ッシー達の歩いた道が伝統になるって羨ましいな!」「だからこそ、悪しき事は残せないでしょう?逆にプレッシャーにならなかった?」「自分達から始まる訳だから、先輩だって自分達だって手探りさ。先生達も同じく手探りだったから、ともかく自由な風は吹いてたな。だからこそ、クラスを割る様な事は避けたかったし、避けるべきだったと思う。最大の汚点だね」「○ッシーでも調停不能か。それはよっぽど深刻な対立だったのね。それでも美夏以外とは、和解に持って行ったんでしょ?どうやって治めた訳?」「女子には女子のコネクションがあるでしょ!1ヵ所を治めればある程度は“イモづる式”に持っていけるさ。ただ、1ヵ所目の目星を付けるのが大変。ズン”や道子、ゆきえ、中島や堀川に協力してもらって、最大派閥を軟化させるのに3ヶ月かかったな。竹内も尽力してくれて、焼き芋大会をやってようやく落ちた。猛烈に怒られたけど、それがきっかけになってくれたから結果オーライ!」「何で怒られたのよ?」「教室のストーブで焼けば匂いが充満して、直ぐにバレるだろう?でも、それが狙い目だったのさ!つまり、乗れば平等に責任を取らされる。ソッポを向いてても否応なしに会話が生まれる。距離を縮めれば、必然的に“悪い”“ごめんね”と言える。絡まった糸をほどく様に仕向ければ、男子も小学生じゃないから歩み寄れる。そうやって、まず半分が落ちれば女子だって雪崩を打って遅れまいとするでしょ?」「それでもダメな場合は?」「部活経由で1期生を動かしたり、他のクラスの女子の手を借りる。目立たぬ様に後ろから押してやれば、メンツを傷つけずに歩み寄れる」「正面からは行かないのね?」「女子はプライドも高いから、黒子に徹した方が上手く行くケースも多い。女子同士で“そろそろいいんじゃない?”の一言が出れば意外に効いたね」「確かに、男子と話してるのを見られると、必ず勘繰られるからその手は有効かも知れない。でも、そこまで持っていく○ッシーの苦労は誰が評価する訳?」「評価なんてどうでもいいのさ。女子の間に何となく“やったわね!”って空気が流れてくれればね。安いもんさ!」「そう言う境地に立てるのは、何故?苦労ばかりで空しくならない?」「クラスの中で自身の立ち位置をある程度決めて置くと、色んなモノが見えるから返ってやりやすかったな。高校生って通学区域が広いから、初めは出身中学で固まる傾向は仕方ないけど、打ち解け合うと意外な繋がりが出来て来る。“ズン”とだって席が隣だったからだし、道子とゆきえは保育園・小学校以来の再会だったし、中島と堀川は道子との繋がりからだし・・・」「ちょっと○ッシー!その話、あたし聞いてないよ!どう言う事?!」マイちゃんの表情が険しくなる。「マイちゃん、そんなに怒らなくても良くない?昔の事だし・・・」Eちゃんが援護しようとするが「あたし達の大事な○ッシーに何があったのか?は、ハッキリと掴んで置く必要があるわ!○ッシー、教えて!!」マイちゃんのお怒りは、真相を知るまで治まらない様だ。「道子とゆきえとは、保育園から小学校2年まで一緒だったんだ。でも、3年になる前に僕が転校して、その半年後には道子が転校して、4年になる前には、ゆきえも転校。3人はその後バラバラに人生を歩み、接点も無く年月は過ぎて、高校生になって何の巡り合わせかは知らないけど¨偶然同じクラス¨になった。僕も道子もゆきえも、初めは忘れてて¨何処かで会った記憶在りませんか?¨状態だったけど、道子がある日思い出して、古い写真を片手に¨ずっと昔に3人揃ってたよね?¨って言ってくれて、やっと記憶が蘇った始末。¨ズン¨も¨そんな偶然あるのね?¨ってびっくりしてくれて、それから4人で色々話す様になって、やがて中島と堀川が加わって、6人の仲間が生まれたのさ。だけど、男子1人じゃあ、あまりにも目立つからどうする?って考えて、たまたま掃除当番だった生物準備室で、お茶しながら話し込む様にしたの。その延長線上に出来たのが、¨お悩み相談室¨だよ。表立っては¨ズン¨を中心とした5人組だったが、¨参謀格¨で頭脳戦担当は僕に依頼が来ると言う図式にしてたけど、女子の洞察力は時に剃刀より鋭いから、直ぐに見抜かれた。けど、何かしらの都合上勝手が良かったのかどうかは分からないが、僕らのグループは女子の間でも例外的に認められたんだよ。まあ、道子の根回しと¨ズン¨の存在が大きかったのは事実だけど。そう言う事情でございます」「改めて聞くけど、道子は○ッシーの¨女の子選考基準¨に該当してたの?」「改めて考えれば、ギリギリセーフだったか?でも、道子は竹内を追ってたから、眼中には無かったはずだ!」「ならば、答弁を認めるわ!他には○ッシーに手出ししそうな子は居なかったでしょうね?!」心底マイちゃんの追及が怖い!「本題からは外れるが、¨2匹の背後霊¨は付きまとってたな。有賀重子と佐藤浩子!佐藤は¨漏れなく付いて来るオマケ¨だからいいが、有賀は、常に背後を脅かす悪魔だった。名簿順って50音だろう?僕の後ろは常に女子の先頭が座る宿命なんだが、有賀は中学高校の6年間を通してずっと背後に居続けたヤツなのさ。席順フリーになっても、必ず背後を取るんだ!箸にも棒にもかからない対象だったが、最低限の付き合いは途切れなかったよ。以上、申告します」「ふむ・・・、認めます!○ッシー、正直に答えてるね。¨マドンナ¨は誰?」「今井敦子さん。背丈はマイちゃんよりも小さかったけど、スポーツ万能で可愛かった。男子なら1度はあこがれた存在でした。彼女は競争率が半端なく高かったし、クラスも別だったから、接点は少なかったよ」「宜しい、正しい申告と認めます!」ようやくマイちゃんの眉間の皺が消えて、穏やかな表情になる。「なんかさぁ、○ッシーの“取り調べ”って面白くない?マイちゃんの突っ込みも絶妙なんだけど」Eちゃんが悪魔の表情をのぞかせる。マズイ!最悪の展開になりつつある。「これって病みつきになる話かも」「マイちゃん!“取り調べ”続行を希望します!」やはり、そうなるか!おもちゃにされるのは慣れてはいるが、学校時代の話は、ひょんな事から暴走しだすから危険極まりないんですが。僕は恐る恐るマイちゃんの表情を伺う。完全に追い詰められた犯人の様になって。「お題変更しようか?○ッシーの昔話に突っ込みを入れよう!」マイちゃんが勝ち誇るかの様に宣言した。「ヒューヒュー!」5人はノリノリだが、こちらは間違いなく撃沈コースが確定した。「○ッシー、美夏を例えるとしたら何になる?」「うーん、取扱い要注意だから“核ミサイル”かな?」「かなり危ないって事ね。じゃあ、重子は?」「ふむ、“パンプス”かな?」「それってどう言う例え?」「服に合わせて靴も選ぶだろう?“時と場合によって使い分ける”つまり、敵にはしたくないが、積極的に肩入れする必要も無いって事だよ。ただでさえゴーストの様に居るんだから」「○ッシー、重子によっぽど酷い目に遭ってない?」「遭ってる!中学の委員会活動で、ヤツが委員長をやった時の“尻拭い”を全部背負ってるから!」「因縁の相手か!重子は○ッシーを“利用する機会”を常に伺ってたのね?」「そう言う事になるな!でなきゃ、常に背後は取らんよ」「道子はどうなの?」「彼女は、司令官だな。実質“ズン”と2トップだったし、最終的に決断するのは彼女による部分が多かったし」「○ッシーは?」「僕は“参謀”だよ。作戦の立案者。僕の考えた策を実行する指揮を執るのは、常に道子達。クラスが割れた時も“どちらにも与するな!後で動ける人が必要”って進言したのは、道子の意思が強く表れてたね」「じゃあ、常に○ッシーを追ってた堀川さんは?」マイちゃんの声のトーンが変わる。微妙な点を突いて来たね。「広辞苑だよ。成績優秀だったし、煮詰まると打開点を見つけてくれたのは大抵、彼女だったな。“困った時の堀川頼み”とも言われた程だから」「ふーん、色々な引出しを持ってる○ッシーをも支えた才女なのね!逃した大魚は大きかったんじゃない?」痛点を突くね。マイちゃん。「誤解されると困るけど、今でも時々心の中で聞く事はあるよ。“堀川ならどうしたか?どう言ったか?”迷った時はどこかで問いかけるんだ。敢えて言うなら師匠みたいな存在だよ。ここを遠藤さんから引き継いでから間もなくは、特に気を使う様になったから、彼女の言葉を思い出して対処してたのは確か。今は、ありのままを出してるけど・・・」「○ッシーが“師匠”って言うくらいだから、出来る子だったんだ。今は“師匠”を越えたと思う?」「どうかな?自分では越えたと思ってはいるけど、人として越えたかどうかは分からない。男女としてではなく1人の人間として、越えられたとは思っていないな。僕も完璧ではないし、まだまだ学び成長する余地はあるだろうし・・・、高みを目指す姿勢はいくつになっても変わってはいないだろうし、彼女を越えるとしたら相応の事をやり遂げないと認められないだろうよ」「そう言う姿勢が○ッシーらしいな。女の子を尊敬するなんて、普通の男の子はしないよ。そう言うところを遠藤さんは見抜いてたから、ここの後継を託したんだと思う。そして、○ッシーはちゃんと期待に答えてるじゃない!すごい事だと思う。あたしも共同でって言われたけど、柱になってるのは○ッシーだものね。みんな、そうだよね?」周囲は頷いてくれた。何とか切り抜けた!マイちゃんの声も落ち着いている。このまま、違う道へ向かってくれと僕は願った。「遠藤さんか!懐かしい。確か最初に○ッシーを捕まえて、仲間に引き入れたの遠藤さんだよね?」Eちゃんが思い出す。「そう!全ての始まりは、彼女に捕捉された日から始まってる。あの頃は病棟の男女比も互角だったし、じいちゃん達が多くて遠藤さんも話し相手に飢えてたし、釣られた側の僕にしても歳がもっとも近い人だったから、気兼ねなく話してたな」
喫煙席の大集団の創始者にして、僕とマイちゃんを結び付けた存在である遠藤さん。彼女の“伝説”は数知れない。僕もマイちゃんも“伝説”に登場する人物でもあるのだが、病棟を去るに当たって、彼女の後継に指名されるとは思っても居なかった。「遠藤さんと言えば、臆面もなく“女子トーク全開”で突っ込んで来た事だよなー。僕を鼻から“男子扱い”せずに“生理が止まった”だの“ブラが面倒だからノーブラだよー”だとか平然と言うし、ケーキ3個を“買ってよー”ってねだられたり、最初は散々な目に遭った。でも、あの人に鍛えられなかったら、ここに座り続ける事も無かったのは間違いない」「確かに。遠藤さんも○ッシーの事を“結構歯ごたえがあるヤツ”って言ってたよね。着いて行けたのは大きくない?」Eちゃんが聞いて来る。「“手錠”をかけられてりゃ動くに動けないよ。彼女だけじゃないか?白昼堂々と病室に入って来て“買い出しに行くよ!”って引きずり出しに来たのは?しかも、こっちが着替えてる時に限って!」「そうだっけ?遠藤さんは○ッシーが来ないと落ち着かなかったのは確かだけど?」マイちゃんが小首を傾げる。「ああ、ある種の“精神安定剤”だったのは間違いないね。常に行動を共にする様に仕向けられたし・・・」僕も改めて思い出す。「色々喋ってたよね?お子さんの話とか、旦那さんの話とか?」Eちゃんも思いをはせる。「ブラとパンティ!口紅にファンデーション!香水にアロマ!カラーリングにヘアスタイル!最初、こっちは着いて行くのに必死だったよ。僕が“男性”って意識せずにどんどん深みに連れて行くんだから!」僕は悪夢の話を思い出した。「でも、臆せず着いて行けたのは、○ッシーだからじゃない?そうでなきゃ突っ込んだ話も出ないでしょう?」Eちゃんが指摘する。「まあ、それは否定しない。だって他に適当な人材は居ないし、居たとしても過激過ぎると引いて行ったし。とことん付き合った男性は結局僕だけだったし」「それは言えるね。とにかく聞き続けたのは○ッシーだけだったよね?」マイちゃんも言う。「結果論になるけど、あの経験が無ければ今の僕は無いだろうな。彼女の話にひたすら付き合った事で、学んだことは確実に今に生きてる!でなきゃ、女の子の集団のど真ん中に居られるハズが無い」「そうだね。だから後を○ッシーに託した。賢明な選択だったね!」「そうなるんだろうな。余人を持って治められる集団ではないからね。マイちゃんやEちゃんにも手助けをしてもらって、どうにかこうにか持ち堪えてはいるが、もう1人“補佐役”が必要なのは確かだよ。適当な人材が居てくれればなー・・・」僕がこぼすと「まず、無理だろうね!○ッシーの代わりは○ッシーしか居ないから!」マイちゃんが止めを刺しに来る。「Aさん1人だけでも封じられれば、格段に楽になるのに?」「それが出来る人が何処に居るの?○ッシーでなけりゃ無理な仕事じゃない?」Eちゃんも同調する。「うーん、そう言われると、返す言葉が無い!バランス良くやって行くには現状維持しかないのか・・・」僕は敢え無く撃沈の憂き目にあった。大脱線をして行った本日のお題だが、話はこの後夜まで延々と続いたのは言うまでもない。
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