OCTAVEBURG 外伝

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本堂誠 BARITONISM Ⅱ CD発売につき

2019-12-21 | 日記

たまには音楽のことを。

今年の下半期は本当に、本堂誠氏とたくさんのステージを経験させていただきました。ご本人にも、お世話になった方々にも心から感謝しております。

彼のステージがなかなかすごいなと思うのは、お客様に「与える」圧倒的カリスマ的なものだけではなく、それ以上にお客様から次は何をやってくれるの?!という期待を「いただく」こと。それを客席からリアルタイムで感じるので一緒にステージで音を出す私としはそのプレッシャーに緊張もしますが、お客様も演奏に参加してくださっているかのような一体感に助けれらる部分もあって、それをさせちゃうのが本堂くんの力でもあるのですごいもんだなと。思っているわけです。
そしてそれがこの時代に珍しい「その時」「その場所で」「その人たちしか」味わえないクラシックの演奏会の「ライブ感」っていうものなので、私が大切に思っていることを何度も確認させてもらえた感触があり、1人の「クラシックの演奏会のファン」として本当に嬉しかったなと、思っているところです。(演奏家としての個人的な反省もあるけど、それはそれで。)

と共に2枚目のCDの作成もありまして、それが2019年12月18日に発売となりました。
先述の演奏会とはまた別の楽しみ方である「録音」されたものを聴くというのも音楽の楽しみ方の1つであり、それも相当楽しんできた自分としては、自分がCD側(?)に立つことになるとはなあ...と1人の「クラシックのCD(録音)のファン」として冷静に感慨深いと思っているわけです。そうよねえ、たまたま手に取ったCDを聞いて感動し、いつかこの人の演奏を生で聴きたい!と願ったり、この曲をいつか弾きたい!とか、それが叶ったりしたこともあり、ファンとしてもクラシックを十分に楽しんできたもんな。人生って面白いものです。

今回は本堂くんの音楽のルーツということでフランスの作曲家の作品がずらっと並びました。私がそんなフランス音楽のCDに関わっているなんて、昔から私を知っている人はのけぞっているんじゃないでしょうか。笑 おいおいお前が?的な。まあ一番のけぞっているのは私ですが、実はサクソフォーンとお付き合いが長いんですもの、いつの間にか気がつけばそこはフランスでした、というのが私の人生です。流れ着いて不思議。

でも、割と長くなってきた私の人生の中の「覚えていることの1つ」として、大好きだったレコード(言い訳のようですがCDも出てきた頃だったんですが、親の宝物としてレコードが家にたくさんあったのです、ええ、人生が長いんです)は、ハイスペック オシャレオヤジの サンソン・フランソワのドビュッシーのアルバム。
その前、もっと幼い頃はプロコフィエフの「ピーターと狼」ベルリンフィル×カラヤン、坂本九のナレーションという歴史的名盤が繰り返し流れている家庭だったので、これも完全に私のルーツになっている自覚もあるのですが、自分の意思でレコードを手に取って聴く、というのはフランソワのドビュッシーなのです。繊細な作業としてレコードに針を落とすのも聴く楽しみの1つでしたが、その行為が成功した瞬間「ベルガマスク組曲」のプレリュードがスピーカーからガツンと流れてきて、私、本当にびっくりしたことを覚えています。晴れた日曜日の朝の光とともに音が溢れてきた!と。
でもフランス音楽って大人っぽくて難しいので、私が弾かせてもらえる曲ではなかった。どれも弾けないと思っていた。(今も思ってるけど。)
それが自分が録音に関わっちゃうなんて、ねえ。人生ってわかりませんわ。

とはいえそれも、フランスの風を吹かせてくれる人がいるから私はその香りを嗅いでやっていけているようなもので。そしてその風はいつも強く私を誘うので私はそれを信じてそちらに行けるだけで。人の力を借りて、自分の力を引き出してもらって、できないと思っていた大好きな曲が弾けたなんて、こんな嬉しいことはあるだろうか。この歳で何言ってんだと言わないでほしい。だって、ピアノ1人で弾けない弾きたい曲が世の中に山ほどあるんだから。

その中で1人で弾ける曲を2人で弾いているものもある。こういうアレンジの存在に関してはもしかしたら賛否両論あるかも。でもそれは名曲の力で、それこそ本当はピアニストが独り占めできる世界の一部を弾かせてほしいって曲も世の中には山ほどあるんだから。

「レントより遅く」は私の大好きなドビュッシーの曲の1つで、このCDの収録曲を考えている時にふと脳内に流れてきたので本堂くんにオススメした。むしろ弾きたくて結構推した。
とある解説には「何の取り柄もない平凡な曲」書かれていてちょっと胸も傷んだが、いやいや、梅雨のようなしっとり感を味わえるこのアンニュイなワルツを1人ではなく2人で楽しめたことを心から感謝している。想像してほしい、静かな部屋で美味しいワインを1人で味わうのもとっても素敵なことだけど、誰かと2人でその味わいを各々が感じて「美味しい」と口に出さずとも「美味しい」を「共有している感覚」がその場に漂う、静かで豊かな時間があることを。その感想は本当はもしかしたら違うかもしれないけど、その一瞬の時間を共有したことが素敵なことだと思いたい。
こうやって私は色々な楽器や歌から音楽を学ばせてもらっているのだ。自分と自分のピアノだけではこうはいかなかった。

こうしてまた素敵な世界を知ってしまうと音楽って楽しいなあと、もっと知りたいなあと思ってしまうわけですよ。もう少し弾きたい曲もあるので、この得た経験と感覚を加齢による劣化と引き換えにしているわけにもいかないので、「捨てずに得ていく」努力をしたいと思います。モノは捨てても自分を捨てるなってことで。

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本堂誠 BARITONISM Ⅱ
バリトン サクソフォーン:本堂誠 ピアノ:羽石道代
https://tower.jp/article/feature_item/2019/11/20/1102






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