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小川恭子 ヴァイオリン・リサイタル

2016年12月09日 | pocknのコンサート感想録2016
12月6日(月)小川恭子(Vn)/江口 玲(Pf)
~紀尾井 明日への扉14~
紀尾井ホール

【曲目】
1.ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調 Op.100
2.バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調 BWV1004~シャコンヌ
3. ラヴェル/ツィガーヌ
4.プロコフィエフ/5つのメロディー Op.35bis
5.R.シュトラウス/ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調 Op.18
【アンコール】
1.ブラームス/F.A.E.ソナタ~スケルツォ
2.パガニーニ/カンタービレ ニ長調Op.17

有望な若手アーティストを応援する「紀尾井 明日への扉」のコンサートシリーズには、紀尾井ホールの会員への招待枠がある。小川恭子は国内外の数々のコンクールで目覚ましい成績をおさめ、メキメキと頭角を現しているヴァイオリニストということで、ブラームスとシュトラウスのソナタをリサイタルの最初と最後に置く本気のプログラムにも引かれ、久々に招待チケットを申し込んで出かけた。

たっぷり正味2時間に及ぶリサイタルを聴いての印象を例えれば、上質で細めのペン先を持つ万年筆でスラスラと滑らかに書かれる美しい筆記体の連なり。ペン先の角度や筆圧を巧みにコントロールさせ、連なる1本の線に微妙な濃淡と太さの変化をつけ、美しい文字が淀みなく次々と紙の上に現れる。小川恭子の奏でるヴァイオリンは、そんな手書きの文字のように端正で繊細、そして全体が美しく整い、優しく調和している。柔らかく透き通った音色も美しい。

ブラームスではピアノの江口玲との気負いのない、穏やかで調和の取れた対話を交わし、バッハでは多声部のそれぞれの声部が持ち味を発揮する。声部が滑らかに絡み合い、全体から豊かな響きと表情がもたらされる。この曲は深刻で重苦しい気分になることが多いので、覚悟を決めて聴くのだが、今夜は自然に楽な気持ちで聴いていられた。

ラヴェルのツィガーヌでは、音や歌い回しから情熱的な息遣いが感じられ、プロコフィエフも美しく品よくまとめていた。プログラム最後の大作のシュトラウスのソナタは、シュトラウス特有の濃厚なパワーよりも、風通しのいいスマートさが勝り、爽やかに進んで行った。ピアノも、ヴァイオリンの演奏スタイルに合わせるように、ガンガンと押しまくるのではない、軽やかな演奏で小川をエスコートしていた。特に第2楽章では、一つの線が伸びやかに呼吸し、持ち味の美音が光を帯びたように映えていた。

ただ、リサイタル全体を聴いて、最初に例えた万年筆の筆跡で言えば、どの曲でも時には勢い余って文字が紙からはみ出たり、インクが飛び散るといったアグレッシブな感情の高まりが欲しいなと感じた。それが加われば、端正な全体像がより映えてくるし、美しさがより際立つし、何と言っても小川恭子にしか聴かせることができない魅力や個性がより光ってくると思う。

アンコールで演奏したパガニーニのカンタービレから聴かれた、前のめりなほどの親密で熱い歌からは、そんな個性の一面が伝わってきた。今後更に経験を積み重ね、個性豊かなアーティストとして成長して行くことを楽しみにしたい。
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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