SSF 光夫天 ~ 詩と朗読と音楽と ~ 

◆ 言葉と音楽の『優しさ』の 散歩スケッチ ◆

「雨氷の朝」 ~朝の散歩の目を喜ばせた・・・~

2016-02-26 16:10:14 | 「尾崎喜八を尋ねる旅」
「雨氷の朝」を読み、『雨氷とは』を調べてみて、私自身まだ一度も見たことがない、ということがわかりました。

尾崎喜八のこの詩は、「一夜の魔法」でできた「一面クリスタルの世界」が朝の散歩の目を喜ばせたことを書いています。

「クリスタルな世界」を一度は、味わいたいと思った次第。

雨氷 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%A8%E6%B0%B7
写真:ウキペディアより引用

「雨氷の朝」 自註 富士見高原詩集(尾崎喜八)より

終日の雪に暮れた高原に

夜をこめて春のような雨が濛々(もうもう)と降った。

すると雨は夜あけの寒気に凍結して、

広大な枯野幾里の風景を

かたい透明な氷のフィルムでくるんでしまった。


まるで一夜の魔法にかかって

きらきらと痺(しび)れたような今朝の自然、

白樺は玉のすだれも重たげに

微風にゆれて珊々(さんさん)と空に鳴るかと思われ、

朝日をうけた落葉松(からまつ)は

繊維硝子の箒のように

まっさおな空間を薄赤く掃いている。


どんな小枝も一本のこらず玲朧(れいろう)と磨かれ、

枯草の葉っぱさえ一枚一枚

氷の真空管に封じこまれた。


そして万能の自然がたった一夜でつくり上げた

こんな燦爛(さんらん)世界を嬉々として歩き廻れば、

ルビーかサファイアの薄板を張りつめたような氷の面は

鋭い金かんじきの下にぱりぱりとひび割れて、

薔薇の花がたや幾何図形の

虹のスペクトルを噴くのだった。


【自註】
冬には雨氷の現象がしばしば見られて朝の散歩の目を喜ばせた。

藪も林も木々の枝という枝がすべて透明な氷に包まれて、まるで鋭い槍の穂先をつらねたようだった。

初めのうち私はこれを「花ボロ」だの「木花」だのと呼ばれる「霧氷」と同じ物にように思っていたが、だんだん調べているうちに両者の違いがわかった。

「霧氷」には過冷却した霧の粒が地物に接して氷結した無定形な氷層から成るものと、氷点下に冷却している地物に水蒸気が付着して美しい六方晶形の結晶を作ったものあるが、雨氷のほうは比較的温暖な上層の空気中で生じた雨滴が氷点下の温度をもった下層の空気中を通過する際に、凝結しないで過冷却のまま地表に達し、樹木その他に接触してその周囲に氷結したもので、透明で結晶形を持たないのがその特徴である。

こんな時には地面の低い処もまた氷の板のようにつるつるなので、詩にもあるとおり、金かんじき(アイゼン)をつけて歩かなければならなかった。


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【濛々(もうもう)】
霧・煙・砂ぼこり・湯気などが一面に立ちこめるさま。

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【珊々(さんさん)】
1.下げた玉などの鳴る音。 「孔子の車の玉鑾(ぎよくらん)が-と鳴つた/麒麟 潤一郎」
2.輝いて美しいさま。

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【玲瓏(れいろう)】
1.美しく照り輝くさま。 「―たる朝空」
2.玉などが、さえたよい音で鳴るさま。 「―、玉をころがすような声」

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【燦爛(さんらん)】
光り輝くさま。また、華やかで美しいさま。「―たる美華と光輝を発すると同時に」



芝生にとげのように形成された雨氷。

木の枝全体に形成され垂れ下がった雨氷。