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「本国」 ~詩人の良心~

2016-02-22 13:00:56 | 「尾崎喜八を尋ねる旅」

冬から春にかけて晴れた夜空を飾る美しい星座に、双子座と獅子座がある。
そのあいだに、朧(おぼろ)に光るプルセペ星団(Praesepe)がある。
このことを、この詩を読み、そして、調べ、初めて知りました。

【プルセペ星団(かに座)】<ウィキペディアより引用>




「本国」自註 富士見高原詩集(尾崎喜八)より

私には ときどき 私の歌が

何処かほんとうに遠くからの

たよりではないかという気がする。


北の夏をきらきら溶ける氷のほとりで

苔のような貧しい草が

濃い紫の花から金の花粉をこぼす極北、

私の歌はそこに生まれて

海鳥の暗いさけびや 海岸の雪渓や

森閑と照る深夜の太陽と共に住むのか、


それとも空一面にそよかぜの満ちる

暗い春の夜な夜なを

天の双子と獅子のあいだに

あるとしもなく朧に光るペルセペの星団、

あの宇宙の銀の蜂の巣、

あそこが彼の本国かと。


【自註】
この詩も本質的には前の作品と同じ種類のものと言えよう。

誰からも離れて、おそらくは誰のとも違った現在の心境で、たった一人、ふと湧いたこんな思いを筆にするのが、はかない喜びでもあれば慰めでもあった。進んで交わる友は無くても、昔ながらの「詩と真実」の自然だけは私のために残っている。

出来た詩が自分でも佳い物のように思われる時、そこにはいつでも愛する自然がその本国として遠く横たわっているような気がするのだった。

第二聯に見られる「北」と「きらきら」、「氷」と「苔」、「海鳥」と「海岸」、「森閑」と「深夜」などのような類音は、半分は私の癖としてひとりでに、半分は意識的に出来たもの。

また「天の双子と獅子」は、両方共に冬から春にかけて晴れた夜空を飾る美しい星座の名である。


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*前の作品・・・終戦の翌年の春の或る夜の「告白」(2015-10-07掲載)