3月16日(土)ピエタリ・インキネン指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
第648回 東京定期演奏会
サントリーホール
【曲目】
1. シベリウス/交響曲第1番ホ短調 Op.39
2. シベリウス/交響曲第5番変ホ長調 Op.82
日本フィルとシベリウスと言えば、渡邉暁雄が常任指揮者だった頃から強い結び付きがあるし、個人的にも、オッコ・カムの指揮で第2シンフォニーを聴いたときの感動が今でも強く残っていて、日本のオケでシベリウスを聴くなら日フィルというイメージがあった。それで今回の交響曲全曲演奏会のことを知って、是非聴きたくなった。
指揮者のインキネンがフィンランド出身というのも引かれたが、この指揮者は名前も知らなかったので、ちょった未知数なところもある。だったら試しにひとつ聴いてみようとも思ったが、3公演のセットだと2割引になるというセールスポイントに負けてセットで買った。1回目の今日の公演を聴いて、セットで買って正解だったと思えた。
インキネンは日フィルの客演首席指揮者ということで、いい関係を築いているようだが、指揮が自然に演奏に反映されて、息がよく合っているなと感じた。演奏会はいきなり大曲の第1シンフォニーで始まったが、先週、尾高/札響で同じ曲を聴いたときの印象よりも、音の伸びしろ、というか、奥行きと余裕が感じられ、それが全体を包み込むような大きな呼吸を生み出していた。ここぞというときの気合いと熱気も十分だが、そんなときでも、いつもの日フィルのイメージとはちょっと異なる、ある種の余裕を聴かせ、それがいい意味で音楽を大きく息づかせていた。
冒頭から聴かせどころを受け持つクラリネットをはじめとして(出だしはもっと静かなほうが…)、輝きと細やかなニュアンスの表現力の両方を備えたトランペットも、滑らかな立ち上がりを聴かせるホルンも、柔らかな表情を聴かせたオーボエやフルートもみんなうまい。これもインキネンと日フィルの楽員との信頼関係から来る余裕が働いているような気がする。シベリウスの若さとエネルギー溢れるこのシンフォニーが、大人の感性で大きく包み込まれ、十分な熱気を蓄えつつ聴き手に語りかけてくる、頼もしさを感じるたいへん充実した演奏。
後半は5番。こちらもオケは至って好調。春が来て草花が芽生え、生き物が活動を再開し、大地が鼓動する様子が、音の息吹となって伝わってくる。細かくうち震えながら波打つ弦が、まさに命の鼓動を伝え、その鼓動が管楽器たちのたっぷりとした呼吸と歌へ繋がるやり取りが素晴らしい。この曲はとても分かりやすいメロディーと魅力的なハーモニーに溢れている一方で、なかなか捉えどころがわかりにくいところがあったのだが、今日の演奏を聴いて、こうした音楽の様々なパーツが、ひとつの大きな生命体に組み込まれていることが生き生きと感じられた。
底知れぬ力が湧き上がる第1楽章の長いコーダの堂々とした盛り上がり、内に秘めた情熱がじわじわと表に表れて花開く第2楽章、そして第3楽章では、上に述べた「命の鼓動」がまさに大団円を迎えて胸が高鳴った。そこから最後の難しい休符入りのカデンツも堂々と決め、余裕すら感じさせる見事な演奏。
日フィルの今日のシベリウスの演奏は、楽員たちがおいしい空気を胸いっぱい吸い込みながら、四肢に酸素を行き渡らせて音楽を放出している姿が見えてくるよう。シベリウスの音楽がこのオーケストラのDNAに沁み込んでいるような自然さを感じたのは、シベリウスの演奏への楽員の自信とプライドを、インキネンが最大限に引き出した結果のようにも思えた。これは来月の次公演が益々楽しみだ。
インキネン指揮 日本フィルのシベリウス・チクルスⅡ~2013.4.19 サントリーホール~
インキネン指揮 日本フィルのシベリウス・チクルスⅢ~2013.4.26 サントリーホール~
第648回 東京定期演奏会
サントリーホール
【曲目】
1. シベリウス/交響曲第1番ホ短調 Op.39
2. シベリウス/交響曲第5番変ホ長調 Op.82
日本フィルとシベリウスと言えば、渡邉暁雄が常任指揮者だった頃から強い結び付きがあるし、個人的にも、オッコ・カムの指揮で第2シンフォニーを聴いたときの感動が今でも強く残っていて、日本のオケでシベリウスを聴くなら日フィルというイメージがあった。それで今回の交響曲全曲演奏会のことを知って、是非聴きたくなった。
指揮者のインキネンがフィンランド出身というのも引かれたが、この指揮者は名前も知らなかったので、ちょった未知数なところもある。だったら試しにひとつ聴いてみようとも思ったが、3公演のセットだと2割引になるというセールスポイントに負けてセットで買った。1回目の今日の公演を聴いて、セットで買って正解だったと思えた。
インキネンは日フィルの客演首席指揮者ということで、いい関係を築いているようだが、指揮が自然に演奏に反映されて、息がよく合っているなと感じた。演奏会はいきなり大曲の第1シンフォニーで始まったが、先週、尾高/札響で同じ曲を聴いたときの印象よりも、音の伸びしろ、というか、奥行きと余裕が感じられ、それが全体を包み込むような大きな呼吸を生み出していた。ここぞというときの気合いと熱気も十分だが、そんなときでも、いつもの日フィルのイメージとはちょっと異なる、ある種の余裕を聴かせ、それがいい意味で音楽を大きく息づかせていた。
冒頭から聴かせどころを受け持つクラリネットをはじめとして(出だしはもっと静かなほうが…)、輝きと細やかなニュアンスの表現力の両方を備えたトランペットも、滑らかな立ち上がりを聴かせるホルンも、柔らかな表情を聴かせたオーボエやフルートもみんなうまい。これもインキネンと日フィルの楽員との信頼関係から来る余裕が働いているような気がする。シベリウスの若さとエネルギー溢れるこのシンフォニーが、大人の感性で大きく包み込まれ、十分な熱気を蓄えつつ聴き手に語りかけてくる、頼もしさを感じるたいへん充実した演奏。
後半は5番。こちらもオケは至って好調。春が来て草花が芽生え、生き物が活動を再開し、大地が鼓動する様子が、音の息吹となって伝わってくる。細かくうち震えながら波打つ弦が、まさに命の鼓動を伝え、その鼓動が管楽器たちのたっぷりとした呼吸と歌へ繋がるやり取りが素晴らしい。この曲はとても分かりやすいメロディーと魅力的なハーモニーに溢れている一方で、なかなか捉えどころがわかりにくいところがあったのだが、今日の演奏を聴いて、こうした音楽の様々なパーツが、ひとつの大きな生命体に組み込まれていることが生き生きと感じられた。
底知れぬ力が湧き上がる第1楽章の長いコーダの堂々とした盛り上がり、内に秘めた情熱がじわじわと表に表れて花開く第2楽章、そして第3楽章では、上に述べた「命の鼓動」がまさに大団円を迎えて胸が高鳴った。そこから最後の難しい休符入りのカデンツも堂々と決め、余裕すら感じさせる見事な演奏。
日フィルの今日のシベリウスの演奏は、楽員たちがおいしい空気を胸いっぱい吸い込みながら、四肢に酸素を行き渡らせて音楽を放出している姿が見えてくるよう。シベリウスの音楽がこのオーケストラのDNAに沁み込んでいるような自然さを感じたのは、シベリウスの演奏への楽員の自信とプライドを、インキネンが最大限に引き出した結果のようにも思えた。これは来月の次公演が益々楽しみだ。
インキネン指揮 日本フィルのシベリウス・チクルスⅡ~2013.4.19 サントリーホール~
インキネン指揮 日本フィルのシベリウス・チクルスⅢ~2013.4.26 サントリーホール~