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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ハーゲン・クァルテット モーツァルト・ツィクルス ハイドン セット II

2015年10月02日 | pocknのコンサート感想録2015
10月2日(金)ハーゲン・クァルテット
~トッパンホール15周年 バースデー企画~
トッパンホール

【曲目】
1.モーツァルト/弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 K458「狩」
2.モーツァルト/弦楽四重奏曲第18番 イ長調 K464
3.モーツァルト/弦楽四重奏曲第19番 ハ長調 K465「不協和音」
【アンコール】
モーツァルト/弦楽四重奏曲第22番 変ロ長調 K589「プロシア王第2番」~第1楽章

トッパンホールで毎年のように行われているバーゲン・クァルテットの演奏会は、うっかりしているとすぐ完売になってしまう。モーツァルトをやる今回のシリーズは是非聴きたかったので、前売り開始後すぐにチケットを購入した。

会場で席に着こうとしたら、同僚で音楽仲間のハセジュンさんが偶然にも隣の席に!コンサートに来ることも知らなかったのでビックリ!そして、ハーゲン・クァルテットのモーツァルトを聴いて更にビックリ!一曲目はモーツァルトの数あるカルテットのなかでも有名な「狩」。このニックネームが付いた狩の信号をイメージさせる和音が颯爽と始まったところまでは聴き慣れた演奏だったが、「異変」はすぐに訪れる。最初の一連のモチーフが収まったあとに一呼吸入り、これに「ん?」と思ったら、今度はテンポも音量もぐっと落として、大きく表情を変えてきた。

フレーズ毎に目まぐるしいほど演奏に変化を与えるやり方に「バーゲンってこんな変わったことするカルテットだったっけ?」と少々面食らった。しかし聴いているうちに、このカルテットは奇抜なパフォーマンスで聴衆を面食らわせてやろうなんて意図は微塵もなく、ただただモーツァルトの音楽に一丸となって身を捧げているということに気づいた。

モーツァルトの音楽を細かく見ると、そこには常にコミュニケーションが存在する。問いと答え、お願いと返事、男女の愛の囁き合い… フレーズ単位だけでなく、アンサンブルのなかで1つの楽器が担当する1つのフレーズの中にさえ「対話」がある。これをハーゲン・クァルテットはひとつひとつ明瞭に再現するのだ。卑近な例を挙げるなら、話好きで話上手な女の人が、ごくささやかな日常のなかで起きたやり取りの様子を、それがあたかも目の前で繰り広げられているかのように豊かに生き生きと語り聞かせるシーン。最初は面食らっても、すぐにこの「語り」に夢中に聴き入ってしまう。それほどに、ひとつひとつの「言葉」が瑞々しく語りかけ、歌いかけてきて、やり取りが生き生きとしたストーリーを展開して行った。

「狩」で、すっかりそんな「お話」の虜になってしまったが、続いて更に深い音楽性を湛えた第18番では、日常からもっと高みの崇高な境地へ向かった。極めつけは第3楽章アンダンテ。変奏曲で綴られるこの楽章の前半、メロディーを受け持つファーストヴァイオリンのルーカスの芳香漂う歌!これを他の3人が温かく包み込んで生まれる極上のアンサンブル。後半ではヴェロニカのヴィオラが、懐の中にずっと温めていたフレーズをそっとルーカスへ手渡し、そこから生まれる対話の妙!そして繰り広げられる4人の語らいは、俗世を離れた天上界から聴こえてくるようだった。

次の「不協和音」でも、ハーゲン・クァルテットの卓越した表現力に圧倒された。冒頭で響く文字通り不協和音のフレーズは、息を潜めて身じろぎひとつしない「静」の様相を呈し、続く主部では暖かな空気に触れたつぼみが、ふわっと膨らむ解放感とそこから漂う香り、そしてそれが一気に花開き「動」となる生命力。この「静」と「動」の対比、更に両者の間を取り持つ温度や香りの変化の演出力。これを4人が一体となって作り上げて行く醍醐味。

今夜の演奏会を聴いてきてつくづくと感じたのは、ハーゲン・クァルテットの演奏には、常に入念で緻密な音楽の「読み」と、それをアンサンブルとして実現するための、クァルテットとしての鍛え抜かれた「技」があるということ。これはにわか作りのクァルトッテには絶対にできないことだし、このクァルテットにとっても、これまでの蓄積とたゆまず向上していこうとする志しがあってこそ今夜のような境地に至ったと言える。これはすごいことだ。
もっと本気でハーゲン・クァルテットを聴かねば!と強く思うコンサートとなった。

ハーゲン・クァルテット ベートーヴェンプロ(2008.10.1 トッパンホール)

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