映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

「愛を読むひと ~The Reader~」

2009年02月22日 | 映画~あ~
2008年 アメリカ・ドイツ映画


ケイト・ウィンスレットがゴールデングローブ賞で主演女優賞を獲得したことでも話題の作品です。予告編でもポスターでも、ケイトとレイフ・ファインズの名前が大きく書かれているので、2人を中心とした話かと思ったら・・・いや、まぁそうなんだけど、俳優としてはレイフ・ファインズではなく、彼の若かりしころを演じたドイツ人俳優のダフィット・クロスがメイン。

舞台はドイツ。学校帰りのマイケル(ダフィット)は体調不良で路面電車を途中下車。フラフラになっていたところを、ハンナ(ケイト)に助けられる。かなり年の離れた二人だが、これをきっかけに2人は関係を持ち始める。しかし突然ケイトは消えてしまい、否応無く2人の関係は終わってしまう。その後法律の勉強をするためにロースクールに進んだマイケルは、思いがけないことろでケイトの姿を目にし、彼女の過去を知ることとなる。


映画を見にいった時、第二次大戦のナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺にも関係する話だと言う程度にしか知識が無い状態でした。確かに戦争が背景にはあるし、映画の骨組みとして土台になっているのだけど、映画の舞台となっているのは戦後のドイツ。予告編を見る限り、ものすごくロマンチックな印象を持っていたのだけど、実際はそれ以上の作品でした。

マイケルとハンナの年齢を超えた愛情。それはものすごく純粋だけど、ただきれいに描いているだけではなく、それぞれの感情をしっかり描いている。10代の少年のまっすぐで時に痛々しくもある、力強くも壊れやすい愛情。それに対して、過去を背負って、さらに常にコンプレックスと戦いながら生きてきた21歳も年上のハンナの、大人の女性としてのしんの強さ、つややかさ、そして不器用さ。二人の感情のゆれが映画を通して手に取るようにわかるほど、とにかく演技が卓越していてため息が出る。ケイトの主演女優賞の受賞は、この映画を見れば誰も文句は無いと思います。

そしてハンナが消えてしまった後、2人の糸は切れることなく再び引き戻されます。でもそれは恋人同士としてではなく、誰も予想しなかった形で。

ハンナの「どうして?」と見ているこちらが彼女を問い詰めたくなるようなみちを彼女は選択し、そして2人にとって幸か不幸か再び出会う日がやってくる。静かだけれど劇的に話は進み、胸を締め付けられる。どうしてそこまでして彼女は「それ」を守らなくてはならなかったのか。自分が彼女の立場だったら、たぶん「それ」よりも自分のその後の人生を確保する方が楽なように感じるけれど、彼女にとってはそうではなかったのだろう。そして月日は流れ、その愛情のカタチは変わっても、2人は強靭な何かにつながれていて、そしてお互いを大切な存在であると認識している。

ものすごく切ないのだけど、「みじめ」であるわけではない。

原題は『The Reader』。単純に考えればこれはマイケルのことなのだけど、場面によってそれはハンナともとることができる。うまいネーミングだな、と唸らされる。


ウィキペディアで調べてみたら、ハンナ役をニコール・キッドマンが演じる可能性もあったとのこと。いやー、ケイトでよかったと思うわ。ニコールだと女優としての「綺麗さ」が前面に出て、過去の苦しみを背負った影の部分をうまく表現できなかったんじゃないかと思う。あくまで私の想像だけど。そのくらいケイトはよかった。めぐりめぐってケイトに回ってきたこの役。本当にすばらしかった。彼女の女優魂を見せ付けられた思い。監督が『めぐりあう時間たち』の人(スティーブン・ダルトリー)と聞いて納得。重い話なのだけど、じっくりと話を進めながらも見ている側をどっぷりと落ち込ませてしまうことなく、だからといって軽い作りにはしない、実にうまくバランスの取れた作品だった。

マイケル役のダフィット・クロスの青臭い感じ、そして大学生になった時には青年として成長している雰囲気を演じ分けていて印象に残っている。最近のドイツ人俳優というと、『グッバイ・レーニン』に主演して、その後『ボーン・アルティメイタム』『ラベンダーの咲く庭で』など各国の映画にも出演するようになったダニエル・ブリュ-ルが印象に残っているのだけど、ダフィット・クロスも今後の活躍が楽しみです。


メロドラマっぽい展開あり、裁判ドラマあり。いろんな側面を併せ持った作品です。確かに大きな映画賞を取ってはいるけれど、明らかに大衆向け作品ではありません。派手な展開がある作品でもないし、どちらかと言うと地味にスローに話が流れていきます。イギリスでも人気があるかと言われれは、正直そうではありません。日本ではきっと大きな映画館で上映されるでしょうが、好き嫌いはかなり別れると思います。10代、20代前半くらいの年齢だとちょっと楽しめないかも。でも、私個人としてはかなりおすすめ。映画館で見れてよかったと思える作品です。


日本での公開は、2009年6月19日から。


おすすめ度:☆☆☆☆★