いわゆる安保法案が衆議院の委員会で採決されました。明日にでも衆議院を通過し,参議院での議論が始まります。
ところで,安保法案について「憲法違反」「戦争法案」などいろいろと言われており,国民の多くも反対しているといわれています。
ところが,実は細かいところで,結構あれれ??って思うこともあります。
そこで,この法案の大きな問題は各ブロガーに委ねるとして,あえて枝葉というか,地味なポイントについて,私見を述べたいと思います。
1 安保法案がなければ戦争にならないか
今回の騒動の大きな問題点とも言えます。
これ,結論から言うと,「
この法案の有無に関係なく,戦争に巻き込まれるリスクは高くなる一方。」です。一方で,「
法案ができたから,戦争が回避できる保証もない。」ということになります。
ただし,
ここでいう「戦争」とは一体何か,っていうところが実は重要です。以前もお話ししましたが,この
「戦争」の定義が,実はかなりあいまいです。
今時,第二次大戦のような戦争を仕掛けてくる国は皆無です。なので,
「戦争」の定義を「第二次大戦のような戦争」ととらえると,「安保法案ができれば,連合軍的に守ってくれる可能性が高くなるので,戦争を起こそうという国は減ってくる」として,戦争にならないという説明になります。
一方,世界中で内紛等の戦闘状態になっているエリアがたくさんあるのは事実です。したがって,
「戦争」をそうした内紛などを指すとなれば,そういう地域に行くことで,「日本は戦争に加担した」として「戦争ができる法案」ということもできます。
さらに,今最大の脅威は,国家からの侵略行為ではなく,
「テロル攻撃」と「民間人型侵略」です。前者はISIL,後者は中国が使う手法ですが,いずれも第二次大戦のように「宣戦布告をして侵略する」という手法ではありません。
これを「戦争」というならば,日本は,現状において否が応でも「安保法案に関係なく,戦争に巻き込まれるリスクは高い。」ということになるし,特にテロルとの関係では,集団的自衛権でアメリカなどに加担することで,「みなし敵国」となり,テロのターゲットにされるリスクは高まりますから,「安保法案で戦争に巻き込まれる」ということもできるでしょう。
結局,
この「戦争」という言葉をどのように使うかで,賛成派も反対派も説明ができちゃうのです。
この問題をきっちり考えるためには,
「日本におけるいわゆる軍事的脅威は何か」というところについて,政府としての問題意識を説明し(もちろん,軍事的事情でぼかすところも必要ですが。),また国民としても,本当の脅威が何か,ということを理解したうえで,
その共通基盤で,「安保法案が戦争法案なのか」などという点を議論するべきです。この共通認識がなければ,永遠に言葉遊びの応酬で終わります。
2 国際的に問題だから集団的自衛権が必要か
安保法案賛成派の多くの方は,「国際的に日本だけ他人事にはできない」「現状,アメリカとの同盟関係で国が守られている実態があるから,当然必要だ」などといいます。
外交的,軍事的観点からすれば,正論です。
ただし,ここですっ飛ばしてはならないのは,「
憲法」です。
外交的,軍事的観点で正論だから,憲法議論を気にせず,実情に合わせようというのであれば,もはや憲法は無用の長物になります。
憲法は,戦後どのように成立したのかはともかく,現状として国民の総意で作られたものなので,憲法の枠内で対応しなければなりません。
もしも,
外交的,軍事的観点での正論を通すのであれば,まさに「憲法」の枠内なのかどうか,枠外ならまず憲法改正を行わなければなりません。
違憲かどうかの議論はそれなりになされていましたが,「憲法よりも実情」を重視するような議論も多かったため,それは根本的に違っていると思います。
3 集団的自衛権は本当に政府解釈でよいのか
今回,集団的自衛権は,政府解釈で「合憲」となりました。この是非は今回は問いません。
実は,政府解釈でこうした重要な軍事外交問題を考えるのは,逆方面のリスクがあるということを,与党たる自民とは失念しているかもしれません。それは,「
政権が交代したら,真逆の解釈ができてしまう。」ということです。
つまり,
本来骨となるべき軍事外交問題も,政権交代,すなわち国民の選挙という意思表示だけで簡単に変更してしまうことができるのです。軍事関係や外交関係は,できる限り安定させる必要があるため,賛否両論あるような政府解釈で決めてしまうのは,実は一輪車に乗っているようなきわめて不安定な政策であるともいえるのです。
もっというと,今反対運動している方は,次の選挙で,野党勢力に投票することで,集団的自衛権が再び違憲解釈に戻るという可能性が残っているということを知っておくといいでしょう。もちろん,賛成派の方は,こういうリスクがあるので,選挙では油断せず与党に投票する必要があります。
4 集団的自衛権が可能となった場合,その経費(財源)をどこからもってくるか
集団的自衛権が可能となった場合,自衛隊員がほぼ常時どこかに駐留する可能性がかなり高くなります。また,訓練も増えますし,実際の戦闘場面が出てくる可能性が高くなります。
これらの可能性が高くなるということは,別にタダでできるわけじゃありません。そのための経費が必要になります。この経費は当然税金ですから,
簡単に言えば防衛費が増えるということになります。
では,その財源をどこに求めましょうか?消費税は福祉目的という建前で増税したので,表向きこちらから持ってくることはできません。
だとすると,
所得税等の増税をするか,または歳出の削減をするかのいずれかになります。歳出の削減の場合,
削りやすいのは,まず子育て関連予算,次に教育費,そして高齢者関連予算ということになるでしょう。平たく言えば,福祉,教育費です。
子育て世代の負担は,ますます増えるでしょうし,高齢者も医療費増額や年金減額などのリスクを負うことになるでしょう。
5 本当に徴兵制になるのか
なりません。日本では,憲法云々以前に,無理です。徴兵には,小中学生のころからそのような教育で徴兵制について洗脳する必要があります。また,軍隊は規律と統率力,そして技術が必要なので,寄せ集め集団ではむしろ足手まといになるだけです。
ただし,
「志願兵制度」はできるかもしれません。これは,たとえば,20歳になったら希望で徴兵検査を受けることができ,それで合格したら,いつでも兵役に行くというものです。こんなの希望する人いるの?って思うかもしれませんが,たとえば,大学入試のセンター試験みたいに,就活において「徴兵検査合格者優遇」みたいな条件を企業が設けるようにすれば,そっちのために検査だけ受けておくという学生は多いのではないでしょうか?
まあ,ここはあくまでもこれは夢物語ですが・・。
6 捕虜を自衛隊が捕まえたらどうするのか
今回の法制度の中で,捕虜に関する法律の改正もされています。
ただ,そもそも,現状では捕虜収容施設ができてません。また,処遇については法律や規則で細かく規定されているものの,戦争ではなくテロや似非民間人を自衛隊員が拿捕した場合,どのように対処するのか,まだまだ曖昧なところが多いです。
とりあえずこんなところです。もちろん,私自身理解不十分のところがありますが,こまごましたところで,結構考えるべき問題点が多いということをきちんと知っておく必要があります。
まだ法案は参議院でこれから議論され,それで最終的に成立しますが,
反対の方はもちろん,賛成の方も今一度参議院の議論に注視して,大きな問題点も含め,法案の是非をきっちり考えることが大切です。
国の行方を大きく変えるかもしれない法案です。
一番よくないのは無関心です。
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