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コンスタンチン・リフシッツのショスタコーヴィチ

2022年06月05日 | pocknのコンサート感想録2022
6月2日(木)コンスタンチン・リフシッツ BA-DSCH Project II
~D.ショスタコーヴィチ―室内楽&ソロ~
トッパンホール

【曲目】
1.ショスタコーヴィチ/24の前奏曲 Op.34
2.ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン・ソナタ Op.134
3.ショスタコーヴィチ/ピアノ五重奏曲 ト短調 Op.57

【演奏】
Pf:コンスタンチン・リフシッツ/Vn:山根一仁 (2,3)、東亮汰 (3)/Vla:川本嘉子 (3)/Vc:遠藤真理 (3)

この演奏会のチケットを予約した際、支払いと発券は開催が確定してからと云われ、そのお知らせが来たのは間近の先月の下旬だった。今夜会場で、リフシッツがウクライナ出身のピアニストだと知った。これの影響だったのだろう。苦境のなかで来日を果たしたリフシッツが中心となったオール・ショスタコーヴィチの室内楽演奏会を聴いた。

最初はリフシッツのソロで24の前奏曲。リフシッツのピアノは常に真剣勝負の世界。明晰で鋭く、硬質の輝きがある。様々な性格を持つプレリュードがそれぞれに結晶を作り、透徹した光を放っていた。この曲集は、表情も気分も大きく異なる曲がひしめくイメージだが、リフシッツの演奏は叙事的で、研ぎ澄まされたなかに刹那的な煌めきや、皮肉やおどけなどが顔を覗かせる。おどけたダンス風の終曲も、風が吹き抜けるように過ぎ去り、その軌跡が心に残った。

次は、山根一仁が登場してのヴァイオリン・ソナタ。ここでは両者がガチのバトルを展開。山根のヴァイオリンは振幅が大きくて思いっきりが良く、一つ一つのフレーズが息づき躍動する。ムーヴマンに満ち溢れ、アクロバティックなパフォーマンスを存分に発揮した。リフシッツのピアノは、明晰さに熱が加わり、炎の応酬のように情け容赦なくこれでもかとやり合う。そこからは、焦燥や、ときに憤怒を伴った深刻な格闘が伝わってきた。それでいてブレがない。照準を正確に定めて、最も応えるパンチを浴びせ合う。静かなエンディングでも白熱は冷めやらず、熱気を帯びたまま曲を閉じた。

演奏後、両者は握手を交わしながらも笑みはない。真剣勝負が演奏後も続いているようで本気度が伝わった。リフシッツは譜めくりを置かず、何ページも繋げた譜面を無造作に床に落として行くため、演奏が終わるとステージには紙が散乱して、演奏の激しさが強調された。

後半は、更に3人のプレイヤーが加わってのクインテット。新たに加わった3人も、リフシッツと山根に負けず劣らずの気合いが入り、全身全霊で音楽を表現する。川本の圧のある攻めのヴィオラ、遠藤の鋭く切り込むチェロ、東のじんわりとした味わいある存在感のセカンド、5人の激しく熱くも、緻密なアンサンブルが塊となって迫ってきた。

前半の2作品と比べると、音楽が叙情的で厳しさは後退しているが、そのなかで第3楽章スケルツォは出色で、手に汗握る白熱のパフォーマンスを繰り広げた。これをアンコールでもう一回聴きたかったがアンコールはなし。それでも時刻は9時20分になっていた。


このコンサートは、もう一つのバッハプログラムと対を成し、BA-DSCHプロジェクトと命名され、2人の作曲家の関連性に光を当てたものだった。バッハでも今夜のように刺激的で熱い演奏が聴けたのだろう。

トッパンホールを訪れるのはコロナ禍以降で初めて。会場のアナウンスは一切なく、スタッフのフェイスシールドも入場時の検温や監視もなし。手指消毒も一人ずつ徹底するやり方ではなく、時差退場もなく、至って通常モードに近い環境で演奏会を楽しむことができた。これでいいではないか。

樫本大進&コンスタンチン・リフシッツ 2012.3.13 東京文化会館
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