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読書レビュー  米澤穂信  満願

2022-06-29 15:55:54 | 書評 読書忘備録


満願  米澤 穂信著   読みましたよ★★★★ 
2022年の6月の終わりにこの本のレビューをいたします。
ハイ。遅まきながらです、いまさらです。でも面白かったです。

なんの予備知識もなくて、本屋大賞候補作に入ってた、賞もずいぶん貰っていて大層評判がいい、という噂と、
なんとなくですが、美しい表紙の灯篭の写真から、これは昭和初期の情緒豊かに紡いだ中年男女の愛情物語とか、
小津監督の撮る映画みたいに日常生活の機微を丁寧に描いた渋い佳品、みたいなイメージで読み始めてしまいましたが、全然外してしまって良い意味で裏をかかれました。
実体は既読の皆さん御存知の通りの奇妙なミステリ、またはプチホラーなのでした。

「夜警」から始まり「柘榴」「万灯」を経て「満願」で締めるいずれも暗示的な短い漢字のタイトルで表される物語。
それぞれが微妙にシチュエーションも事件も、人物像さえも
様々で、読み手はいつの間にか日常から登場人物の視点に同化して奇妙な事件に巻き込まれ、そしてそれぞれの章でその奇妙な事件の真相が判明します。
(解決ではありません。あくまでも真相がわかるだけで、
或る物語については、まだまだ悲劇が続いたりもします)

作者の文章力、描写力、心象の説得力は実に大したもので、実際だったらまず遭遇もしないし、動機づきもしないこれらの物語の設定に読み手はいつの間にか取り込まれてしまうのでした。ブラックで悲劇的なオチにも思わず、これしかないだろうな、と納得してしまうのです。

ですが、読み終えてしばらくすると、なんとも居心地が悪く、暗くにがい感覚が胸を這い登ってくるのです。
「この人たちは切実だし、真摯に切羽詰っている。
だけど何処かがいびつだ。歪んでいる。。。」と
事件モノやミステリとはそういうものなのかもしれません。
しかし書きこみがリアルで上手であればあるほど、読み手は登場人物たちが自分とは違うことに違和感と安心感という異なった感想を重ねるものなのでしょう。
そして良くできた作品ほど、その振り幅というか色相の違いが際立つのだと思うのです。

この作品のスピンオフを考えてみました。
映像化は。。ダメですね。世にも奇妙な物語、みたいになってしまいそうです。

朗読は。。結構イケるでしょう。「関守」なんか白石佳代子さんの百物語にぴったりです

そしておススメは漫画化!! あの萩尾望都先生に「柘榴」を描いていただきましょう。
トーマの心臓、残酷な神が支配する、のようなあの筆致、あの雰囲気。そしてこの物語。
どこかのマンガ雑誌編集者の方。無料でいいからこの企画、立ち上げちゃってくださいな。





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