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上原彩子 プレリュードを弾く

2016年06月07日 | pocknのコンサート感想録2016
6月3日(金)上原彩子(Pf)

東京オペラシティ コンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1. ラフマニノフ/前奏曲「鐘」
2.ラフマニノフ/10の前奏曲 Op.23~ 第4、5、6、7番
3. スクリャービン/24の前奏曲 Op.11
4. ラフマニノフ/13の前奏曲 Op.32
【アンコール】
1. ラフマニノフ/楽興の時~第5番
2. スクリャービン/エチュード Op.8-12

上原彩子はとても注目しているピアニストの一人だが、リサイタルを聴くのは6年ぶりとわかり、そんなに経っていることにビックリ。オールショパンだった前回とは単純に比較はできないが、今回も並外れた器の大きさを示す感銘深いリサイタルとなった。

「上原彩子 プレリュードを弾く」と銘打たれたこのリサイタルで選ばれた作曲家はラフマニノフとスクリャービンだけという、一般のお客はなかなか足が向かなそうな上原らしい明確で硬派のプログラミング。淡いピンクのドレスで登場した上原が、冒頭のラフマニノフの有名なプレリュードで喰らわした最初の一撃のスゴさが、既に今夜のリサイタル全体を象徴していた。この重量感、このスケールの大きさ。まさにロシアの大地を揺るがすような迫力の演奏を繰り広げた。

ラフマニノフのピアノ曲は、大きな体格で、手も大きかったというラフマニノフの身体的な特徴が反映されていると言われるが、決して大柄というわけではない上原が、遠目にはごく自然な腕の動きでこんなド迫力の音を鳴らすのを聴くと、このピアニストの打鍵の技にはいったいどんな秘密が隠されているのかと思ってしまう。それに上原の強靭とも言えるピアノの響きは、体格のいいピアニストが力任せにガンガン打ち鳴らすのとは違い、音に深い伸び代がある。このヤマハのピアノが普通の鍵盤より深く沈むように出来ているのかしらなんて思ってしまう。

上原は、持ち味の広いダイナミックレンジを自然に柔軟に駆使して、リアルで躍動感に溢れ、コントラストと奥行きの大きな風景を描いて行った。それは大地に大きく根を張った太くて逞しい巨木が、強い風でゆっくりと揺すられる様子であったり、空を覆う大きな鉛色の雲が、塊のまま上空の風に流れて行く光景だったり、雄大で生命力に満ちた大自然のシーンが目に浮かんでくる。上原がプログラムにラフマニノフについて、「ロシアの大地そのものの様な音楽」と記している通りの姿を見事に具現していた。更に、13の前奏曲の第5番(ト長調)などでは、はにかみやメランコリックな内向きの表情を、柔らかく色彩豊かなヴェールが包み込むようで、上原の繊細で詩情溢れる豊かな表現力と、多彩で美しい音色にも魅了された。

同じくプログラムノートに、ラフマニノフとは「全く違った方向へ向かっていく」とコメントしていたスクリャービンの24の前奏曲は、上原が「音が色彩となって大気中に舞い上がり、溶け合い、どこまでも飛翔し・・・」と述べているように、柔らかく浮遊するイメージを感じたが、スクリャービンでも強靭なパワーを放射する場面も多々あった。

この並外れたパワーと懐の深さが上原の最強の持ち味だ。ラフマニノフの13の前奏曲の終曲(変ニ長調)の後半は、まるで教会の大オルガンの最大のパイプが地響きと共に変ニの基音を鳴らし続け、それをベースに天をも仰ぐ大伽藍を築き上げて行くような圧倒的な演奏。しかも、そこに包容力も備わっているところが、このピアニストの計り知れない更なる可能性を感じさせた。「また上原さんのリサイタルに来よう!」と思った。リストやブラームスも聴いてみたい。

上原彩子 ピアノ・リサイタル 2010.7.10 彩の国さいたま芸術劇場

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