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夏山07 北アルプスの秘境 高天原温泉と雲ノ平を訪ねる5日間の山歩き(後編)

2007年09月05日 | 山&ハイキング
8月8日(水)時々
雲ノ平へ
今朝も晴天。まずは温泉の更に先にある竜晶池を訪ねた。温泉からほぼ平坦な林の中を15分ほど歩くと明るくて広い池に出た。聞こえるのは鳥のさえずりだけ。池の畔に沿って歩けるようになっているのを見つけたので池を半周ほどしたら、そこからは薬師岳が眺められ、水面に山影を映した風景は絵のよう。実際にスケッチもしたいのだが、高天原一帯は蚊が多くてちょっと休んでいるとたくさんの蚊がやってくる。ここでは写真撮影だけに留めておいた。


池からの帰り、温泉を通るのでもちろん朝風呂を浴びた。一緒に入っていた人は僕がこれから向かう雲ノ平から来たとのこと。8年前に薬師沢から雲ノ平に登ったときのキツかった話をしたら、
「ここから雲ノ平への登りもそれに負けないぐらいキツイですよ。」
なんて言われてちょっとビビる。

小屋に戻り、水も補給して重たいザックを背負っていざ雲ノ平へ!しばらく薬師岳の眺めがいい木道を歩いたあと高天原峠への登りにとりつく。まずまずの急坂。峠で一休みしてたらまた蚊がいっぱいやってきたのでそそくさと先へ。坂はさらにきつくなってきた。

8年前、薬師沢から雲ノ平へ上がったときのあのキツさは今でも忘れられない。一息つくような場所が全然ないすごい急斜面がどこまでも続く。一般の登山道であれよりキツイ登りはおれは他には知らない。高瀬ダムから烏帽子小屋へ登るブナ立尾根を「日本三大急坂」なんて呼ぶのが何とも甘っちょろい。でも、それを登り切った時に目の前に広がる雲ノ平の素晴らしかったこと!!
そんな8年前の再現か…?

きつい坂道でも花が元気づけてくれる。

連続する梯子なんかもあってまだまだ登りが続きそうだと覚悟を決めたが、峠から30分ほどで道は緩やかになり樹林帯から抜け出たところは別世界のような花咲く大地だった。雲ノ平だ!その後また樹林帯の登りに出くわしたものの、もうそこは雲ノ平の領域。道はそのまま奥スイス庭園へと続いていった。

雲ノ平には至るところに高山植物の花園がある

水晶岳、薬師岳、赤牛岳が間近にそれぞれ個性的な山容で鎮座し、山の間には雲が遊び、どこまでも続く大地には花が咲き乱れている。まわりをぐるりと山々が取り囲んだ雲ノ平のこの雄大で美しい風景は、どんな名山の山頂でも決して味わうことのできない桃源郷のような眺めだ。この広い雲ノ平のどこをあるいても360度の光景が続き、その場所ならではの景色を楽しめる。


奥スイス庭園には大小の岩が点在し、砂地にはハイマツやナナカマドがいい具合に繁り、花々が彩りを添え、自然が造りだす見事な庭園美が広がる。そんな中の大きな岩の上でお昼のカレーを食べ、庭園を前景に佇む薬師岳のたおやかな姿をスケッチして過ごした。

スケッチをした岩の上から眺めた薬師岳。薬師岳は雲ノ平ではいつでも主役のひとつ。

そこから今日の宿泊地である雲ノ平山荘は30分程度のところにあるが、どこでも絵にも写真にもなる素晴らしい雲ノ平を1時間以上かけてゆっくりゆっくり楽しみながら歩いた。雲ノ平山荘はチングルマの群落に囲まれて8年前と変わらず雲ノ平の中でもとりわけ眺めの良い場所で迎えてくれた。

小屋で荷物を軽くして、今度は薬師沢方面にある「アラスカ庭園」の方へ続く木道を散策した。雄大かつ優美な風景がどこまでもどこまでも続く。40分ほど歩いた「アラスカ庭園」あたりまで行って引き返し、「奥日本庭園」のベンチでコーヒーを沸かし、それをすすりながら赤牛岳とチングルマをあしらった絵手紙を奥さんに描く。

雲ノ平山荘の夕食は石狩鍋。
「特別に取り寄せた酒粕をベースにしたものです。たくさん召し上がって下さい。」
と説明してくれた小屋の若い主人は「伊藤です」と名乗っていたが、ここら辺一帯の山小屋や登山道を昔から管理している伊藤正一さんの息子さんだろうか。とても穏やかな、自然を愛する雰囲気の漂う人で、僕が持っているオリンパスの古いカメラに関心を示し、靴ずれ用にテーピングやバンドエイドを親切に貸してくれた。一人で部屋の奥でつまびいていたクラシックギターの調べが郷愁を誘った。

土鍋に入った石狩鍋はアツアツで具沢山。おいしくて何杯もお代わりしてしまった。

夜は満天の星空。明日も天気は良さそうだ。雲ノ平をまだまだ満喫するぞ。

8月9日(木)
雲ノ平散策
東の空が色づき始め、水晶岳のシルエットが刻々とくっきりと浮かび上がってくる。今朝は、8年前に雲ノ平を訪ねたときに一番のお気に入りとなった場所、「アルプス庭園」という名が付いている祖母岳(ばあだけ)に上がって日の出を迎えた。
祖母岳は山荘のすぐ裏にあり、山というよりも雲ノ平の起伏のひとつのピーク。ここからの水晶岳、薬師岳の眺めはとりわけ素晴らしく、槍ヶ岳や笠ヶ岳、遠くには白山も望むことができる。ここで朝めしを食べながら景色と空気を十分に味わった。

時間と共に刻々と姿を変える明け方の水晶岳(アルプス庭園より)




祖母岳を下りて昨日行った「奥日本庭園」へもう一度足を伸ばす。光線が違うと景色も随分違って見える。昨日は雲に隠れていた黒部五郎岳や三俣蓮華岳なども全部見える。

小屋で荷物を受け取り、雲ノ平を散策しつつ祖父岳方面へ向かう。振り返ると山荘が雄大な雲ノ平の景色の中に吸い込まれて行く。

この写真は拡大してご覧になれます。

テント場へ行って水を補給。この水のまた冷たいこと!テント場入口から祖父岳へ向かう途中にある「スイス庭園」を訪ねた。雲ノ平の縁にあたる「スイス庭園」は高度感のある景観が味わえる。そこからは昨夜泊まった高天原山荘が谷底に小さく見えた。

この「スイス庭園」周辺の景色もまた楽園のようだ。太陽が上がってきて、シルエットだった水晶岳の山肌が照らされ、お花畑の広大な庭園の向こうにそびえている光景はなんとも天国的。この景色を自分の目に焼き付けておきたくてスケッチブックを開いた。


スケッチを終えて祖父岳へと歩を進める。テント場からの直登の道は植物保護のため通行止めになっていて、「スイス庭園」の方から回りこむように登って行く。今回の山歩きでは初めての雪渓歩きもあった。雲ノ平が徐々に下に見えてくる。昨日の午前中からほぼ24時間を雲ノ平で過ごし、今回は雲ノ平を十分に満喫できた。ますます雲ノ平に惚れ込んでしまった。雲ノ平にまだずっといたい気分だ。

祖父岳、そして鷲羽岳へ
前回はガスの中だった祖父岳(じいだけ)山頂からの眺めは今回はお見事!雲ノ平を眼下に見下ろし、何と言っても槍・穂高の姿が素晴らしい。三俣山荘付近の牧歌的な穏やかな起伏も手に取るように見える。

左手前に鷲羽岳、右端に赤い屋根の三俣山荘が見える。中央はもちろん槍!

お昼を食べ、またまたスケッチをして広い山頂で2時間近くを過ごす。今回は余裕のあるプランで歩いているのでビューポイントで心置きなくゆっくりできるのが嬉しい。これから登る鷲羽岳が前方にドーンと構えている。

祖父岳から鷲羽岳山頂までは所要1時間40分。登りは結構きつかった。
2924メートルの山頂からの眺めはさすがにスケールがでかい。ずーっと見えていた槍・穂高連峰は雲に時おり隠れるようになって来た。ここにはコーヒータイムで約1時間滞在した。


槍の穂先から雲がどくシャッターチャンスを狙うのに結構苦労した。
下りようと歩き始めたとき、左の眼下にコバルトブルーの水をたたえた鷲羽池が見えた。背後には槍ヶ岳が聳え、よく写真で見る風景。
「しまった、この景色を見ながら休めばよかった…」

真夏の太陽がじりじりと照りつけるなか、今日の宿泊地、三俣山荘までのガレ場の急斜面を下って行った。気温は15度ぐらいでも強烈な太陽光線がとにかく「熱」かった。

山荘に着いた頃には槍ヶ岳はたまに雲の合間から見える程度になってしまった。でも山荘2階の明るい食堂の大きな窓からの風景は素晴らしい。

ここの食堂ではいつでもバロックや室内楽などの落着いたクラシックが流れて食事もおいしく、とてもくつろぐことができる。食事のあと、夕暮れ時の素晴らしい槍の眺めを期待して外のバルコニーで本を読みながら待っていたが、槍にかかる雲がすっかりどいたのは日暮れ後しばらくしてからだった。
だいたいまあこれが夏のパターンだと思えば仕方ないが、今回は素晴らしい夕焼けには一度もお目にかかれなかった。実際、山で夕焼けに出会えるチャンスは少ない。

高天原山荘で一緒だった人から、三俣山荘はすごく込んでいたから行けるようなら双六小屋まで行ったほうがいいと思うと言われていたので、「じゃあそうしようかな…」とその時は思ったのだが、こんな具合にのんびりと歩いていたので三俣山荘に泊まるしかなかったが、この日は布団一枚を一人で確保できた。山小屋の混雑具合というのは団体の有無で大きく変わってくる。

ハイシーズンではあったが、これで4泊全てゆっくりと眠ることができた。寝床に入る前に外に出て今夜も満天の星空を眺めた。この星空も今夜で見納めだ。

8月10日(金)
三俣蓮華岳~双六岳~鏡平~下山
4時半に小屋を出発。三俣蓮華岳へ向かう。今朝もまたまた晴天!三俣蓮華岳山頂近くにさしかかった頃、眺望が広けてきた南東方面に連なる槍・穂高連峰が、朝の光を受け始めた。

三俣蓮華岳は長野、岐阜、富山三県の県境にまたがる北アルプスの要衝だけあって、頂上からは何でも見えるのだが、雲が全然ないせいで朝日が眩しすぎて東の方面はハレーション、太陽が当る方面は順光でテカりすぎ… あまり写真にはならない(なんとも贅沢な話だが)。そして結構風が強くてやたらと寒い。


そんな中で一番目を引いたのが笠ヶ岳の姿。この山は東側から見ると本当に整った笠の形をしている。

ここで朝食を食べ、スケッチでもしようと思っていたのだが、飯を食ってても風がピューピューと体に吹きつける寒さに、これまで一度も登場しなかった雨具の上着を出さねばならなかった。あんまり寒いので飯を食い終えてすぐに双六岳へと向かった。

天気が良いので中道ではなく双六岳山頂コースを選んだ。太陽は徐々に光線の熱を強めてきたおかげで、双六岳山頂に着いたころは寒さもかなり和らいだ。それに太陽が上がってきて、周囲の山々の眺めは三俣蓮華で見たときよりもくっきりはっきり見える。周りは360度どこも山だらけ。山奥にいることを実感。

今朝歩いてきた三俣蓮華岳からの稜線の先には昨日山頂に立った鷲羽岳、中央には高く水晶岳が聳える。

この写真は拡大してご覧になれます。

山での携帯事情

双六の山頂から久々に携帯が通じて家族に無事を知らせることができた。野口五郎岳の山頂で通じて以来だから3日ぶりだ。
以前は山小屋に結構あった衛星を使った公衆電話は撤去されたり故障してたりで最近は全く当てに出来ない。ドコモの携帯ならもっと繋がるのかも知れないがおれは長年auで、これは山では殆ど役に立たない。時々アンテナマークが2本ぐらい立つのだが、メールも通話も結局はつながらず電池だけが減っていく。それでもたまーにこんな風に意外な所で通じることがある。双六小屋まで下りたらまた「圏外」になってしまった…


緩やかな丘陵のような双六岳山頂を双六小屋へ下りて行くと、そのなだらかな山の縁にだんだんと槍ヶ岳が隠れて行くシーンが面白い。

おいしい水が飲める双六小屋で水を補給して歩を進める。この先はもう下りが基調だが、鏡平もあるし下山とは言えまだまだまだ素敵なビューポイントがいろいろ待っている。

去年このルートをやはり同じ時期に歩いたとき、笠ヶ岳と鏡平の分岐手前に大きな雪田があり、そこに鷲羽岳を背景にしたシナノキンバイのお花畑が広がってた。今回も期待していたら、去年に負けないような素晴らしいお花畑があった。涼しい雪田の上でその景色を眺めながらしばしの休憩。

ここでは何人ものカメラマンが撮影していた。鷲羽岳の奥には重なって水晶岳が見える。

眺望の良い弓折岳は分岐からすぐなのだが、バスの時間もあるし今回は鏡平の槍を映す鏡池でスケッチもしたかったので分岐からそのまま鏡平へ下る。その槍ヶ岳、さっきまで遮るものなく見え続けていたのが穂先付近に雲が現れ始めた。午後になると穂先が隠れるのが常だが、まだ昼前だし雲は待ってくれることを期待しつつ池に行ってみると… その雲が時おり穂先を隠し始めていた。早くスケッチしなければ!

カップラーメンが…

これまで昼食にはアルファ米にレトルトのカレーやシチューをぶっかけて食っていたが、アルファ米は戻すのに30分かかる。今日は下山してバスに乗るという時間の制約があるため、最後まで持ち歩いていたカップヌードルを食うことにしていた。日清の元祖カップヌードルはちょっと楽しみ!
お湯を沸かしてさて注ごうと思ったらカップの縁がちょっと歪んでいたので、それを直そうと手で曲げたら「パリンッ」と縁の部分が取れてしまった… なんとお湯の入る線より下まで割れてしまった。まずい、どうしよう… と考えた挙句、バンドエイドで貼り付けてみた。そしてお湯を注ぐと…
アラララ… なんと注いだお湯はそのまま底からダラダラと流れ出すではないか!見るとカップの底にも大きなヒビが! ずっとザックに入れていたカップヌードルの容器はボロボロになっていたのだ。お・オレの昼飯がぁっ。。。

でもすぐにお湯を沸かしていたコッヘルに移し替えて何とかカップヌードルにありつくことができた。でも、カップヌードルってあのプラスチックの容器から食うのがなんだか美味いんだよな… 残念。。。



雲から見え隠れする槍の穂先を何とかスケッチブックに描きとめることができた。

いつも時間が押せ押せになってしまう鏡平だが、今回は時間配分がうまくいって1時間半近く滞在できた。あとはただひたすら下るのみ。シシウドヶ原あたりはいつも日照りに苦しむ。時々太陽が雲に隠れてくれるがやはり暑い!そんなときの救いは何度か横切る沢の冷たい水。水って本当にありがたい。

最後の林道はいつもながら長く感じたが、鏡平を出て3時間ちょい、予定より少々早く新穂高に到着した。寄り道が多くていつも最後は走るように下っていたことを考えれば優秀優秀!

平湯温泉のターミナルでゆっくり温泉につかり、柔らくて美味い飛騨牛の陶板焼きに冷たいビール
「ク~ッ!! これはこたえられない!!
満たされた気分で新宿行きの最終高速バスに乗った。

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2 コメント

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はじめまして (ba_sobu)
2007-09-06 21:07:48
`青空に雲が光る`の ba_sobuです


すてきなサイトですね。スケッチがまた素晴らしく何度も読み返しました。
高天原泊で、次が雲の平泊なんて 贅沢な山旅。
pocknさんのレポをよんでいると あれやこれや思い出されてきました。

行き損ねた竜晶池の写真を見られて嬉しかったです。

これから ちょくちょくおじゃまさせてくださいませ


返信する
Re:はじめまして (pockn)
2007-09-08 00:21:49
ba_sobuさん、ご訪問いただきありがとうございます!山には必ずスケッチの道具を持ち歩きます。気に入った風景をスケッチすることでその景色がいつまでも目に焼きつくのがいいですね。お見せするような代物ではないとも思うのですが、ba_sobuさんのようなコメントを頂戴すると、絵を描くのにも張りがでます。是非またいらしてください。`青空に雲が光る`(何てポエジーなタイトルでしょう)にもまたおじゃまさせていただきます。
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