7月1日(金)青木尚佳(Vn)/鈴木慎崇(Pf)
浜離宮朝日ホール
【曲目】
1. ストラヴィンスキー/イタリア組曲
2. メンデルスゾーン/ヴァイオリンソナタ ヘ長調
3. シューベルト/華麗なるロンド ロ短調 Op.70 D.895
4. R.シュトラウス/ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調Op.18
【アンコール】
R.シュトラウス/「薔薇の騎士」~ワルツ
3年前に東京ジュニアオーケストラソサエティで聴いた「シェエラザード」に魅了されたとき、青木さんはまだ15歳。その翌年、音コンで見事優勝し、記念コンサートでまた青木さんの演奏に触れ、その稀有な美音に益々惚れ込んだ。リサイタルで青木さんのヴァイオリンをたっぷり聴きたい、という望みがようやくかなった。
このリサイタルのチラシはよく見かけたが、チケットの入手方法がとても限られていたのが不思議。けれど客席は満員。集まって来たお客の中にはN響の大宮さんや、師匠の堀さんといった音楽家風の顔触れと、ヴァイオリンケースを持った若い人達や、上流風の母と子達の姿が多く、普段の演奏会とは客層が違う。楽章の間に全く咳が聞こえないのも驚き。そんなお客達の注目を浴びて登場した青木さんが最初に演奏したストラヴィンスキーでは、器楽的な曲想が目立つせいか、緊張のせいか、ちょっと硬さがあるように感じた。
しかし、次のメンデルスゾーンでは、そんな硬さから完全に解き放たれ、流麗で瑞々しい音が湯水のごとく湧き出てきた。どんなに速いパッセージでもぴたりとはりついたような安定感を保ち、しなやかで滑らかなラインを描いて行く。ボーイングの返しに独特の滑らかさがあり、それが微妙な「香り」を残す。ドレスのエメラルドグリーンの色を映し出すような優雅な感触も心を捕える。鈴木さんのピアノも淀みなく流麗に流れ、キラキラした輝きでヴァイオリンの響きに彩りを添え、二人は鮮やかでジューシーで、生気あふれる息吹を届けてくれた。
後半では落ち着いたクリーム系の生地に華やかな刺繍を施した、ウィーンの宮廷風のドレスに着替えて、まずはシューベルト。ここでも青木さんは伸び伸びと美音を振り撒きながら、美しいフォルムを崩すことなくキチンと音楽を聴かせてくれる。
そして最後の若きシュトラウスの大作を、堂々と見事に弾きあげた。ガッシリと構造を作って行く太い線は、エネルギーに満ちているうえに、シュトラウス独特の濃厚な叙情を湛え、雄弁に物語ってゆく様子が頼もしい。第2楽章の柔らかな触感の美音にも惚れ惚れする。鈴木さんのピアノからはシュトラウスのオーケストラの響きが聴こえた。細部のニュアンスも細やかで、ブリリアントな輝きにも事欠かない名伴奏。
アンコールの「薔薇の騎士」は、ホルンの咆哮が聴こえるゴージャスな前奏で始まり、ヴァイオリンはハーモニクスを多用しつつ、色艶やかなワルツを優美に舞った。
青木さんは、どの曲に対しても真っ直ぐに向き合い、音楽の全体をしっかりと捉えつつ、細部へ気を配る正攻法のアプローチで、音楽そのものが持つ魅力やパワーを素直に引き出す姿勢を感じた。
ただ、以前の演奏会でほれ込んだ、他のヴァイオリニストにはない世にも美しい音が、今夜のリサイタルからはあまり聴けなかった。今夜の音も十分に美しかったが、僕の記憶している青木さんの音は、もっと誘惑的で妖艶な、この世のものでないような美しい音だ。その音で、周囲の色を染め、聴く者を眩惑させるほど。
音楽の本質を真摯に追求しようとすると、いわば音の上っ面の「化粧」とも言える特別な美音は不要になるのか、曲目のせいか、それとも会場も座った場所も違うための単なる聴こえ方の問題なのか… もし、青木さんが、過度な美音にあまり関心がないとしたら、それはとてももったいない気がする。これほどの大器に、あの美音がつけば、世界を魅了するだろう。イギリスへ留学するということで大きな成長が期待されるが、天賦の「青木尚佳の音」にも是非磨きをかけてきて欲しい。
東京ジュニアオーケストラソサエティ 2008.8.24
第78回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会2010.3.9
浜離宮朝日ホール
【曲目】
1. ストラヴィンスキー/イタリア組曲
2. メンデルスゾーン/ヴァイオリンソナタ ヘ長調
3. シューベルト/華麗なるロンド ロ短調 Op.70 D.895
4. R.シュトラウス/ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調Op.18
【アンコール】
R.シュトラウス/「薔薇の騎士」~ワルツ
3年前に東京ジュニアオーケストラソサエティで聴いた「シェエラザード」に魅了されたとき、青木さんはまだ15歳。その翌年、音コンで見事優勝し、記念コンサートでまた青木さんの演奏に触れ、その稀有な美音に益々惚れ込んだ。リサイタルで青木さんのヴァイオリンをたっぷり聴きたい、という望みがようやくかなった。
このリサイタルのチラシはよく見かけたが、チケットの入手方法がとても限られていたのが不思議。けれど客席は満員。集まって来たお客の中にはN響の大宮さんや、師匠の堀さんといった音楽家風の顔触れと、ヴァイオリンケースを持った若い人達や、上流風の母と子達の姿が多く、普段の演奏会とは客層が違う。楽章の間に全く咳が聞こえないのも驚き。そんなお客達の注目を浴びて登場した青木さんが最初に演奏したストラヴィンスキーでは、器楽的な曲想が目立つせいか、緊張のせいか、ちょっと硬さがあるように感じた。
しかし、次のメンデルスゾーンでは、そんな硬さから完全に解き放たれ、流麗で瑞々しい音が湯水のごとく湧き出てきた。どんなに速いパッセージでもぴたりとはりついたような安定感を保ち、しなやかで滑らかなラインを描いて行く。ボーイングの返しに独特の滑らかさがあり、それが微妙な「香り」を残す。ドレスのエメラルドグリーンの色を映し出すような優雅な感触も心を捕える。鈴木さんのピアノも淀みなく流麗に流れ、キラキラした輝きでヴァイオリンの響きに彩りを添え、二人は鮮やかでジューシーで、生気あふれる息吹を届けてくれた。
後半では落ち着いたクリーム系の生地に華やかな刺繍を施した、ウィーンの宮廷風のドレスに着替えて、まずはシューベルト。ここでも青木さんは伸び伸びと美音を振り撒きながら、美しいフォルムを崩すことなくキチンと音楽を聴かせてくれる。
そして最後の若きシュトラウスの大作を、堂々と見事に弾きあげた。ガッシリと構造を作って行く太い線は、エネルギーに満ちているうえに、シュトラウス独特の濃厚な叙情を湛え、雄弁に物語ってゆく様子が頼もしい。第2楽章の柔らかな触感の美音にも惚れ惚れする。鈴木さんのピアノからはシュトラウスのオーケストラの響きが聴こえた。細部のニュアンスも細やかで、ブリリアントな輝きにも事欠かない名伴奏。
アンコールの「薔薇の騎士」は、ホルンの咆哮が聴こえるゴージャスな前奏で始まり、ヴァイオリンはハーモニクスを多用しつつ、色艶やかなワルツを優美に舞った。
青木さんは、どの曲に対しても真っ直ぐに向き合い、音楽の全体をしっかりと捉えつつ、細部へ気を配る正攻法のアプローチで、音楽そのものが持つ魅力やパワーを素直に引き出す姿勢を感じた。
ただ、以前の演奏会でほれ込んだ、他のヴァイオリニストにはない世にも美しい音が、今夜のリサイタルからはあまり聴けなかった。今夜の音も十分に美しかったが、僕の記憶している青木さんの音は、もっと誘惑的で妖艶な、この世のものでないような美しい音だ。その音で、周囲の色を染め、聴く者を眩惑させるほど。
音楽の本質を真摯に追求しようとすると、いわば音の上っ面の「化粧」とも言える特別な美音は不要になるのか、曲目のせいか、それとも会場も座った場所も違うための単なる聴こえ方の問題なのか… もし、青木さんが、過度な美音にあまり関心がないとしたら、それはとてももったいない気がする。これほどの大器に、あの美音がつけば、世界を魅了するだろう。イギリスへ留学するということで大きな成長が期待されるが、天賦の「青木尚佳の音」にも是非磨きをかけてきて欲しい。
東京ジュニアオーケストラソサエティ 2008.8.24
第78回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会2010.3.9