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ソプラノ歌手 小池麻紀さんの死を悼む

2013年03月14日 | pocknと音楽を語ろう!


2013年3月14日(木)

ソプラノ歌手 小池麻紀さんの訃報

最近の僕の作曲活動は、金子みすゞの歌曲の作曲に大きなウェイトが置かれているが、演奏会の度にみすゞの歌を取り上げてくださるバリトン歌手の旭潔さんが主宰する「蓮の会」に所属し、2011年にみすゞの「山ざくら」を歌ってくださったソプラノの小池麻紀さんが亡くなったという報せを、旭さんから届いた手紙で知った。

先月の「蓮の会」の公演では、みすゞの「積もった雪」を演奏してくださる予定でとても楽しみだったのだが、急な入院とのことで降板となってしまった。残念には思いつつも、元気に退院されて次の機会に歌ってくださることを楽しみにしていた。それがこんな形で永遠に断たれることになってしまった。長い間、重い病と闘っていたことも全く知らず、訃報には本当に驚き、ただただ悲しい。

2011年に聴かせて頂いた「山ざくら」は、清らかな透き通った美しい声で、花の精が天から舞い降りてきたような優美な歌に仕上げてくださり、高貴なほどの気高さを伝えた素晴らしい演奏だった。そのとき聴いた小池さんの歌は、拙作の演奏にとどまらず、山田耕筰、武満徹、小林秀雄の歌も大変完成度が高く、端正な美しさが心に染み、また情熱も伝わってきた。更に、後半に上演された石桁真礼生のオペラ「河童譚」で演じた「お花ぼう」は、役にぴったりの可愛らしい「娘」を歌い、演じて、まだ若い小池さんのこれからの活躍がとても楽しみだった。

小池さんにお目にかかれたのは2回。1回目は、旭さんが出演するホールオペラの終演後、ロビーで「今度『山ざくら』を歌わせて頂きます。」とわざわざご挨拶してくださったとき。「あの頻繁に出るAの音、歌いにくくないですか。」と伺ったら、「大丈夫です。」と即答されたときの、控えめながら自信のある目が印象的だった。2度目が、その「山ざくら」を演奏してくださった当日。見事な歌を聴かせてくださったことへ感謝を伝え、ご迷惑かとも思ったが、みすゞの歌曲を1冊にまとめた手製の歌曲集をお渡ししたら、「えー、いいんですか。嬉しいです。一生懸命勉強します。」と、本当に溢れる笑顔で受取ってくださった。

手紙を読んだあとに旭さんから電話で伺った話では、体調が少しでもいいときは演奏会の直前まで懸命に曲をさらっていて、「積もった雪」もほぼ完成していたという。小池さんは、お渡しした歌曲集をとても大切に持っていて、「次はこれをやりたい」などいろいろ考えて下さっていたとのこと。そこから今回は「積もった雪」を選んだそうだ。ご自分の体の状態はご自身でよくわかっていたらしく、2月の公演が最後のステージになるかも知れない、という覚悟で臨んでいたとのこと。

演奏家として、自分のステージでの演奏曲目を選ぶことがどんなに大切なことかは想像に難くないが、しかも最後になるかも知れないステージで歌う曲のひとつに拙作を選んでくださったことは、本当に光栄であると同時に、その責任の重さに身が引き締まる思いがした。そして、それが実現できず降板となってしまったことのご本人の無念さは、どれほどのものだったか(小池さんは後半のオペラにも「あまんじゃく」役で出演予定だった)。

重い病気を抱えながらも、人生の最後の最後まで歌に力を尽くした精神力と熱意に、そして、そこに拙作が関わっていたことに、深く頭を垂れずにはいられない。「先生の作品を大好きなソプラノ歌手"小池麻紀"を、心の中にとどめて頂ければ幸いです。」という言葉で結ばれた旭さんからの手紙は、涙なしに読むことはできなかった。心よりご冥福をお祈りします、という言葉が空しく感じられてしまうほど、あまりにも早すぎる死となってしまったが、病気の苦しみから解放され、天上で自由に羽ばたき、大好きな歌を歌っていらっしゃることを念じて止まない。

そして、今このブログを読んでくださっている方で、小池麻紀さんの歌を聴く幸運に恵まれた方は、是非その素敵な歌をいつまでも心にとどめていてください。聴いていない方も、死の直前まで歌に打ち込んだ一人の芸術家がいたことに、思いを向けて頂ければ幸いです。


降板となってしまった2月3日の「蓮の会」の公演パンフレットより

小池さんが演奏してくださるはずだった「積もった雪」

メゾソプラノ:小泉詠子/ピアノ:田中 梢


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