limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 16

2019年04月24日 17時21分34秒 | 日記
「明けましておめでとうございます!」人込みにもみくちゃされながらも、7人の大声が神社の境内にこだまする。竹ちゃんが企画してくれた“2年参り”の中の1コマだ。人込みを避けて境内の隅に集まると、どこよりも早い年賀状の交換が始まった。「Y、竹ちゃん、みんなでお守りを揃えようよ!」道子が提案すると「それ、いいな!揃えようぜ!」と竹ちゃんが乗り気になる。「それで、何を祈願する?」僕が言うと「学業成就」「交通安全」「身心健勝」「厄除け」と5人のレディ達が列挙する。「最低でも3つぐらいに別れるかも。お守りだけでも鈴なりになるな」と僕が想像を巡らせる。「まあ、それもいいじゃない?お揃いならさ!」中島ちゃんが笑う。僕等はお守りを手に入れるために社務所へ向かった。「おっ、2つでまとまるじゃん!色は青と赤で揃えようぜ!」竹ちゃんの音頭で全員が同じ物を買い揃えた。そして、さちと堀ちゃんは別のお守りもセットで買っていた。「お待たせー、両親の分も揃えたから遅くなってごめんね」堀ちゃんとさちが駆け足で戻って来た。「正月の特権だよなー、夜中に出歩くなんてさ!」参道を下りつつ、露店に眼を配りながら僕等はゆっくりと歩いた。隊列はいつも通り、雪枝と中島ちゃんが先頭で、僕とさちと堀ちゃん、最後尾は竹ちゃんと道子だ。みんながワイワイと騒ぎながら、あちこちへと寄り道をしつつ愉しい時間が過ぎて行った。イカ焼きをみんなで突き、タコ焼きも分け合って食べる。元日の夜の夢の様な空間は、ゆっくりと過ぎて行った。電車の時間が近づいて、駅へ駆け込むと上下同時に発着となっていた。最終なので逃すと帰れなくなる。「参謀長、また休み明けに!」竹ちゃんと道子が手を振る。堀ちゃんと中島ちゃんは自宅に電話を終えると、慌ただしくホームへ向かう。「Y、また休み明けにねー!」2人が笑って手を振る。さちはまだ電話中だ。「おう!またなー!」僕も手を振って見送る。「Y、これ持ってて!あたしとお揃いだから!」さちが僕のコートのポケットに紙包みを押し込んでホームへ急ぐ。「こら、さち!何を仕掛けた?」「後でよーく見て置け!2人だけの秘密だ!」「さち、休み明けにちゃんと来いよ!」「うん!Yもちゃんと出て来い!」さちが電車に駆け込む。最終の電車を見送った僕は、コートのポケットを探った。白い紙包みを開くと黄色と白の生地のお守りが出て来た。「さち!またこんな仕掛けを!」お守りは“恋愛成就”だった。「どこに隠し持ってろってんだ?」モノがモノだけに、やたらなところへぶら下げる訳にもいかない。「さて、どこへ入れるか?鞄の奥深くへ大事にしまうしかあるまい」僕はそう呟くと自転車を走らせて家へと向かった。

冬休み明けは雪になった。足元の悪い“大根坂”はいつにも増して登りにくい。堀ちゃんがプレゼントしてくれた傘は、折り畳みの割りに大きく使い勝手は抜群だった。さちがくれたセーターは暖かく、時折襲ってくる風にも耐えられた。鞄の中には、中島ちゃんがくれた“海の史劇”と雪枝のシャープペンとボールペンも入っている。無論、さちがくれた“お守り”も入っていたが奥深くにしまい込まれていた。雪の影響なのか6人が追い付く前に教室へたどり着いた。人気のない教室は芯まで冷え切っていた。鞄を机へ置いて慌て気味にストーブに火を点けると、急いで火力を最大へと持って行く。「Y-、おはよー!」さちが顔を赤くして到着する。「さち、早くこっちへ!」さちの手は氷の様に冷たい。両手で包んで暖めてやる。「他のみんなは?」と聞くと「電車が遅れてるから遅くなると思う。Y、“例のモノ”は持ってる?」「さち、反則だぞ!でも、ちゃんと鞄に入れてある。さちは?」「あたしも同じく。Y、あたしはどうしても“あのお守り”が欲しかったし、互いに持っていたかった。ごめん!」と言うと、さちは僕の手を振りほどいて抱き着いて来た。「冷え切ってるじゃないか。また、風邪を引きそうだな」と言うと「そんな心配はしなくていい。Y、あたしを置いて行くな。待っててよね。ちょっとこのままで居させて」半分は泣き声になった。「いつまでも待ってるさ。さち、泣くな。心はいつも一緒だ」と言ってさちの涙を拭いてやる。「さち、そろそろ“宣言”するか?さちだけを見て居たいし、一緒に歩いて行きたいから」僕は思い切って切り出した。だが「それはまだ早いよ。あたしはYを信じてるし、あたしに対する優しさも知ってる。今はこれでいいの」さちは必死にしがみ付いて来る。ひとしきりくっ付き終わると「セーター着てくれてるんだ。暖かいでしょう?」と聞いて来る。僕は椅子を持って来ると、さちを座らせて後ろから抱き付いて「ああ、暖かいよ。全然寒くない。さちの心みたいにな」と言った。「うん」さちが小さく言う。雪はどんどん降り積もって来た。誰もやって来ない。2人だけの新学期の様だった。

しばらくすると「おお、参謀長!今年も宜しくな。それにしても酷い雪だ。先生方の車もスリップして登れん様だ」と雪まみれの長官がやって来た。「今年も宜しくね。国道も渋滞してるし、特急列車も運休らしいから始業式出来るのかな?」と笠原さん以下数名が同じく雪まみれで到着する。「ようやく、室温も上がりました。ささ、ストーブの前へ」と言うと椅子を並べてみんなが暖を取る。「芯から冷え切っておるな。我々が居ないと冷えるだけだからな。この分だと、電車組は相当の延着になりそうじゃ」と長官が暖を取りながら言う。その時、校内放送が入った。“大雪のため列車に大幅な遅延が生じているので、始業時刻を1時間繰り下げ、午前中のみの日課として下校を午後1時とする”と発表がなされた。「繰り下げるのはいいけど、それよりも何人たどり着けるかな?」笠原さんが言う。「半分集まれるかどうか。かなり厳しいですよ」僕は窓の外を見て言った。降り積もる雪の粒は、僕とさちが来た時よりかなり大きくなっている。「来たはいいが、坂を下るにも難儀な事になりそうじゃな」長官も憂慮し始めた。現状ではクラスの4分の1も揃って居ないのだ。「おはよう。今年も宜しくな」中島先生がやって来た。「現状はこれだけか?」「はい、たどり着けたのは今居る者だけです」と僕が答えると「この状況では危険だな。下手をすると遭難しかねん。どれ、職員で再協議だ!」と言うとあたふたと教室を出て行った。「“八甲田山”の二の舞になりかねん。止めるなら今から手を打ったとしても間に合うかな?」長官が言う。「確かに、今、坂を登っている連中だけでも収容しなくては“事故”は免れませんね」と僕が返すと「大変な年明けになった。先行きが思いやられる」と長官がぼやいた。結局、職員が坂を登って来る生徒を止めに出て、駅には“臨時休校”の看板が出され、この日は始業式を取りやめて解散する事になった。大雪の中“大根坂”を下るのは難儀だったし、交通機関も乱れており帰宅するのも困難を極めた。

仕切り直しとなった翌日、凍り付いた“大根坂”を登るのは意外に困難を極めた。湿った雪が凍り付いていたので、とにかく滑る。足元を慎重に見極めながら必死に上を目指すが、中々進めない。電車のダイヤも乱れていて遅れが出ていた。坂の中腹辺りで一息ついて居ると「Y-、おはよー!」と声が聞こえた。さちが1人で登って来る。「また、1人かー?」と言うと手を振って“待て”のサインを出す。追いついて来ると「とにかく動いている電車に乗ったの。後続は何時になるか分からないから」と言って手を繋ぐ。「また、一緒だな」「うん、2日連続だから嬉しい!」と言うと腕を絡ませる。冷え込みが厳しいので吐く息は白い。「早く行って、また暖まろう!」と言うと「抱っこしてくれなきゃダメー!」と甘えて来る。どうにか登り終えて教室へ入るとストーブに火を点けてから、さちを抱き寄せる。「いつからこんな甘ったれになった?」「ずーと前からだよ。逃がさないからね!」さちは僕の背中に腕を回して顔を埋める。「さち、髪をどこまで伸ばすんだ?」ずっとショートヘアだったのに最近は長めに揃えている。「Yが“切れ”って言うまで。どこまで伸ばせばいい?」「もう少しかな。あまり短くするなよ」「分かった。今くらいの長さでいいの?」「ああ、このくらいが一番可愛いから」「うん、Y、ちょっとしゃがんでよ」さちが要求するので、ちょっとしゃがむと頬に唇を押し付けて来た。「あたしの傍に居てよ。置いてかないでよ!」「はい、姫のご命令は絶対ですから」とかしこまって言うと「宜しい、あたしの心は決まっている。誰にも渡さないから!」と言ってまた抱き付いて来た。しばらく2人とも黙ってくっ付いていると「Y、日本海海戦の“丁字戦法”ってどう言う意味?」さちが突然聞いて来る。「図を書いて説明するか?」と聞くと「うん」と答えた。さちの髪を軽く撫でてから、僕は黒板に図を描いた。「北上して来るバルチック艦隊に対して、連合艦隊は横一文字に行く手を遮って、バルチック艦隊の先頭の艦へ砲撃を集中させた。様は接近戦に持ち込みたかったのさ。日本側の中小口径砲を射程圏内に入れるためにね。図面上では“丁の字”に見えるから“丁字戦法”って後から名前が付いた。6.000m以内に飛び込めれば、日本側の中小口径砲の方が数で勝ったから、ロシア側の倍以上の砲弾を浴びせられたのさ」僕は知っている限りの事を語った。「あー、また何か勉強してる!」「オス!朝から何をやってんだよ?」竹ちゃん以下5人のレディ達のご到着だった。「日本海海戦の“丁字戦法”の解説。さちのリクエストでね」「“丁字戦法”?さち、Yの“暗号書物”を解読したの?」中島ちゃんが聞いて来る。「それは違う。“あれ”はYにしか分からないもの。ただ、百科辞典を調べたら“丁字戦法”って書いてあったからYに解説してもらってるのよ」「Y、“海の史劇”って日露戦争の話だったよね?もしかして読破しちゃったの?」中島ちゃんが恐る恐る聞いて来る。「2度読んだ。だから、こうやって解説できる」「嘘!結構分厚い本なのに2度も読み返したの?信じられない!」彼女は腰を抜かしそうになった。「そう言えば、日本海海戦の細かい記述は教科書に書かれてないよね。結局、日本側が勝ったのは分かるけど、どんな始まりでどう終結したのよ?」雪枝が図を見ながら聞く。「知りたいなら説明しますがどうします?」「せっかく黒板に図が書かれてるんだから、説明してくれよ!」竹ちゃんが珍しく興味を示す。「では、ざっくりと行きますかね?バルチック艦隊の発見から、残存艦隊の運命までを」僕は改めて解説を始めた。

「“本日、天気晴朗ナレドモ波高シ”か、正にこの一文が全てを象徴しておるな。バルチック艦隊、いや、菊地家側から回答があった。“本校の言う通りに従わせますから、なにとぞ復学のご許可を仰ぎたく存じます”とな。やっと、身の程を理解した様だ。校長も“無益な抵抗などせずに、大人しくすれば留年は避けられたが、今となってはもう遅い。最初からやり直せ!”と諭したらしい。確定では無いが、4月からは3期生の一員として“復学”させる様だ。今、関係各所で調整中だよ」朝の僕の解説を見ていたらしい中島先生は、ゆったりとして言った。僕はアールグレーの入ったカップを置くと「では、現在のクラスは1名減員と言う事でしょうか?」と聞きながら進み出た。「ああ、そうだ。途中から1つ出席番号が繰り上がる。4月からは新しい名簿に改定しなくてはならん。女子の番号に変更が生じるのは必然だ。その作業も3学期中に済ませなくてはならない。まあ、それ以前の問題として、学校としての“復学条件”も提示しなくてはならんし、“宣誓書”への署名やら、始末書の提出諸々を含めて書類の山を作らねばならん!事務方は“てんてこ舞い”になるが、止むを得んな」先生もカップに入った紅茶で喉を潤す。「そうなりますと、彼女の荷物も別にまとめなくてはなりませんね。3月に入れば“引っ越し”をしなくてはなりませんから」「うむ、その時はロッカーの開錠コードと鍵の予備を渡す。菊地の荷物は分かる様にして、教室の空いている棚へ移して置け!クラス編成はどの道春休みになるし、その前に私物は引き取りに来させるつもりだ。悪いが“中身を厳重に改めた上”で梱包作業を進めろ!特にノートの類は厳格に調べて“不都合や不適格な記述”があった場合は、全て焼却処分に回せ!特に“政治がらみや個人情報”は一片残らず抹消するんだ!」「分かりました。対象となるモノは全て取り除いて置きますし、必要があれば焼却して処分します!」僕もカップに残った紅茶を飲み干した。「厄介な仕事だが、お前達にしか頼めない重要な案件だ。宜しく頼むぞ。後始末は我々も当たるが、細かな仕事はまだまだ出るだろう。必要に応じて要請を出すから、その都度始末の手伝いに付き合ってくれ!」「はい、出来る範囲での仕事は請け負いますので」「うん、Y、悪いが宜しく頼む。久保田と小川に言って置け。彼女はもう戻らんとな!」「はい、では失礼します」僕等は時計を見て教室へ向かった。「出席番号の繰り上げかー、いざ聞くとなると恐ろしいことだなー!」雪枝が言うと「あんたはどん尻に変わりないじゃん!席は1つ前に出るけどさ」と中島ちゃんが言う。「やっと決着かー、Yの負担も少しは減るんじゃない?」と道子も言う。「いや、分からんぞ。表面上は大人しくしてても、地下組織を作られたら厄介な事になる!菊地嬢は“諦める”と言う文字を知らない。必ず動くし策謀を巡らせてくるはずだ!」「Y、用心するのはいいが、今度は3期生の問題になる。あたし達がとやかく言う事じゃないよ。あたし達は先を見据えていればいいじゃん!」さちがポンと肩を叩く。「そうそう、あたし達は揺るがない。何を仕掛けて来てもね」堀ちゃんが笑顔で言う。「まあ、そうだな。さて、午後の部へ行くか」僕等は始業のチャイムと共に勉学に励んだ。

あっという間に1月が通り過ぎようとしている頃、男子も女子も“ソワソワ”とし始めた。2月になると“バレンタイン”があるからだ。勿論、ウチの5人のレディ達も例外ではない。男子は“もらえるか?もらえないか?”で気を揉むし、女子は“誰にあげるか?”で思案を巡らせていた。久々に“解約対策委員会”の野郎達が集まり、“バレンタインの行方”について話し始めた。「俺達は全員“当確”だからいいが、その他の連中はどうなんだろう?」久保田が口火を切る。「赤坂や今井は宛てがありそうだが、他は“グレーゾーン”だな。連名で誰か“男子一同へ”で買ってくれねぇかな?」竹ちゃんが言う。「千里に言って仕掛けを施すか?ワシはこの手ヤツがどうしても苦手じゃ!」長官がぼやく。「何が来るか分からないから、俺だってコワイぜ!」伊東もぼやく。「千秋だからな。相当に“強烈”なヤツをお見舞いされてろ!もらえないヤツに言わせれば“もらえるだけで御の字”なのに贅沢を言ったら命に関わる!」と久保田が真面目に言う。「参謀長、そっちも大変そうだな?」長官が水を向けて来る。「まあ、それなりに。連名で1個もらえればいいんですがね。何せ張り合ってますから・・・」僕はゲンナリとして言った。「長官だって山積みになるだろう?連名で1個って事はあり得ねぇからさ!」「それは、どうか知らんが最も恐ろしいのは“宅配”で来るヤツじゃ!参謀長、お互いに用心せねばならんな!」長官が僕の肩を叩く。「それが最悪のパターンですよ。それこそ“毒入りチョコ”かも知れませんから」僕も身震いしつつ応じた。「菊地嬢からの差し金か?2人にとっては“因縁”の相手だからな。届いても食べない事だ!」久保田が笑いつつ言う。「確かに。あの世への“招待状”だからな!」竹ちゃんも腹を抱えて笑う。「笑えないだけに」「反論できない」僕と長官はため息を付くしか無かった。「久保田、上からの贈り物はどこまで把握してる?」伊東が聞くが、“上から”とは1期生からに他ならない。「噂だと結構あるらしい。山田とか伊倉とか長崎とかは降りて来る可能性はあるぜ!」「まあ、そこかしこにルートはあるしな。来年になりゃあ3期生も絡んで来る。今回は空振りでも次回は“逆転サヨナラ満塁”ってミラクルもあるさ!それと、保健室と明美先生が大量にばら撒くって話もチラホラ出てるしな」「本当か?」伊東が仰天する。「伊東は1個に留めて置かないと命が危うい!例えもらっても隠し通せ!」久保田が釘を打つ。「いずれにせよ、悩ましい季節の到来だな!」伊東のセリフに「ああ、ひがまれるのは覚悟の上さ。もらっても、それらしく見せないこった!」と竹ちゃんが乗っかる。久々の野郎だけの話は、これにて散会と相成った。

「Y、どんなのがいいの?」さちが小声で隣から聞いて来る。「さち、聞かなくても分かるだろう?」僕も小声で返すが「“チョコじゃなくて、そのまんまのあたしが欲しい”って言うのはダメ!具体的に言いなさいよ!」と拳で頭を突かれる。「甘すぎず、かと言ってビターでも無い。ホワイトチョコよりは、普通のミルク系だろうな。割と小さめが2つってとこかな?」「宜しい、その線でまとめてみるね!」さちはノートの隅に素早くメモを取った。「Y、ちょっといいかな?」堀ちゃんに中島ちゃんに雪枝が揃って押し掛ける。机の3方を囲んで「甘めがいいか?」「ビターがいいか?」「教えて?」と音響効果をかけられてしまう。「丁度真ん中あたり、ホワイトは遠慮します」と言うと「だったら、ブレンドすればいいか?形は・・・」と3人で打ち合わせが始まる。背中を突くヤツが久々に現れた。有賀だ。振り返ると愛想笑いを振りまいて「赤坂君も同じ事言ってたよ!Yは最低でも4個は来るね。どうするのよ?!」とニヤケて言う。「赤坂にハートの形のデカイヤツを送り付けるなよ!あまり派手だと食べるのに困るんだ」と言い返すと「あーら、そう?あたしは精一杯の愛情を込めて贈るだけよ。誰にも負けやしないからさ!」と涼しい顔をされる。「確か有賀が“余ったからあげるね”って中学の時にくれたヤツ、結構凝った構造だったよな?」僕は昨年を思い出しながら言った。「ああ、あれねー、別々に作って合体させたヤツだから2日ぐらいかかってるかな?割と上手くいった方だったね」と有賀も思い出しながら言う。「Y、確か絵里からも、もらってなかった?」有賀の暴走が始まりつつあった。コイツに長々と喋られるのはマズイ!「そうだったかな?忘れた。有賀、今回は“余り物”は勘弁だぞ!」僕は方向転換して危険水域から逃げる。「今年は、“赤坂君命”で行くから、もっと力入れてやる!」有賀が燃えていた。「歯が欠けない程度にしとけよ。厚みが凄くて意外に苦戦したからな」と忠告すると「もっと凄いヤツにする予定!さーて、どんな反応見せてくれるかな?」と意に介す風が無い。有賀は放って置いてもやるだろう。問題は4人の作品だった。雪枝達は、真理子さんとも話していた。嫌な予感が背筋に走る。「Y、真理ちゃん達にも“リクエスト”伝えて置いたから!」堀ちゃんが平然と言う。「それ、どう言う意味?」「いいじゃない!Yのグループなんだし、真理ちゃん達にもチャンスは公平にあるんだし!女の子にとって“一大イベント”なんだから、それぞれに腕を振るってYに評価してもらわなきゃ!」と堀ちゃんは言うが、眼がマジになっている。“あたしが一番を取るわよ!”と言わんばかりだ。「Y、当日に逃げるのは許さぬぞ!」さちが袖を引っ張って言う。「さちがくれる分だけでいい!一体何個降ってくるんだよ?」僕は頭を抱えて机に突っ伏した。「贅沢な悩みじゃのう!絵里とは誰じゃ?」さちがボールペンで僕を突く。「絵里は、Yが中学時代に唯一認めた女の子。別の高校へ行ったからもう“切れてる”けどね」有賀が追い打ちを掛けて来る。魚雷と爆弾を一斉に喰らった気分になる。そーっと起き上がり、さちを見ると不敵な笑みを浮かべている。“負けないわよ!譲らないわよ!”と眼が訴えている。「さち、ボールペン貸して」僕は力なく言ってノートの一番後ろの方のページに走り書きをして、さちに見せた。“絵里は僕と一緒に担任の先生の秘書官を務めた人。同級生の中では一番の助手だった”と書いてあった。有賀からは見えない様にL字型にノートを折り畳んである。「そうか。分かった」さちは小さく頷くとボールペンを受け取り「昔の女性に焼きもちを抱いても仕方ない。今は今じゃ!」と言って笑った。いずれにしても、知らぬ間に“包囲網”が作られたのは間違いない。どうやら、有賀も火を付けようとしているらしい。どうやっても逃れる術は無い様だ。「ならば、受けるしか無いか・・・」ここは1つ辛抱して、相手の手の内を見るしか無さそうだった。

そして、あっと言う間に“バレンタイン”当日がやって来た。当日は土曜日、朝から教室内は緊張が走って居た。女子は渡すタイミングを図り、男子は“もらえるか否か”でソワソワしていた。授業が一段落すると、まず笠原さん達が動いた。標的は長官だった。苦虫を噛み潰した様な表情の長官の机の上には、包みが山と積みあがった。「千里、ワシがこう言うのは苦手だと知っての所業か?」長官はウンザリして言うが「あら、そうは見えないけど。何で手提げ袋を用意している訳?」痛いところを突かれた長官はあえなく“撃沈”の憂き目に合ってしまった。次に動いたのは「ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、赤坂くーん!」有賀の“アカサカクーン攻撃”が始まった。「なっ何だよ!」赤坂が一瞬怯んだ隙を突いて有賀が包みを手渡す。これが合図となり、クラスの女子が一斉に動き出した。伊東は千秋にシャツの襟を掴まれているし、竹ちゃんは道子から包みを受け取った。他にもあちこちで女子が男子の元へ向かっていた。「Y君、これ受け取って下さい!」真理子さん達が僕に包みを差し出す。「あっ、すいません。いただきます」と言って受け取ると3個の包みが届けられた。「Y、また“余り物”で悪いけど、置いとくよ!」有賀がにこやかに言いながらピンクの包みを置いて行く。「おーい、聞いてないぞー!」と言うが有賀は「まあ、いいじゃん!義理よ。義理!」と言って押し切る。「Y、あたし達は“本命”だからね!」と言って堀ちゃん、中島ちゃん、雪枝がブルーの包みを手渡しに来た。よく見るとメッセージカードが添えられている。「世紀の力作だから、心して味わって!」中島ちゃんが照れながら言う。「転校する時以来だね。Y、ささやかですが受け取って!」雪枝が言う。「そうだな、あの日、確か道子と2人で色々持って来てくれたよな」僕は遠い昔を振返る。「あたしからも、Y、今度はどこかに行かないでよ!」道子も小さい包みを差し出してくれた。「確か、夕方だったよな?」「そう、3人でワンワン泣いたよね。あの時は」道子も遠い昔を思い出している様だった。堀ちゃん、中島ちゃん、雪枝の3人は竹ちゃんにも小さな包みを届けていた。「えっ!俺にもくれるのか?」竹ちゃんは一瞬絶句した。「さて、Y、あたしからの“本命”だよ!」さちが紫の包みと紙袋を差し出す。「袋までとは・・・、恐れ入りました!」僕は頭を下げた。「みんなの気持ちを大事にして!キチント持ち帰ってあげて!」さちの心使いは身に染みた。「さち、ありがとう!大事に持ち帰るよ」僕はさちの手を取って言った。「参謀長!」長官が青い顔で近づいて来た。「長官、とんでもない事になってますね!」袋から溢れんばかりの包みの山を提げて長官は呆然としている。「どうしろと言うのだ?」「どうも、こうもありません。今日は女性陣の顔を立ててやりましょう」「うーん、それにしても、ワシはどうすればいいのだ?」「ありがたく持ち帰るしかないでしょう?彼女達のメンツを潰す訳には行かないでしょう?」僕は長官に必死に語り掛けた。「うー、来年は休む。ワシはこの時期は休養を取るぞ!」「でも、“宅配”されたらアウトですよ!」「参謀長、何か良い知恵は無いか?」「これだけは、防ぐ術はありません!」僕と長官は進退窮まってしまった。智謀・策謀に長けた僕等も“バレンタイン”から逃れる術は無かった。

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